花粉症で1日約6,000円の損失って頭悪すぎでは?

些か旧聞に属するがコンタック総合研究所の意識調査に基づき、花粉症で1日約6000円の“損失”とする報道が各種メディアでなされた。

花粉症による仕事などの生産性の損失を金額に換算すると1日平均5949円―。コンタック総合研究所が昨年末に行った意識調査で、そんなユニークな数字が明らかになった。平均額に近い5000円とした人の回答理由には、「時給2500円として2時間の作業遅れ」(30歳代男性)や「平均的な日給の4割程度」(30歳代女性)などがあり、時給や日給の2-5割程度を失うと考える人が多かった。

 調査は昨年12月24、25の両日にインターネット上で実施。対象は全国の20-39歳の男女411人で、これまで春に花粉症になったことがある有職者に、花粉症により通常の生活から失うものや、取り戻したいものを聞いた。

 国民全体で影響を受けると思う事柄を尋ねた質問(複数回答可)では、「仕事の効率が落ちることによる生産性の低下」が72.5%と最も多く、「ティッシュの使用による環境資源の消費」が50.9%とこれに続いた。
 さらに、仕事などの生産性の低下による損失を金額で表すと1日当たりいくらになるかとの問いでは、「1000円以上3000円未満」が約半数を占めたが、全体の平均金額では5949円となった。回答者の最高額は100万円(30歳代女性)で、その理由は「自分が1日に使うティッシュの量がとても多いから」だった。

花粉症で1日約6000円の“損失”(医療介護CBニュース) - Yahoo!ニュース

意識調査の平均額6,000円が強調されて報道されているが、少し読むとどうもおかしいことに気付く。

  • 対象は全国の20-39歳の男女411人
  • 回答者の最高額は100万円(30歳代女性)で、その理由は「自分が1日に使うティッシュの量がとても多いから」だった

この女性一人の回答だけでなんと平均値は2,500円近く上昇している。仮に彼女の回答を除外すると、平均値は一気に下がって3,524円だ。はっきり言って5,949円という数字はまったく何の意味もない。こんな意味のない数字をタイトルに持ってくるのはわざとか、それとも単に分かってないのか。

たった一人で調査を破綻させた女性の100万円の根拠もひどい。1日に使うティッシュの量が100万円分。ティッシュペーパーが5箱で298円とすると、16,775箱購入できる。1箱あたり400枚(200組)入っているので、3,355,000組のティッシュを1日で消費することとなる。不眠不休で鼻をかみ続けたとしても、1秒あたり38回も鼻をかまなくてはならない。さぞ彼女の鼻は赤くなっていることだろう。

ちなみに「ダブル保湿」と「天然由来スクワラン配合」の新・ダブル保湿を謳う高級ティッシュ鼻セレブ3個パック698円)を使うと、不眠不休で1秒あたり10回で済む。彼女の鼻の赤みが少しでも緩和されると良いのだが。

ネタ元になっているコンタック総合研究所の調査は『花粉症から取り戻したいものに関する意識調査』だ。回答の内訳がグラフになっているので次に引用する。

一目瞭然のように回答の中央値は1,000円〜3,000円のレンジに位置し、平均値の6,000円が極端な回答によってもたらされた実態とかけ離れた数字であることが分かる。大多数の人に共有されている感覚としては、花粉症による損失は1日あたり1,000円から3,000円程度であり、取り上げるならばこの数字のほうがよほど意味がある。

以上に見てきたように、6,000円という平均値はまったく無意味な数字である。こういった調査をするにはもっと母集団を大きくするか、回答のさせ方を工夫する必要がある。不正なデータを排除するクリーニングも必要だし、仮に100万円という回答を排除できないのであれば、平均値ではなく、中央値や最頻値など別の指標を用いるべきだろう。コンタック総合研究所は無能集団では無いと思われるので、そんなことは十分に知っていて、わざと平均値を用いているに違いない。彼らにしてみれば、花粉症の損害額が大きいほど意外性が出てニュース価値が上がり、自らが販売する薬の価値をアピールできるのである。平均額に近い5,000円と回答した僅か44人のユーザから「時給2500円として2時間の作業遅れ」(30歳代男性)や「平均的な日給の4割程度」(30歳代女性)等を引用するなど露骨に印象を誘導しようとしている。そして、メディアがまんまとその策略に乗せられる(フリをする?)わけだ*1

悪いのは誰?

最後に悪いのは誰? - ある無人島漂流の物語になぞらえて質問を一つ。

登場人物は次の6人。

  1. 1日の損害をティッシュ量の多さから100万円と回答し、調査結果を台無しにした女性
  2. 極端な回答により平均値が跳ね上がっているにも関わらず、損失の平均は6,000円とする結果を含む調査報告を公表したコンタック総合研究所
  3. コンタック総合研究所の調査報告の中から、よりにもよって損失の平均額が6,000円という一番意味のない部分をタイトルにして記事を配信したメディア
  4. それを何の疑問を持たず、ソースにも当たらず鵜呑みにする世間
  5. それをさらに本エントリでバカにする筆者
  6. それをさらにブクマコメントで(ry

この6人の中で、最も悪いと思う人は誰ですか? 順番をつけるとしたら?

*1:ちなみに、J-CASTは同じ調査を「花粉症」は仕事に支障をきたす? 製薬会社の調査として報じている。意外にも(失礼)、J-CASTのほうがずっとまともな取り上げ方をしている。マイコミジャーナル花粉症で失うものは「集中力」に「女子力」?--GSK調査として、タイトルには平均額は出てこないが記事中には平均額の記載がある。タイトルに来ていないだけ前述の記事よりは親切と言えるだろう。