レビュー
注目のMEMSドライバなのに1万円以下、QCYハイコスパイヤフォン「MeloBuds N70」を使いこなす
2025年10月7日 08:00
いまやTWS界隈はさまざまなブランドが入り乱れて群雄割拠の様相を呈している。そうした中で中国のQCYはコスパの高さから、数千円程度の低価格帯で人気を伸ばしているブランドだ。こうした価格帯でもANCを搭載した機能豊富な点が魅力と言える。
「MeloBuds N70」は、そのQCYが最近販売したフラッグシップモデルである。フラッグシップと言っても日本円で9,980円と安価であり、高音質化のためにUSound社のMEMSドライバーを搭載した点がポイントだ。筆者が購入したわけはまさにここであり、はじめはUSoundのMEMSドライバーへの興味だったのだが、それが意外な方向に行くことになった。
別掲の筆者のMEMSドライバー解説記事で述べたように、MEMSドライバーはシリコン・ドライバーともいうべき最新の画期的なドライバーだ。最近TWSを中心に製品にも組み込まれている。
しかし、USoundのMEMSドライバーはこれまで一部の高価な有線イヤフォンに搭載されたのみで、TWSへの搭載はこのMeloBuds N70が初めてとなる。USound製のMEMSドライバーは一体どんな音を聴かせてくれるのか、その可能性への技術的好奇心が、このイヤフォンの購入を決意させたわけだ。
MEMSとダイナミック型を一体型ユニットに配置。ANCも強力
まずMeloBuds N70の主な特徴を整理してみよう。
N70では高音質化のためにハイブリッド・ドライバー構成が採用されている。高域用にMEMSドライバー、中低域用にダイナミックドライバーを搭載。実はこの両者は「Greip」というUSoundが開発した一体型ユニットになっており、ダイナミックドライバーはMEMSドライバーとハイブリッドで使うための専用設計がなされている。
ANCは最大で-56dBと謳う強力なもので、状況に応じてANCの効き目を自動的に変えるアダプティブノイズキャンセリング機能を搭載している。持続再生時間はイヤフォン単体で約7時間(ANCオン)、ケース併用で最大35時間(ANCオン)の再生が可能としている。
このほかにもマルチポイント接続や装着検知など便利な機能が多数搭載され、日本語化されている専用アプリも使用することができる。
たしかに価格にしては機能豊富であり、ハードウェアのスペックだけを見れば、ランク上の価格帯の製品と遜色ない。さて、その実力はどうだろうか。
ANCの効きはアプリにより3段階の調整ができる。ANCを電車内で試したところ、うるさい走行音はしっかりと低減され、音楽に集中できるレベルまで騒音を抑え込んでくれる。一方で車内アナウンスのような人の声は比較的聞き取りやすい。
耳がツンと詰まるような圧迫感が少なく、比較的自然な効き方なのは悪くない。ただし、高音域のノイズ除去はやや苦手なようで、甲高い音は少し残る傾向がある。総じてANCは業界最高とは言えないまでも、日常的なシーンで使う分には十分な性能を持っていると感じた。
音を聴いてみる
さて、肝心の音と使用感のインプレッションだ。ファームウェアを最新に更新し、EQ(イコライザー)は標準設定にしておいた。そして「儀式」であるエージングを行なった。まずアプリから装着検知をオフにして、フルチャージから電力が無くなるまで2回ほど、15時間程度エージングした。TWSでもエージングしてから使用した方が失望せずに済むのでおすすめだ。エージング時に実測したところ、連続再生はANCオフで約7時間といったところのように思われる。
パッと聴いた際の第一印象は低価格モデルらしく、いわゆるドンシャリな音だが、さらに聴き込むとイヤフォンの良さが分かってくる。
低音は確かにかなり誇張感があるが、同時にベースラインが引き締まっている。中高域はシャープだが刺さるような印象ではなく、切れ味がよく伸びやかだ。つまり音を誇張してはいるが、低域も高域も安っぽくなく高品質だ。特に中高音域はMEMSの効果だろうか、TWSの中でもかなり優れた方だ。
バスドラのアタックはズシンと重く、ロックやポップスのグルーヴ感を気持ちよく伝えてくれる。低音は強めだが、不思議とヴォーカル帯域に被ることはなく、中音域のクリアさも確保されている。これは一体型ユニットならではのチューニングがなされているからだろう。
得意ジャンルは、女性ヴォーカルのポップスや、キレのあるサウンドが求められるメタルなどが良さそうだ。
N70はANC付きのTWSとしては価格なりの点もあるが、音に関しては確かに価格以上の光るものをもっている。
装着感を高めるイヤーピースを探す
ここでまた悪い虫が首を持ち上げてきた。
低価格のお試しという感じで買ってみたものの、音が良いので、「これはTWSのメイン機にして良いのではないか」と思ったのだ。
メイン使いしようとすると最も気になる問題は装着感だ。N70では昨今流行りの浅めのフィットスタイルで、イヤーピースも価格なりという感じのペラリとして頼りない。アプリのフィットテストでは「適合」を示すものの、自分のメイン機として使うには心許ない。
ここから、このイヤフォンが光を出すために磨きをかける旅が始まった。それは「イヤーピース交換」である。
しかし有線イヤフォンと違って、ケースに格納することが前提のTWSではイヤーピースの選択肢に制限がかかってしまう。いくら良いイヤーピースでもケースからはみ出してしまっては元も子もない。
そこではじめはAirPods用のイヤーピースを物色した。
まずTWS界の定番ともいえるAZLA「SednaEarfit MAX」を試した。だが残念ながら相性が悪くうまくフィットしない。AirPodsではとても相性が良いが、N70はやはりデュアルドライバーのせいか少し筐体が大きいようだ。傘が筐体と干渉してしまう。次に試したのはこれも定番の「Spinfit AirPods Pro用」だ。しかしこれもまた同様にうまくフィットしない。
これは諦めて標準のイヤーピースに戻すかと思ったところ、別のイヤフォンで使っていたELETECHの「BAROQUE」イヤーピースを思い出した。これは完全ワイヤレス用ではないが、独特の形状でとても傘が短い寸詰まりの形をしている。
試しにと思い、イヤーピースをBAROQUEに付け替えてケースを閉じると「パチン」と気持ちよく音がして、なんと完全に蓋が閉まったのだ。この瞬間、小さく快哉を叫んでしまった。
完全ワイヤレス用がダメで、有線用の高級イヤーピースが適合するとは意外だったが、アプリのフィットテストも一発クリアした。Lサイズでも問題なくケースに格納できる。
耳に装着すると、しっかりとはまり込んで安定し、遮音性も高い。もう10年以上耳にカナル型イヤフォンを装着してきた自分にはやはりこれだ。
フィット感が良くなるだけではなく音質も向上した。しっかりとした密閉感が、これまで曖昧だった音の輪郭をくっきりと描き出す。低音の解像感が上がり、高音域がより伸びるように感じる。
もちろん、9,980円のイヤフォンに3,500円のイヤーピースを組み合わせるのは、いわば「980円の定食に300円の高級漬物をトッピングする」ようなものだ。だが、そのような誹りはあえて受けよう。これは単なる付け合わせ以上の価値をもたらしてくれた。そして事実いま、筆者のTWSメイン機となっているのだから。
試しに買っただけのはずが、思わぬ場所に着地してしまったがこれがオーディオの面白さというものだろう。
QCY MeloBuds N70は、USound社の一体型MEMSドライバーが音質を一段と向上させ、荒削りの部分もあるが日常用途には十分使えるイヤフォンだ。数ある製品から、価値ある一台を見つけ出したという満足感もまた趣味の楽しさと言えるだろう。