ペトロビッチは“J2メソッド”を打ち破れるか?

 まずは、サンフレッチェ広島の戦績をざっとおさらいしておこう……と思ったが、なぜか文字化けしてしまうので、行数を減らすためにリンクを張るにとどめる。

http://www.j-league.or.jp/data/view.php?c=hiroshima&t=schedule

 森崎和幸が復帰し、ストヤノフと共にピッチ上に強力な管制塔を築いたのが第9節の熊本戦から。それ以降、チームは7試合で6勝1敗という高水準で推移している。

 第8節に対戦した甲府は、「前線守備でストヤノフに徹底マークを敷き、パスの供給源を断つ」という広島破りの方法論を確立したかに見えた。しかし森崎和幸の復帰により、パスの供給源が2つに増えたことで、再び相手チームは混乱。特に徳島戦以降、他チームは広島のパスワークに対してまったく対処できない状況になっているように見える。

 森崎和の復帰後唯一の敗戦となった仙台戦も内容的に大きな瑕疵はなく、むしろ一方的に広島が押し込んだ試合だった。第8節以降、ペトロビッチの監督としての資質を問わずとも、ピッチ上の選手たちの能力だけで結果が残せている状況が続いているように見える。

 しかし、事態は第二フェーズに移っているように思う。すなわち、“甲府メソッド”の崩壊による“J2メソッド”への移行だ。

 山形、鳥栖、横浜FCという比較的上位に位置するチームが、大小のチーム事情があるとはいえ、いわゆる“ベタ引き”に徹した事実は見逃せない。これらのチームがこうしたサッカーに徹し、ある程度広島を苦しめた以上、さらに下位のチームが追随しない理由はない。つまり広島は今後、2003年と同様に「サッカーをさせてもらえない」可能性がある。

 こうした状況の変化に対して、ペトロビッチはどのような手を打てるのだろうか。
 そもそも、現行の佐藤寿人・高萩洋次郎・森崎浩司を基本とする1トップ2シャドーは「うまくいっている」という評価でよいのか。

 確かに徳島戦で4得点、福岡戦で3得点を挙げてはいる。しかし、前述したように明白な“J2メソッド”で臨んできた山形、鳥栖、横浜FC相手にはかなり深い時間まで先制点を挙げることができず、薄氷というべき内容が続いている。弊ブログとしては「相手に研究され始めている」ということにしか見えないし、安易に「結果が出ているから良い」と評価するのは愚か者の対応だと考える。

“J2メソッド”の3チームとの対戦を考えても、今のところ3試合で勝ち点9。結果は出ている。しかし「結果が出ている」間に対処しないとなれば、対策は「結果が出なくなってから」となる。それを「後手に回る」というのであり、リスクヘッジの正しいあり方とはいえない。常に代案を2、3用意し、現状の策がうまくいかなくなったときにスムーズに移行できるようにする。そういうオルタナティブを用意することも、監督の重要な仕事だと思うのだが。

 そして、現時点でも幾つか対案はある。まず、相手の守備陣が深く引いている場合の対処として、2トップへ移行すること。クサビを入れる場所を2つにし、佐藤寿人の負担を軽減し、よりゴールに近い位置でプレーできるようにすることだ。

−−−−平繁−−−−佐藤寿人−−−−
−−−−−−森崎浩(高萩)−−−−−

 ただ、このメンバーでは高さ不足という課題が残る。そこで、こうした2トップもありうるし、

−−−−久保−−−−佐藤寿人−−−−
−−−−−−森崎浩(高萩)−−−−−

 欠かさざる駒である佐藤寿人や森崎浩司の疲労や、負傷などのリスクを考えれば、例えばこうしたスタメンで臨む試合もあって然るべきだろう。

−−−−久保−−−−ユキッチ−−−−
−−−−−−−−高萩(鋤?田)−−−−

 が、現状では、佐藤寿人を頂点とする1トップ2シャドーが崩されることはほとんどない。それも、スタメンだけではなく、試合中の変更もほとんどないのだから、その頑固さにはある意味恐れ入る。

 どこかのHPで「2トップではうまくプレッシャーが掛からない」「中盤の支配力が下がる」という記述があった。仮にその言い分を是としよう。それならそれで修正させるのが監督の仕事だろう、と思うが。それでも、「試合中に持てる駒を活用しない」理由にはならない。

 先ごろの投稿にかぶるが、広島はいま「勝ったからいいようなもの」な状況が続いている。広島は現有戦力を十分に活用せず、事実上ピッチに並べられた選手たち「だけ」で何とかやりくりしている。

 つまりペトロビッチは昨年同様、結果を度外視してスタメンに固執している。昨年はウェズレイ・戸田和幸といった選手、さらに森崎和幸のCB起用にこだわるあまり、全体としての機能性を無視し、前線と最終ラインの意識の乖離を放置し、結果的に中盤にすべてのしわ寄せがかかるサッカーとなった。その結果が、34試合で71失点という冗談のような結果である。天皇杯準優勝、ゼロックス杯優勝、そして「J2における」快進撃に目を奪われ、ペトロビッチがチームをJ2に落とした事実を忘れてはならない。

 もちろん、スタメンを固定するやり方が選手たちを成長させる可能性は否定しない。否定しないが、今年に限っていえばそうした成長よりも優先されるのは結果を出すことだし、さらにいえば「結果を出し続けること」だ。1試合1試合を見て「ホラ、結果が出ているからいいじゃないですか」と短絡するのではなく、「このやり方で結果を出し続けることができるのか?」と常に検証し、自チームはもちろん相手チームの変化に敏感になり、状況に応じた最善手を「打ち続けること」だ。

 そして今のところ、ペトロビッチという監督にそれができるとは思えない。今年を見てもそうだが、あの悪夢の2007年シーズンを思い出せば、とても信用する気になれないのが正直なところだ。

 果たして、ペトロビッチは今後予想される“J2メソッド”を打ち破ることができるのか。打ち破れなかった場合、チームはいつどの時点で対処するのか。外国人DFが加入して、森崎和幸復帰のような「棚上げ」ができたとして、それで良しとすべきなのか。見るべきポイントは山のようにある。少なくとも「首位に立っているからいいじゃないですか」、と安心できるような状況でないことだけは確かだ。