アイドルぐるい

ぼくが、アイドルぐるいになったのはいつ頃からだろうか。


少なくとも、思春期や青年期はそんなでもなかったと思う。
そういうことにご執心な奴をむしろバカにしてさえいた。


親友が、キャンディーズの解散ライブに行ったときも理解できなかったし、
そいつが、山口百恵の著作『蒼い時』を買ったときはアホか、と思った。
(もっとも、その後、そやつが小川範子の熱狂的ファンであることを知り、
溜飲が下がるとともに、お近づきになるべきではなかったことも悟ったのだが) 。


ぼくが、アイドルぐるいに堕した自覚があるのは、宮沢りえのときだ。
とりわけ「とんねるずのみなさまのおかげです」にリハウスCMの
役名・白鳥麗子役で出演したときは、欠かさずビデオ撮りして
しかも、完全にコマ送りで楽しんだ。
つれあいが、ビデオを整理して、空きビデオを作りたい、といったとき、
宮沢の出番の部分だけをダビング編集させたことで、第1次家庭内危機が訪れた。
もちろん、編集されたものも、繰り返し繰り返し、コマ送りで観た。

宮沢から離脱したあと、しばらく落ち着いていたが、
広末涼子のポケベルのCMで再び火がついた。
当時、塾で教えていた中学生に同胞(同類?)がいて、
毎週、広末のグラビアの掲載されている雑誌を持ってきてくれたので、
授業そっちのけで、写真の吟味をしていた。
とりわけB.L.T(ビューティフル・レディー&テレビジョン)という雑誌は
すばらしいものだった。
講義時間中に公然とやっていたので、ひんしゅくを買っていたとは思うが、
親に密告するようなせこい子がいなかったため、ことなきを得た。


この頃、女子高生や女子中生の話ばかりをする
ようになり、第2次家庭内危機が勃発する。


その後、病は慢性となり、どのような発展と衰退経路をたどっているか、は自分で
も整理できない。いずれ、位相図にまとめようとは思っている。


覚えている範囲での至近事例は去年の長澤まさみである。
某所での日記には以下のようなことを書いている。


"電車の中で読んだ新聞のテレビ欄で、フレンドパークに長澤が出ることを知り、
全力疾走で家に帰って、リビングに突入し、とるものもとりあえず、家の中の
様子も気にせず、いきなりテレビをつけた。すると、なんとなくリビング中に
気まずい空気が流れていた。フレンドパークが三度の飯より好きな息子だが、
宿題を終えるまでは観てはいけない命令が、母親から発せられていたのだった。
 勉強机にもじもじと座りながら、息子が責めるような表情で、父親であるわ
たしを見つめていた。
 わたしは、気まずい空気に呼吸不全になりながらも、
「つ、妻夫木くんがみたくて」
とみえみえな嘘をついて、テレビに釘付けになった。
だって、長澤のジャージ姿がみたかったんだもん。 "


しかし、長澤フィーバーも、そう長くは続かなかった。
今年は決定的なことが起こった。
そう・・・運命の人と出会ってしまったのだ。
しかも、外人だ。


18歳のパンク女王、ヘイリー・ウイリアムス、その娘である。
9月に彼女の率いるバンド・パラモアのCDを偶然買い、
それ以来、かつてない熱病におかされている。
4ヶ月の間、パラモアの2枚のCDと、youtubeにあるバンドの映像
だけを鑑賞し続けている。
たった1つの音楽にこれほど長い間はまった例は長い人生のなかで初めての経験だ。


そう。出会ってしまったのだ。
ヘイリーは、完全に、ぼくのツボに入っている。
10代で、超美人で、歌がうまく、才能があり、
しかも、パンク、なのだ。
これはあまりの理想だ。ぼくは、昔から、パンクな女に弱かった。

paramore
http://jp.youtube.com/watch?v=cTYKGy6PIDE


なんとかこのバンドを知るのが間に合って、ライブに行くことができた。
今年観たすべてのライブの中でベストワンである。
・・・というか、他に何に行ったか思い出せないほど強烈であった。
いや、他のライブはすべて無駄だった、といってしまってもいい。
ぼくはこのライブに行くためにこれまで生きてきたのだ。
ぼくがこれまで聞いたすべての音楽は、これを観るための準備だったのだ。
そういう思いでぼくは、ただただステージ上の彼女を見つめて涙ぐんでいたのだった。


このところ、仕事もせずに、ずっと書斎にこもっては、
youtubeから彼女の映像をダウンロードし、DVDに焼いている。
あげくの果てに彼女の写真を待ち受けにするのは、どうすればいいか
を尋ねる夫に、つれあいの視線がだんだん冷たくなってきている。
これは第3次家庭内危機の前触れになるのか。