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【ミネラル含有熱処理酵母】放射線障害を防護する効果。被ばく後投与でも。マウスを用いた実験で

2013-12-24 00:44:50 | æ”¾å°„能汚染

【ミネラル含有熱処理酵母】放射線障害を防護する効果。

被ばく後投与でも。マウスを用いた実験で

ミネラル含有熱処理酵母に放射線防護効果を確認、被ばく後投与でも。

放医研・体質研究会の研究チームがマウス実験で実証 放射線被ばく障害の治療剤に展開

★平成19年特許⇒【発明の名称】 酵母を有効成分とする放射線防護剤

ミネラル含有熱処理酵母に放射線防護効果を確認、被ばく後投与でも。
放医研・体質研究会の研究チームがマウス実験で実証 放射線被ばく障害の治療剤に展開
http://www.nirs.go.jp/information/press/2005/index.php?03_24.shtml より全転載

【概要】

独立行政法人 放射線医学総合研究所(佐々木 康人 理事長)放射線安全研究センター・レドックス制御研究グループの伊古田暢夫グループリーダー、安西和紀チームリーダーらは、財団法人体質研究会(鳥塚 莞爾 理事長)の鍵谷勤京都大学名誉教授と共同で、ミネラル含有熱処理酵母に放射線障害を防護する効果があることを、マウスを用いた実験で明らかにした。

同研究グループは、放射線障害を防護する薬剤の探索を進めている。放射線防護剤の多くは、被ばく前の投与で効果を示すが、今回見出されたミネラル含有熱処理酵母は、放射線被ばく後に投与して有効な薬剤として注目される。放射線防護については多くの薬剤が報告されているが、副作用を伴うものもあり、新たな薬剤開発、特に放射線被ばく後に投与して有効な薬剤が待たれている。今回の成果は、新たな放射線障害治療薬剤開発に繋がるものと期待される。

今後、同研究グループは、ミネラル含有熱処理酵母の投与方法、他の薬剤との併用効果、ならびに放射線防護機構の解明などに研究を発展させていく。

今回の成果はすでに特許出願しており、平成18年5月に開催される第28回日本フリーラジカル学会、および第49回日本放射線影響学会で順次発表予定である。

【背景】

放射線利用が医療をはじめとする多くの産業で不可欠になっている現在、放射線被ばくが生体に障害をもたらすリスクを軽減する放射線防護剤の開発は、社会の重要な課題である。しかしながら、放射線被ばくによる生体障害を予防および治療するための放射線防護剤として実用化されている薬剤は極めて少なく、それらも、副作用が強かったり多くの投与量を要するといった問題点が指摘されている。また殆どの防護剤の場合、放射線を被ばくする前に投与する必要があり、放射線被ばく障害に対し被ばく後に投与して効果が得られる薬剤は極めて限られていた。

放医研のレドックス*1制御研究グループでは、放射線防護剤の探索を進めており、これまでにエダラボン*2やニトロキシド類*3に放射線防護作用を見出している。また水溶性ビタミンE誘導体*4であるTMGが放射線被ばく後に投与して有効なことを、(財)体質研究会の鍵谷勤京都大学名誉教授と共同で報告している。

本研究開発では、放医研による乳酸桿菌*5の加熱死菌体の放射線防護作用の報告を発端として、さらに有効で入手しやすい放射線防護物質を探索し、ミネラル含有熱処理酵母に、放射線被ばく後においても障害を防護する極めて顕著な効果があることを見出した。

【研究手法と成果】

● ミネラル含有熱処理酵母の放射線防護効果の確認実験

実験に用いた酵母は、サッカロマイセスセレビジエ属*6の酵母で、パンやビールの発酵に一般的に用いられている。これらの酵母等は市販されており容易に入手可能である。抗酸化ミネラル*7は、亜鉛(Zn)、銅(Cu)、マンガン(Mn)、およびセレン(Se)などで、亜鉛は約10%、マンガンと銅は5%、セレンは0.2%含有の4種の酵母を用いた。これらのミネラル含有酵母は、サッカロマイセスセレビジエ系ビール酵母を培養する培地に硫酸亜鉛、グルコン酸銅、硫酸マンガン等の金属塩*8、あるいはセレノメチオニン*9を添加して作られる。さらに、酵母以外の成分を遠心分離して除去し、加熱乾燥(110℃、3時間)して粉末状で得られる。本実験では市販のミネラル含有熱処理酵母(以下ミネラル含有酵母)が用いられた。これらのミネラル含有酵母はラット経口投与で最小致死量は2.5g/Kg以上と推測されている安全な物質である。

放射線防護作用の確認実験では、雄性C3Hマウス(10週齢、体重:25-28gグラム)に、マウスによる放射線影響実験の致死線量である7.5GyのX線を照射し、同種の実験の典型的な条件となる30日間の生存率が測定された。実験群は、100-600mg/Kg(体重)の酵母を含んだ0.5%メチルセルロース懸濁液*10(0.3ml)を照射の前あるいは後に腹腔内に投与した。なお、対照群は、0.3 ml/匹の0.5%メチルセルロース溶液を腹腔に投与した(各群16匹~56匹のマウスを使用)。

図1,2に示すように、ミネラル含有酵母は高い放射線防護効果を示した。特に亜鉛酵母および銅酵母は、被ばく後の投与において30日間生存率が80%以上という高い生存率を示した(対照群約7%)。亜鉛酵母は照射60分後投与においても高い生存率を示し、治療剤としての可能性が期待される。

図1. 各種酵母の放射線防護効果(X線7.5Gyマウス全身照射、照射後30日の生存率、n=16-56)
ミネラル含有酵母は高い放射線防護効果を示している

図2. X線7.5Gy マウス全身照射直後、亜鉛含有酵母(100mg/Kg)投与の30日間生存曲線(n=28)
亜鉛酵母は照射60分後投与においても高い生存率を示し、治療剤としての可能性が期待される

● 活性酸素*11(スーパーオキシド)の消去能について

酵母とスーパーオキシドとの反応は、5,5-ジメチル-1-ピロリン-N-オキシド(DMPO)を用いる電子スピン共鳴(ESR)*12-スピントラッピング法*13を用いて行った。スーパーオキシドはヒポキサンチンとキサンチンオキシダーゼにより発生させた。DMPO-O2- 付加体のピーク強度を半分に減少させる酵母の濃度を求め、各酵母のスーパーオキシド消去能を比較した。その結果(図3)、最も強い消去能を有するのは亜鉛(Zn)酵母で、この亜鉛酵母の消去能を100とすると、マンガン(Mn)含有酵母:47、銅(Cu)酵母:42、セレン(Se)酵母:8、パン酵母:2-10であった。

図3. ミネラル含有酵母のスーパーオキシド消去能の相対比較
亜鉛酵母の消去能を100とする(重量比)

● 作用のしくみについて

ミネラル含有酵母の放射線防護作用のしくみについては今後の研究課題であるが、推察されることの一つとしては、これらのミネラル含有酵母が放射線によって発生する活性酸素類を消去して生体の損傷を防いでいる可能性が上げられる。

また、ミネラル含有酵母中の亜鉛、銅などは、メタロチオネイン*14やヘムオキシゲナーゼ-1*15などの抗酸化酵素を誘導する。また酵母に含まれるβ-グルカン*16は免疫賦活作用*17があり、これらの作用によって放射線障害を防護しているとも考えられる。

スーパーオキシド消去活性の高い酵母が、30日生存率向上に効果的で、放射線被ばくにより生じる酸化的ストレスの制御に重要な役割を果たしているものと考えられるが、詳しい防御機構は今後明らかにする必要がある。

【今後の展開】

一連の実験でミネラル含有酵母には放射線防護効果、特に放射線被ばく後に投与して効果があることが明らかとなった。今後、投与方法の改善、他の薬剤との併用効果、さらに活性酸素、フリーラジカル消去のしくみや免疫賦活作用などの、ミネラル含有酵母の放射線防護メカニズムを明らかにして、より効果的な放射線防護剤、そして治療剤へと発展させていく予定である。

(用語の説明)

(*1) レドックス
酸化還元を意味する。Reduction(還元)とOxidation(酸化)を合成した言葉。

(*2) エダラボン
脳保護剤として臨床使用されている。

(*3) ニトロキシド類
N-O・の構造を有し、ラジカル類と反応する

(*4) 水溶性のビタミンE誘導体:TMG

(*5) 乳酸桿菌
ヨーグルトなどの製造に用いられる代表的な乳酸菌のひとつで棒状の形をしている。放医研レドックス研究グループの前身である放医研薬理化学研究部の色田幹雄部長らは、乳酸桿菌の加熱死菌体の放射線防護作用を報告している。

(*6) サッカロマイセスセレビジエ属
酵母の一種である。

(*7) 抗酸化ミネラル
"抗酸化性"とは、活性酸素を消去する性質である。抗酸化ミネラルとは、抗酸化性を示す金属イオン、金属塩等の形態で存在する金属元素を意味し、活性酸素を消去するスーパーオキシドジスムターゼやグルタチオンペルオキシダーゼなどに含まれる金属を意味する。スーパーオキシドジスムターゼ(SOD)はスーパーオキシドを分解する酵素であり、亜鉛、銅、マンガンなどを活性中心とする金属酵素である。またグルタチオンペルオキシダーゼは過酸化水素などの過酸化物を消去する酵素であり、その活性中心に存在するセレンが分解反応を促進していることが知られている。

(*8) 金属塩
陽イオンと陰イオンが各々の電荷を中和する形で生じる化合物を塩と称し、イオンとして金属が用いられる場合をいう。

(*9) セレノメチオニン
アミノ酸の一種。

(*10) メチルセルロース懸濁液
メチルセルロース(多糖類のセルロースのメチルエーテル体)を用い、水に不溶性の固体を均等に分散させた液体。

(*11) 活性酸素
いちじるしく化学反応をおこしやすい酸素を活性酸素という。活性酸素には、スーパーオキシド(アニオン)、過酸化水素、ヒドロキシルラジカルなどがある。これらの中で、過酸化水素はラジカルではないが、活性酸素には、不対電子をもつもの多く、フリーラジカルとよばれるので、酸素ラジカルともよばれる。酸素は1電子還元を受けて、まずスーパーオキシドラジカルになり、さらに1電子還元を受け、水素イオンと反応すると過酸化水素になる。過酸化水素が、さらにもう1電子還元を受けるとヒドロキシルラジカルになる。またスーパーオキシドやヒドロキシルラジカルは放射線を照射された水から生成される。生体では、これらの活性酸素のうち、スーパーオキシドを消去するスーパーオキシドジスムターゼ、過酸化水素を消去するカタラーゼやグルタチオンベルオキシダーゼなどが存在する。

(*12) 電子スピン共鳴法(ESR)
ラジカルを定性および定量的に測る装置。ラジカルの量に比例してシグナルが高くなる。

(*13) ESR スピントラッピング法
不安定ラジカル種を測定する有効な手段の一つ。 寿命の短い不安定ラジカルをスピントラップ剤と反応させて安定ラジカル化合物へと導き、このESRシグナルを測定することで間接的に不安定ラジカルを測定する方法。

(*14) メタロチオネイン
61個のアミノ酸からなるタンパク質で20個をシステインが占める。ラジカルや活性酸素捕捉能を有する。

(*15) ヘムオキシゲナーゼ-1
ヘムをビリベルジン(さらにビリルビンになり抗酸化能を有する)、一酸化炭素、Fe2+に分解する酵素で2種のアイソザイムがある。

(*16) β-グルカン
D-グルコースから構成される多糖類でグルコース残基のC-1の配置によりα-とβ-がある。

(*17) 免疫賦活作用
免疫を活性化する作用。

 

(転載終了)

 

 

【公開日】平成19年7月12日(2007.7.12)

【発明の名称】 酵母を有効成分とする放射線防護剤  

<発明内容の抜粋>

・・サッカロマイセスセレビジエ系の酵母、特に抗酸化ミネラル含有酵母を放射線の被ばく前あるいは被ばく後に投与することによって、放射線による障害を予防あるいは治療する効果を奏する。特に、被ばく直後だけではなく、ある程度時間が経過した後に投与しても放射線による障害を治療することができることができるため、事故などによる放射線被ばくにも対応することができる。
また、サッカロマイセスセレビジエ系の酵母や抗酸化ミネラル含有酵母は、通常食品としても流通しているものであるため、安価であり、かつ副作用がほとんど見られないという非常に大きな利点を奏する。

・・(1)サッカロマイセスセレビジエ酵母及び抗酸化ミネラル含有酵母
本発明において用いられる酵母は、サッカロマイセスセレビジエ属の酵母であればパンやビールの発酵に用いられるパン酵母やビール酵母等を含め、いずれの酵母であってもよい。また、酵母は生酵母であっても乾燥酵母であってもよい。サッカロマイセスセレビジエ酵母はパン酵母やビール酵母等として市販されており、簡単に入手可能である。

http://www.j-tokkyo.com/2007/A61K/JP2007-176879.shtml より

【発明の名称】 酵母を有効成分とする放射線防護剤
【発明者】 【氏名】安西 和紀
【氏名】上野 恵美
【氏名】薬丸 晴子
【氏名】乳井 美奈子
【氏名】中西 郁夫
【氏名】鍵谷 勤
【氏名】伊古田 暢夫
【課題】放射線被ばくによる放射線障害を予防あるいは治療する有効な薬剤を提供する。

【解決手段】サッカロマイセスセレビジエ酵母あるいは抗酸化ミネラルを含有するサッカロマイセスセレビジエ酵母を有効成分とする放射線障害の防護剤、具体的には、マンガン、亜鉛、銅、およびセレンの少なくとも一種を含有するサッカロマイセスセレビジエ酵母を有効成分とする放射線障害の防護剤。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
サッカロマイセスセレビジエ酵母を有効成分とする放射線防護剤。
【請求項2】
酵母が抗酸化ミネラルを含有する、請求項1に記載の放射線防護剤。
【請求項3】
抗酸化ミネラルが、Se、Zn、Cu及びMnからなる群より選択される少なくとも一種である、請求項2に記載の放射線防護剤。
【発明の詳細な説明】【技術分野】
【0001】
本発明は、放射線や宇宙線の被ばくによる生体障害の予防および治療、放射線による診断や治療の副作用として発現する放射線障害の防護剤に関する。
【背景技術】
【0002】
原子力発電に携わる作業者・技術者、放射線を利用する測定機器類の取扱者、および癌の放射線治療を行う医師・技術者は常に放射線被ばくによる健康障害に直面している。また、航空機の操縦士や乗務員の宇宙線被ばくが問題になっている。さらに、放射線治療を受けている癌患者は吐き気や下痢などの副作用に悩まされる場合が多い。X線CTなど放射線を利用して健康診断を受ける人の微量の放射線被ばくによる発癌リスクが問題になっている。
今日、職業人と一般人とを問わず、放射線被ばくによる生体障害リスクを克服する放射線防護剤の開発研究は社会の重要な課題である。しかしながら、放射線被ばくによる生体障害を予防および治療するための放射線防護剤で実用化されている薬剤は極めて少ない。例えば、米国ではアミフォスチン(Amifostine)が頭頚部の放射線癌治療において口腔乾燥症の予防に認可されている(非特許文献1参照)。また、放射線被ばくによる生体障害を効果的に防御する放射線防護剤として各種アミノチオール類が報告されている(非特許文献2参照)。また乳酸桿菌の放射線防護剤としての有効性も報告されている(非特許文献3参照)。一方、本発明者の鍵谷等は、以前より、放射線による健康障害を効果的に防護する薬剤を研究してクロマノール配糖体を開発し(特許文献1参照)、その効果について発表している(1996年の日本放射線影響学会第39回大会、大阪)。また本発明者の安西等は脳保護剤であるエダラボンの放射線防護剤としての利用を発表している(特許文献2、非特許文献4参照)。
しかし、従来の薬剤は、副作用が強かったり、投与量が多く、また放射線を被ばくする前に投与する必要があり、放射線被ばく後の障害に対し、被ばく後投与で有効な薬剤はクロマノール配糖体など極めて限られていた。
【0003】
【特許文献1】特開平10-72356号公報
【特許文献2】特開2003-267871号公報
【非特許文献1】J. Cancer Research, 1807-1812(2004)
【非特許文献2】菅原努ほか著、「放射線と医学」、共立出版株式会社、1986年
【非特許文献3】Radiat.Res. 125、293-297(1991)
【非特許文献4】J.Radiat.Res., 45, 319-323 (2004)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、放射線被ばく、および癌の放射線治療や診断における生体障害(副作用)を効果的に予防する薬剤であって、副作用が小さく、有効な薬剤を提供することを目的とする。また放射線被ばく後投与によっても効果を得ることができる新規な放射線防護剤を提供することを目的とする。
また、本発明の目的は、放射線被ばく、および癌の治療や診断における放射線による障害を有効に予防、および治療するための安価な薬剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者等は、放射線被ばく、および癌の放射線治療や診断における生体障害(副作用)を効果的に予防し、かつ治療する薬剤として、サッカロマイセスセレビジエ酵母が有効であることを見出して本発明を完成するに至った。
すなわち本発明は、サッカロマイセスセレビジエ酵母を有効成分とする放射線防護剤に関する。
上記放射線防護剤において、酵母は抗酸化ミネラルを含有することが好ましい。更に、前記抗酸化ミネラルは、Se、Zn、Cu及びMnからなる群より選択される少なくとも一種であることが好ましい。
【0006】
本発明における酵母の放射線防護作用の機序については明らかでない部分もあるが、該酵母が放射線によって発生する活性酸素を不活性化して生体の損傷を防いでいるものと考えられる。すなわち、生体の放射線損傷は放射線によって発生するヒドロキシルラジカル(HO・)、スーパーオキシド(O2-)、過酸化水素(H2O2)などの活性酸素が細胞膜やDNAなどの細胞内物質を酸化的に損傷し、酸素によって進む酸化的な反応である。本発明のサッカロマイセスセレビジエ酵母に含まれる成分が放射線によって発生する活性酸素を不活性化して放射線損傷を防いでいるものと考えられる。また、マンガン、亜鉛、銅などを活性中心とする金属酵素のスーパーオキシドジスムターゼ(SOD)はスーパーオキシド(O2-)を分解する酵素である。本発明の抗酸化ミネラルを含有する該酵母はスーパーオキシドを分解する機能によって放射線障害を防護しているものと考えられる。さらに、生体のグルタチオンペルオキシダーゼという酵素は過酸化水素などの過酸化物を分解する酵素であり、その活性中心に存在するセレンが分解反応を促進していることが知られている(八木國男・中野 実監修、二木鋭雄・島崎弘幸編集、「活性酸素」医歯薬出版株式会社、1987年参照)。本発明の酵母に含まれている抗酸化金属のセレンはグルタチオンペルオキシダーゼと同様な作用によって放射線障害を防護しているものと考えられる。実際、該酵母は活性酸素のひとつであるスーパーオキシドを消去する作用を有している(参考例1参照)。また酵母に含まれるβ-グルカンは免疫賦活作用があり、この作用によっても放射線障害を防護していると考えられる。
【発明の効果】
【0007】
サッカロマイセスセレビジエ系の酵母、特に抗酸化ミネラル含有酵母を放射線の被ばく前あるいは被ばく後に投与することによって、放射線による障害を予防あるいは治療する効果を奏する。特に、被ばく直後だけではなく、ある程度時間が経過した後に投与しても放射線による障害を治療することができることができるため、事故などによる放射線被ばくにも対応することができる。
また、サッカロマイセスセレビジエ系の酵母や抗酸化ミネラル含有酵母は、通常食品としても流通しているものであるため、安価であり、かつ副作用がほとんど見られないという非常に大きな利点を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明は、サッカロマイセスセレビジエ酵母を有効成分とする放射線防護剤を提供する。本明細書において、“放射線防護剤”とは、予め投与することにより放射線の被ばくによる生体障害を予防する効果を奏する薬剤、および被ばく後に投与することにより放射線の被ばくによる生体障害を治療ないし軽減する効果を奏する薬剤を意味する。放射線とは、放射性崩壊によって放出される粒子(光子を含む)のつくるビームであって、α線、β線、γ線などがあり、さらにX線や、核反応、素粒子の相互転換で放出される粒子線、宇宙線なども含む。
【0009】
(1)サッカロマイセスセレビジエ酵母及び抗酸化ミネラル含有酵母
本発明において用いられる酵母は、サッカロマイセスセレビジエ属の酵母であればパンやビールの発酵に用いられるパン酵母やビール酵母等を含め、いずれの酵母であってもよい。また、酵母は生酵母であっても乾燥酵母であってもよい。サッカロマイセスセレビジエ酵母はパン酵母やビール酵母等として市販されており、簡単に入手可能である。
【0010】
本発明のサッカロマイセスセレビジエ酵母は、抗酸化ミネラルを含有することが好ましい。ここで、“抗酸化性”とは、活性酸素を消去する性質である。抗酸化ミネラルとは、抗酸化性を示す金属イオン、金属塩等の形態で存在する金属元素を意味し、活性酸素を消去するスーパーオキシドジスムターゼやグルタチオンペルオキシダーゼなどに含まれる金属を意味する。
本発明において、抗酸化ミネラルは、Se、Zn、Cu及びMnからなる群より選択される少なくとも一種であることが好ましく、これらの二種以上の組み合わせであってもよい。含有量は、単独の場合、Seは0.05-0.3%、マンガンと銅は1-10%、亜鉛は1-15%が好ましい。
なお、二種以上の抗酸化ミネラルを含有する酵母の場合には、これらの含有率以下の酵母も有効である。
【0011】
マンガン、亜鉛、銅、あるいはセレンなどの抗酸化ミネラルを含有した酵母は、サッカロマイセスセレビジエ酵母を培養する培地に硫酸マンガン、硫酸亜鉛、グルコン酸銅、あるいはセレノメチオネート等の金属塩を添加して培養することにより製造することができる。一般に、酵母以外の成分を遠心分離して除去し、加熱乾燥(110℃、3時間)して粉末状で得られる。またOMEY-ZN10のような市販のミネラル含有酵母を用いてもよい。
【0012】
本発明のサッカロマイセスセレビジエ酵母は、パンやビールの発酵食品にも含まれており、安全な物質であることは周知である。また、抗酸化ミネラルを含有する該酵母は健康食品添加物として広く市販されている安全な物質である。例えば、これら酵母の単回経口投与による14日間の最小致死量は、0.2%セレン酵母が2.5g/Kgであり、5%マンガン酵母、10%亜鉛酵母、5%銅酵母の場合には、5.0g/Kg以上と推測される。
【0013】
(2)投与形態及び投与方法
本発明において、酵母は固形のまま、錠剤、カプセルに入れて、あるいは水に懸濁して経口投与されてもよい。また、酵母を水、生理食塩水、メチルセルローズ等の薬理学的に許容される適当な媒体中に懸濁して、腹腔に注射して投与してもよい。
サッカロマイセスセレビジエ酵母の投与量(酵母の乾燥重量)は、一過的な放射線被ばくの場合は10-1000mg/Kg、航空機の乗務のように長時間の被ばくの場合は数時間毎に5-100 mg/Kgが投与されることが好ましい。
また、ミネラル含有酵母の場合には、含有されるミネラルの種類により効果に差異があるため、抗酸化ミネラル含有酵母の投与量はミネラルの種類により、最小致死量等を考慮して適宜決定(10-1000mg/Kg)することができる。
【0014】
本発明の酵母の投与は、一時的な全身被ばくが予期される原子力発電所作業員や放射線技師など、および放射線が腫瘍の局所に照射される一時的な被ばくに対しては、被ばくの数時間前ないし直後に行われることが好ましい。また、航空機乗務員のように長期間の低線量放射線被ばくに対しては、乗務日に数時間毎に行われることが好ましい。また事故などにより放射線被ばくした場合は、被ばく後に投与することもできる。
【実施例】
【0015】
つぎに、実施例をあげて本発明を具体的に説明する。しかし、本発明は、これらの実施例のみに限定されるものではない。
〔参考例〕
活性酸素(スーパーオキシド)の消去試験
スーパーオキシドとの反応は、5,5-ジメチル-1-ピロリン-N-オキシド(DMPO)を用いる電子スピン共鳴(ESR)-スピントラッピング法にて行った。スーパーオキシドはヒポキサンチン(HPX)とキサンチンオキシダーゼ(XOD)により発生させた。反応は0.1Mリン酸緩衝液(pH 7.4、0.4ml)を用い、試験管にHPX(0.5mM)、種々の酵母、DMPO(100mM)を加え、最後にXOD (0.1U)を加える。1分後にESR用フラットセルにとり、室温にてESRスペクトルを測定した。酵母を用いない場合のスーパーオキシドとDMPO付加体の電子スピン共鳴スペクトルのピーク強度を半分に減少させる酵母の濃度を求め、酵母のスーパーオキシド消去能を比較した。その結果、最も強い消去能を有するのは亜鉛(Zn)酵母で、この亜鉛酵母の消去能を100とすると、亜鉛、セレン(Zn,Se)含有酵母:50、銅(Cu)酵母:42、セレン(Se)酵母:8、パン酵母:>10であった。
【0016】
〔実施例1〕
10週齢の雄性C3Hマウス(体重:25-28gグラム、一群:10匹(対照群のみ20匹))に7.5GyのX線を照射し、30日の生存率を測定した。実験群は、100-600mg/Kg(体重)の該酵母を含んだ0.5%メチルセルローズ懸濁液(0.3 ml)を照射の前に腹腔に投与した。なお、対照群は、0.3 ml/匹の0.5%メチルセルローズ溶液を腹腔に投与した。
【0017】
表1


注1:亜鉛を10%含有するビール酵母。
注2:セレンを0.2%含有するビール酵母。
【0018】
上記表1から明らかなように、パン酵母や亜鉛およびセレンのような抗酸化ミネラル含有酵母は優れた放射線障害予防効果を示した。
【0019】
〔実施例2〕
放射線の照射後に酵母を投与した以外は、実施例1と同様に投与実験を行った。結果を表2に示す。
【0020】
表2


注1:セレンを0.2%含有するビール酵母。
注2:亜鉛を10%含有するビール酵母。
注3:銅を5%含有するビール酵母。
注4:マンガンを5%含有するビール酵母。
注5:セレンを0.0003%、亜鉛を0.11%含有するビール酵母。
【0021】
表2から明らかなように、放射線被ばく後にパン酵母、ビール酵母、マンガン含有酵母、セレン含有酵母、亜鉛含有酵母、銅含有酵母、及びセレン,亜鉛含有酵母を投与することにより、放射線障害の治療効果を示した。特に、600mg/kgのセレン含有酵母、100mg/Kgの亜鉛含有酵母、100mg/Kgの銅含有酵母、100mg/Kgのマンガン含有酵母及び100mg/Kgのセレン,亜鉛含有酵母を照射直後に投与するといずれも70%以上の高い30日生存率を示した。また、亜鉛酵母、及びセレン,亜鉛酵母を用いた場合には、照射60分後に投与しても70%または80%という高い30日生存率を示した。また、亜鉛酵母は、20mg/Kgという低投与量であっても、80%の高い30日生存率を示した。
【産業上の利用可能性】
【0022】
一時的な全身被ばくが予期される原子力発電所作業員や放射線技師、および放射線の照射を局所に受ける癌患者などにおいて、放射線障害の予防薬として使用できる。また、航空機乗務員のように長期間の低線量放射線被ばく者に対しても、予防薬として継続して長期間にわたり投与することができる。また事故などにより放射線被ばくした場合は、被ばく後に投与する放射線防護剤として使用することができる。
【出願人】 【識別番号】301032942
【氏名又は名称】独立行政法人放射線医学総合研究所
【出願日】 平成17年12月28日(2005.12.28)
【代理人】 【識別番号】100082005
【弁理士】
【氏名又は名称】熊倉 禎男

【識別番号】100084009
【弁理士】
【氏名又は名称】小川 信夫

【識別番号】100084663
【弁理士】
【氏名又は名称】箱田 篤

【識別番号】100093300
【弁理士】
【氏名又は名称】浅井 賢治

【識別番号】100114007
【弁理士】
【氏名又は名称】平山 孝二

【識別番号】100123777
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 さつき
【公開番号】 特開2007-176879(P2007-176879A)
【公開日】 平成19年7月12日(2007.7.12)
【出願番号】 特願2005-379185(P2005-379185)

 

 


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