スマートフォンの普及に伴い増加するスマホアプリ需要。アプリをつくったものの、ダウンロードされない、アクティブ数が増えない、マネタイズがうまくいかないなど、Web担当者にとってWebとは異なる悩みがあります。
本連載では、エキサイト株式会社の岡田さんが自社アプリの制作で培ったノウハウをもとに、「失敗しないスマホアプリ」のつくり方とマーケティング手法を紹介します(編集部)。
この連載が本になりました!
「ランキングが上がらない」「開発費が回収できない」アプリを作って終わりにしない現場のノウハウを凝縮。 「DL数が伸びない」「DAUが増えない」「課金されない」スマホアプリビジネスの悩みを、ASO、広告運用、内部改善など、豊富な事例をもとに解説。iOS/Androidマーケの全体像がつかめる国内唯一のアプリマーケ実践本です。連載時から大幅に加筆修正し、最新情報を盛り込みました!
事例に学ぶスマホアプリマーケティングの鉄則87
価格:2,700円 (本体2,500円) /形態:B5変 (208ページ)
ISBN:978-4-04-866451-6


まったく増えないダウンロード数。再現できないバグ、予期せぬプラットフォームのルール変更。寝る間を惜しんで開発したアップデート版への、既存ユーザーからの容赦ない酷評――。スマホアプリの誕生から4年間で経験した苦しみや失敗例は、枚挙に暇がありません。
App Store1位の裏に100倍の失敗体験
2009年2月に初めてiPhoneアプリの企画を担当してから現在まで、私はエキサイトで100本以上のスマートフォン・タブレット向けアプリに携わってきました。エキサイトがリリース中のアプリの累計ダウンロード数は最近1000万回を超え、中には「エキサイト英語翻訳」や「週刊Dモーニング」のようなヒットアプリも出てきました。
App Store総合1位やTV CM採用などの成功事例がある一方で、失敗事例はその100倍くらいあります。
- どんなアプリをつくるべきか(企画)
- つくっても広まらない(マーケティング)
- どう改善するべきか分からない(分析)
といった悩みを抱えているスマホアプリ担当者は多いでしょう。
本連載では、日々悩みながら、過去4年間に小さな成功と多くの失敗を重ねてきたエキサイトのスマホアプリ制作チームが学び続けていることを、事例や具体的な数値を交えながら紹介します。特に、ゲームアプリ以外の日用アプリにあれこれ悩みながら取り組んでいる方に読んで欲しいです。
エキサイトのアプリ事業の特徴
エキサイトのアプリ事業には2つの特徴があります。
ひとつは、日用アプリへの特化です。ニュース、翻訳、漫画、料理レシピ、絵本読み聞かせなど、日常生活を便利にしたり、楽しくしたりするサービスに絞ってアプリを提供しています。
もうひとつは、自社開発であることです。アプリの企画・開発・運用・プロモーションなどを自社のメンバーで担っています。コンテンツのパートナーがいるアプリも多数ありますが、アプリの開発業務や運用業務は社内で完結しています。
噂に惑わされず、ガイドラインから「思想」を読み取る
さて、本題に入りましょう。
- アプリをやる上で、何が一番大切なのか?
- どこからスタートしたらよいのか?
- どこに立ち戻ればよいのか?
これらの問いへの答えは「各プラットフォームのガイドラインを読むこと・読み続けること」です。アプリに限りませんが、原理・原則を理解するのは何よりも大事です。基礎が身についてないと、応用もできない、あえて基礎からハズすためにも欠かせません。
スポーツに例えると、ルールを理解していること、基本のフォームを身につけていること、用具の特性を理解していることは、初心者でも一流のプロ選手でも、重要です。一流選手に基本を大事にする人が多いのは、基本が身についているからこそイレギュラーな対応もできるからです。
少し乱暴かもしれませんが、スポーツをアプリに置き換えてみます。
- ルール=アップルやグーグル等のガイドライン
- 基本フォーム=コンセプトの設計から実装までの基本手順
- 用具の特性=デバイスやOSのスペック
詳細は次回解説しますが、原理原則をおさえておくことが、ユーザーにとって使いやすく意味のあるアプリづくりにつながります。またルールを把握することで、未然にトラブルを防ぐこともできます。
原理・原則は時代とともに変わり続けます。スポーツでも、用具の素材やサイズが変わったり、ルールが微妙に変わったり、王道と位置づけられる戦略が変わったりします。アプリも同じです。新仕様のデバイスが発売されたり、課金手法が多様化したり、OSがメジャーアップデートされたりと、かなりの速度で変化します。
アプリの原理・原則とは、各プラットフォームが定めている以下のようなガイドラインのことです。
Apple
iOS Human Interface Guideline日本語訳
Google Play ディベロッパー プログラム ポリシー
これらのガイドラインやポリシーには、単純なルールや禁止事項だけではなく、プラットフォームの基本的な考え方や、その背景にある哲学が詰まっています。
アップルやグーグルがどういう思想を元にプラットフォームを提供しているのか理解することは、表面的なルールを理解すること以上に大事なことです。表面的なルールは変化しますが、その背景にある哲学や思想はそう簡単に変わらないからです。プラットフォームを提供している各社が何を大事にしているか、何を嫌っているかを理解しましょう。
なお、大抵のガイドラインは英語です。日本語に訳される場合もありますが、翻訳には時差がありますので、最新版を英語で読むようにしましょう。
世の中にはスマートフォンに関するニュースやコラムが溢れていますが、断片的な情報や噂レベルで何ができて何が禁止なのか判断するのは危険です。一例ですが、アプリの審査について、実際と異なる内容があたかも公式情報のように広まることがありました。一次ソースとして各プラットフォームのガイドラインを読み、その背景にある哲学を理解していれば公式情報かどうかは判断できるはずです。
失敗しないアプリの企画・開発の第一歩、アプリ再起の第一歩はガイドラインをひたすら読み込み、読み返すことから始まります。
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次回は、アップルの「iOS Human Interface Guideline」を例に、アプリの企画・開発における最重要ポイントを紹介します。