「IPアドレスは住所」という究極の事実誤認について

ITmediaだってさ、IT系のWebメディアの雄なんだからこんな記事載せるなよ。

「IPアドレスが判明すれば、捜査は半分終わったようなものだと思っていた。想定外の事態ですよ」。ウイルス感染したパソコンが遠隔操作され、インターネットで相次いで犯行予告や脅迫が行われていたことが明らかになると、ある警察幹部はこう漏らした。

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警察はITの専門家ではないとはいえ、インターネット関連事件を操作する部隊であれば、当然ながらIPアドレスがなんであるかは知っているはずなんだけど、IPアドレス特定=犯人特定としてしまっているのは、今まで検挙してきた幼稚な犯罪予告や、違法ダウンロード関連の事例に慣れてしまったからかもしれない。
とはいえ、このエントリは警察を非難する目的で書いているのではない。

 IPアドレスとは、ネットに接続するパソコンや携帯電話などの機器ごとに割り当てられる識別番号のこと。データをやりとりする際のネット上の「住所」に相当し、個々の利用者にネット接続業者から割り振られる。

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なんだこりゃ…
ウィキペディアだとどう書かれているか。

IPアドレス(アイピーアドレス、 英: Internet Protocol address)とは、IPにおいてパケットを送受信する機器を判別するための番号である。

IPアドレス - Wikipedia

解説の続きは直接どうぞ。
重要なのは「機器に割り当てられる」番号ではなく、「機器を判別するための」番号であるということ。この両者はまずまず同じ事を指しているけれども、「機器に割り当てられる」という実態は、たまたまそういう状況であるということにすぎない。一般的な家庭の利用者においては、回線契約あたり1つ以上のIPアドレスを使用する権利を持ち、それを利用する際に動的に割り振られるだけである。決められた住所に通信が届くのではなく、割り振られたIPアドレスを元に握手をし、一期一会の通信を行うものだ、という風に考えたほうがしっくりくる。
ここで重要なのは、一般家庭に割り振られるIPアドレスは大抵の場合動的である、ということ。常時接続環境がほとんどになってきた昨今では実際にはほぼ固定のアドレスを使用しているような状態になっていることは確かだけれども、あくまで、動的な契約がほとんどである。サーバーを利用する環境のために固定のアドレスを割り振る契約になっている場合もあるけれども今や個人での利点はあまりないので少数派である。動的である以上、IPアドレスそのものは個人を特定しない。IPアドレスから個人を特定するには、プロバイダーが持つ接続情報を元に「いつからいつの間、このIPアドレスはこの認証情報の持ち主に割り振られていた」という調査をしなければならない。
もちろん、警察の調査のレベルはそれを行なっていることは間違いない。だから、そのことについてはとやかく言わない。ただ、一般的にIPアドレスが固定だ、ということを誤認してしまうと、思わぬ問題が生じると思っている。すなわち、IPアドレスの情報を記録するサイトが個人を特定する情報としてIPアドレスを利用できるという誤認。
IPアドレスと認証情報を悪用するサイトで特定のIPアドレスが特定の個人を指すとして誹謗中傷や攻撃の的になったあげく、そのIPアドレスが別の人間に割り振られてしまうということがあったらそれは大変悲惨な出来事といえよう。
もう一つ重要なのは、このような個人宅におけるIPアドレスは大抵1つしか割り振られない結果として、ルーターを利用した内部ネットワークのIPアドレスを1つのグローバルIPアドレスに変換して通信しているということがほとんどであること。無線LANを構築している家庭も多いけど、認証設定が甘いと他人に好き放題使われてしまい、そのIPアドレスはそのご家庭のIPアドレスって言うことになる。これならウイルスに感染するまでもなく、いわれない罪を着せられることになる。
これだけ重要な事案なのであるから、ITmediaというメディアには産経新聞の記事を無批判に掲載するなと言いたい。せめて、IPアドレスについての補足説明くらいはしておけ。