Joe's Labo

城繁幸公式。
というか避難所。移行か?
なんか使いづらいな・・・

日本海軍 400時間の証言

2009-08-10 12:14:36 | ãã®ä»–
昨夜、NHKスペシャル
「日本海軍 400時間の証言 第一回 開戦 海軍あって国家なし」を見た。
いろいろと思うところがあったので簡単にまとめておきたい。

海軍の作戦立案に携わった軍令部の生き残りが、戦後に集って行なった戦争の分析。
その、いわば“反省会”の模様を録音した、のべ400時間にも上るテープを元に
番組は構成される。

三夜連続の一回目なので、まだ総合的な評価は言えないが、海軍の頭脳たちの言葉は
とても生々しい。

特に印象に残ったのは、軍令部長以下誰一人、確固たる自信の
無いままに、戦争を始めてしまったという点だ。

彼らを駆り立てたものとは、なんだろう。

猪瀬直樹の「空気と戦争」は、別のアングルからそれについて取り上げた著作だ。※

開戦前、官民軍の30代エリート(戦後の日銀総裁もいる)を集めて設立された
総力戦研究所は、いわば来たるべき戦争をシミュレートする和製ランド研究所だった。
彼らの出した結論は、緒戦は勝ったとしても、物量作戦で必ずまけ、最後はソ連が
参戦してくるという(内容的にも正確性も)驚くべきものだった。

ところが、東條英機はこれを「机上の空論」と一蹴してしまうのだ。
「日露戦争も勝てるとは思わなかったが勝てた。戦とは計画通りにはいかないものだ」
ロジックで出した結論に対し、情緒で異を唱えてしまう典型だろう。
「正社員で雇うべきなのに、そうならないのはおかしい!」といって
派遣切りを拡大させてしまった共産党と本質的には同じである。
東條の情緒を生み出した空気こそ、陸軍と海軍を戦争に引っ張り出したものと同じ
だろう。

空気の正体については、やはり山本七平の一連の著作が詳しい。
氏は日本陸軍について、誰も包括的にものを見ることが無く、また見えても言わない。
結局、前例に従って流れるだけの組織だとし、それを“自転”と呼ぶ。
結局、開戦前に見えた人がいたとしてもそこまでで、後は組織として破滅へ自転して
いくしかなかったのだろう。
このあたり、前例主義ときわめて親和性の高い年功序列と、一定の関連性があるように
思われる。※

なお、山本氏の著作としては『空気の研究』が有名だが、個人的には
『一下級将校の見た帝国陸軍』の方が具体的な事例に富んでいておススメだ。
「戦略の無い組織からは精神論しか出てこない」という意見は
世の多くの政治家・経営者が肝に銘じるべきだ。



※元は「日本人はなぜ戦争をしたか 昭和16年夏の敗戦」という猪瀬氏の本だが
 絶版中らしい。

※山本氏も、陸軍が階級よりも年次が重要な年功序列組織だったと指摘している。