「スラヴォイ・ジジェクによる倒錯的映画ガイド」

 以前の記事で紹介した、「イメージフォーラム・フェスティバル2008」の「スラヴォイ・ジジェクによる倒錯的映画ガイド」に行ってきた。ジジェクという人は、精神分析家ラカンに傾倒してる、ちょっとアレなおじさん。

 いきなり、「惑星ソラリス」の、庭に水を撒く冒頭のシーンのパロディから入るジジェク。イカサマ師と名高い、怪しいヒトです。顔が怖すぎ。「あなた、顔色悪いよ!」という感じ。そして、口角に泡飛ばしながら猛スピードで、語る、語る、語る……もう「よーしゃべるなあー」という一言に尽きます。
 二部では、セクシュアリティにも突っ込んで分析しているし、性暴力の問題についても、ずぶずぶ沼の中まで入っていって、何か言おうとしています。スリリングで、「こ、これはヤバイ」と思うことも、だいぶ言ってます。はっきり、精神分析の範疇は超えていないし、男女二元論は放棄されていません。そのへんを期待するとガッカリかもしれないけど、ヘテロ(特に男性)は「あいたたたた」という話が多いです。*1ただし、デヴィット・リンチの「ブルーベルベッド」や、最近話題になった「ドッグヴィル」みたいな、超こわい映画が、どんどん引用されてくるので、苦手な人は要注意です。
 語られた思想的枠組みとしては、「虚構は、虚構であるからこそリアルが潜んでいる」とか「肉体は精神にのっとられた器にすぎない」とか「怖いのは死ではなく、不死である」とか、が挙げられます。私は、このへんはジジェクと、思想というよりは、感覚を共有しているので、発見があった、というよりは、楽しく観てました。どこが面白い映画、というよりは、ネタが転がっているので、拾いに行くと美味しいかも、と思う映画でした。*2
 最後の三部は、ジジェクが一番熱を入れて喋っているけれど、私はここはあまり興味がもてませんでした。ジジェクの分析は興味深いけれど、ジジェクの未来への展望に対してはあまりエキサイトしません。でも、二部の悲惨な分析で終わらず「それでも、生きていこうよ」みたいなことを、一生懸命言うジジェクって、「いい人だよなー」と私の中で人間的評価はあがりました。私は満足です。

*1:具体的に書かないのは、痛すぎて冷静に観れなかったからです。

*2:というわけで、私が拾ったネタは大事にとっておきたいので、書きません。