借金することで生活をたて直し自信を持ったお母さんたちの国

題材も面白いけど、番組としてよくできている。おすすめです。

バングラディッシュの首都ダッカで、グラミン銀行と同じマイクロクレジット(貧困者対象の無担保少額融資)を主たる事業としているブラック銀行(Brac Bank)の話。

貧困解消の為の福祉事業であると同時にビジネスである。「いいことをしているのにブラックかよw」とコメントがつくが、これよって貧しい人たちがどう助けられているのか、そこが、実際にお金を借りる人の側に密着することで、すごくよくわかるようになっている。

融資を受けた一人、80万円を借りた若い工場経営者が、一ヶ月後の最初の返済の日に窮地に陥る。ここが生々しくて、ついつい感情移入してしまう。ネタバレになるので詳細は省くが、場面が変わってその三ヶ月後の彼の姿を見た時に、一斉にコメントが入り、いわゆる「弾幕」に近い状態になる。

この「弾幕」が、今までニコニコ動画を見た中で一番ウザくない「弾幕」だった。思わず「弾幕」と一緒になって「おお〜」と叫んでしまいますよ。最初からずっと見てるとそれくらいインパクトがある。

構成が実にうまいんだけど、その工場経営者のストーリーの間に入るのが、雑貨店を経営している若い女性の話。夫が病気になって売上を薬代に回してしまった為に、次の商品を仕入れるお金がなくなってしまう。画面には、棚に商品が無く当然ほとんど来客もない、さびれた商店の様子が映る。

この女性は、ブラック銀行から1万2千円の融資を得て、油等の商品を仕入れて、見事に立ち直る。数日後に、繁盛している店の様子を画面で見ると一目瞭然。一週間後の返済の日に、店の売上の現金を持ってブラック銀行に返済する女性の自信に満ちた表情が実に印象的だ。

同じように返済に来た人がたくさん映り、「この日、返済できない人は一人もいませんでした」とアナウンスが入る。返済率は99.5%だとか。

この女性は、画面に出るほとんどの場面で小さな子供をだっこしている。融資を申し込む前の不安げで自信が無さそうな様子も、融資の為に銀行に面接に行き共同保証人となる別の女性が「何かあったら私が代わりに払います」と言っている場面も、繁盛している店で忙しく商品を売っている所も、銀行にお金を返済している場面も、全部、子供を抱いている。

それを見ていて「あの子供は『借金』という概念を、この母親の姿を通して学ぶことができるんだなあ」と思ってしまった。おそらく、母親のこの経験は、「我が家の歴史」の根幹としてこれから繰り返し語られていくのだろう。そして、「借金」という言葉にものすごくポジティブな感情を深いレベルで持つようになるのだろう。

この子供が大きくなって、「お母さん、ボクは今度ネットの会社を作るんだよ。融資してくれる人を見つけたんだ」と母親に報告する場面を想像してしまった。

その時に、この母親は、彼女の息子が人生をかけようとしている事業の内容は理解できないかもしれない。だけど、起業ということの本質は理解しているだろう。お金を借りて、それを回転させて大きくして返す。残ったお金が、自分の生活の基盤となり、未来への投資となり、そして何より自分の自信となる。

それがどういう意味なのか、それを彼の母親は自分の経験からよくわかっているし、ある意味では、その点に関して良き先輩であるとも言えるだろう。単なる自営の経験からは具体的なアドバイスまではできないだろうが、彼を理解し激励し勇気を与えることはできるはずだ。

番組によると、バングラディシュの国民の7割がマイクロクレジットでお金を借りているそうだ。しかもそれが驚異的な返済率で、融資の対象は女性が多いということは、10年後20年後に、そういう場面は珍しくないと思うのだ。

つまり、マイクロクレジットとは、教育のシステムであると考えてはじめてその真価がわかる制度なのではないだろうか。

たくさんの女性が、こうやって借金をしてそれをきっちり返すことで自信をつけて目に見えて生活を向上させていく、その様子をすぐそばで見ながら育っている子供がたくさんいる。

やがてバングラディシュは、世界で一番「起業家精神」を理解し評価する国になっていくと思う。少なくとも子供が借金することを喜び応援する気分に溢れた国になるのは確かだろう。

これから、ビジネスの基本的な単位は小さくなり経済は流動的になっていくのだから、これってすごく大事なことではないだろうか。

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