ポータル的な外食産業は消えてブログ的な「街の喫茶店」が復活する

安い賃金で雇ったアルバイトはブログやmixiで何を言い出すかわかりませんし、それがいつ広まって「炎上」するかわかりません。

お客さまからの問い合わせの電話は、録音されてるどころか全世界に向けて生放送されてる可能性があります。

そしてチェーン展開で大きくなった企業は、たった1店舗でこのような問題が起きただけでも全店舗に影響が波及します。(中略)

もうこれはアルバイト頼りの外食産業全体の危機と言ってもいいのではないでしょうか?

企業の置かれた環境が激変していて、生存の為の条件が変わっていることには同感ですが、この問題は、二つに分けて考える必要があると思います。

  1. 「安い労働力」で「そこそこの商品」を提供するプロセスの価値
  2. 「そこそこの商品」を素晴しいもののように演出するメディア操作能力の価値

外食チェーン店という企業形態が、全く価値の無いものを素晴しい商品に見せて、消費者を騙すことだけで利益を得ていたわけではありません。安い、非熟練労働力を使って、それなりの価値を生み出すシステムがあって、それによって、価格以上の商品を提供していたから、消費者はそれを受け入れていたわけです。

しかし、それだけでは商売にならなかった。これまでは、良いプロセスにプラスして、広告やメディア戦略に力を入れることが必要だったわけです。

そして、その広告においては、規模が大きいほど有利です。テレビのCMの枠を一つ買うだけで、全国にある何百店、何千店がそこ恩恵を得られるわけですから。チェーン店がいくつあっても広告の枠の値段は同じですから、一つの枠という出費を多くの収入につなげられる大規模なチェーンの方が有利です。

また、テレビ局にとっての優良顧客=大広告主であれば、問題が起きた時の報道もある程度はコントロールできていたのかもしれません。

つまり、これまでの大規模チェーン店の価値は、「プロセス」+「ブランド価値」で構成されており、その「ブランド価値」の部分で規模=競争力であったわけです。

ところが、個人メディアの影響力が大きくなってくると、この力関係が変化します。らばQさんがおっしゃるように、1店舗の問題によって全ての店が影響を受けるので、規模が大きい程不利になります。

これからは、あらゆるブランド価値が、むしろマイナスになっていくでしょう。どのブランドにおいても同様の炎上事件を避けることは難しいと思います。そして、広報の対応の仕方に差が無いとしたら、大きなチェーンを持つブランドほど問題が起こる可能性が高いし、起きた時にはより大きなダメージを受けるでしょう。

同じレベルの「プロセス」を持っているとしたら、ブランドの無い店の方が有利になるかもしれません。激減している街の喫茶店や個人経営の定食屋が復活してくるかも。

ただ、本当に優秀な「プロセス」を持っている企業は、生き残るでしょう。

中央での一括調理+店舗でレンジでチンで本格的な料理を出すレシピとか、優秀なバイヤーとか、情報システムとか、配送のシステムとか、バイトの採用と教育のシステムとか、細かい経営指導を行うスーパーバイザーとか、そういうものを持っている企業の価値は消えるわけではありません。ネットの普及は「プロセス」の部分に対しては影響を及ぼさないので、むしろ、その「プロセス」の価値が剥き出しで見えてくるのではないかと思います。

ネットになぞらえて言えば、これまでの外食産業はポータル的であり、そういうポータルとしての外食産業、自分たちがかかえるコンテンツを全面的に中央でコントロールしようとする企業は消えていくのでしょう。

その代わりに、優秀な「プロセス」の多くはより専門化し、統合、再編を経て、それを「サービス」として提供する形態で生き残ると思われます。

そして、ブログのように、個人事業主がそういう「プロセス」が提供する「サービス」を自由にマッシュアップするという新しい形で、「街の喫茶店」が復活するのではないでしょうか。

つまり、値段やサイドメニューの味の均一さは現在のチェーン店並みだけど、雰囲気やコーヒーの味はそれぞれ個性的な「街の喫茶店」が増えてくるのです。それぞれの店主は、仕入れやレシピやPOSレジやバイトの採用については、外部の大企業の力を借りるのですが、全体的な店のデザインや核となるコーヒーの味については、店主個人が持っている独自のノウハウやセンスで勝負するわけです。

これまでは、知らない街で食事をすることになったら、とりあえず有名チェーンに入るというのが安全で手軽な方法だったのですが、これからは、とりあえず twitter で「このへんでおいしい所知らない?」と聞いてみれば、そういうタイプのブログ的な店を簡単に見つけられるようになるのかもしれません。