阿久悠をも唸らせた半田健人の歌謡曲鑑賞術(阿久悠追悼に変えて)

7月28日、NHK総合で放送された「通(つう)」という番組に、生前の阿久悠が出演していた。相変わらず情熱的だけど、随分年老いたなあという印象だったから、その直後に訃報を聞いた時はなんだか複雑でショックだった。


「歌謡曲」をテーマにしたこの回では、「タモリ倶楽部」等でもマニアっぷりがお馴染みの半田健人がますだおかだに歌謡曲の味わい方を指南するという体で、それを別室(というかVTR)で阿久悠が聞き、半田健人の味わい方についてコメントするという流れで構成されている。


「まだ23歳でしょ?」というますだおかだに対して半田は「リアルタイムっていうのは油断してるんですよ!」と返し、「歌謡曲の正しい聴き方(僕流の)」をレクチャーしていく。


●歌詞カードを欠かしてはならない!
●作詞・作曲・編曲者の事前チェックは礼儀。知らないと曲に失礼!
●歌詞カードで見た上でなおかつ、ヘッドフォンで聴く。


ここで、阿久悠「ヘッドフォンはダメです。聴いたら。歌謡曲っていうのは他の人とどう共有して聴けるかっていうのが一番大きいことなんです。(ヘッドフォンは)音の天敵です」と反論。


しかし、この後の半田の鑑賞術は阿久の想像を超えるものだった。
「フルオーケストラで奏でられる歌謡曲。そのサウンドを一つ一つ分解して楽しむ」という半田。それをひとつひとつ解説していく半田を見て阿久は「これはすごいお客ですよ。ここまで聞いてくれるんなら(作り手は)泣いて喜びますよ」と感心する。
実際、この場面を文字で説明するのは困難なため、ちょうどその場面がYouTubeにあがっていたのでこちらをご覧ください。すごいよ。

「レコード大賞とか歌番組とかでいわゆる感激する場面、賞をもらう場面があるじゃないですか。歌手が感極まって泣く時あるでしょ。その時って歌が止まるんですよ。そしたら後ろの音が聴こえる。あれオイシイ時なんですよ。もうちょっと泣いててくれ、みたいな」と嬉々として語る半田を見るオーケストラ奏者たちの嬉しそうな顔が印象的。
「聴きどころは楽器の数だけある」という半田に「凄い凄い、やるな小僧っていう感じ」と驚嘆し、「これは科学者の聴き方。最初に(ヘッドフォンは)ダメだって言ったのは取り消します」とまで言わせる。


続いて「ジョニィへの伝言」(作詞:阿久悠)をテキストに歌謡曲の歌詞の味わい方。
「ジョニィへの伝言」の歌詞はこちら。
その特徴を「具体化しつつも決めすぎてない」ことと看破する。
「例えば“ジョニィ”って誰やねん? でも、もし名前がなくて『“あの人”が来たなら教えてよ』ではちょっと弱いんです。
場所についても『お酒のついでに話してよ』ということで、居酒屋であろうがバーであろうが、ストーリーを聴く側に委ねて、自分の体験とかぶせたりすることも自由。
J−POPはこうなりたい(あの人に想いを届けたい、とか)という目的がある。それに向かっていろいろなアーティストが、その目的に向かったメッセージの歌詞を書いている場合が多い。
歌謡曲は真逆。
確固たる目的というのはなく、出発点がまずひとつ。で、その曲の結末を今度はリスナーに託す。
主人公なりその歌の使い道は自由ですよ、と。
今はその逆で、そこまでのプロセスを歌詞に埋め込んであるので聴き手側が促される。促すように作ってある。
そのアーティストにものすごく共感してたりとか、愛しているのであればグッとくるんですけども、逆に興味がない人からすれば、ちょっと印象が薄いかな、というのが現実ではないか」
阿久悠は、半田のその解説を聞きしきりに肯きながらこう補足する。
「J−POPと歌謡曲はブログと映画くらい違う。誰かが喜んでくれればいいな、誰かが興奮してくれればいいな、誰かが美しくなってくれるといいな、という願いを込めながらひとつの世界を作り上げていくっていうのが歌謡曲で、そうじゃなくて俺はこんな気持ちで悩んでるから、俺の気持ちを解れよっていうのがJ−POP」


半田はさらに西城秀樹の紅白初出演の映像を持ち出して「歌い手」からの側面からも味わい方を講義する。
曰く「歌手を役者として考える」。
「昔はPVというのが一般的ではなかった。だから最終的にインパクトを与えるのは歌手の役割だった」と分析し、「歌手」を超越した歌い手たちを絶賛した。
それに対し、阿久は「阿久悠がここまでやってきたんなら、それに言うままにやるのは癪だって気持ちが(歌い手には)あるんですよ。プロ同士ですから。(そのぶつかりあいが)いい形で出ていた」と解説。歌謡曲全盛のあの時代の熱さをしみじみと語った。


とにかく最初は「この若造が」って感じで聞いていた阿久が次第に半田のことを「やるな小僧」と見直し、最後には「同士」を見守るような姿勢に変わっていったのが印象的だった。

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