弱い文明

「弱い文明」HPと連動するブログです。 by レイランダー

The Mind Disaster -4 「脅威論」を克服するために

2011å¹´11月12æ—¥ | åŽŸç™º 3.11 フクシマ
 1995年の阪神・淡路大震災のあと、石橋克彦氏の『大地動乱の時代』を読んだ。「地震は日本列島の最も基本的な自然条件の一つ」という一節が、胸に深く刻まれた。以来、頭の中には、次のより広範な震災(もっぱら首都圏の)の様相が浮かぶようになった。
 それは地震動による破壊とか火災とかの、いわゆる災害の様相というだけではない。「震災後」の社会の様相にまで思いをめぐらせば、そこには新しい文明の構築に向かうポジティヴなパワーの結集の図と同時に、今よりもっと気味の悪い、「震災ファシズム」の未来図もが交差するのだった。なんとなく、躁状態の。
 大正関東大震災後の日本は、それまでにあった軍国主義の流れをいっそう加速させ、金融恐慌や農村の疲弊に代表される内外の矛盾を、侵略戦争に打って出ることで解決しようとし、出口のない国家総動員体制の時代に突き進んで行った。21世紀の広域震災後にもきっと、戦前とは姿形は違えど、より巧妙な、たちの悪い、ネオ国家主義の嵐が吹き荒れるのではないか?実際の「戦争」は起きなくても(起きてもごく一部の人間だけがスケープゴートに差し出され)、隣国の「脅威」がより巧妙に入念に喧伝され、新しいモードの集団ヒステリーが推進される。「戦争」がないぶん、勝利はどこにもなく、そのフラストレーションのなかで、人々は精神的に自壊(self-destruct)する。まだ地震が起きていない今でもチラチラとその影が見えるくらいなんだから、震災が起こればそうしたモードが一気に堰を切ったように現れるのではないか?・・・そうしたらどうしよう。俺に何ができるだろう?・・・などと思っていた。

 実際に起きた大震災は首都圏ではなく、東北だったわけだけど、その点を除けば、特に「震災ファシズム」に関する自分の予感は、半分くらいは現実のものになったように思える。それでも結局、どうしたらいい?というところは、いまだに答えがわからない。

 元々、すべての国が脅威に囲まれている。国家は国家になった時から、他国家の脅威を想定して自分の首を絞め始める。それは国家の本質に最初から組み込まれている遺伝情報のようなものだ。だから外交というものが必要となり、外交の極端な形、あるいは破綻した形としての「軍事力行使」までもが見込まれる。
 そして軍事力(またの名を「防衛力」)の強大さは、他国の脅威を減らすどころか、さまざまな変形を含む脅威の増強、進化を促進する。宿命論的ないたちごっこに、多かれ少なかれ、すべての国家が飲み込まれているのである。

「巨大な兵器と途方もない兵力にもかかわらず──あるいはむしろそれゆえに──…現代国家は他の現代国家の攻撃にたいし自国の国民の生命と財産をまったく防衛しえない」(アメリカの政治哲学者ジョン・シャーの言葉。ダグラス・ラミス『ラディカルな日本国憲法』より)

 そんな不条理の促進を目の当たりにしてもまだ「脅威」を唱えることに躍起になれる主体というのは、結局その促進による被害を一番受けにくい、場合によっては恩恵すら受けている主体だったりする(例:軍需産業、その下請け)。
 そこまで行かずとも、元々ある脅威を恣意的に具体的にアピールしたからといって、何らか局面の打開に結びつくわけでは決してないし(そんなためしは一度としてない)、国家の下にある国民の恐怖や猜疑心、フラストレーションを攪拌して物事を見えにくくするだけである。大手のマスコミというところが相変わらずやっているのは、こうした攪拌作業に過ぎない。そんな作業が「平和」に結びつくなど、冗談も休み休みに言えという話である。

 ・・・だが、こうした原則論をいくら声高に叫んだところで、(北朝鮮のような死に体国家はともかく)「中国の」脅威の中身について再考を促すのに、ほとんどの場合効果がないだろうことも承知している。なぜなら、「国家があるから脅威がある─脅威を減じるために国家を増強する」式のスパイラルというのは、すべての国が多かれ少なかれ陥っているが、むしろ中国自体が率先して陥っているものだからである。もちろん中国だけでなく、「大国」であればあるだけ、それにハマっている度合いが強い(必ずしもきれいに比例するわけではないが)。少なくとも中国は、アメリカ、ロシアと並んで、タチの悪いほうの国であることは間違いない。
 が、一方で世界最強の軍事力を持っている国はアメリカで、実際にそれを行使している実績からいっても、ダントツにアメリカである。中国の側から見れば、そんな国が隣国の日本や韓国に厳然とプレゼンスを誇示している時に、それを脅威と思うのはやめろなどと、(僕はむしろ言いたいけれど)中国脅威論を平然と口にする日本人に言えた義理だろうか。妄想の度合い・自分のことを棚に上げる度合いでいえば、明らかにそういう日本人のほうが上回っていると僕は思う。
 そう、簡単にまとめてしまえばそういうことなのだ。中国の脅威は現にあるし、中国の「国家」思考は世界の中でもタチが悪い。だけど、日本が世界最大のEvil Empire(ならず者国家)アメリカに従属しながらそれを言う資格があるのか──アメリカの政策への従属から離れて、日本独自の「新思考外交」を目指すなかでしか言えないんじゃないか。本当に中国の脅威を減じたいなら、その方向でやっていくしかないんじゃないか。実際、そういう外交を採れるか否かが、向こう100年~200年のこの国の運命を決めるのではないか、という気がしている。

 だが現代日本の主流の考え方は、東アジアに覇を唱えて自滅した(自滅したのは正解だった)明治~昭和政府の域を出ないばかりか、ある意味その当時の政府よりも自分の頭で考える能力を奪われている。それでいて「日本の独立と平和」なんていう幻想を唱えている、偽装政体である。その偽装政体を、マスコミの偽装ジャーナリズムが支えている。
 国民は自分たちで自分たちの運命を選ぶことすらできないのに、民主主義と独自の文化を享受している先進国だと思い込まされている。そして、その独立と平和を脅かす新興勢力(向こうから見ればこちらこそ新興かもしれないが)への恐怖心を煽られ続ける。難しいことがわからない一般庶民には、日本人と異なるその口調・発想法・文化やライフ・スタイルについてのステレオタイプ、カリカチュアが刷り込まれ、その不快な側面ばかりが選択的にピック・アップされ・ばらまかれる。それらが気づかぬまま心に植えつけられた民族差別の苗に、絶え間なく供給され続ける肥料となる。
 その一連の閉塞思考が社会の主流意識となることを、僕はマインド・ディザスターだと言っている。この災害の被害を受けるのは相手ではなく、むしろ日本人自身だと思うから、「災害」なのである。もちろん、日本人自身が引き起こした「人災」である。「人災」の果てに、世界が摸索する新しい文明への乗り継ぎ切符を失うことになりはしないか。
 僕はそんな災害の、被害者にも加害者にもなりたくない。だけど、何をどうしたらいいのか。このちっぽけな島国の中ですら、事は大規模かつ複雑に入り組んでいる。これが正解!なんて言えるやり方などひとつも思いつかない。効率のいいやり方、うまいやり方、カッコイイやり方なんて、ありそうでないんだろうな、という気がするけれど。
 ひとつ確実なのは、「明治維新」から検証しなければだめだろうな、ということ。日本人はいまだに「明治政府」を打倒できていないのでは?と最近よく思う。

 現代中国を、僕は時代遅れの国だと思っている。経済成長だとか、科学技術の発展だとか、国防力の充実を通して「大国」であろうとする、そうした方向に向かって国民が盛り上がってる、なんていうのは、僕に言わせれば時代遅れで、ダサイのである(それを良しとする中国人ばかりではないのも知っているが)。アメリカのほうが、エスタブリッシュメントの硬直性はともかく、国民の間の考え方に多様性があり、草の根の民主主義の根が張っているぶん、まだマシな「大国」だと思う。もちろん、だからアメリカに飲み込まれていい、のではない。
 日本は、原発震災を契機に、「大国」志向ではない新しい文明モデルへの脱却が可能な場所にいる。思考を切り換え、この立場を活かせば、中国との「力の勝負」など不要にし、「飲み込まれる」ことなどもちろんなく、むしろ文明力で先んじることさえできるのではないか。そういう視点を共有してくれる人が少しずつで増えてほしいのだけど、それが主流になる前に、地震でも原発事故でもない、もう一つの破局によって目の前が真っ暗になる、その日が来ることを恐れている。

 というあたりが、「脅威論」を克服するために僕が提示しておきたい、一つ二つの視点である。実は当たり前なことばっかりで、胸を張って言うほどでもないが、NHKの「視点・論点」よりはかなりマシだと思う。

最新の画像[もっと見る]

2 ã‚³ãƒ¡ãƒ³ãƒˆ

コメント日が  古い順  |   新しい順
【TPP】 仙谷氏「アメリカにやられるという被害者意識で言うのはいかがなものか」 積極的に枠組み作りに参加すべきだとの考え (Unknown)
2011-11-20 17:31:46
「アメリカにやられるという2国間交渉じゃないわけですから、
あまりそれを被害者意識強く言うのは、僕は今の時代いかがなものかと」(民主党 仙谷由人 政調会長代行)
返信する
Unknownさん (レイランダー)
2011-11-23 12:20:40
確かに推進の一つの論調として、この仙石氏みたいな言い方があるんです。
さらに一歩進めて、TPPを疑問視すると称する人からさえ、「アメリカに言われるまで待っていないで、日本の側から日本の国益に根ざしたTPPを提案するという発想がどうしてできないのか、情けない」という、「愛国的」論調も出てきたりして。それが立派な推進論の一部として機能していることも知らずに。ばかですねえ。

ところで、おたく、Unknownさんは執念深く「仙石」情報をこちらに送ってくるようになって早2年くらいですか、何かいいことありました?どっかで一度はっきり言ったと思うんですけど、僕は仙石やら民主党やらを支持したことなどないですよ。仙石なんて、どんな顔でどんな経歴の人かすら、いまだに知りませんもん(興味がない)。
何か壮大な勘違いをなさっているようですけど、まだ続けますか?別にいいですけど。

あと貴方を含めお仲間の人は、どっかの記事の引用ばっかしベタベタ貼って送ってくるパターンが多いですけど、そういう時は一応出典も明記してください(明記してあれば載せるというわけじゃないですけどね)。
返信する

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。