O(オー)
「それはどういうことですか?」
「だから、ちょっと、オタクに見ていただこうということになってね」
「……沖ノ鳥島を、ですか?」
「遺跡があった」
「本当ですか?あんな海の底に?
ニュースでは言ってなかったけど……」
「まだ、発表はしていない」
「どうしてですか? 世界的な発見ですよ」
未音は大崎のウルトラマンのようにつるりとした顔を思い出した。
泥棒が入り、蔵が荒されて色々盗まれたと父親から連絡があり、実家のある海辺の町に戻って二日目のことだった。
未音の家は伊豆にあり、その地方では旧家だった。
荒らされた土蔵の中を片付け、一息ついた時に、その電話は来たのだ。
大崎が珍しく、次の言葉を躊躇った。
「それが、ちょっと、理由ありでね」
「わけあり?」
「変なものが出たんだ」
「変なもの?」
「オーパーツとでも云うか……」
大崎とは半年前、友人のパーティで知り合った。
政府関係者と言う彼の紹介だったが、大崎は気さくな男で、未音が考古学をやっていると言うと、詳しく現場の様子を聞きたがった。年も未音が三十歳、大崎は三十三歳とさほど離れていなかったので、子供の頃嵌っていたヒーローの話で盛り上がった。
その後、二回誘われて、一緒に酒を飲んだ。
大崎の行きつけと言う居酒屋で、一方的に大崎がしゃべり、未音はもっぱら聞き役だったが、結構楽しい酒だった。
2005年インド洋の島々に大きな被害もたらした地震の後、日本でもM7.0クラスの地震が続いた。
そして、東京を始め、関東、東海に甚大な被害をもたらしたM8.0の大島沖地震。
大島沖が陥没し、その代わりのように、沖ノ鳥島付近の海域が隆起した。
地震の被害に気を取られて、国民はこの報道にあまり関心を払っていなかったし、単なる海底隆起と今でも思っているはずだ。
その島に、何千年も海底にあったのに、しっかりとそれとわかるほど立派な遺跡群が有るということは、政府関係者でも一部しか知らない極秘事項だった。
今、火山噴火の危険が有るという理由で、この領域は空も海も閉鎖されたままだ。
日本の排他的経済水域を広げていた小さな島は、今では300mほどの高さの山の頂になっている。
周りの海面が上昇して一年。
未音に電話が掛かって二週間後、未音は自衛隊の駆逐艦の艦上からその島を眺めた。
「結構大きいですね」
未音は隣の大崎に話しかける。
大崎は、咥えタバコのまま頷く。
「南北に90キロ、東西に60キロという細長い島だ。
もっとも、満潮時には半分は海に沈みますがね。
日本の希望の島ですよ」
隆起して、まだ一年しか立っていないのに、島にはまばらに草が生えている。
だが、ほとんどは黒々とした岩の塊のような島だ。
「これ、どうぞ」
自衛隊員がガスマスクを持ってきた。
「毒ガスが発生しているんですか?」
未音が驚いて聞くと、隊員は苦笑いする。
「いや、それは無いですけど、かなり臭いんですよ。
気持ち悪くなる人もいるんで。良かったら使ってください」
確かに、島に近づくにつれて、腐った貝のような臭気が漂い始め、二人は早速渡されたマスクをつけた。
何千年もの堆積物が空気に触れて腐り始めているらしい。
小船で入り江に上陸すると髭ぼうぼうの男が二人を迎えた。
男はもう慣れっこなのか、マスクもしていない。
髭が伸びっぱなしだから、マスクをし辛いのだろうと未音は噴出しそうになった。
大崎は男を見て笑いかける。
「高田さん、ずいぶん、ご立派になりましたね」
「え?」
「まるで、五月人形みたいですよ」
「五月人形?」
男は何のことか分からないらしい。
鍾馗様のことか?と未音は思う。
なるほど、大崎はそんなものを飾る家の育ちか……
未音は旧家の末裔だから、親は昔からの節句を大事にして、そう言う飾りもしっかりする。
だが、友人達の親はあまりしないらしく、そう言う話はまるっきり通じない。
未音の家の土蔵には五月人形やお雛様、そのほかに何に使ったのかと言う飾り物が山のように積まれている。
節句ごとに、その土蔵から先祖代々伝わっている飾り物が出され、座敷に並べられた。
その中には髭ぼうぼうの鍾馗様もあった。
それも今度の泥棒は持っていった。
残っていたのは、未音が子供の頃に遊んだおもちゃとか、食器や衣類だけだった。
あんな骨董品をどう捌くのかと、両親と首を傾げたものだった。
高田と紹介された隊員の運転する車は上陸した地点から丘に向かう。
かなりの悪路だ。
胃袋が口から出るかと思うほどの揺れを我慢しながら、未音は島を見廻した。
向かっている丘と並んでもう少し高い峰がある。
山の頂上にはコンクリートの建物のようなものが見えた。
かつて、あの部分だけが沖ノ鳥島と呼ばれていた。
コンクリートの塊が、周囲200海里の日本の専管水域を作り出していたのだ。
温暖化の影響で今にも沈みそうになっていたのにと未音は複雑な思いでその山を眺めた。
あの山の隆起は、何万人と言う犠牲者を生んだ。
「東京も海に沈んで3000年も立てば、こうなるのかな?」
これ以上車では無理と言うところで降りて、丘を目指し歩きながら、マスク越しに大崎が言う。
「かなり、立派な都市だったようですね」
そこここに突き出た柱を避けて歩きながら、未音は答えた。
「こんな文化がここにあったなんて、どこの国の歴史にも伝承が無いのは何故だろう?」
「それだけ古いと言うことでしょう」
三人はやがて、丘の中腹にある、こんもりとした泥の山にたどり着いた。
高田もマスクをつける。
ここは海辺よりもかなり臭いらしい。
臭気が強くなっているのは、乾いてきたところを掘り出して、泥の中に封じ込められていた建物と一緒に臭気も掘り出してしまったからだろう。
泥の山の一部が取り除かれ、滑らかなクリーム色の石のドームのようなもの覗いている。
それは日光を反射してまぶしい。手を翳して見上げるとかなり大きな建物のように見えた。
完全防備の自衛隊員が大崎を見て敬礼する。
未音は大崎の正式な部署や身分を知らないが、少なくとも、この男にかちかちの敬礼させるくらいの地位はあるらしい。
「中に入れますか?」
「どうぞ」
大崎が先に入った。
高田に促されて、未音は続いて入った。
中はつるりとした感触のプラスティックのような材質で囲まれた小部屋になっている。
入ったところの向こう側にはアーチ状の出入り口があった。
そこから廊下に出るようだ。
大崎はマスクを取った。
「臭いませんよ、ここ」
そう言われて未音もマスクを取った。
この球体の中にはあの臭いがしていない。
未音は大きく息を吸った。新鮮な空気だ。
大崎はアーチ状の出入り口を出て進む。
未音はあわてて後を追った。
真ん中に大きな吹き抜けがあり、その周りを廊下が回っている。
この廊下は結構高い階になるようだ。吹き抜けの底を見下ろすと、かなりの下に作業している隊員が見えた。
窓や照明はひとつも無いのに、ほんのりと通路は明るい。
「あそこの壁が外の光を透かしているんですよ」
高田が天井を指差す。
泥を払われた南側の天井が外の光を透かしているらしい。
「夜になると暗くなります。月明かりの夜はほんのりと銀色になってとても綺麗ですよ」
「光源は無いの?」
「照明やスイッチのようなものがありますので、動力が通れば、夜間も明るいのかもしれません。
動力部分と思われる隣の建物は壊れて、壁が残っているだけなので、
エレベーターらしきものもあるのですが、今は使えません。
申し訳ありませんが、この通路を下まで降りてください。
今後、調査が進めば、未知の動力源が見つかるかもしれないと、期待しています」
卵の殻の中身をぐるぐる廻っている通路を降りて、底の部分についた。
そこも壁を通した外からの光でほんのり明るい。
「凄い」
思わず、未音は声を上げた。
淡い壁からの光に照らされて、何千何億と言うきらきら光る石のようなものが床に散乱している。
この外壁と同じような材質だ。
壁の光を受けたものは淡い光をそれ自体が放っている。
大きさは様々で、未音の背丈くらいのものから、掌に収まるくらいの大きさのものまであり、それぞれが淡いクリームやピンク、薄い水色、様々な色に輝いている。
「綺麗でしょう?」
大崎は未音の反応を窺う。
「ここは密封されていたんですか?」
「ええ、一点の染みも無く綺麗な状態で保存されていました」
「泥の中で何千年、もしかしたら何万年、眠っていたんですよ。この石たちは…」
大崎と高田の説明を聞きながら、未音はあまりの衝撃に言葉を失っていた。
「ここはライブラリーのようなものだと思っています」
大崎は足元に落ちているクリーム色に輝く石を持ち上げた。
大崎の手の中で、それは色を失い、グレーの石そのもののような色
に変わった。
「こうやって手に取ると。色が変わるんですよ。
どうも、重力場を変える装置が作動していて、この石は全部宙に浮いていたらしい。
科学者たちは、これはMOやCDのように記録を保存するものではないかと言うし。
この建物自体がこの石に隠された情報を再生するものかもしれないも言っているんだが……」
「もう情報を取り出すことはできたのですか?」
未音は恐る恐る訊いてみる。
「いや、まだ…。
だから、未音さんに来ていただいたのですよ」
「でも、僕は考古学のほうですよ。これは考古学じゃなく、科学の分野じゃないですか?」
「まあ、そうですけどね。
あちこちに文字らしきものもありますので……浸蝕されていて判りにくいですけど、それも読み解いていただきたいし……
これにも何か記号のようなものがあるかもしれませんしね。
すべて調べていただいて、分類して頂だこうかなと。
もちろん、これを再生する方法は別の班でやりますよ」
大崎は石を差し出す。
未音はポケットから手袋を出してはめ、大崎の持っている石を受け取った。
「セラミックのような材質ですね」
「今、分析を急いでいますが、概ねそう言うものではと科学者は言っていますよ。
調べれば、未知の材質もありそうです」
未音は手の中の石を下に置いた。
石はまた乳白色の輝きを取り戻す。
「面白い石ですね」
そう云いながらも、未音は身体が震えて、今にも倒れそうな気がしていた。
大崎はそんな未音の様子をじっと見て、
「人類が前時代の文明にやっと遭遇できたのですよ。凄いと思いませんか?」
「ええ、でも、こんなものが何千年も昔にあったなんて……」
そう言った未音を大崎が微かに笑ったような気がした。
「そうですか?」
大崎はタバコを胸ポケットから取り出し、口に咥えたが、火は点けなかった。
「そう言えば、未音さんのご実家には、なにやら伝承が有るそうですね?」
「え?」
「昔、海の向こうからやってきた神人が、光る石と小さな箱を持ってきた。
石を箱に入れると、この世のものとは思えないほど美しい音楽が聞こえた・・・」
その言葉で、未音は自分が呼ばれた理由がわかった。
そして、大崎が自分に近づいた理由も……
「単なる伝承ですよ」
「でも、その箱と石は今でもオタクにあるのでは?」
「そんなもの、ありませんよ」
思いっきり否定する未音から大崎は視線を外し、床に散乱する石を見つめる。
「僕はあの石が何かの情報を記録するものではないかと思っている」
「……」
未音はそれに答えなかった。
「向こうに小さな部屋がありますので、そこを使ってください。
ちゃんとイスとテーブルらしきものがありますよ」
高田がのんびりした声を出した。
その夜は大崎と未音を迎えて、宿泊用に停泊している船で、ささやかなパーティが開かれた。
酒も振舞われ、隊員たちも、久しぶりにリラックスした夕食をとった。
その席で未音は倒れ、応急手当を受けていたが、次の日、自衛隊のヘリで本土の病院に運ばれた。
医師の見立てでは食中毒か、急性腎炎と言うことだった。
三日後、病室から未音は抜け出した。
夕暮れのオレンジ色の光が蔵の高い窓から差し込んでいる。
その光を頼りに未音は、自分のおもちゃ入れの箱の中から丸い石を取り出す。
未音が触るとその丸い石はほうっとサーモンピンクに内部から発光した。
その光で、箱の中に一緒に入れられていた未音が好きだったキャラクターの人形が照らしだされた。
次第に、石からは音が響いてきた。
未音はその音に合わせてなにやら呪文めいた言葉を唱える。
石は次第に赤みを増してますます強く光った。
「なるほど、君自身が再生機だったんですね」
聞き覚えのある声を聴いて、未音は振り返った。
大崎が戸口に立っている。
「どうして・・・?」
「無理をしてはいけませんよ。
お醤油をあんなに飲んじゃって・・・まだ、腎臓の数値は良くないみたいですよ」
大崎は切れ長の目を細める。
「もしかして、小箱を盗んだのはおまえか?」
「ええ、てっきり、あれが再生機と思ったものですから。
まさか、あなた自身が再生機だとは思いませんでした。
道理で、素手で触らないはずです」
大崎が手を上げると、後ろに控えていた完全武装し銃を構えた男達が出てきた。
武装しているが自衛官ではなさそうだ。
彼らからはもっと危険な匂いがした。
未音は手の中の石を身体の後ろに隠す。
「親父やお袋は・・・?」
「ご一緒にお出かけ頂こうと、お待ちいただいていますよ」
「二人に何をした?」
未音は目を見開いて叫ぶ。
「なに、ちょっと、座っていただいているだけです。
オタクが協力してくだされば、何もしませんよ」
大崎は未音に手を差し出した。
「それをこちらにいただきましょうか?」
「これは渡せない」
「旧文明の遺産を個人が所有するのはどうかと思いますが」
「お前だって、果たして政府に渡すか怪しいもんだ」
未音は両手で石を隠す。
大崎は余裕を見せるように笑う。
「実は僕の家にもその石と同じようなものが伝わっているんですよ。
祖父からの申し送りで、これはある文明の記録なのだと言われていました。
僕はそれがCDのようなものではないかと思ってのですが、あの遺跡が見つかった時、僕は確信しました。
でも、うちにはそれを再生する機械は伝わっていない。
それで、僕は同じようなものを受け継いでいる家を探しました。
あなたの家に石と小箱が伝わっていると知ったとき、僕はあなたとお知り合いになれるように図ったんですよ。
てっきり、小箱が再生機と思い、部下に命じて持ってこさせたのですが、あれは何の役にも立たなかった。
中にうちの石を入れても何も起らなかったんでね。
それで、僕はオタクにあの遺跡を見せたのです。
我々の先祖は本当に素晴らしい民族で、素晴らしい文明を持っていたということをあなたにも自覚していただきたくてね。
でも、まさか、わざと体調を崩して逃げるとは予測していませんでしたが……あれを見て逃げたことで、僕はオタクがきっと何かを知っていると確信しました。
まさか、あなたがその再生機とは思いませんでしたけどね」
「君の先祖もウラシマだったのか・・・」
睨みつける未音を見て、大崎は鼻で笑う。
「ウラシマ・・・ああ、祖父はそう言っていましたね。
わしらはウラシマの末裔。
日本人など足元にも及ばない優秀な民族だったと」
「その優秀な民族のしたことは何だ。
自分達の国を海の底に沈めるような恐ろしいものを開発し、自滅した」
「自滅? あなたと私がいるように、全国にウラシマがいるかもしれないじゃないですか?
二人で、ウラシマを復興させませんか?
まずは、僕に、その石の秘密を教えてください」
大崎はじりじりと未音に近づく。
未音は後ずさりして壁際に追い詰められた。
「子供の頃から、僕は家にあった石に触り撫でていたのに、今、あなたが起こしたような状況にはならなかった。
どうやれば良いのです?
それと、さっきの呪文、あれは何ですか?」
大崎はほとんど未音に触れそうな所まで、手を伸ばす。
未音は小声で、「それを知ってどうする?」と訊いた。
「もちろん、あの遺跡の石すべての情報を解読し、その力を頂くのですよ。
僕らが再び、この世界の王として君臨するのです」
「馬鹿げたことを……」
「さあ、こちらに来て、僕らの国について語り合いましょう」
「本気でそんなことを言っているのか?
あの島が沈んだ理由を知らないのか?」
「沈んだ理由?」
ミネは石を抱きかかえ、呪文を唱えた。
石はまばゆく光り、その光が渦となり様々な色に輝いた。
大崎もその部下もその光の美しさに見とれている。
「素晴らしい……」
うっとりと見つめている大崎はふっと、自分が軽くなったような気がした。
何気なく手を見ると、手が透き通っている。
「うわあ」
叫んで横を見ると、隣に立っていた武装した部下が足や手の先端から次第に消えていく。
痛みも何も無いのに、身体が消えていくのに気付いた大崎は、もう一度大きな悲鳴を上げたが、その悲鳴も口が消えて出なくなった。
石を抱きかかえていた未音が目を開けると、そこにはもう誰もいなかった。
蔵から出て母屋に行くと、母親と父親が玄関先で縛られて転がされている。二人の戒めを解く。
「大丈夫?」
「あいつらは?」
父親が聞いた。
「石の力で消してしまいました」
未音は正直に答えた
「そうか……」
父親は目を伏せた。
「未音、逃げなさい」
母親が未音の頬に触る。
「あの島が浮上している限り、あなたはきっとまた狙われるわ」
「お母さん」
「あの島の謎を皆が知りたがる。
そして、それを解けるのはお前だけだもの」
「……」
未音は無言で年老いた母の肩を抱いた。
また一段と細くなったようだ。
「私たちのことは心配要らないから」
父親はそう言い、何か思い出したように奥の部屋に行き、しばらくして、通帳と印鑑を持ってきた。
「これだけ有れば、外国にも逃げられるだろう」
「僕がいなければ、お父さんたちが狙われます」
「私には何もできん。役に立たん。
あの石の情報を再生できるのは、お前のDNAだけだ」
二人にせかされて、未音は家を出た。
15歳の子供の日、未音は父に言われ、その石に自分の指を切り、血を垂らした。
それは未音の家に代々伝わる儀式だった。
その傷口から血が石に滴り落ちた時、それは起った。
石からまばゆい光が飛び出し、ミネを包んだのだ。
未音はその光の中から歩み出てきた老人に導かれ、ウラシマの世界に行った。
ウラシマの滅びを察知した科学者達が文明の知識を残すためにこの石を未音の先祖に託して、日本に送ったこと。
石に血を垂らすことにより、その血液のDNAコードが登録されること。
登録が更新されると以前の登録者でもそれは開かなくなること。
そして、海に沈んだ遺跡に残る石の情報はこの石に登録された人物のみが閲覧できるということ。
つまり、未音はあの遺跡の情報の鍵になったのだ。
未音の家はその鍵とその番人の役目を負っていたのだ。
光の中で再生された老人は最後に、
「科学に頼り、我々は滅ぶだろう。
その情報を消去するのが我々の責務かもしれない。
だが、これはまた、素晴らしいものでもあるのだ。
いつか、われわれの科学の情報をきちんと平和に利用できるような状況になった時には、お前がこれを開いてくれ」
と言い、未音の頬を撫ぜた(ような気がした)。
そして、何千年も昔に生きた老人のホログラムは、次の登録者が現れるまでのしばしの眠りに付いた。
ホログラムの老人は遺跡のある大地が海に沈むことを、話していなかった。
古代人にとっても大地が海の底になるのは予想外のことだったらしい。
長い年月の後、遺跡は海の底から地上に戻った。
その秘密を探す大崎のようなものがまだいるかもしれない。
暗い山道を運転しながらミネは膝に置いた石に触る。
未音の指が触れたところが筋になり光る。
未音はその光を見て呟いた。
「今の人間には、まだ、無理ですよね」
何に反応したのか、石は一瞬ぽっと光り、すぐにもとの石に戻った。
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