wikiクローンのことを「ウィキ」って言ったら物凄い怒られた

私は2003年にWikiに関連した製品開発をしたことがあって(見事に玉砕したけど)、当時から各種Wikiソフトウエアを調査、研究していたし、いろいろな場面で使っていた。だから、「ウィキ」がWikipediaのことを意味しているなんて、とても受け入れられない。「ウィキ」と言ったら、wiki クローンのことを指すに決まってるでしょ。

と、ここまで勢いで書いて気がついたけど、「wikiクローン」ってwikiのクローンですよね。としたら、この「wiki」は何を指しているの?

ウィキのソフトウェアは、デザインパターンの共同体で、パターン言語を書くために創られた。1995年にワード・カニンガムが確立したPortland Pattern Repositoryが初のウィキだった。カニンガムは、ウィキの概念を発明し名付け、ウィキエンジンの初の実装を製作した。元々のウィキだけが、ウィキ(先頭が大文字のWiki)あるいはウィキウィキウェブと呼ばれるべきだと主張する人もいる。カニンガムのウィキ(Wards Wiki)はいまだに、最も人気のあるウィキサイトの一つである

カニンガムが開発した世界最初のwikiエンジンおよびそれを運用したサイトのみが、本物のwikiであって、それを真似して後から開発されたソフトウエアは、「wikiクローン」と呼ばれるべきで、Wikiクローンのことを「ウィキ」と略すなんてとんでもない。混乱の元だ!

なんて怒る人がいるかもしれない。

もっと言えば、ハワイ語がわかる人から見たら、"Wiki Wiki"を"Wiki"と省略することがいやな感じかもしれない。

ウィキウィキはハワイ語で「速い」を意味し、ウィキのページの作成更新の迅速なことを表している。

  1. ハワイ語の"Wiki Wiki"(形容詞?)
  2. カニンガムが開発した元祖wikiエンジンとそのサイト(固有名詞)
  3. 元祖wikiから派生した多数のWikiエンジン(wikiクローン)(一般名詞)
  4. 多数のwikiクローンのさまざまな応用例の中で、突出して成功し広まったサイトであるWikipedia(の日本国内独自の省略形としてのWiki)(固有名詞)

"wiki"という単語には、このような歴史があって、その歴史の各局面ごとに新しい意味が生まれているわけです。

今は3と4が衝突しているわけですが、少し前には2と3の衝突があったかもしれない。

私は、圧倒的に3を支持していて、2の立場に立つ人は偏狭に見えるし、4の用法で使う人は無神経に思える。でも、それが絶対的に正しいとは言えないと考える。

「ウィキ」が4を指すことになって3を指す言葉が無くなってしまうのは困るけど、これは「wikiエンジン」と呼べば、それほど無理なく移行できると思う。

3と4の間に断絶があるのは、「Wiki」という概念が、急速にそれまでと違う層に広まったことを意味していて、これはむしろ、めでたいことではないだろうか。Wikipediaを集団知と関連づけて考える人は少ないだろうが、「ウィキ」が誰にでも書き込みできる場であるという認識は、4の段階で「ウィキ」を知った人も(ある程度は)共有しているだろう。

単なる一消費者として利用するだけの人も多いかもしれない。Wikipediaの成り立ちについて全く知らず、盲信している人もいるかもしれない。そういう人にとっては、自分と全く関係なしに天から降ってくる権威の一つでしかないだろう。そういう人は増えていくだろうし、既に多数派なのかもしれない。

でも、「誰もが書き込める場に一定の秩序が形成されることがある」という共通認識が、wikiエンジンとかオープンソースとか集団知という言葉に全く縁が無い人たちの一部には届いていることも確かだろう。

おそらく、そのような形の秩序形成作用は、これを断片的にでも知った人が増えることで加速し、wikiエンジンやWikipediaと関係ない所にもそういう秩序がたくさん形成され、ひょっとしたら「ウィキ」という言葉は、再び固有名詞から一般名詞となりそういう秩序全般を指す言葉となり、その頃には、Wikipediaのみを当然のように「ウィキ」と呼ぶ人たちが旧世代となり、「○○のことをウィキって言ったら物凄い怒られた」という衝突が別の形で繰り返されるだろう。

(おまけ)

私が今まで見たWikiページでもっとも感激したのは、ここにメモっておいたけど、「羊堂本舗 ちょき」という今はもう存在しないWikiのFrontPage。

このサイトはWikiもしくはWikiCloneと呼ばれるものです。
このサイトを見た人は必ず何か書かないと呪われてしまいます。
Wikiとは「呪い」という意味です。

世界中の全てのWikiサイトにコピーすべきで、いっそのこと、この嘘をオフィシャルな定義にしてしまってもいいと思った。

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