「あなたはこの情報を無料で受け取るべき人です。」
『フリーペーパーの衝撃』を読了。新書だからと気軽に手に取ったのですが、得るところが多い本でした。フリーペーパー/フリーマガジンに興味のある方だけでなく、無料の情報発信という点でネットにも通じる話が出てきますから、ITmedia 読者の方々にもお勧めです。
内容は文字通り、フリーペーパー(フリーマガジンを含む)の歴史と現状、ビジネスモデルを解説するというもの。いま人々はどのような情報を、どのような形で消費したいと思っているのか。また無料で情報を届けるとはどういうことなのかなど、フリーペーパーという現象を通してメディアのあり方を考えさせられる本です。その意味で、ネットを通じた情報発信、特に「(単なる個人日記としてではなく)メディアとしてのブログ」を考えるのにも役立つでしょう。
本書の中に、フリーペーパーについて端的に述べた言葉が登場します:
「有料誌は読者が選ぶもの、フリーペーパーは読者を選ぶもの」という言葉がフリーペーパー業界にはあります。「ほかの人と一緒じゃ嫌だから自分からそれを求めたい」という人はたぶん有料誌を買う人ですよ。僕はどちらかというとそっちのほうかな。ただ一方で、自分が読者に選ばれることが快感である人もいるんですね。つまり、「あなたはこの雑誌を無料で受け取るべき人です」と、向こうからきてくれることの喜びというものもあるのではないか。
言うまでもなく、このエントリのタイトルは引用中にある「あなたはこの雑誌を無料で受け取るべき人です」という言葉を捩ったもの。フリーペーパーに限らず、無料で提供される様々な情報や娯楽について、この発想を当てはめることができるのではないでしょうか。
例えばブログ。繰り返しますが、個人の日記や備忘録として書いているものを除き、ブログには必ず読み手が存在します。彼らに向けて、対価を取らずに情報提供しようとするのはなぜか。「可能な限り読者を集めて広告収入を得るため」という答えももちろんあるでしょうが、だからといって万人受けする芸能・スポーツネタを扱うブログばかりではないですよね。誰か特定のターゲットを念頭に置き、彼らに伝えたいことを伝える。彼らが読んでくれるからこそ、読み手からは料金を取らずに、別な形で対価(それは特定のコミュニティからの尊敬や、将来彼らと一緒に仕事をする可能性など、必ずしも金銭的なものとは限りません)を手にする――それも「無料の情報発信」の1つのあり方だと思います。
変な話、僕はブログというツールを前にして情報発信を始めた人間なので、「情報発信といえば閲覧無料のブログありき」という状態を無条件で受け入れてきた面があります。「なぜブログというメディアなのか」「なぜ無料で情報配信するのか」、それには様々な答えがあると思いますが、そういった問題意識を持たせてくれる一冊でした。