ナインティナイン矢部浩之の決断

11月27日。134日ぶりに『めちゃイケ』に復帰した岡村隆史。
その放送を見た水道橋博士はTwitterでこうツイートしている。

これらを受け相沢さん(@aizawaaa)はこうツイートしている。

岡村さんの復帰については、自分の中で色んな感情が押し寄せてなかなか言葉で表現するのが難しいので、秀逸すぎるツイートの紹介に留めたい。


僕が個人的に強く印象に残ったのは、矢部浩之の「大丈夫、大丈夫」という声だった。
『めちゃイケ』メンバーに抱きつき言葉を交わす岡村。そして最後に相方である矢部に抱きつき何やら岡村が囁くと矢部ははにかみながら微笑んで「大丈夫ッス、大丈夫、大丈夫」と岡村に声をかけていた。

12月2日深夜に復帰を果たした『99のオールナイトニッポン』でも岡村が謝ったり、リスナーの反応などを少しでも不安を口にすると、矢部はしきりに「大丈夫ですよ」と岡村に答えている。
そして、エンディングで岡村は矢部が歌う「キセキ」「田園」が流れる中、再度決意表明をする。

岡村: とんでもない地獄を見たわけですから、それを見た分、笑いを提供していけるんじゃないかと、いうふうに思っております。
矢部: うん、人生経験としてはね、
岡村: ホントに今回、いろんなことが勉強になりました。
矢部: 普段感じないこともね、感じたりするでしょうし。
岡村: ホントに待っててくれたみなさんに恩返ししたいと。
矢部: そうですね。
岡村: 笑いでね。
矢部: いつもの岡村さん、でいいんじゃないですか。
岡村: そうですね。
矢部: また、気負うよりね。いつもの元気な岡村さんでいいと思いますよ。

最後まで岡村が変に気負わないよう「大丈夫」「いつもの岡村さんでいい」と気遣う矢部。


すでに各所で岡村隆史の復帰について書かれているので今更感はあるけれど、今回は岡村の休養から復帰にかけて、その裏で下された矢部の苦渋の決断とその後の振る舞いに焦点を当てて振り返ってみたいと思う。
相当きつい状況だったはずの岡村休養中も復帰後も変わらずずっとニヤニヤと笑っていた矢部。とにかく、この件で矢部は、ひたすら優しく、そして強かった。


矢部浩之が岡村隆史を「休ませる」という決断に大きく傾いたきっかけは、岡村が一度目の短期休養から復帰し収録した『めちゃイケ』の収録後のことだった。
彼の病状のひとつを岡村本人は「いろんなブームが来る」と表現している。
最初に彼の精神を蝕んだのは「お金がない!」ブーム*1だった。

岡村: もう一番最初は「金融不安」。「金融恐慌」がやってきたから、僕の中で。「お金がない!」って。舘ひろしの「免許がない」みたいな(笑)。「お金がない!」って言うて。
矢部: その時、僕、目の当たりにしてますからね。「お金がない」ブームは。
岡村: 『めちゃイケ』の収録があったんですよ。『めちゃイケ』の収録終わりで、相方が挨拶来るいうて。来たときに相方に「お金ないねん」って。
矢部: ヮハハハハ。
岡村: 相方、また「へ?」みたいな。「なんすか?」「お金ないねんって」みたいなことになってん。
矢部: ゥハハハハ。そう、体調崩す前の『めちゃイケ』最後の収録でした。
岡村: オカレモンの。
矢部: あれ終りで僕、見に行ったんですよ。岡村さん、体調崩してますけど「面白かったですよー」って言うたら、もうね、きっちり着替えてね。早いんですよ、キャップ被ってね、あの(笑)、楽屋にテーブルがあるんですけど、そのテーブルに腰掛けてるんです。「岡村さん、面白かったですよ」「いや、面白いとか、別にええねんけどな、相方、お金が無いねん」って。「えええ? いや、面白いの大事やし、お金ですか?お金あるでしょ!銀行とか行ったら」
岡村: 「ないねん、お金ないねん、お金ないでー」
矢部: 「お金ない」って言うて自分の財布出して、「ほらこんだけしかない」って(笑)。
岡村: 外に出ていってなかったから下ろしてもないねん。財布の中に入ってるだけが自分の全財産やって思ってしまって「ないねん、お金」って。
矢部: 次の日、ピンの仕事だったらしく、大谷さんに「俺、どうやって行ったらいい?俺、お金が無いねん。お金が無いからロケ行かれへんがな」
岡村: その時、俺が「お金ないねん」ってずっと言ってたら、また「帰りますっ!」言うて、
矢部: ワッハハハハ!
岡村: 「や、ちょっと待ってくれよ!まだ話し途中やんけ」「帰りますっ!」言うてピュンって行きよるがな。そんなんなー、相方やのに。
矢部: そりゃそうでしょ(笑)。だって「お金がない」しか言わへんやもん。キャッチボールが出来へんやもん。そりゃ「帰ります」って言うでしょ。で、その後に大谷(マネージャー)と完全にこれはゆっくりさせてあげようっていう話を決めた瞬間やな。あのブームはホンマ、嫌や。面白いもん!それはそれで。
岡村: 今やからやで。はんまに。
矢部: そやな。当時は本人一番辛いからな。

その間も、矢部は岡村の体調を案じて2度にわたり岡村の自宅を訪問していた。

岡村: 家の方にも来てくれたんですよ。こんなこと初めてですよ。
矢部: 自宅ね。
岡村: あん時は冷たかったな、お前。
矢部: え?最初の?
岡村: うん、最初の。一発目の自宅は。
矢部: 岡村さんが体調を壊し始めてからの。
岡村: メールやったんですよ、最初。メールで「今日ちょっと会いたいんですけど」って。
矢部: はいはいはい。
岡村: いや、わざわざ来てもらうのも悪いと思って「俺が行こうか?」って(返したら)すぐ返信で「いや、僕が行きます」みたいな。「ああ、来よる!」
矢部: アハハハハ。
岡村: でも、「来てくれるわ」って思って。「会えるわ、また」って思って来たら「いいトコ、住んでますね」って。
矢部: よう覚えてんな(笑)。
岡村: 第一声、何やねん、みたいになって(笑)。で、寿司食うたんやっけ?
矢部: 寿司は後(のち)です。
岡村: 2回目か。
矢部: (1回目は)夜中やったから。
岡村: で、矢部さんが「もうゆっくり休んで、体調整えてまた仕事復帰したらええんちゃいますか?」って。(略)で、相方とちょっと相談して。俺はまだまだ話ししたかったんけど、「帰ります!」みたいな。
矢部: うん。
岡村: 覚えてる?エレベーターで、俺「なんかあったら」って言いかけたら、それに被せるように「また!帰りますっ!」って言うて。
矢部: フフフフフ。
岡村: 冷たいやっちゃなーって思うて。
矢部: ァハハハハハ。
岡村: エレベーター、ぱーんって閉まっていくの見てて。
矢部: めっちゃ覚えてますねえ。
岡村: 覚えてんねん。鮮明に思い出してきた、しゃべってて。
矢部: でも、その時点で大谷氏と僕の中では、これはちょっと休んでもらおう、と決まった瞬間なんですよ。
岡村: うん。俺は休む気なんて全然なかったからね。
矢部: そうそう! 岡村さんはなかったから、これはもう俺らが何とかしないといい方向にはいかないだろう、と。
岡村: 俺はだから、そん時、矢部浩之と大谷さん、大嫌いやったからね。
矢部: アッハハッハッハハ。
岡村: こいつら二人「組んでんもん!」*2って思うて。
矢部: ハハハハ。
岡村: こいつら組んでるから、俺が何言うても聞いてくれんって。
矢部: それはもう、心、痛んでますよ、こっちも。もちろん、(岡村さんは)絶対に休むの嫌な人間なんで。
岡村: 休んだことないねんもん!
矢部: そうそう。心を鬼にして、大谷と(心を)強く持って。大谷と僕、打ち合わせしてたんですよ。俺らは強く言おう、と。
岡村: 俺は、二人が組んでるから、
矢部: 組んでる(笑)
岡村: これはちょっとあかんわって思って。2回目また相方が家行きますわってなったときに、ちょっとおもてなししようって思って、寿司頼んだんや。
矢部: そうそう、それ夕方くらい。
岡村: 初めてや、寿司とったんのも。

そして、矢部と大谷マネージャーは、遂にその「決断」を口にする。

矢部: ホンマこっちは心を鬼にして。自分から休むっていわへんタイプやから、
岡村: いわへんよ絶対。
矢部: リスナーの皆さん、想像以上にもう糞真面目な人間なんで、岡村さんは。「絶対仕事だけは行く」と。ね。で、僕と大谷がここは線引かなあかん、心強く持って、休まそうって打ち合わせて、ちょうどそれをフジテレビで発表してんねん。スタッフの前で、岡村さんに。
岡村: あああ。うん。
矢部: 俺の口から岡村さんに発表したんや。で、俺は座ってて、岡村さんは横に立ってんねん。もう座ってられへんから。「座ってください」って言っても、当時「いや、あかん」って(笑)。「決めました」と。「大谷ともスタッフとも決めました。言う事聞いてください。岡村さん、休みましょう」って。
岡村: 覚えてる、覚えてる。
矢部: 僕、目見て言うたんですよ。そん時の岡村さんが、考えられんよ、今やったら。僕の腕、ガアー掴んで、しがみついてさ、(変なイントネーションで)「かんべんしてくれぇ〜、相方」って(笑)。「かんべんしてくれぇ〜」って言ったの。凄い目で言うたの、それを。
岡村: あー、そう。
矢部: 一番言われたくないことやったんやと思う。
岡村: 休むってことがやろ?
矢部: うん。俺もはっきり言ったん、初めてやったの。その時のトーンが……(笑)、
岡村: 「かんべんしてくれぇ〜」ってなんで急にキャラ変わんねん(笑)。おかしいやん。
矢部: いや、おかしいねん(笑)。でも、そん時の岡村さん、マックスやったから。
岡村: キてたんやろうな。
矢部: マックスにキてたから。
岡村: いや、俺ホンマにあの仕事を休むって言うのは
矢部: 一番嫌なことやろ?
岡村: 自己管理ができてないし、プロ失格やと思うからどんな状態でも行かなあかんと思うたんや。
矢部: で、一番言われたくないことやったんや、たぶん。
岡村: うん。だから「なんまいだぁ〜」みたいなトーンに、
矢部: そう(笑)。だからもう最高よ(笑)。
岡村: あんま覚えてないねんなー。でも、「イヤや」っていう意思表示は絶対したと思うねん。
矢部: そう。
岡村: 休むんだけは絶対イヤやっていう意思表示は。
矢部: たぶん、いつも以上に僕、強い目で言ってると思うんですよ。


休養中も矢部は入院中の岡村へお見舞いに行ったという。
岡村は会える精神状態ではない、と何度か拒否するが、半ば強引に矢部は病室を訪れた。

岡村: わっ、「来た!」と思って。来よった、でも、なんか来てくれてありがとうって。なんの感情?みたいな。
矢部: (笑)。そわそわそわそわしてたな。
岡村: ベッドの上にあぐらかいて。
矢部: ヮハハハハ。
岡村: 「ありがとうな」って。「俺、今、こんな感じや」
矢部: ァハハハハ。
岡村: 「だいぶ元気になってきてるけどな」っつって。
矢部: ハハハ。いや、もう相当面白いよ。ただ、こっちは絶対に笑ってはいけない、というね。
岡村: 俺もう、笑ってたら飛びかかってると思うもん!
矢部: アッハハハハハ。
岡村: ほんまにしんどかってんもん。
矢部: (略)僕は初めてなわけですよ、そこ入るのは。やっぱ久しぶりやから緊張するやないですか。そしたら、ドア開けた瞬間、ベッドの上でね、あぐらかいてんねんけど、それ、座禅みたいにみえるんですよ(笑)。なんていうの、その修行してるみたいな!
岡村: 修行僧みたいなの?
矢部: そう。で、「(低い声で)久しぶり」って(笑)。
岡村: めっちゃ照れ臭いねん。
矢部: そこは僕、グッと笑い押えましたよ。
岡村: 笑ってたらほんまぶっとばしてると思うもん。
矢部: フフフ。
岡村: ほんまにそれくらい来てくれたんや〜、と思うて、で、まあたわいもない話して。

そして、2人が「奇跡」だと口を揃える復帰を果たした岡村。

矢部: めっちゃしゃべってくるもんね、俺に。
岡村: そりゃしゃべるやろ。お前のこと好っきや。
矢部: キャハハハハ。
岡村: だってお前しか、お見舞い……、まあ、俺が断ったっていうのもあんねんけど。
矢部: 嫌がる気持ちもわかるから、近い(関係)だけにな。でも今回は特別やという僕の判断で、普通の接し方、いつもの接し方ではダメだなってことで。
岡村: あんまりしゃべってこんといって、ってこと?
矢部: 違う違う(笑)。違うけど、今までないやん。カメラ回ってないところでボソボソって二人喋ってるの。それをいくつか見てるスタッフがいるんですよ。
岡村: ええんちゃう?そういうので。
矢部: まあまあ、自然が一番エエんでしょうけど。
岡村: 今までの矢部浩之って俺、好きじゃないもん。
矢部: へっへっへっへ。何やねんなそれ? 何や、20周年に!
岡村: あんまり好きやなかったもん。
矢部: ものすごいカミングアウトですよ、これ!
岡村: せやけど、今のお前は好きや!

矢部はあの「決断」をした当時の覚悟をこう振り返ってる。

矢部: 僕はもう腹くくってましたもんね。だっていつ回復するか分からないんで、もう回復したときのことだけ考えてました。だから、申し訳ないですけど、ハゲて帰ってこいって思ってましたもんね。ツルッツルになって、太って、三冠王で帰って来いって。治ったときのこと考えてるからね。オモシロなって帰ってこいってそれくらい腹くくってましたから、早く帰ってきて良かったな、と。


すべて笑いに変えればいい。自分の一番つらかった状況を「ブーム」と置き換え笑いに変えた岡村。過酷だった日々を笑い合うナインティナイン。本当に「笑い」は素晴らしい。
最後に再び冒頭でもツイートを紹介した相沢さんの『ANN』聴取後のツイートを紹介して締めたい。

「人間にとって絶望とは、希望への前フリでしかない」。だからこれから先どんな窮地に陥ったって、きっと「大丈夫」だ。

※「岡村隆史=凡人」に焦点を当てた吉田豪によるインタビュー掲載号。

*1:「お金ない」ブームの後、「俺、臭ないか?」ブーム。空前の戦後最大級の甘いものブーム、じっとしてられないブームが訪れたという。酷いときは電話持つだけでも重いと感じたという。

*2:高校時代の仲間クリノがケンカした時に発した名言