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クラウドの現実を受け入れよ~ハードCEOが見せるOracle Cloudへの自信
2015年4月13日 15:56
AWSやMicrosoft、salesforce.comといったクラウドのトップベンダーと比較すると、Oracleのクラウドソリューションが現時点で同じラインに立っていると言うことは難しい。だが、創業者のラリー・エリソンCTOやマーク・ハードCEOの発言は、いつ聞いてもOracleクラウドに対する自信に満ちている。
「SaaS、IaaS、PaaS、いずれの分野においても今年中に販売量で1位を目指す」――。4月10日、東京国際フォーラムで開催された「Oracle CloudWorld Tokyo 2015」の2日目基調講演において、ハードCEOは強い口調でこう言い切った。クラウドでのプレゼンスを高めようとするOracleの自信の根拠はどこにあるのか。
ハードCEOの基調講演の内容を紹介しながら、あらためてOracleのクラウド戦略を概観してみたい。
クラウドによる変化を受け入れなければ消え去るしかない
「こんな大きな企業がつぶれることはないだろう、そう思っていた企業が圏外に消えてなくなる時代に、われわれは生きている。なぜ彼らは消え去ったのか。それはダイナミックな時代の変化に対応することができなかったからだ」――。
ハードCEOは基調講演の冒頭、「Fortune 500」にランクインしていた企業のうち、1990年以降はその70%の企業が圏外へと去り、2000年以降も50%が市場からドロップアウトしたという数字を挙げ、こう強調している。
変化への対応が重要なのは、もちろんITの世界でも同様だ。特にエンタープライズにとっては、既存リソースのクラウドへの移行はいまや重要な経営課題であり、IT投資全体が世界的に横ばいでありながらクラウドは2けた成長を続けているという事実から、クラウド対応への遅れは、ビジネスにとって致命的なミスになりかねない。そしてレガシーを数多く抱える日本企業もまた、同様の状況にある。
では、クラウドへの急激な変化を誘っているエンジンは何なのか。ハードCEOは「顧客こそがクラウドを求める変化の中心にある。これほど顧客の行動が変化、そしてディスラプション(破壊)を呼び込んでいる時代はこれまでなかった」と指摘する。
つまり前述の圏外に消えていった企業は、新しい時代の顧客対応に失敗したと言い換えることもできる。そして、クラウドとともにソーシャルやモバイル、ビッグデータ、IoT(Internet of Things)なども、現在のITディスラプションをけん引するトレンドとして名前が挙がることが多いが、これらのトレンドは“ジェネレーションX”以降の若い世代の行動パターンを確実に変えているという。
ハードCEOはその具体例として、顧客によるクレームを挙げている。「私の世代の人間は、質の低い製品やサービスに遭遇した場合、電話で怒りの声を伝えるのがせいぜいだろう。うるさいクレーム客をかわすために、そのメーカーやサービスプロバイダは“ハード様、ご迷惑をおかけして申し訳ございませんでした。おわびに割引のクーポンを差し上げます”くらいは言うかもしれないし、私も言うだけ言ったらたぶん満足するだろう。だが、実はこれは消費者としてそれほどパワーをもっていない。一方、いまの若者はクレームの電話をかけるかわりに、“こんなひどい製品を買ってしまった、こんなひどいサービスだった”とソーシャルに投稿する。そしてそれはあっという間に世界中に拡散していく。消費者としてのパワーははるかにこちらが上だ。新しい世代が求めるのは通りいっぺんの謝罪やクーポンではなく、情報を共有する行為なのだ」(ハードCEO)。
ハードCEOはもうひとつ、「私の世代のキャリアではありえなかったこと」として、コミュニケーション手段の大幅な変化を挙げている。「私はメールが大好きだが、最近社会人になったばかりの私の娘は、私がメールをしているのを見ると“お父さん、今どきメールなんか使っているの!?”とバカにしたような表情を見せる。彼らは、もはやメールを重要なコミュニケーション手段とはみなしていない。そしてこういう世代がビジネスの世界に入ってくれば、劇的な変化が起こるのは避けようがない」(ハードCEO)。
ここでハードCEOが言う“変化”には、若い世代にビジネスの常識が塗り替えられることだけでなく、旧世代とのぶつかり合いによって生じるインパクトもまた含まれている。ハード氏はこれを“異世代労働力”と呼んでおり、そうした時代を長い間生き抜くためにも、若い世代がドライブする変化を受け入れることの重要性を説いている。
後発から主導権争いへ~全レイヤで勝負をかけるOracleの自信
クラウドこそがこうした世界のダイナミックな変化を支えている、だからこそ、そのクラウドの現実を日本企業も受け入れるべき――。基調講演の最後、こうしめくくったハードCEOだが、ではクラウド市場ではトップベンダー争いから明らかに後塵を拝しているOracleは、どういう戦略でもって、変化への対応に苦しむ日本企業にコミットしようとしているのか。
基調講演後、報道関係者向けのQ&A会場にあらわれたハードCEOは「SaaS、IaaS、PaaS、いずれの分野でもOracleは今年中に販売量で首位をとる。日本オラクルも全社を挙げて同様に取り組む」と明言している。
・SaaS … HCM(人材管理)、ERP、セールス(販売管理)、サービス、マーケティングなど。競合はWorkday、Salesforce.com、Adobeなど
・IaaS … コンピュートおよびストレージリソースの提供。競合はAWS
・PaaS …Oracle Cloud Platformを軸とするLinux、データベース、ミドルウェア、Java開発環境など。競合はMicrosoft
ここでハードCEOが挙げた競合企業は、いずれもクラウド市場でトップを行くベンダーであり、Oracleよりもずっと以前から、ずっと多くの顧客にリーチしてきた経験値をもつ。だがハードCEOは「Oracleのクラウドはここ1年で約800社の新しい顧客を獲得した。そして日本は、われわれにとって非常に魅力的なマーケットであり、少子高齢化による労働人口の減少に悩む日本にとって、クラウドによる生産性向上は欠かせないはず。だからこそOracleは日本市場へのクラウドに対するコミットをあらためて約束する。国内データセンターの開設やパートナーとの協業強化もその一環」と自信を隠さない。
「たしかにOracleの収益においてクラウドが占める割合はまだ小さいが、それでもすでにビリオン(10億ドル)を超える規模のビジネスに成長している。そしてこの伸びはまだまだ大きくなる。クラウド市場は今後も拡大していくだろうが、競合企業の伸びはシュリンクするだろう。なぜならOracleがもっとも加速して成長するからだ」(ハードCEO)。
この同社の崩れない自信の根拠となっているのは「チップを含むハードウェア、OS、データベース、ミドルウェア、そしてJava、これほどのリソースを一貫して、それもインテグレートした状態で提供できるITベンダはほかにない。そしてわれわれにはコンシステントな戦略とそれを実現する実行力がある」という豊富なポートフォリオとIP(知的財産)にある。
世界で最も普及しているデータベースと開発環境(Java)を保有するOracle Cloudが成功しないはずはない――。ハードCEOは、報道陣からどんな質問をぶつけられてもこのトーンで返していた。シェアをどのくらい取ることができるのか、という質問にも「私の仕事は(クラウドビジネスの)成長にフォーカスすることであって、市場を予測することではない。ただし大きく伸びることは確実だ」とかわしている。
基調講演でハードCEOが図らずも指摘した通り、企業は変化を見誤れば市場から圏外へと追い出されてしまう。それはクラウドビジネスにあっても同様だ。クラウドの黎明(れいめい)期、そのパワーを過小評価したことでOracleはクラウド市場の主導権争いから名前が消えた。それから数年がたち、あらためてOracleが首位争いに参戦するというなら、顧客のニーズの変化、特にここ日本でのニーズを正しくとらえることができるかどうかが勝負になる。
前日の基調講演においてラリー・エリソンCTOは「少子高齢化に悩む日本社会をOracleのクラウドで支えたい」というメッセージを出した。あとはその実現に向けて同社がどう行動していくのか、1年後の同じイベントで、その結果が出ていることを期待する。