【2010年5月最新版】直近決算発表に基づくmixi,GREE,モバゲーの業績比較 ~ 明暗が際立つ三社業績,その要因と今後の展開は?
日本三大SNSサービスの2010年1-3月期の四半期決算発表が出揃った。
今回は,「オープン(mixi)」,「クローズ(GREE)」,「ハイブリッド(モバゲー)」 という3社の異なるコンテンツ戦略の結果がはっきりと数値としてあらわれた四半期となった。3社にとって激変期ともいえるこの一年間にフォーカスし,その業績と今後の戦略について分析してみたい。
なお,この分析レポートは,各社が投資家向けに公表している最新の決算報告,および広告代理店・クライアント向けに発行している媒体資料を情報ソースとしている。当社ループスはDeNA社からコンサルティング業務を請け負っているが,そこで知りえた情報は内容に含めていない。また当レポートにおいては,客観的な数値に基づき,できる限り公平な視点で3社業績を比較することを心がけた。
■ 2010年1-3月,四半期決算の業績比較
まずは各社の財務データ分析からはじめたい。下記の表は,2010年1-3月期の全社損益比較(上表)と,その中でSNS事業のみを抽出とした売上比較(下表)である。表内で水色の部分,前期比は2009年10-12月決算と比べたものだ。
全社業績で見ると,絶好調のDeNA,堅調なGREE,伸び悩みのmixiという構図は前期と同じだが,今期はその傾向がさらに強まっている。特にモバゲーはわずか3ヶ月で売上を倍増させるという驚異的な成長を遂げた一方で,GREEは勢いが減速し,mixiは低迷が続いている。
SNS事業は会員課金売上と広告売上に分解できる。3社とも広告売上にはそれほど大きな変動はなく,会員課金売上が業績を左右するドライバーであることがわかる。これを図式化したのが次のグラフだ。
2009年のGREE独走を支えていたのはこの80%を誇る会員課金率だ。それに対してモバゲーは,まずゲームを「ソーシャル化」したことで2009年10月にGREEとほぼ同レベルまで引き上げ,さらにビジネスモデルを「ハイブリット化」(自社ゲームと他社ゲームの混在)したことでGREEを抜き去った。
それに伴い会員課金売上高がこの半年で5.4倍増となり,今四半期はじめてGREEを上回った。mixiはオープン化によるページビュー増を会員売上に結びつけられず,年間を通じて売上はほぼ横ばい状態となっている。
■ SNSサービスとしての比較
続いて,SNSとしてのサービスを比較してみたい。まずは基本情報となる会員数とページビューの推移を抑えておこう。
特に3社のページビューに注目したい。この3ヶ月で見ると,唯一オープン化しなかったGREEの低迷が目立つ結果となった。それに対してオープン化したmixiは対前期比で1.2倍,モバゲーは1.6倍とページビューを伸ばしている。
mixiとモバゲーのページビュー成長差はアプリ・コンテンツの起因したものだろう。現時点では内製ゲーム(GREEおよびモバゲー)のクオリティがサードパーティ製のものを凌駕しているからだ。この点がオープン化と内製ゲームを組み合わせた「ハイブリットモデル」の強みと言える。
また参考まで,3サービスの会員属性は次のようになる。この四半期で大きな変化はない。唯一,モバゲーはゲームのソーシャル化に伴い,10代が2%ほど減り,その分が30代超にシフトしている。
広告媒体力ではmixiが他社を圧倒(広告売上で1.5倍程度)しているが,これは女性比率が高く,F1層(20-34才女性)の支持が多いためだ。
■ 会員あたり売上(ARPU)の分析
続いて,3社のマネタイズ特性を探るために,会員あたりの月売上高(ARPU: Average Revenue per User,「アルプ」ないし「アープ」と呼ばれる)を比較をしてみたい。
この表は,各SNSが会員一人あたり月にどのくらいの売上をあげているかを示している。例えばmixiでは,1会員につき。広告で165円/月 55円/月(広告ARPU),会員課金で26円/月 9円/月(会員ARPU),合計190円/月 63円/月(総ARPU)の売上をあげたということだ。
広告ARPUはmixiが他媒体を大きく引き離しているものの,会員ARPUと比較するとその差は小さく,かつ前期比に対してもさほど大きな変動はない。やはり業績ドライバーは会員ARPUだ。最大のモバゲーと最小のmixiとの格差は25 24倍にもなり,これが決定的な収益格差となっている。
総ARPUで見ても,今まで独走していたGREEを押さえ,ついにモバゲーがトップとなった。会員一人あたり月767円 256円というARPUは,他のメガサイトと比較しても極めて高く,「怪盗ロワイヤル」などモバゲーのソーシャルゲームがいかにユーザーを魅了し,巧みなマネタイズをしているかが見てとれる。
これを図にあらわすと次のようになる。
参考まで,GoogleやYahoo,Facebookなどの「ユニークビジターあたりの2009年度売上高」が米国Business Insiderで記事化されている。これを1ドル90円で月売上に換算し,上図と同一のモノサシでグラフ化すると次のようになる。
ウェブ,特に携帯サイトからのマネタイズは日本が圧倒的にすすんでいることが一目瞭然だろう。この原因としては,日本の携帯サイトはiモードによって会員課金の文化が定着しており,米国のPCサイトよりマネタイズ(特に会員月額課金)が容易である点があげられる。
ここで上下グラフでは「会員数」と「月間ユニークビジター数」の違いがあるが,例えばmixiでは3月末の会員数1985万人に対して,月間ユニークビジターは1386万人と会員数の約70%となっている。この要素を加味すると,ユニークビジターに対するARPUはモバゲーで約
1100円366円,GREEで約720円240円となる。モバゲーのARPUは米国で最も効率よく稼いでいるGoogleの約82.7倍の数値であり,海外から見ると驚異的なマネタイズ効率と言えるだろう。
■ 今後の戦略について ~ 二大テーマは 「端末多様化」 と 「ソーシャルグラフ獲得」
最後に3社における今後の戦略を比較したい。2つのポイントがある。
1.アプリ(ソーシャルゲーム)を巡る戦い
現在の主戦場である3G多機能携帯電話はこれからシェアが低下し,2012年には出荷台数ベースでスマートフォンに逆転されると予想されている。(下図参照: ガートナー「Mobile Internet Report」予測値より)
・ 国内外スマートフォンの最新動向を総まとめ - iPhone vs Android の先に見えるもの (4/26)
そして日本ではPCソーシャルゲーム分野はブルーオーシャン(未開拓市場)に近い。したがって,今後,PCおよびスマートフォンに3社がどう進出するかは,各社にとって最も重要な成長戦略となってくる。
ここで重要な点は (1)ガラパゴス化していた多機能ケータイと異なり,PCおよびスマートフォンはワールドワイドな争いになること。(2)PCではFacebook,スマートフォンではiPhoneという覇者的プラットフォーマーがおり,それぞれ参入障壁が高く,マネタイズも容易ではないという点だ。
これを見越して既に進出を開始しているのはモバゲーだ。(1)4月27日にヤフー業務提携によるPC進出,(2)5月10日にiPhoneアプリ「MiniNation」投入,(3)5月12日にFacebookへの英語版「怪盗ロワイヤル」投入と,矢継ぎ早にそれぞれのプラットフォームへの橋頭堡を築きはじめている。
ただし(2),(3)についてはあくまでSAPとしてのポジションだ。例えばモバゲーはSAPから30%の手数料収入をあげているが,アプリ提供者としてのポジションだとFacebookやAppleに30%を支払う側だ。つまり単純にゲームを投入するだけでは,モバゲーは30%を得る側から30%を支払う側になってしまうのだ。この点,オープンで,しかもiPhoenを出荷台数で逆転する日も近いAndroid市場への参入がキモとなるだろう。
・ 米国スマートフォン市場,2010-Q1推定出荷シェアでAndroidがiPhoneを上回る (5/11)
このような市場環境の変化に対して,mixiおよびGREEには今のところ目立った動きはない。この事業展開スピードがモバゲーをトップに押し上げた大きな要因の一つだろう。
2.ソーシャルグラフを巡る戦い
ソーシャルグラブと個人情報をどの事業者が独占するのか,次世代覇権を巡る熱い戦いが始まっている。世界的にリードとしているのはソーシャルプラグインが順調に浸透しはじめたFacebookで,それをライバルTwitterが追いかける構図となっている。
日本においては,FacebookとTwitterに加えて,mixi(mixiコネクトを拡張した新プラットフォームを開発意向表明),さらにYahoo!モバゲー(オープンIDで先行したYahooにモバゲーのソーシャルグラフが組み合わされる)連合軍,4社の争いとなるだろう。
・ Yahooとモバゲーの強者連合,そのインパクトと背景にある競争戦略を読む(2/10)
GREEは,GREEコネクトを今春スタート予定と発表しながら,事実上ペンディング状態だ。オープングラフ(FacebookのLikeボタンのような仕組み)はPC上で先行しているため,PCで大きなシェアを持つ企業と提携しないと参戦は困難ではないだろうか。
■ まとめ ~ 業績分析と課題
1. mixi
会員課金が弱く,収益性で他2社とは大きな格差をつけられた。アプリ・コンテンツの争いではなく,ソーシャルグラフに強みを見出し,それを基盤としたプラットフォームに進化させる目論見を持っている。ただしソーシャルグラフのマネタイズはアプリと比較して困難なため,収益の見通しはさらに厳しくなるだろう。
2. GREE
クローズ・モデルのGREEはオープン化の波に押されて停滞しはじめた。打ち手は6月に予定されているオープン化だが,提示条件等が厳しく難航気味との話が複数SAPから漏れ伝わっている。またスマートフォンやPC進出,ソーシャルグラフ争奪を巡り,新たな業務提携があるのかも注目されるところだ。
3. モバゲー
GREEの台頭で永らく低迷が続いていたモバゲーだが,内製ソーシャルゲームとオープン化がトリガーとなり,急激なV字回復とトップ奪還を実現した。打ち手も素早く,この成長傾向が続くと永らく3社で争われていた国内SNS市場において一人勝ちになる可能性すらある。
世界でもはじめての試みと言えるモバゲー「ハイブリッドモデル」の驚異的な収益力は,海外からも注目を浴びることになるだろう。今後予想されるのは,専業ゲームメーカーのソーシャルゲーム本格参入によるゲームコンテンツの高品質化だ。
最近発表されたソニーのFacebookアプリはそのクオリティの高さで注目された(参考記事)が,今後は専業ゲーム機がたどった道と同様,アプリの品質向上がカギとなる。そして「ドラクエ」や「ファイナルファンタジー」のように決定的なキラーコンテンツが登場してくると「ソーシャルゲームのルール」が変わってくる可能性もあるだろう。
【訂正のお知らせ - 5/20 23:00】
mixi, GREE, モバゲー各社のARPU計算式に誤りがあり,会員一人あたりの月売上とすべきところを四半期売上を記載しておりました。関係しているグラフを修正し,該当部分に関しては訂正線で記しております。大変失礼いたしました。
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