NATROMのブログ

ニセ医学への注意喚起を中心に内科医が医療情報を発信します。

あるある大事典捏造 どこからばれたんだろう?

例の納豆ダイエットの、「発掘!あるある大事典II」について、「事実とは異なる内容が含まれることに関するお詫び」が、関西テレビ放送のサイトに掲載された。最初はよくできたネタかと思い、URLを確認してしまったよ。


■視聴者の皆様へ(関西テレビ放送)


1.  アメリカのダイエット研究の紹介におきまして、56人の男女を集めて、実験をしており、被験者がやせたことを示す3枚の比較写真が使われておりますが、この写真について被験者とは無関係の写真を使用いたしました。

2. テンプル大学アーサー・ショーツ教授の日本語訳コメントで、「日本の方々にとっても身近な食材で、DHEAを増やすことが可能です!」「体内のDHEAを増やす食材がありますよ。イソフラボンを含む食品です。なぜならイソフラボンは、DHEAの原料ですから!」 という発言したことになっておりますが、内容も含めてこのような発言はございませんでした。

3. 番組で実験を行った8名の被験者について、放送では「中性脂肪値が高くてお悩みだった2人は、完全な正常値に!」とコメントし数字をスーパーしておりますが、コレステロール値、中性脂肪値、血糖値についての測定は行っておりませんでした。

4. あるあるミニ実験として、納豆を朝2パックまとめて食べた場合と、朝晩1パックずつに分けて食べた場合の比較実験ですが、血中イソフラボンの測定は行っておらず、比較結果は架空のものでした。

5. 番組で実験を行った8名の被験者について「体内で作られるDHEAは20代をピークに減少、食べ過ぎや運動不足によってDHEAの量が低下している可能性があるのだとか!20代から50代の男女8人の血中DHEA量を測定。さて結果は?」として22歳OL、25歳会社員、37歳会社員のDHEA量を測定し年齢の基準値と検査結果をテロップ表示で比較をおこなっておりますが血液は採集をしたものの、実際は検査を行っておらず、数字は架空のものでした。また、ここで使用している「DHEA分泌は加齢とともに低下する」ことを示したグラフは許可を得ずに引用いたしました。

「事実とは異なる内容」というか、捏造なんだけど、どっからばれたんだろう。別に根拠はないんだけど、捏造は今回だけじゃないだろうね。断言しちゃうけど、程度の差こそあろうが、毎回やっている。だって、科学的根拠なんてこの手の番組には必要ないんだもの。視聴者をだまくらかせればそれでよいのであって。番組を制作する側に、科学的方法論を実行する動機もなければ能力もない。「信用していたのに裏切られた」などと言う視聴者がもしかしたらいるかもしれないが、「あるある大事典」を信用していたという時点で、もうそれは自業自得だねえと言わざるを得ない。私が疑問に思うのは、どっから捏造がばれたのかってこと。たぶん、誰かチクった奴がいるんだろうけど、ざっとニュースを検索した限りではわからない。これも推測だけど、「捏造はよくない。放送倫理のために告発した」ではなく、「あいつら納豆関係でしこたま儲けたくせに、俺には分け前よこさねえ」が動機だったのではないか。あるいは、株がらみ。関西テレビ放送自体は上場していないようだけど、持ち株会社の株は下がるだろうから、空売りしておいた上でチクって大儲け。

今後、こうした科学的根拠に乏しい番組がなくなるかと言えばそうではないだろう。もしかしたら、「発掘!あるある大事典II」は番組終了になるかもしれないが、新しい番組を作ればいいだけだし、そもそも既に他に似たような番組はある。しばらくは、「やり過ぎないように」気をつけるだろうが、どうせすぐに忘れる。「あるある大事典には裏切られた」とか言っていた人たちが、またそういう番組を見て踊らされるのだろう。古くはピルトダウン人から、最近では黄教授によるES細胞論文捏造まで、科学の場においても捏造はあるものの、比較的稀である。別に科学者の倫理観が高潔だからではなく、ばれたときのリスクがでかいこと(研究者生命終わり)、方法・手段を明確にしているからばれる可能性が常にあること(誰が追試しても失敗したらこりゃオカシイってことになる)、などによる。ペナルティと相互チェックが信頼性を増すわけだ。放送業界においても、ペナルティは「あるある大事典」の責任者の首が飛ぶぐらいはあるだろうが、「放送関係者による相互チェックシステムを作ろう」なんてことには絶対にならないであろうなあ。