木走日記

場末の時事評論

「死体検案書の提出が必要でございます」〜アイフルから娘に届いた妙な手紙


●命が『担保』の契約は許されるか〜読売社説

 今日(14日)の読売社説から・・・

 [消費者金融]「命が『担保』の契約は許されるか」

 これでは、命を借金の「担保」にするようなものだ。

 消費者金融会社の大半が融資契約時に、原則として借り手全員に加入させている消費者信用団体生命保険の問題である。

 消費者金融会社が保険料を支払い、借り手が死亡すると、借金相当額の最高300万円の保険金を受け取る契約だ。

 こうした保険が広く理解を得られるのかどうか。金融庁は実態を調査し、適切な措置を講じるべきではないか。

 問題になったのは、借金苦で自殺した兵庫県の女性(当時66歳)の遺族が3月、神戸地裁に提訴したことからだ。「保険は公序良俗に反し、本人の意思確認が不十分だった」と訴え、消費者金融大手のアイフルなどを相手に保険金請求権の不存在と慰謝料の支払いを求めている。

 融資契約書には細かい字で「保険加入に同意する」などと記載されているだけで保険会社名もない。借り手の大半は十分な説明を受けず、加入を知らない。

 同じ団体生命保険でも、死亡後の家族のことを考え、本人の意思で保険料を支払う住宅ローンとは事情が違う。

 金融庁の調査では、昨年度、消費者金融大手5社が支払いを受けた死亡保険金は3万9880件、うち3649件が自殺によるものだった。死因不明者の中にも自殺者はかなり含まれるという。

 金融庁の貸金業制度等に関する懇談会では、「借り手が自殺すれば貸した金を回収できることが、過酷な取り立てを誘発している」と、生保契約の禁止を求める意見が出ている。消費者金融元社員らの「客が自殺すると、『ノルマが済んだ』とほっとした」という証言もある。

 金融庁の指導で、生保各社と消費者金融会社は来月から、融資と保険加入の契約書を別々にするなどの是正を図る。次期国会に提出予定の貸金業規制法改正案にも、業者に対する生保契約の説明書面の交付の義務化を盛り込むという。

 だが、生保加入が融資の条件になったままでは、弱い立場の借り手は、加入を拒否しにくいのではないか。形式的な改善だけで十分とは言えまい。

 消費者信用団体生命保険は、自殺などを見込み、保険料率はほかの保険より高い。消費者金融会社の負担分は、借り手への高金利の一部に転嫁されている。

 加入の勧誘という営業努力もなしに消費者金融の借り手から保険料を稼ぐ。一般の人への保険金支払いは厳しいのに、消費者金融会社には、遺族に知らせないまま、簡単に支払う。

 契約が合法だとしても、生保各社には、自殺者を生む要因になっている状況を改める社会的責任があるだろう。

(2006年9月14日1時27分 読売新聞)
http://www.yomiuri.co.jp/editorial/news/20060913ig90.htm

 この読売社説にある「借金苦で自殺した兵庫県の女性(当時66歳)の遺族」とは娘さんのことです。



●「死体検案書の提出が必要でございます」〜アイフルから娘さんに届いた妙な手紙

 前回のエントリーでもご紹介しました『暗躍平成日本タブー大全Ⅲ』(宝島社)のジャーナリスト三宅勝久氏のレポート「大手サラ金と生保がひた隠す、客が自殺しても損しない「死亡保険」」に本件の詳細がスクープされています。

 以下そのレポートの内容の当該部分を要約してご紹介いたしましょう。

 ・・・

 ホテルの清掃人として細々と暮らしてきた一人の女性(以下当テキストではAさんと呼称します)が、自宅で首を吊って自殺したのは、2004年8月某日の未明、台風の最中のことです。

 「子供を大切にして下さい」

 娘に宛てた遺書には、乱れた字でそう書き残されていました。

 サラ金など四社から計約400万円を請求されており、借金苦による悲劇とみられました。

 死体検案書をおくれというこの妙な手紙が、アイフルから自殺したAさんの娘に届いたのはAさんが自殺してから10ヶ月後のことだそうです。

【ご依頼書】

謹啓 (略)弊社は故○○氏に対して、下記金銭消費貸借契約に基づく金銭債権を有しておりますが、本件については弊社加入の消費者信用団体生命保険での対応を検討しております。つきましては、何かとお取り込み中のところ甚だ恐縮に存じますが、当該保険手続きに関し、死亡診断書又は死体検案書の提出が必要でございますので、何卒ご協力いただき、下記の弊社送付先にその写しをご送付賜りますよう祈念申し上げます。
 貴殿におかれましては、ご傷心のところお慰めいたすべき術とてございませんが、くれぐれもご自愛頂きますようお願い申し上げます。
                               謹言
記
現在債権額 金633,797円(残元金499,525円 利息金12,388円 遅延損害金121,884円)
                               以上

「大手サラ金と生保がひた隠す、客が自殺しても損しない「死亡保険」」
153Pより抜粋

 母親が保険金の受取人がアイフルである生命保険を掛けられていたことは娘さんは思いもしなかったし、手紙には生命保険会社の名前すら明記されていませんでした。

 借金苦で母を自殺に追いやられたうえに、さらに保険で金を回収しようというのか・・・
 Aさんの娘さんはアイフルに抗議の手紙を出しました。

 「保険請求に同意するつもりはない。保険会社の社名を明らかにせよ」

 保険会社は明治安田生命でした。

 Aさんの娘さんは弁護士に相談することにしました。



●実は本来なら完済しており利息を払いすぎていたAさん

 本件でAさんの娘の代理人になったのはアイフル被害対策全国会議の中心メンバーである辰巳裕規弁護士(兵庫県弁護士会所属)です。

 相談を受けた辰巳弁護士は、多重債務者処理のセオリーに従って金利の再計算を試みました。

 Aさんに課せられた金利もご多分に漏れず、利息制限法上限金利(15〜20%)を大きく上回る年29・2%の出資法上限金利ぎりぎりのいわゆるグレーゾーン(灰色)金利だったからです。

 この「違法だが捕まらない」高金利であるグレーゾーン金利を利息制限法の金利で引き直す作業をするのが多重債務者処理のセオリーなのです。

 余談ですが、この引き直し作業による結果に基づく払いすぎた差分の返済訴訟では、法廷の場に置いて今のところ全ての判例が債務者側の勝訴となっています。

 Aさんの場合も予想通りの結果が得られました。

 亡くなったAさんはとっくに返済を終え、過払い、つまり利息を払いすぎた状態になっていたのです。

 ・・・

 アイフルは一連のカラクリをすべてわかったうえで、遺族に対し保険請求に必要な死体検案書を求めてきたことになります。

 仮に娘さんが応じていれば、アイフルは利息制限法分の利息をしっかり儲けた上で、取りすぎた利息=過払金の返金を免れ、さらに「残元金」として約50万円の保険金を明治安田生命から受け取ることができたわけです。

(読売社説より抜粋)
 金融庁の調査では、昨年度、消費者金融大手5社が支払いを受けた死亡保険金は3万9880件、うち3649件が自殺によるものだった。死因不明者の中にも自殺者はかなり含まれるという。

 この保険の深刻な問題点は、昨年だけで3万9880件にのぼる消費者金融大手5社が支払いを受けた死亡保険金が、このように極めて悪質な公序良俗に違反している反社会的行為によりもたらされていることです。

 受取人が遺族ではなくサラ金会社にも関わらず、本人がそのような保険に加入している自覚がないこと(契約書には保険会社名すら明記されていない)自体大問題ですが、この保険がもたらすより深刻な問題は、「保険で処理してあげるから遺族には迷惑掛かりません」とのサラ金側の説明を真に受けて、多くの遺族は喜んで死体検案書の提出に協力していることです。

 本来なら多くの遺族がグレーゾーン(灰色)金利による過払いを逆にサラ金に請求できるという事実を知らないままにです。

 ・・・



●金融庁とサラ金擁護派の一部自民党議員の重い責任

 前回のエントリーでも触れましたが、消費者金融のグレーゾーン(灰色)金利問題は、私は債務者保護の観点から強い方針を政府は打ち出すべきであると主張しております。

 このグレーゾーン(灰色)金利問題は三層に分けて議論すべきであると私は考えています。

 ひとつは債務者保護の観点からの人道的問題として、ひとつは業界のリスクヘッジを含めた行政手法の問題として、そしてもう一つはサラ金と生保の癒着、特にマスメディアがタブー視するアメリカ政府ならびにアメリカ資本の圧力という政治問題としてです。

 93年4月から05年三月までの13年間に「経済生活問題」で自殺した人は7万897人。

 文字通り人の生き血を吸い「自殺を助長してきた」サラ金業、それを下支えしている生保業界、そして最近日本の金融生保業界に全面進出しサラ金にも資金調達しているアメリカ資本。

 これらの惨状を見過ごしてきた金融庁とサラ金擁護派の一部自民党議員はいったいどう責任をとるつもりなのでしょうか。



(木走まさみず)



<関連テキスト>
■[社会]これは国民に対する背信行為じゃないのか?〜国民(多重債務者)を見捨てアメリカ資本(サラ金)に配慮する金融庁
http://d.hatena.ne.jp/kibashiri/20060913/1158078134