木走日記

場末の時事評論

国連でたった二日で中国に形勢逆転された日本〜老獪な中国外交と蒼い日本外交

●老獪な中国外交〜早期採決かわされた蒼い日本外交

 10日の日経記事から・・・

(7/10)北朝鮮制裁決議案、採決先送りへ・中朝交渉見極めへ

 国連安全保障理事会の北朝鮮のミサイル発射を受けた制裁決議案の10日の採決が先送りとなった。中国政府が同日、決議案の採決を数日間延期するよう要請し、日米両政府が受け入れた。同日から訪朝している中国の武大偉外務次官らの説得作業を見守るもので、採決は今週後半以降にずれ込む見通しとなった。

 中国側は決議案の採決について「何日か待ってほしい」と打診。これを受けて日米両政府は(1)ミサイル発射の再凍結(2)6カ国協議への無条件の早期復帰――などを条件に先送りを容認する方針で一致した。今後、中国の説得作業を見守る。

 麻生太郎外相は10日深夜、ライス米国務長官と電話で協議し、現地時間の10日の採決を延期することを確認。協議後、外相は外務省内で記者団に「議長声明をのむことはないが、中国が北朝鮮を説得する時間を与えるということだ。サミットなどもあり、あまり時間はない。今日、明日中は難しい」と述べ、採決は早くとも12日以降になるとの見通しを明らかにした。
http://www.nikkei.co.jp/sp1/nt58/20060710NS003Y17610072006.html

 当初10日に採決予定であった日本提出の北朝鮮制裁決議案ですが、「同日から訪朝している中国の武大偉外務次官らの説得作業を見守る」という名目で、中国側の「何日か待ってほしい」と言う要望を日米両政府が受け入れたわけであります。

 で、今日(12日)の日経記事から・・・

(7/12)北朝鮮ミサイル、英仏が折衷案提示・安保理

 北朝鮮の弾道ミサイル発射問題への国連安全保障理事会の対応で、英仏両国は11日、制裁決議採択を求める日米と難色を示す中国との折衷案として「まず拘束力の弱い議長声明を、次に決議を採択する」2段階案を提示した。日本政府はなお決議採択を目指すが、中国が北朝鮮に自制を求める外交工作を続ける中、落としどころを探る動きが本格化してきた。北京滞在中のヒル米国務次官補は12日午前、李肇星・中国外相と会談、北朝鮮説得の状況を巡り意見交換した。

 【ニューヨーク=中前博之】「二段階」案は安保理議長国のフランスが唱え、英国が同調した。(1)中国が10日に示した議長声明案をもとに、北朝鮮への圧力を強めた「議長声明」を採択する(2)北朝鮮が従わない場合、日米英仏を含む8カ国が共同提案した「決議案」を再び協議する――という内容。決議案採決を強行すれば、北朝鮮の態度硬化や中国の北朝鮮説得への悪影響を招きかねないと判断し、日米・中の両陣営の妥協を促す狙いがある。
http://www.nikkei.co.jp/sp1/nt58/20060712AT1C1200212072006.html

 この英仏両国の2段階折衷案の提示を受けて安倍晋三官房長官の会見記事。

(7/12)「制裁決議案」の方針は変わらず・官房長官

 英仏両国が2段階の折衷案を提示したことについて、安倍晋三官房長官は12日午前の記者会見で「(日米などが共同提案した)決議案を採択する方向で検討していきたい。採択の方向は基本的に変わりはない」と述べ、制裁決議案の早期採決を目指す方針を改めて示した。

 安倍氏は「ある段階では決議を採決に付するという判断をしなければならない。あまり時間をかけるべきではない」と強調。北朝鮮が6カ国協議への復帰を表明したとしても「6カ国協議復帰は当然。それだけで採択しないということにならない」とも述べた。

 外務省によると、2段階の折衷案について英仏両国は「安保理の足並みをそろえるためにも検討してほしい」と日本などに打診しているという。外務省首脳は12日午前、同省内で記者団に「(決議案でないと)駄目だ」と強調した。

http://www.nikkei.co.jp/sp1/nt58/20060712AS3S1200A12072006.html

 うーん、なんだかなあ、雲行きが怪しくなってきましたね。



●中国のすさまじいばかりの外交攻勢〜中国さん、あなたねえ、ちゃんと北朝鮮の方は説得してんでしょうね?(苦笑

 10日の採決予定を「同日から訪朝している中国の武大偉外務次官らの説得作業」のために「何日か待ってほしい」という中国の要望を受け入れた日米両政府なのですが、この間の中国のすさまじいばかりの外交攻勢はどうでしょう。

 まず安保理非常任理事国各国への猛烈な働きかけを行い、わかっているだけでアフリカ3ヶ国が少なくとも中国の議長声明の方が望ましいと鞍替えしてしまいました。

 また、日米以外の常任理事国への働きかけも余念無く、まずロシアに互いに連携していくことを確認しつつ、英仏に対して猛烈な外交攻勢を仕掛け、フランス国連大使によると、この間に中国は3度にわたって自らの議長声明案を書き直し、当初の英仏が賛成しがたい「外交プロセスの継続」を求める「弱い」声明を、英仏が2段階採決に同意できるレベルの最終声明案にまで修正してみせたのでした。

 ・・・

 中国は、すさまじい外交攻勢を見せてくれますねえ。

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 中国さん、あなたねえ、ちゃんと北朝鮮の方は説得してんでしょうね?(苦笑

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 ふう。

 どうでしょう、訪朝している中国の武大偉外務次官らの説得作業のために何日か待つという名目だったここ2日の間に、10日の時点で採決していれば賛成13、棄権1(ロシア)、反対1(中国)っであった可能性が高かった採決結果が、少なくとも、日本制裁議決案と中国議長声明案の2段階採決に変貌しちゃって、しかも日本案反対国は中国一国から、アフリカ3ヶ国と機を見て敏なロシアを含めた5ヶ国程度にまで増えそうな勢いなのであります。

 日本案が通過する見込みも中国が北朝鮮を擁護して孤立する見込みもほとんど可能性は無くなったようであります。

 ・・・

 恐るべし、老獪な中国外交なのではあります。



●国連でたった二日で中国外交に形勢逆転された日本外交

 もし当初の予定通り10日に採決を強行していれば、9日のエントリーで紹介したアメリカ大使館筋の評価通りだったのかも知れません。

 (前略)

木「するとやはりこの決議案は否決される可能性の方が高いんだね」

ス「それはそうだが見方が甘いなあ、実は、手ぬるい中国議長表明案をけって10日に制裁決議案を採決することを強行して決めた時点で、この件は歴史的日本外交の勝利だと評価していいんだぜ」

木「え? 現時点で歴史的日本外交の勝利だと?」

ス「現在の安保理事国は、米英仏中露の5大国に、非常任は日本、デンマーク、スロバキヤ、ギリシャ、アルゼンチン、カタール、コンゴ、ペルー、タンザニア、ガーナの10ヶ国だが、この内中ロを除いた13ヶ国が日本の北朝鮮制裁決議案に賛成しているわけだ」

木「なるほど」

ス「おそらくロシアが棄権か欠席に回れば、中国としては棄権か欠席すればこの制裁決議案は可決してしまい外交的敗北になり、日本の外交的勝利となる。もし万が一中国が拒否権を使って反対すれば安保理でただ一国だけ北朝鮮を擁護した常任国として国際世論から北朝鮮と共倒れして徹底的に批判を受けることになるだろう」

 (後略)

■[国際]北朝鮮制裁決議案採決は日本外交の歴史的勝利か?〜戦後国連外交史上初めて日本が中国にチェックメイトしたという見方 より抜粋
http://d.hatena.ne.jp/kibashiri/20060709/1152437149

 うーん、10日に採決を強行すれば「歴史的日本外交の勝利」と評価できる結果が待っていたと断じていたスティーブ氏なのでありますが、その論で行くと、日本は絶好の好機を逃したということなのでしょうか。

 ・・・

 不肖・木走としては、9日のエントリーでも申しましたが、スティーブ氏の論説とは考え方を異にしております。

 別に国連の場で日本外交が中国外交に「歴史的勝利」をしなくても、中国を孤立させることなどどうでもよく、実質的に中国が北朝鮮を説得し北朝鮮が6各国協議に戻り今後のミサイル実験を中止するならば、日本にとって結果良しであるとは思っています。

 ・・・

 しかしなあ。

 ここまで老獪な中国外交のしたたかさを見せつけられると、なんかなあ、素直に中国の要望を受け入れてしまった日本外交の蒼さが目立つんですよねえ(苦笑

 国連でたった二日で中国外交に形勢逆転されてしまった日本外交なのであります。

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 なんか、悔しいなあ・・・

 ・・・

 ふう。

 恐るべし、老獪な中国外交なのではあります。



(木走まさみず)