十分すぎる?たんぱく質

生物が生きていくためには必要な栄養素を確保しなければなりません。人間は食物を摂取し、消化吸収する事で必要な栄養素を確保することができます。
食べ物に十分な栄養素が含まれていなければ、体はだんだんと衰えたり、病気になってしまうことでしょう。反対に摂りすぎによっても病気になる事があり、丁度良い栄養補給を心がける事が健康を維持するために重要であると思います。
妥当な栄養摂取が出来ているのか、自分にとって必要な栄養量はどれくらいなのか?そんな時は『日本人の食事摂取基準2010年版』をみればだいたいの目安を知ることが出来ます。
試しに日本人が不足気味だとされるカルシウムを見てみましょう。
■カルシウムはやっぱり不足気味?

推定平均必要量は集団で見た場合50%の人間が必要量を満たすと推定される値で、推奨量は97〜98の人が必要量を満たせると推測される値です。日本人全体を考える場合には、多くの方が推奨量を満たしている状況が望ましいと考えられます。実際のところはどうなのでしょうか?参考となる平成21年の国民健康・栄養調査の結果と比較してみます。

記載式の調査結果であり、過小報告や誤差も確かにありますが、それを考慮したとしても日本人全体が明らかにカルシウム摂取不足の傾向に在ることがわかります。特に男性では全年代に於いて推定必要量に達していない状況です。骨粗鬆症が身近に感じられる中高年以降の女性が頑張って補給しようとしている様子が伺える結果なのが面白いですね。しかし、妊娠出産を控えた若い女性のカルシウム摂取量は非常に低くなっており、将来の骨粗鬆症リスクを考えると心配な状況かもしれません。『牛乳は体に悪い』みたいな根拠のない脅し文句を放置できない理由がここにあります。どらねこにいわせれば、そんな脅し文句が体に悪い!

■たんぱく質は大切ダヨ
不足が心配される栄養素がある一方、過剰が問題視される栄養素もあったりします。その代表格がナトリウムで、しょっぱいものを好む食文化を持つ日本人は塩化ナトリウムの形でドシドシ体の中に入ってきております。食塩摂取量が多い集団ではそうでない集団に比べ年齢が上がるにつれ血圧が上昇しやすい傾向があると謂う事は広く知られております。実はそれだけでなく、胃がんの発症にも食塩摂取量が影響するという報告*1も存在します。また、数十年前までの東北地方における食塩摂取量は1日あたり20gを超えていたとされ、それが日本人の胃がん発生率が高かった事に関係していると認識されております。
ところで食塩の他にも必要量に比べて摂取量の多い栄養素があるのですが、それがたんぱく質なのです。ちょっと意外でしょうか?日本人はどれくらいたんぱく質を摂れば良いのかを示した一番妥当な値は食事摂取基準に示されております。

それではカルシウムと同じように、国民健康・栄養調査の結果と比較してみましょう。

男性でも女性でも全ての年代で推奨量を大きく上回っている事がわかります。では、食塩と同じようにたんぱく質摂取を控えた方が良いのでしょうか?
勿論、そんな事はありません。少しぐらいの過剰であれば、体内でエネルギーとして活用されますので、寧ろ現代の日本人はたんぱく質不足がほとんど起こらない望ましい状況にあると謂えるでしょう。但し、腎臓や肝臓に病気を持っている人の場合は余分なたんぱく質やアミノ酸バランスが健康に大きな影響を与えるので気をつけたいところです。健康な人であれば、継続して1日に体重1kgあたり2.0gを超えるようなたんぱく質摂取をしなければほとんど問題ないと考えられます。体重50kgの人であれば100gを超えないようにしておいた方が無難でしょう。

■たんぱく質はしっかり摂らないと
そう謂えば昔、たんぱく質(アミノ酸)は体をつくるのに重要な栄養素だからしっかり摂らなければダメですよ。なんて、教わったものでした。でも、多くの人はそんな事を気にしなくてもちゃんと確保出来ているわけで、他の不足しがちな栄養素に気を配ってもらった方が良いような気がします。でもなんでそんなにたんぱく質摂取を気にする風潮があったのでしょうか?
どらねこの記憶では昔はもっと多くたんぱく質は摂るべきものだと教わった記憶があります。記憶違いだったのでしょうか?
実は、昔のたんぱく質必要量は今と比べて多い値*2が示されていたのでした。

当時は女性でも現在の男性以上に摂る事が求められていたようです。
更に当時の食生活状況を考えると、動物性食品を食べる量は少なかった事でしょうから、たんぱく質必要量を満たしている人の割合はかなり少なかった事と思います。なので、良質のたんぱく質を含む食品をしっかり食べましょう、と謂う呼びかけが必要だったわけです。状況が変化しても、昔の記憶が残っていて、たんぱく質やアミノ酸が補わなければならないような栄養素として未だ認識されているのかも知れません。所謂健康食品などに良質のアミノ酸とか機能性アミノ酸のような売り文句が通用するのは、過去のイメージの影響かも知れませんね。

■必要なたんぱく質ってどれぐらい?
さて、必要なたんぱく質量について色々と述べてきた(?)ワケなのですが、実際の食べ物にはどのぐらい含まれているものなのでしょうか。単一の食品から十分なたんぱく質をまかなうとすれば、どれぐらいの量が必要になるのかを見るため、いくつか食品を選んでまとめてみました。同じ食品だけを食べるなんてありえませんが、お遊びなのでその辺はスルーしてやってください。

卵の場合:だいたい1個の重さが50g程でありますので、推定平均必要量に達する為には男性で8個、女性で6個半食べれば満たすことが出来ます。3食をオムレツで過ごせば何とかなりそうな分量かも知れませんが、個人的には御免被りたいところです。

牛乳の場合:思春期のスポーツ少年が牛乳を1日1パックぐびぐびなんて漫画のネタにありがちな感じだけど、どらねこみたいなオジサンがマネをしたら翌朝にきびで困ってしまいそう。

くろまぐろ赤身の場合:200gも食べれば殆ど必要なたんぱく質を賄う事が出来てしまうのは驚きだけど、お値段的には一番凶悪だと思います。

納豆の場合:煮豆よりも消化が良くて、たんぱく質が豊富な納豆ですが、パックの多くは40g入りですので、8パックほど食べることが求められそうです。みつどんさんなら余裕かも知れませんね。

キャベツの場合:野菜から十分なたんぱく質を賄うのは至難の業です。更に必須アミノ酸のバランスも悪いので、この表に示した以上のキャベツが必要になることでしょう。人間が葉物野菜だけを食べてたんぱく質を賄うというのはかなり絶望的な事と思います。食べることだけに1日を費やすことは知的活動を行う時間を持てなくなる事を意味するでしょうね。

ごはんの場合:人間は穀食動物だ!なんて仰ったのは石塚左玄氏でしたが、野菜ほどではありませんが、穀類だけから十分なたんぱく質を賄うのは随分きついと思います。それは玄米でも同じです。

牛モモ赤身の場合:250gも食べれば必要量を賄える・・・。焼き肉屋では400gは頼まないと食べた気にならないモフ・・・。

皆様は如何感じましたでしょうか?意外とたんぱく質の必要量は少ないな、と思った方が結構いらっしゃったのではないでしょうか。日常では色々な食品を組み合わせるので、より簡単に達成できてしまいます。繰り返しになりますが、極端に食事が偏っていたり、食べる量が少ない人を除けば、たんぱく質摂取量を気にする必要はないと謂うことです。なので、アミノ酸補給を謳うようなサプリメントや健康食品の出番はありませんし、その他の栄養素の充足を気にした方が遥かに建設的だとどらねこは思うのです。ではまた・・・

*1:Tsugane S,Sasazuki S, et al. Salt and salted food intake and subsequent risk of gastric cancer among middle-aged Japanese men and women. British Journal of Cancer (2004) 90, 128–134.

*2:なぜコレだけ多いのかは色々な要素が重なっていると思いますが、一つは当時の平均的たんぱく質の栄養価が低かった事が影響していると考えられます。肉や魚などの良質のたんぱく質であれば、効率よく体たんぱく質として利用できるのですが、必須アミノ酸のバランスが悪い野菜など由来のたんぱく質摂取が多くなると、必要とされるたんぱく質総量が増えてしまうからです。もう一つは、現在と必要量を求める手法が違う事による差違もあると思います。現在の方がより確からしい算出方法が採られているでしょう。