TIME誌のオスプレイ記事

V-22オスプレイは、オレが住んでる沖縄県宜野湾市にある普天間基地への配備が予定されてますが、それが明らかになった瞬間から物凄く嫌われてます。開発中の墜落が多かったのが非常に有名なので、「なにしろ危険、普通の輸送機に比べてうるさい、勝手に配備を決めてけしからん」というのが普通の論調です。


オスプレイは今年の4月にモロッコで墜落したと思ったら、6月になってフロリダでも墜落しています。飛行機が好きなオレもさすがに、「開発中ならともかく、未だにぼかすか落ちるんじゃさすがに無理だよな」と思いました。


そして県内の反対運動について、ただただ反対と唱えるのではなく、ある程度の無事故飛行時間を具体的に要求すべきだろうと思いました。これは、基地内でのものごとに関する単純な反対運動は「ご理解ご協力のお願い」に押し切られるのが目に見えていることからです。具体的な数字を要求することで、お互いにどのような安全性を考えているか明らかになるし、一般的なレベルの時間が達成されるのであれば、それはオスプレイの開発が進んで実際に安全になったと判断できます。


ところがフロリダの事故から数日経つと、オスプレイは既にヘリより安全だという話がちらっと流れてきました。あんだけ落ちてて安全? ヘリってどれくらい落ちてるの? オスプレイってまだ少数配備なのにぼかぼか落ちてるんだから、どう計算してもそれは無理じゃないの? といった疑問が湧いて来ました。


英語版WikipediaのBell Boeing V-22 Ospreyを見ると、現在まで160機が製造され、開発期間中に大きな墜落が4回あって合計30人死亡、2007年の配備開始後は2機喪失、他に数回の事故となっています。すでに160機もあるというのは驚きでした。


通常の軍用ヘリの事故率がわからないので、どう考えるべきかなあ、と思いながら眺めてましたが、この項目の外部リンクに、Time誌の最近の記事があるのを見つけました。アメリカでもオスプレイには相当ツッコミが入ってる状態だと思ってたので、わりと好意的な論調になってるのが興味深く、軽く訳してみました。各段落の最初の文を訳し、その他の部分を要約しています。ちょっと日本では無い論調なので読んでみてください。

海兵隊V-22の日本での好かれなさ


By KIRK SPITZER | June 14, 2012


かわいそうなV-22に哀れみを。海兵隊の問題山積なティルトローター機は海の向こうでもまったく好かれていない。今週の墜落以前から日本の地方自治体首長たちは騒音と安全性を理由にV-22の普天間への配備に反対を続けており、日曜には大規模な抗議集会も予定されている。


賭けられているものは大きい。海兵隊はV-22の開発に25年以上と200億ドルを費やしている。ヘリのように離着陸できて固定翼機なみの速度と航続距離を持つタイプの最初の機体であり、海兵隊の作戦域を大幅に広げる。島嶼が多く海岸線の長いアジア太平洋地域では特に重要で、この新鋭機が使えなければ海兵隊は老朽化した行動半径の小さいCH-46に頼り続けることになる。


V-22は日本で長いこと問題で、反対派は安全履歴の汚点をとらえて排除しようとしている。長い開発期間の中で30名ものパイロットおよび海兵隊員が亡くなり、信頼性問題を隠蔽するため整備記録を改竄したとされる高級士官が解任され、1989年に初飛行したのに大規模な設計変更で2005年まで実用化されなかった。


同機は近年、一般的にみて良好な履歴を残しているが、沖縄での争議ではタイミングが悪かった。3月に普天間への配備についてリークがあった数週間後にモロッコで墜落して二名が死亡しているが、普天間は人口密度の高い都市の中心にあって96年以来反対が盛んなのだ。


県議会および県内41の自治体中39が、V-22の導入への反対または問題視の表明を決議した。経由地の岩国にまで飛び火し、新任の防衛庁長官の最初の仕事は増大する中国の脅威への対処や自衛隊の再構築ではなく、海兵隊新鋭機の居場所探しになった。


全体的に見れば、V-22反対派にシンパシーを感じないのは難しい。地元住民は普天間由来の犯罪、騒音、墜落の危険を長いこと我慢しており、2004年に起きたCH-53の墜落は何が起きうるかを如実に示す。


皮肉なのは、認知されたあらゆる欠陥を考慮しても、V-22は置換対象の前任機より、ほぼ議論の余地なく安全で静音ということだ。CH-46は60年代から飛んでおり、エンジン交換や近代化をどんなに頑張ってもガタガタになりつつある。筆者はイラクやアフガンで数十回乗ったが、うるさいしオイルが降ってくるし故障で行先変更がしょっちゅうだしで大嫌いだ。


筆者がV-22に特に好意を持っているということは認める。80年代には新聞記者として開発や初飛行をカバーしたので、しがらみがある。


オスプレイは不恰好な航空機だ。ずんぐりした主翼、大きすぎるエンジン、切り落としたような双尾翼、主翼取付部の顕著な膨らみ。これにより折り畳んで強襲揚陸艦や空母に載せられるので工学的には意味があるが美しさで賞は取れない。


あらゆるヘリコプター同様、地上にあるときやホバリング中の騒音は大きいが、固定翼機モードに転換した時は"ささやくように静か"だ(これは長いローターブレードのためだとの説明を受けたが、私はその物理を理解してない)。


オスプレイは垂直上昇するように(または短距離の滑走で離陸するように)設計されている。空に上がったらエンジンナセルを回して普通の飛行機のように飛び、着陸時は逆の手順を踏む。行動半径2300マイル(3700キロ)のとき最高時速300マイル(500km弱)出せるので、既存のヘリよりずっと速く遠くに飛べる。


モロッコでの墜落まで、オスプレイの評価は一息ついたように見えていた。イラクとアフガニスタンに配備されて事故もなく10万時間の飛行時間を重ね、去年は海兵隊の2機がリビアで撃墜されたF-15のパイロットを救助、前年には空軍の2機がアフガンで30名の特殊部隊を救助している。


海兵隊は、V-22はこの10年以上、運用機中もっとも安全な航空機であったと主張しており、統計がいじられている可能性を考慮しても、置換対象とされるCH-46よりは良好な安全履歴を持つと信じるのは難しくない。


フロリダで通常訓練ミッションとされる行動中の空軍特殊部隊のV-22が墜落し、5人の空軍クルーが負傷した。墜落の原因は未確定。空軍では特殊部隊用に50機、海兵隊は総計360機を調達予定。


在沖海兵隊のスポークスマン、デイヴィッド・グリーズマー中佐によれば、海兵隊では9月末に総計24機のオスプレイを普天間に展開する計画だが、最終決定はまだ成されていないという。


「V-22はすばらしい運用安全履歴を持つ非常に有能な航空機です。」グリーズマーは語る。「その能力は、日本を防衛し、人道的援助や災害救援を行い、他の同盟上の役割を果たすために提供できる(海兵隊の)能力を大きく向上させる。」


とはいうものの、藤村修官房長官はこの木曜日、フロリダでの事故調査の結果が出るまで配備の手続きを停止すると語った。これは日本で(少なくとももうしばらくは)好かれないことを示すものである。


いかがでしょうか。筆者のKirk Spitzerはここにプロフィールがありますが、防衛関係の記者を20年以上やっているベテランジャーナリストで現在東京駐在、いくつも賞を取っているそうです。だいぶ防衛省よりに見えますが、あちらで長く生き残ってるジャーナリストは日本のマスコミよりずっと基本レベルが高いので、それなりに信用していいかと思います。


ただし上では訳してませんが、沖国大米軍ヘリ墜落事件への言及が「墜落---または制御下緊急着陸---そちらが信じたければ」とか「グランドに墜落」となっていたことは書いておきます。米軍がこのような感じを広めようとしているのであれば、やっぱり「おいおい」って気がします。オレは当時TVスタッフとして沖国大前のアパートの屋上から現場を見ているので、物凄く狭い空き地に建物にぶち当たるギリギリでどうにか落とした状態なのをよく知っているからです。陸上グランドは200メートル先、100メートル横には大駐車場があったけど、あそこにしか落とせなかったのを知っている。


やはりある程度の無事故飛行時間を要求しておくのが良いでしょうね。普天間が返還されるのであれば、それが一番だろう、というのも変わりません。


2012/06/27追記:
それにしても、オスプレイ問題とは実はコミュニケーション問題である、ってところが抜群におもしろいと思う。海兵隊的には「これすげーイイよ! 安全で静かで高性能!」って普通に思ってて、反対派は「こんなわけわからんもの使えるわけ無いだろ!」って、やっぱり普通に思ってる。お互いにその空気を相手に体験させる機会を作ったらいいかも。自分が何を面白いと思って書いたのか、ようやく気づいたので書いておく。