C87で購入したCDのレビュー、今回は志方あきこさんのアルバム「歯車館のエルデ」と、イベント限定CD「Sorso」の2枚です。

志方あきこさんは同人音楽出身の方ですが、現在は「アルトネリコ」シリーズを始めとしたゲーム音楽でも活動しています。主に”民族調”を中心に手がけており、同人音楽界隈へサウンド面で与えた影響も大きいと言われているそうです。こういった重厚な民族調の他には、オルゴールを用いたシンプルな楽曲を制作することも多く、今回レビューさせて頂くアルバムはいずれもほぼオルゴールだけで構成されています。



志方あきこ / 歯車館のエルデ

リリース: 2013/08/12
ジャンル: 物語音楽
販売: 即売会・ステラワース

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このアルバムは、構成される音のほぼすべてがオルゴールだ。オルゴールが主旋律を歌う音楽、ではなく本当にオルゴールの音のみで作られているのである。ボーカルすらないため、このアルバムには”歌詞”に相当するものはないのだ。しかし、上にも書いた通りこれはれっきとした”物語音楽”であると言える。なぜなら、その”物語”は散文の形で歌詞カードに書かれており、曲のひとつひとつにあてがわれているからだ。散文はいずれもとても短く、全11曲分を合わせても3ページ分にしかならない。しかし、デザインや組版が一癖も二癖もあるため、それぞれの物語が各々存在感を放っている様が見て取れて面白い。

数多の物語音楽と異なり、物語の脚本である歌詞も、語り手である歌手もいない。歌詞カードの散文を眺めながら、オルゴールのシンプルだが力強い音色に全神経を集中させるのだ。したがって、このアルバムではリスナーの想像力が試されることになる。音楽は劇伴のように背景に溶け込むこともあるし、散文は曲が流れている間ずっと読む必要があるほど長く濃密なものではない。本当に軽い気持ちで聴けるアルバムで、”物語音楽”は必ずしも重厚さ、荘厳さを必要としていないということを教えてくれる。個人的には、絵本の朗読とそのBGMというイメージを抱いている。物語自体の内容も決して重々しいものではなく、まさに童話の絵本のように手軽に、しかしその”読後感”はきわめて充足したものとなるのである。




志方あきこ / Sorso

リリース: 2014/12/30
ジャンル: イージーリスニング
販売: 即売会

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C87(2014年冬コミ)が初頒布となる、新曲2曲を収録したイベント限定CD。1曲目「Sorso」はミディアムテンポのバラード。民族楽器を用いてはいるがとても聴きやすいポップスの形を取っている。歌詞は日本語ではなく、架空言語と思しき不思議な響きをしている(歌詞カードがないCDなのでよく分からなかった・・・)。2曲目「オトシモノ ~Orgel Arrange Ver~」は全編オルゴールの曲だ。アレンジ元は知らない曲だったのだが、どうやら現在製作中のアルバム曲のオルゴールアレンジらとのことだ。なんと本家よりもアレンジの方が先に世に出たということになる。・・・というより、このCDについてはご本人がTwitterでがっつり解説されているので、そちらを転載した方が分かりやすい紹介になりそうだと気づいた。気づいてしまった。レビューサイトとは何だったのか。

怒涛の引用を前に総括を。2枚とも、オルゴールというものの表現力に気付かせてくれた素敵なアルバムだった。特に「歯車館のエルデ」は、11曲40分のほぼ全てがオルゴールで、しかも音の数も3つほどしかない音色の変化に乏しいサウンドだったにも関わらず、明るいものから暗いものまで物語が展開するかのような様々な表情を見せてくれた。これは筆者もかなり驚かされた。あえて失礼な表現をするなら、期待以上、いや期待をはるかに超える密度のアルバムだったと思う。サウンドの派手さを競った音楽は大好物なのだが(制作中だという「和風CD」はさぞかし凄いことになっているのだろう)、こういったシンプルさを極めたものもまた悪くないものだ。