金融危機はベンチャーキャピタルにどう影響するか

最近、知り合いから「金融危機でVCは大変でしょう。つぶれたりしないの?」と聞かれることがありますが、基本的にVCの経営はファンドからの管理報酬で成り立っているので、収入は安定しています。したがって、金融危機の直接の影響はない!と言いたいところですが、やはりいろいろな面で影響があります。

下記3つに、まとめてみました。



1.新規ファンドの創設は絶望的・・・
去年の暮れあたりから、VCが新しいファンドを作ろうとしても、資金集めに苦労する状況ではありました。しかし、ここ数ヶ月は絶望的です。金融機関が硬く殻に閉じこもってしまっていますので、ほぼ不可能のようです。金融機関の中には、サブプライムで大きな損失を出しているところも多いですが、市況が落ち着いてきたら、「サブプライムで損するぐらいなら、ベンチャー育成をして損をしたほうが、ずっと有意義(?)だ」という議論が起こって、VCファンドへの出資が増えることを期待したいですね。新規ファンドについては上記の通りなのですが、既に存在するファンドに関しては、基本的には金融危機の影響はありません。しかし、アメリカではキャピタルコール時にLP(出資者)が資金拠出を拒んだり延期したりといった事例も出てきたようです(参照)。



2.投資先企業は資金繰りに困窮・・・
大きな借入でもしていない限り、VCの経営は比較的安定ですが、投資先企業の経営は大変です。これまでうまく行っていた商談が、先方の事業見直しなどで破談になるようなケースも出始めています。また、金融機関が融資を絞ることによって、資金繰りに困窮するケースもあります。一般的にベンチャーは、景気に関係なく伸びていく企業も多々あります。不況によって優秀な人材が大企業から飛び出してきたり、良い条件でオフィスが借り易くなったりと、ベンチャーに有利な面もあります。しかし今回は、米大手VCのセコイヤキャピタルも、投資先企業に向けて「今すぐ徹底したコスト削減をすべき、さもないと死ぬぞ」と警告を発している(参照)ぐらいですから、一筋縄ではいかないようです。

このように投資先の経営が困難になってきますので、VCとしては既存投資先への追加出資のために、資金を確保しておこうということになります。したがって、新規案件への投資が消極的になるのは否めません。上で触れたように、新規ファンドも作れない状況ですので、資金調達をしたいベンチャーにとっては厳しい状況となっています。ベンチャーの中には、背に腹は変えられないということで、株価を1/10に下げてまで資金集めに奔走する所も出てきています。投資環境としては、逆にチャンスが訪れている状態です。



3.IPO市場は危機的状況・・・
以前のエントリでも触れましたが、2008年に入ってから、極度に新規IPOが出にくい状況になっています。これは6月以降も改善されておらず、アメリカ(参照)でも、日本(参照)でも同様です。無理にIPOしても公募割れになってしまうので、直近ではM&Aを狙うほうが良いかもしれません。しかし、事業会社の経営難からM&Aも不調ですし、そもそもIPOが出ないとM&Aの価格も買い叩かれるといった事情もあるようです(参照)。投資先企業のEXITがなければ、キャピタルゲインが得られないので、VCにとっては非常に苦しい状況です。



ところで、新興市場に投資している方の中には「金融危機で、VCが持ち株を換金売りしたがるのではないか?」と思う方もいるかもしれませんが、それはあまり関係ありません。すぐに売りたがるのはVCの常ですが、このような市況では、むしろ株価が回復するまで保持して、より高く売ろうと考えるのが普通ではないでしょうか。ITバブル時に作ったファンドは、そろそろ満期となるところも多いですので、そういった意味では売り圧力は増えるかもしれません。


このように不動産系のファンドなどに比べると、格段に状況は良いのですが、それでも長く苦しい時期となりそうです。入社して1年でこの状況ですので、なかなか面白い展開ですね。頑張りたいと思います。