今回から数回、寄り道をしてSoCを解説したい。スマートフォンやタブレットの広範な普及にともなって、SoCは非常に身近なものになってきた。x86プロッセッサーもSoCに向けて急速に舵を切っているが、その一方で案外とSoCそのものの話は説明していない。
ARMベースのSoCの代表的な製品は以前連載82回から85回で簡単に説明したが、ここでもあまり根本的な話はしていない。そんなわけで、今回は少し根本的なところから説明したい。
System On Chipが指す
“System”の定義
SoCはSystem On Chipの略であることはご存知かと思う。要するに“System”を1つのチップ(=ダイ)に搭載したものがSoCと呼ばれる。この“System”とは、狭義の定義では「動作に必要な環境一式」ということになる。
例として、電子オルゴールを汎用コンポーネントを使って作ることにしてみたい。音質などを気にしなければ、作ることは比較的簡単である。
上図がその模式図であるが、オルゴールの音声データをROMで保持しておき、ボタンが押されたらROMの先頭から音声データを読み込み、これをデジタルのまま出力するようなプログラムを動かす。
デジタルで出力された音声データは、DAC(Digital/Analog Converter)を使いアナログ出力に変換する。このままでは出力レベルが小さすぎてスピーカーはもとより、ヘッドホンですら聞き取れない可能性があるので、オーディオアンプを使って十分なレベルに信号を増幅して出力する、という真に簡単な構成だ。
それにも関わらず、実際にはこれに必要なコンポーネントはいろいろある。上図は本当に必要最小限の構成なので、実際にはもう少し周辺回路が必要になるだ、説明には必要ないのでそのあたりは省きたい。
さて、ここでSystemとはどこからどこまでだろうか。狭義のSystemだと橙の破線のように「まるごと全部」である。外部コンポーネントとして必要なのはキーとスピーカーだけ、というところまで統合したものが、完璧なSoCである。
ところがが、実際にはここまで統合したものは非常に少ない。現実問題として普通のSoCの場合、せいぜいが黄緑の破線のように、オーディオアンプや音声データROMを外した構成なのが一般的だ。さらに製品によっては作業用のRAMや、電源回路も外すケースも珍しくない。あるいはプログラムを格納するROMも外付け、なんてケースもしばしばある。
これはなぜだろうか。理由は2つある。1つは、システム構成の柔軟性を確保するためだ。例えばオルゴールの演奏を60秒分格納できるROMを内蔵してしまうと、「やっぱり120秒分ほしい」といった瞬間に使えなくなる。
それでは1時間分のROMを持たせておけば大丈夫かというと、「10秒も鳴れば十分です」という用途には無駄が多すぎる。
これはオーディオアンプも同じで、ヘッドホンや小さなスピーカーだけを駆動できれば十分なのか、数十Wの出力が必要なのかでアンプの性格が変わってくる。
これは商品構成によって変化する部分なので、チップの設計段階で「これでいいだろう」と思って決めた構成が、実際に製品化しようとして「やっぱり駄目だった」となることが珍しくない。したがって、最終的な製品差別化につながる部分はあえてSystemの中に入れない方が賢明である。
もう1つの理由は、必ずしもワンチップ(ワンダイ)で製造できるとは限らないことだ。どんな製造プロセスを使うかにも関係してくる部分であるが、最先端のプロセス、今なら20~40nmくらいまではプロセッサーとRAMは当然実装できるが、フラッシュメモリーやEEPROMといったROMの部分はやや難易度が高い。
クロック信号生成はおそらく問題ないが、DACは結構大変である。電源回路もおそらく統合は無理で、オーディオアンプは論外である。これが13~90nmくらいになると、フラッシュメモリーやEEPROMは問題ないし、DACも実装できるようになる。電源回路もおそらく大丈夫で、オーディオアンプだけ外付けにすれば動作するようになる。
オーディオアンプまで統合しようとすると、もっと古い0.35μmくらいの高電圧プロセスが必要になってくるだろう。それでもせいぜいがヘッドホンアンプくらいであろう。このあたりは、どんなプロセスを使って製造するかにかかってくるわけだ。
話を元に戻すと、“System”とは「マーケティングおよび技術的に、リーズナブルに統合できる範囲」を指す。
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