追悼・曽我町子


世界屈指の女王・魔女女優である曽我町子さんが急逝した。
>http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20060507-00000064-jij-soci
つい先ごろ「魔法戦隊マジレンジャー」で久々に戦隊ものに出演し、多くのファンに熱狂的に迎えられたばかりだっただけに、その衝撃は余りにも大きかった。
彼女は、チャーミングさと威厳を同時に併せ持つ稀有な存在だった。
そんな彼女の経歴を「東映ヒーローMAX」や「東映ヒロインMAX」のインタビューをもとに振り返ることで、その追悼に代えたい。


曽我町子の名前を初めて確かなものにしたのは「オバケのQ太郎」初代声優としてだった。しかし、その人気が高騰するのとは裏腹に、曽我は思い悩むことになる。
そのイメージが定着してしまうのを恐れたのだった。
そんな時、出会ったのが当時、テレビ版「男はつらいよ」を始めたばかりの渥美清だった。
「渥美清の泣いてたまるか」で夫婦役をすることになったのだ。その時、渥美は彼女に言う。「曽我ちゃん、オバQっていいねえ。オバQって言ったら曽我町子。これは大事なことだよ」
しかし彼女はスーパーマンをやっていた俳優が自殺したのを例に出し、悩みを打ち明けた。すると渥美は、「僕の言おうとしてるのは、それとはちょっと違うんだよ」と答えた。
当時、その意味を解らなかった曽我は、後にはっきりその意味を理解することになる。


転機になったのは「5年3組魔法組」への出演だった。
彼女の役どころは、いたずら好きの魔女ベルバラ。
この役で「魔女」というハマリ役を得るとともに、精一杯楽しんで演じる、ということを体験する。

先輩ですごくしっかりした演技をする女優さんがいらっしゃるのだけど「わたし、子ども番組には出ないの」って言うんです。わたしは「子ども番組ってありがたいですよ。子どもの頃観ていた人は、大人になってもずっとファンでいてくれるんですよ」って言ったんだけど、そうじゃないんだって。「子役に食われちゃうから」ってことなんですね。そこへいくと、わたしは子どもの気持ち、子どもと同じレベルで一緒に遊ぶから(食われない)。


その後、「電子戦隊デンジマン」のへドリアン女王を演じ、悪役ながら高い支持を得、あまりの人気故、デンジマンには倒されず、続く「太陽戦隊サンバルカン」にも同名の役で出演することになる。異例の事*1である。
「時空戦士スピルバン」登場の女王パンドラでは「お尻ペンペンしてあげなさい」などの名文句を数多く残していく。
そして、「恐竜戦隊ジュウレンジャー」では魔女バンドーラを演じる。
その時のエピソードをこちらのインタビューで語っている。

ちょうどね半年になって、ある回の呪文を唱えるシーンで、あの「わたしの息子カイを」なんとか・・・って、よくやる手だったんだけど、「下から読んで、このように呪文を言って下さい」って、あたしいつもの様に、呪文のところは、「アテニィ〜〜パワ〜〜!・・・」とか、いろいろ考えてる訳。考えてて、撮影に入った時に、あの監督が何かね、「上の方でね、呪文ね、このように読んでくれ」って言うから、「『コ・ス・ム・ガ・ワ・ノ・シ・ト・イ・・・・』って何コレ?!」って言ったら、「それを反対から読むと『愛しの我が息子』という謎解きになって、最後それで、あっと驚くんだ」って。「ふざけないでよーっ、もうあたし降りる!」って。「お化粧落とすから。監督さん、あたし番組降りたからって言っておいて」って。「ちょっと待ってよ。困るよ、そんなこと!」って、それですぐに監督が「大変です、曽我さんがこの通り演れって言ったら、もうお化粧落として帰るって言ってる」って。そしたらすぐに、「ダメだよ、やっぱり言ったように演ってくれよ」って。「作者の意図はもう先が見えてるし、観てる人たちをガッカリさせたくないから、あたし真剣に演ってきたんです。こんなくだらないコントのために、演ってきたんじゃないんです。あたしの呪文は、あたしなりに考えてるんです。この言葉はアラブ語なりにいろいろな言葉があって、意味があるんです。こんなの最初たしかね、”オ・イ・ウ・ア・・・”なんて書いてあったの。何コレ?監督、これを読むの?」って訊いたら、「いやいや呪文だから、曽我さんやってくれ」って言うから、あたしが考えた通りにやった訳ね。「半年経ったらまた”オ・イ・ウ・ア・・・”何とかだなんて、できないよ、そんなの。”アー、ウー”なんて、もうホントに降りるつもりだから、見せかけで演ってるんじゃないよ!」って、あたしメイク落として「悪いけど今のうちだったら、パッと変わってもね、半年だから何か理由ついてね、変わっても大丈夫だよ」って言ってさ。「降りる!」って言ったら、作家の方にすぐ連絡が行って、で、「何故俺の書いたのが出来ない?」って(笑)。「出来ないよ〜」って言ったの。「じゃあ今まで何だったの?話によるとその呪文が謎解きで、もう最後は見え見えだから、そんなつまんないの、あたしは演ったつもりはない。あたしはもっと面白くしたくって、真剣に半年頑張ってきた。これで終わるんだったら、降りるんだったら早い方がいいでしょう。だから降ろさせて」って。そしたら、「ちょっと待ってくれって。電話するから」って。それで、「あぁ、わかった。今まで通り呪文をやって、お化粧なんて落とすなよな。今まで通り撮影やってよ」なんて言ってさ。「あぁ、わかったわよ。“思い通りに”って言われれば、降りるなんて言わないわよ!」って。それで演った訳よ。で、次の回かな、作者がよっぽどプライドを傷つけられたんだろうね。あたしは真剣だからさ、「そんな書き方だったら演らない」って言ったら、その言い方がよっぽど頭にきたらしくて、作者(脚本家)が現場へ観にきたのよ、隠れて(笑)。で、隠れて観てるの、あたしの演技を。それであたし、「あぁ、あんなところに隠れて観てるな」って分かったから、「こういうシーンをミュージカルで演ったら面白いよね」って言ってたら、それでバンドーラの歌が出た訳(笑)。

  ※ここで、そのバンドーラが歌う動画が見れます。
    >http://www.youtube.com/watch?v=cZrjt7Kal2I


その後、東映特撮シリーズから少しの間離れていた彼女が戻ってきたのが皮肉にもドラマ遺作*2となる「魔法戦隊マジレンジャー 」のマジエル役である。
この役が実は当初決まっていた役者の病気降板のための代役だったというのを聞くと、運命を感じずにはいられない。
彼女はすい臓がんを患っていた。どの程度、その病状を自覚していたかは知る由も無いが、その病気と闘いながら演じた時の、心境をこう語っている。

今回、久しぶりに東映の作品に出演して、改めて仕事が自分の生き甲斐、エネルギーになるんだって分かった。
マジエルをやって「生き返った」って思ったんです。心から、「東映さん、ありがとう」「ファンのみんな、ありがとう」と言いたい。久しぶりの戦隊の現場で緊張したけど(笑)、最後の2本にまた出演できることになったので、精一杯演じたいと思っています。
わたし、「今を生きる」ということを随分前からいろんなところで言っていたけど、まだ分かってなかったかもしれない。マジエル役をいただいたことで、自分は周りの人たち、ファンの人たちによって「生かされている」んだということを、これまで以上に思いました。口で言うのは簡単かもしれないけど、心からそう思ってます。
これからも、機会をいただける限り、がんばっていくつもりなので、是非応援してくださいね。


マジエル最後のシーン。
彼女は現場のスタッフと話し合い、ひとつの台詞を追加した。

地上界に生きる者たちにステキな魔法を贈ることにしよう。
それぞれの者たちに勇気と力を!


参考>曽我町子(Wikipedia)

*1:異例といえば、戦闘パートは日本版を流用し、ドラマパートは現地の俳優を使いアメリカで新たに撮影しているという、かなりトンデモな海外向け特撮ドラマ「パワーレンジャー」でも唯一、彼女が演じる魔女リタだけはそのまま使われた。

*2:ゲームも含めれば「宇宙刑事魂」での暗黒銀河女王が本当の遺作となる