28 AM)当記事では、以下の順で『IAEA勧告への日本政府の答え「人体にまだ影響がないからOK」の酷さ』を理解する。
【1】コメントに寄せられた原発作業員の実態
【2】政府や学者の発言「人体に影響しない」は「放射線障害がない」を意味する
【3】チェルノブイリ原発事故は、5年後、子供と女性に放射線障害をもたらした。
【4】日本の主張「人体にまだ影響がないからOK」が危険な理由

【1】コメントに寄せられた原発作業員の実態

原発労働者が、沈黙の扉を開き始めた。匿名の告白が、このブログに寄せられている。心から感謝する。先日の記事「『原発労働者40万人が被ばくの実態』ジャーナリスト樋口健二氏2005年講演・文字おこし記事まとめ」に寄せられた匿名の告白は、原発労働者の実態と、管理側のずさんさを伝えている。

匿名の告白は以下のとおり。HN昔昔さんからの投稿だ。いくつかのパートに分けて読んでいく。

『昔、学生の頃、ある原発の建設現場へ溶接の下仕事(手元といいます。)にアルバイトでいってました。』

至極当たり前ですが、原発も他の建造物と同じように、建てられる。工事を建設会社が請負い、そこで学生がアルバイトをする。コメントを寄せてくれた昔昔氏もその一人だったという。

『動いている原発の建屋内に掃除しにも行きました。炉の底は温かった。』

「炉の底は温かった」という言葉に真実味を感じるのは筆者だけではあるまい。建屋内の掃除の実態については、以下の記事を参考に。

『原発内部労働者40万人が被ばくの実態』ジャーナリスト樋口健二氏の2005年講演、文字おこし記事まとめ

さて炉の底とは、一体どこを指すか。

52 AM)

炉の底は炉の底だ。福島第一原発では、4月1日現在1号機と3号機の「炉の底」が溶け穴が開いていると言われている。

『当時、50代のおじさんが「わしは年だから手帳(被曝)にも書かんのよ。(被曝線量が)超えても炉の中の作業は賃金高いから。」と言ってました。管理する側も止めてなかったようでした。今でも変わらないのでしょうね。』

生活のために、被ばく線量を誤魔化す作業員もいたという。労働力が足りないため、誤魔化しを管理人側もみすごす。もし本当なら、ずさんな管理だ。生活のために何かを誤魔化すことなら、日常には転がっている。だが、原子力発電所なら話は別だ。ずさんさは別のずさんさを生む。氏はコメントの最後に以下のように綴った。

『そう言えば、後年、現場から溶接した管の継ぎ目の非破壊検査に使う、放射線源が盗まれた事件がありました。万博公園で見つかったような記憶があります。』(昔昔)

以上が寄せられたコメントだ。昔々氏に心から感謝したい。大変残念ながら、ネット上では、放射線源が万博講演で見つかった事例を探し出すことは出来なかった。もし可能なら、これについても教えていただきたい。

当ブログは、「読者の情報提供」というカテゴリーを作成した。今後も情報提供を広く受け付けて、記事を作っていく。コメントもしくはメールにて情報提供を待つ。

さて、昔々氏が上記で述べた「放射線源」とはなにか。

【2】政府や学者の発言「人体に影響しない」は「放射線障害がない」を意味する

「放射線源」は、wikipediaによると以下のように説明されている。

『放射線源(radioactive source)
放射線を利用する場合の線源で、アメリシウム241のα線源コバルト60のγ線源等のように、特定の放射性同位元素のみ含むように調整されている。広義では、放射線施設核燃料施設あるいは種々の放射線発生装置のこともいう。』
※「放射線源(radioactive source) - 緊急被ばく医療研修」より引用

核燃料のことを指す。医療用に用いられるものも放射線源という。筆者の記憶では放射線源の盗難はたまに報じられている。昔々氏の言う盗難事件には、残念ながら筆者は辿りつけなかった。別の事件だが参考に紹介しておく。最近の盗難事件だ。

『盗難:放射線帯びた銅線材880キロ 茨城・つくば
茨城県つくば市大穂の「高エネルギー加速器研究機構」は14日、放射線を帯びた銅線材約880キロ(30万円相当)が構内の放射化物使用施設(放射線管理区域)から盗まれたと発表した。
銅線材は加速器の部品として使ったあと改修のため取り外して保管中だった。放射線レベルは最大0.4マイクロシーベルト毎時で、人体障害の恐れはないという。
同機構によると同日午前1時半〜正午、テントハウスの放射化物使用施設から、直径30センチの銅線材(1巻4.6キロ)が192個盗まれた。
うち2個は普段使わない北側ゲート付近で見つかった。銅線材は15個ずつチェーンで束ねていたが、切断されていた。同機構は茨城県警つくば北署に被害届を出した。
同機構は「深くおわび申し上げます」との談話を出した。【安味伸一】
毎日新聞 2010年12月14日 21時47分』
※「涙目ν速 ('A`) : 【オワタ】高エネルギー加速器研究機構から放射性物質880キロ盗まれる。茨城・つくば」より引用。

高エネルギー加速器研究機構が「深くお詫びします」と謝罪している。一般的な盗難ならば、盗まれた側は被害者だ。だが放射線源の盗難の場合、話は違う。放射線源には管理責任があり、盗まれることは管理が杜撰だった、ということを示す。上記の盗難事故はどうなったかは知らないが、別の放射線源の盗難事例では大きな被害が出ている。

『ゴイアニア被曝事故
ゴイアニア被曝事故(ポルトガル語: Acidente radiológico de Goiânia)とは、1987年9月にブラジルのゴイアニア市で発生した原子力事故。
同市内にあった廃病院に放置されていた放射線療法用の医療機器から放射線源格納容器が盗難により持ち出され、その後廃品業者などの人手を通しているうちに格納容器が解体されてガンマ線源のセシウム137が露出。光る特性に興味を持った住人が接触した結果、合計250人が被曝し、そのうち4名が放射線障害で死亡した。』
※「wkipedia「ゴイアニア被曝事故」より引用

医療用器具の放射線源ですら人を殺す。250人が被曝し、4名が放射線障害で死亡した。さて「放射線障害」とは何を指すのか。

『放射線障害
放射線障害とは、生物体が放射線に被曝することにより発生する身体的障害の総称である。
放射線は、その電離・励起能力によって生体細胞内のDNAを損傷させる。軽度のDNA損傷は修復されるが、修復が不可能である場合にはDNAが損傷したまま分裂するか、もしくは細胞死を起こす。これらの影響が蓄積・拡大して身体機能を低下させるようになったものが放射線障害である。
被曝によるDNA損傷が発生し、それが修復されることなく固定された場合、細胞の活動が異常化し、がんや白血病を引き起こす場合がある。これは自然放射線レベルの少量の被曝でも発生する可能性がある。
また、多量の放射線に被曝し、特定の器官において多数の細胞が死滅した場合には、その器官の機能が損なわれ、生物体に身体障害を引き起こす。』
※wikipedia「放射線障害」より引用

今福島第一原発の事故で、専門家が「人体に影響がない」と事あるたびに発言している。この「人体に影響がない」とは「放射線障害」は発生しない、という意味だ。だが、wikipediaはいっている。

『自然放射線レベルの少量の被曝でも発生する可能性がある。』

これをどう捉えればよいか。自然放射線レベルの少量の被曝でも「放射線障害」は発生するという。だが、日本政府は、放射線の雨が福島の地面の降り注ぐという異常事態でも「すぐに人体に影響がでることはない」という。「すぐに」という言葉がポイントだ。おそらく皆が気づいているが、どの専門家も未来永劫絶対に大丈夫、とは発言していない。そんな発言は出来るはずがない。なぜなら彼等は、研究していないからだ。

いつ人体に影響が出るのか。

チェルノブイリ原発事故は、事故自体の犠牲者もさることながら、5年後10年後まで、いや現在まで、人体に影響を与え続けている。

【3】チェルノブイリ原発事故は、5年後、子供と女性に放射線障害をもたらした。

IAEAは、チェルノブイリ原発事故の5年後に、以下のように、報告している。

57 AM)

『事故の5年後にIAEA国際原子力機関がまとめた報告書です。「当時の住民の健康状態を調査した結果放射能が直接に影響したと考えられる健康被害は認められない、と結論づけられています。そして、今後起こりうる住民の健康被害は、将来、癌または遺伝的影響による増加があったとしても、それは自然の増加と見分けることは困難であろうと予測しています。』
※記事内の2つの画像、上記引用箇所は以下のリンクから。
http://www.nicovideo.jp/watch/sm14022560

だが、5年後の90年以降、小児性甲状腺癌が増加(一般的には100万人に1人か2人)、妊婦の体調の異常など、人体にじわじわ影響し続けることとなった。

そんな、チェルノブイリ原発事故の放射線障害を認めなかった、IAEAが、今、福島県飯舘村に「基準超す放射能」を測定したと勧告している。これをどう捉えればいいか。

『東日本大震災:福島第1原発事故 IAEA基準超す放射能 住民「避難すべきか迷う」
◇飯舘の住民
東京電力福島第1原発の事故を巡り、国際原子力機関(IAEA)から、同機関が定めた避難基準を超える放射線量を測定したと指摘された福島県飯舘村。避難住民も戻り始め、日常生活を取り戻しつつあったところだったため、村内では波紋が広がった。菅野典雄村長(64)は「国から対処方針を変えなくていいと説明を受けている」と話し、住民に冷静な対応を呼び掛けた。
同村は人口約6000人で、現在村に残る人は約4000人。自主避難が相次いだため、一時は約3000人まで落ち込んだが、最近は村に戻る人が増え始めている。
セブンイレブン福島飯舘店(飯舘村草野)は先週末から、営業を再開した。菅野賢店長(39)は「(IAEAの注意勧告は)村でうわさになっている。避難すべきか、すごく迷う。国がしっかり指示を出してほしい」と訴えた。地元に残りたいが、2人の子供への影響も気にかかる。
近所に住む女性(59)も「今まで国から大丈夫だと言われていたのに正直ショックです」と不安げ。それでも自宅で高齢者2人の介護を続けているため避難所生活は難しく、今のところ地元を離れるつもりはない。
枝野幸男官房長官は31日の会見で、土壌の放射線量が長期間基準を上回った場合には避難指示などを検討するとした。だが、菅野村長は「国は、避難指示ではなく支援策を出すのが本来だと思う」と強調した。【岩佐淳士、松本惇】』毎日新聞 2011年4月1日 東京朝刊
※「東日本大震災:福島第1原発事故 IAEA基準超す放射能 住民「避難すべきか迷う」 - 毎日jp(毎日新聞)

筆者は、IAEAのこの勧告は、政府が避難を命じる最後のチャンスだったと見る。自国が正しいと主張するのは、世の常。イラクのサダム・フセインも自国が正しいと主張した。北朝鮮も自国が正しいと主張した。かつて太平洋戦争直前の国際連盟決議では日本も自国が正しい主張した。その結果どうなったか。

孤立に向かった。世界の声に従うことは、1つのルールだからだ。自分の非を自ら正すのはいつも困難だ。だから私たちは他人の声に耳をかたむけることを大切にする。耳が聞こえなくなった日本政府は、以後二度と退避勧告を出すことはない。

【4】日本の主張「人体にまだ影響がないからOK」が危険な理由

IAEAは「土壌」の放射性汚染のレベルを調べたものだ。IAEAはチェルノブイリ原発事故後の被害を考慮しているのだろうか。日本政府は、「人体に与える影響」を調べて安全だと言っている。これをどうみるか。

「土壌の汚染が基準値をはるかに越えている」(IAEA)
「人体にはまだ影響がない」(日本)

日本は、人体に影響があるレベルになって初めて、危険だと判断する構造になっている。

土壌の放射能汚染は、5年10年という長期にわたり、そこに住む子ども、女性に影響し、放射線障害をもたらす。そして、人体に影響が出始めた時、政府、東電、研究者たちは次のように発言し、言い逃れる。

『自然放射線レベルの少量の被曝でも発生する可能性がある。』

子供たち、女性たちは、科学者や医療機関の研究対象とされ、貴重なデータとなり、国際貢献する。男性の皆さんは、あなたの恋人、娘が、研究対象とされ国際貢献することに誇りを感じるか。誇りを感じるならば、日本政府を信じていけば良い。俺はそんな国際貢献は嫌だよ。
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