きくまこ氏を擁護する。「菊池氏は原発カルトではない」編

まえがき

 
 物理学者で、疑似科学批判に熱心な菊池誠氏ですが、一部はてな左派からバッシングされているようなので、擁護してみたいと思います。
 
 叩いてる人の意見を概観するに、「罪状」は主に3つ。
 
・原発推進派である。
・ナチスシンパである。
・靖国カルトの支持者である。
 
 そりゃ大変。
 ほんとにそんな人だったら私も叩きますけど。
 
 ……まあ、別に菊池氏は知り合いでもなんでもないので、叩かれても放っておけばいいかもしれないんですけど……。
 ただ、なんか、氏への謎バッシングが「坊主憎けりゃ」現象を引き起こした結果、
「疑似科学批判はファシストだ!」
 みたいなことを言い出す左派の人がいるようで……。
 
 そういう人の発言を放置すると、今度は中間層の人から
「左派って疑似科学擁護なんでしょ?」
 みたいなイメージを抱かれかねないのでは、と私は懸念しています。
 
 私は左派だと思うけど、疑似科学擁護扱いされるのはまっぴらごめんで。
 
 とりあえず今回は、菊池氏の原発問題に関する批判を確認してみたいと思います。
 ……それが、問題の始まりだったのでは、と思えるので。
 

批判の例。

 
「隅田金属日誌」ブログの記事、「ニセ科学を非難するヤツはたいてい理系カルト」(http://schmidametallborsig.blog130.fc2.com/blog-entry-1749.html)は、まず、菊池氏の以下のツイートを引用します。*1


 で、その上で、以下のように書きます。

■ 社会的な意思決定の場に理系カルトが出てくると健全な意思決定ができない
 
 ご自身の原発カルト、理系カルトもそのままではないのかと。
 
 モディファイすると菊池さんが非難される構造として全く違和感がないものが生まれる。

僕が原発カルトを非難するのは、社会的な意思決定の場に理系カルトが出てくると健全な意思決定ができないからだ。極端な話、「事故で放射能を撒き散らしたけど大した影響はないから我慢しろ」と行政が決めたら大変なことになる。エネルギー政策などを見ると、それもそれほど笑いごとではない。健全な民主主義には健全な常識が必要だ。人間社会を理解できないお理工さんのの出る幕はない。
(太字は筆者による改変部)

 ……まあ、お気づきの通り、これは「批判」などと呼べるようなものではありませんけども。
 
 他人の発言を「モディファイ」などしたところで何かを論証できるものではないですし。
 それで「構造として全く違和感がない」のは、菊池氏の元発言が論理的におかしくないことの証明だとしか言いようがない。
 
 菊池氏が「理系カルト」「原発カルト」だ、という認識がすでにある人は、これを読んで喜ぶかも知れませんが、そう思っていない層を説得する力はない……というか、むしろ気味悪がられるだけだろうと思います。
 そういう意味で、非常に内輪向けの文章に思えます。
 
 記事後半、SF作家・野尻抱介氏への批判はおおよそ的を射たものだと思うだけに、「なんでこれ並べて書いたんだろう?」という。
 
 そもそも、EMを例に挙げて疑似科学の危険性を警告する、菊池氏の発言には何もおかしな点はないわけで。
 それをわざわざ批判のために引用などしては、
「左派は疑似科学擁護」「反原発はEM信者」
 等と見なされるのでは、という懸念を覚えます。
 
(そもそも、記事のタイトルが「ニセ科学を非難するヤツはたいてい理系カルト」ですからね……)
 

実際のとこどうなのか。

 
 菊池氏の原発問題に関する立場は概ね以下のようだと思います。
 
・原発を推進するかどうかは社会が決定すべきことで、科学が決めることではない。
・ただ、福島第一原発事故があった以上、原発推進はあり得ない。
・2世代後、3世代後の子孫がどういう判断をするかはわからない。それは子孫の判断に委ねるべき。
・停止中の原発については、安全性の審査が済んだのであれば再稼働すべき。
・福島の農産物が放射能で危険だとか鼻血が出るとかいうデマは問題だ。
 
 一つの目安として、いつぞや話題になった「原発政策レーダー」にあてはめてみましょう。https://togetter.com/li/157815*2
 右上が原発推進、左下が反原発、ということになります。

「長期的には脱原発」「短期的には(審査を経て)再稼働」
 ということなので、菊池氏の立場はC-4あたりになろうかと思います。
(どうでもいいですが、私はもうちょっと左下になります)
 
「段階的脱原発派」とでもいうべき立場だと言えるでしょう。
 
「嘘だ! あいつはそんな奴じゃない!」
 とか言われそうなのでいくつか本人のツイートを引用します。




 このへんの
「原発の是非は民主的手続きが決めるんだよ」
 というのは……まあもっともなこととは思います。
 
 そこから
「再稼働の是非も民主的手段で決まるよ。民主政府が決めた手続きに則って粛々と進められるべきだよ」
 になるんだろうなあ、と思うんですが……私は「民主国家の国民は政府に従順であるべきだ」とは思わないなあ……(ソクラテスは毒ニンジンを飲むべきではなかった派)。
 唐突な「幸福の科学」disは、「靖国カルト編」の伏線です。(書く機会があれば)

「デマはいかん」については、ツイッターとかでなく、メディアの取材記事にもなっていますので、そっち参照した方がいいかもですが。
 
・週プレNEWS「科学から見た反原発の問題点 菊池 誠「“御用”のレッテルで科学を殺すな」」(http://wpb.shueisha.co.jp/2012/07/03/12292/)
 
 編集部がつけたタイトルは「反原発の問題点」になってますけど、内容的にはデマ批判。
 
 あとまあ、菊池氏一番の失言といえるのはこれでしょうか。


 本発言については本人も釈明しているし、まとめも色々あるのですが、はてなブログで記事を書いてる方がいたのでリンク。
 
「妄想科學倶楽部」ブログの記事、「未だ続く「メルトダウン」発言問題に関して」。(http://docseri.hatenablog.jp/entry/2015/03/20/113330)
 
 まあ要するに、菊池氏は「メルトダウン=臨界事故によって炉心が溶融すること」だと考えていた(そしてそれは起きなかった)が、崩壊熱で燃料棒が溶けることも「メルトダウン」と呼ばれることを後から知った、という。
 
 結局の所、「メルトダウン」というのは原子力工学などで厳密な定義のある言葉じゃなくて。
 あの頃も、マスコミが「メルトダウンしたのか、どうなのか」と言質を取ろうと迫る一方、東電側が「メルトダウンは(自分たちの定義では)していない」と答える、という、えらく不毛な状況だった記憶があります。
 何をどう定義しようと、事故の状況が変わるわけじゃないんですぜ。
 
 はてブを見ても、この発言を持ち出して「エア御用」「原発カルト」呼ばわりしている人がいるようなので、まあ……失態だったなあ、とは思いますが。
(しかし、元のツイートが事故直後の2011年3月、リンクしたブログが2015年3月、そしてこの現状という……。元発言がたかだか百数十RTに過ぎない(この記事書いた時点では)、というのもちょっと驚きです)
 
 ところで、さきほど引用の
 
>「反原発運動は放射能デマを駆逐できるか」が問われている
 
 に、猛烈に反発する左派の方がいたりします。
 
「模型とかキャラ弁とか歴史とか」ブログ記事、「素人を「動員」してどうするつもりなの?「専門でないので言及しない」のは正当な理由である筈」。(http://d.hatena.ne.jp/D_Amon/20161230/p1)
 
 id:D_Amon氏は、件の発言を引用した上で、

粛々と放射能デマ批判をしていればいいのに、なんでキクマコ先生は反原発派に対し放射能デマを駆逐するよう運動論をぶつのでしょうね。

反原発が放射能デマと共闘しているとかいうことがあって、それを批判するならまだわかりますが、反原発が放射能デマを駆逐できないことをもって批判するのは理不尽というか、無理難題を要求していると思います。

 等と批判します。
 
 ここらへん、まことに不幸な行き違いだなあ、と思います。
 
 さきに見たとおり、菊池氏自身は脱原発寄りです。
 そして、脱原発派は疑似科学を排除すべきだと考えており、そして自ら率先してそれを行っているわけです。
 
 立派な態度だと言わざるを得ません。 
 
 しかしながら、id:D_Amon氏は、菊池氏を逆に「反原発派の敵」と見なしているため、
「デマを駆逐できるかが問われている」
 という発言に
「(敵から)無理難題を要求された!」
 と反発し、「悪質な誘導姿勢」などと糾弾するわけです。

はてなブックマーク - はてなブックマーク - はてなブックマーク - 「〜で弱者が死ぬ」「〜が人を殺す」という動員要求 - 模型とかキャラ弁とか歴史とか

反原発内にある疑似科学の批判自体は正しくても、対象の人が仮に反原発の主流が疑似科学であるかのように批判する人で、そのことに対して運動論をぶつ人であれば、「動員要求」ですし誘導姿勢も悪質ですね>id:filinion

2016/12/30 03:12

 で、さらに

これらの発言は運動論としても「反反沖縄基地運動は幸福の科学を駆逐できるか」「反反沖縄基地運動から幸福の科学を排除するのは急務」並みに陳腐な発言だと思います。
 
幸福の科学が勝手に関与してくるのに、仮にそれを排除できない方が悪いと言われれば、反反沖縄基地運動も反反原発も困ってしまうのではないでしょうか。まあ、そういう人々がそういうことを言われることはないのだろうとは思いますが。

 という謎の例え話を持ち出し、
「放射能デマが勝手に絡んでくるだけなので、デマを批判する必要はない」
 と主張します。
 
 ……あたかも、菊池氏が幸福の科学と仲良しな反・反基地運動支持者だ、みたいな物言いですけど……。
 それは「菊池誠は原発カルトで理系カルトのファシストだ!」という色眼鏡で見てるからそう見えるだけですよね……?
 当てこすりのつもりなんでしょうけど当てこすれてない。
 
 そこは、
「自分には知識がないから疑似科学批判は難しいが、被災者の人権侵害に繋がるデマは問題だと思っている。デマ批判の先頭に立っている菊池氏には敬意を表する」
 とでも言えばいいのに……。
 
 っていうか、この記事書くのにググってたら、kanose氏が4年半も前に疑問を呈してましたよ……。(私もブクマしてた)
 
「ARTIFACT@ハテナ系」ブログ記事「菊池誠氏は科学者としてダメというが、どの辺がダメなのか誰か説明して欲しい」(http://d.hatena.ne.jp/kanose/20120622/kikumaco)
 
 ここのコメント欄とかブコメとか見ても「ああ……」って感じ。
 溝は埋まらない……というか、広がる一方なんだな、という。


 
 ともあれ、この記事はツイートの引用が主なので、
「偏った引用だ!」
 といったご意見は当然あろうと思います。
 
 私も「何が何でも菊池氏を擁護しなければ」というような利害関係があるわけでは全然ありませんので、
「菊池氏は原発推進派だ!」
 ということが明確な発言などご存じの方がいらっしゃいましたら、ぜひコメント欄でお知らせください。
 

追記:反原発運動の不都合な点を指摘するのは「反・反原発」なのか。

 
id:D_Amon氏は、




……といったツイートを引用し、
 
>どのようなエビデンスがあってそのように主張しているのか知りたいものである。
(http://d.hatena.ne.jp/D_Amon/20170112/p1)
 
>(「反原発運動に取り組んでいる人たちの少なからず」ってどう調査したどんな根拠があるのでしょうね)
(http://d.hatena.ne.jp/D_Amon/20161230/p1)
 
 ……などと述べ、菊池氏が「反・反原発」であることの証拠にしようとしています。
 
 ……いや…………………………どうですかね?
 
 っていうか、D_Amon氏がそう言ってるのはこの記事を書く前から知ってたんですが、つい言及を避けた論点なんですよね、それ……。
 
 観測範囲問題かも知れませんが、割合としてどの程度であるかはさておき、反原発運動の中に放射能デマの人が少なからずいる、というのは明白な事実ではないでしょうか。(←言いたくなかった)
 それを指摘されて「エビデンスを示せ! この原発カルトめ!」とか言うのは、現実逃避というか論点逸らしというか“現在”修正主義的というか……。
 
 例えば、群馬大学の早川由紀夫氏がその一例でしょう。
 氏が熱烈に反原発を主張し、なおかつ、福島の風評被害を拡大するようなデマを流してきたことはよく知られていると思います。(これもエビデンスが必要でしょうか?)
 
 ちなみに、「早川由紀夫の火山ブログ」の記事「ニセ科学批判運動の真の目的」(http://kipuka.blog70.fc2.com/blog-entry-508.html)では、こんなことが書いてあります。

菊池誠をリーダーとするニセ科学批判クラスタと放射能安全を強調するクラスタは、かなりの部分が重なる。
 (中略)
彼らの真の理由そして目的は、現社会体制の維持継続を不安にさせる要因を早期につぶすことだったのだろう。

そう考えると、菊池誠をリーダーとするニセ科学批判クラスタが今回科学をかなぐり捨てて、やみくもに放射能安全を強調する側に立ったことがよく理解できる。原発こそが、ほんらい彼らがもっとも力を入れて批判すべきニセ科学だったはずだ。運転で生じる毒を始末するすべをもっていない技術なのだから。

ニセ科学批判の人たちは権威あるい当局と親和性が高い。その本質はもともと「御用」にあったとみられる。

 氏の主張は、「反原発」「放射能デマ」「菊池誠・疑似科学批判は権力の手先!」が分かちがたく結びついた一例だと思います。
(まあ、正直なところ、この記事「だけ」ならD_Amon氏も賛同するのでは? とも思えますが)
 
 その他、広瀬隆氏とか武田邦彦氏とか小野俊一氏とか「美味しんぼ」とか、反原発に熱心な人が同時に放射能デマ拡散にも熱心である例は多数あると思うのです。
 有名人を数人挙げただけですが、これらのブログのコメント欄を見れば、それに賛同する「反原発・放射能デマ」の一般人が多数いるらしいことは残念ながら否定しがたいと思います。
 
 はたまた、
「全国中学生人権作文コンテスト」で、福島の桃がテーマの「それでも僕は桃を買う」が総理大臣賞受賞(http://www.moj.go.jp/content/000116357.pdf)
 というニュースに、
「御用学者の卵」
「政府やマスコミの情報操作」
「洗脳」
「福島産を避けるのは差別でも偏見でもない」
 などと罵る「一般市民」の例もあります。
https://togetter.com/li/596758
 
 ……もちろん、D_Amon氏に、「お前もそのデマ野郎の仲間だ! 被災者を傷つけるエセ人権派め!」などと言うつもりはありません。
 
 例えば、先日、氏が(好意的に)ブクマしていらした、物理学者、早野龍五氏のインタビュー記事。
BuzzFeed「科学者がいま、福島の若い世代に伝えたいこと 「福島に生まれたことを後悔する必要はどこにもない」」(https://www.buzzfeed.com/satoruishido/hayano-san-01)
 
 この記事を、反原発派・小野俊一氏は口を極めて罵ってますからね。
「院長の独り言」ブログ記事「1419.広島や長崎の歴史を僕たちは克服していないと豪語する早野龍五」(http://onodekita.sblo.jp/article/178341784.html)

・フクシマにはなんの問題もないと主張する早野龍伍氏が、新春のインタビューであろうことか「広島・長崎の歴史を克服していない」と発言した
・この発言は、加害者の米国が作り上げた神話に基づいており、馬脚を現したと言える
・非常に腹立たしい発言であり、ここで問題提起しておく

 福島の被害を過小評価しようとする中心人物の一人である早野龍五が、Buzzfeedのインタビューに出ていたのでこちらで紹介したい。

 ですから、D_Amon氏が、放射能デマと一線を画しておられることはわかっています。
 
 しかし、反原発運動の中に放射能デマが多数存在していることまで否定するのは非現実的ですし、見ようによっては、
「反原発派は内部にデマが多いことを認めない→どうしても身内のデマを否定したがらない→やはり反原発はデマ擁護」
 と見なされかねない態度だと思います。
 
 菊池誠氏が言うように、
「反原発運動の内部には放射能デマに親和的な人も多い。我々はデマを排除できるかどうかを問われている」
 というのは、残念ながら確かな事実だと思います。
 
「残念な事実」を指摘されて逆上するのでは、歴史修正主義のネトウヨと変わるところがないではありませんか……。
 
 ……まあ……偉そうなことを言いつつも、私が当初この論点を「避けて」しまったのは、
 
「私も反原発だし、“反原発を主張する人の中にはデマを語る人も多い”なんて言うのは気が進まないなあ……」
「引用するとしたら、知名度だけはあるデマ屋さんにリンクを張ることになるから、めんどくさい人がコメント欄に沸きそうだし……」
「まあ、“放射能デマを信じてる反原発の人がけっこういる”なんてこと、あえて言わなくてもみんなわかってくれるよね?」
 
 ……と思ってしまった、というのが原因なので、D_Amon氏ばかりを身びいきだとは言えないのですけど。
 

*1:ツイートの画像を張ってらっしゃるんですけど、FC2ブログってツイート埋め込めないんですかね。不便ですね。

*2:別に権威ある団体とかが作製したものではないですが、まあ、目安として。