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大手出版社がアマゾンと組めない理由

2013年09月03日 07時00分更新

文● 澁野 義一(Shibuno Giichi)/アスキークラウド編集部

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米国の大手出版社がアマゾンと定期購読の契約を結んだ。日本の出版社がアマゾンと提携できないのは、雑誌の販売スタイルが日米で大きく異なっていることが原因だ。

 「ヴォーグ」といえば、映画「プラダを着た悪魔」のモデルになったといわれる米国の有名ファッション誌だ。8月20日、発行元の米雑誌大手コンデナストは、定期購読で米アマゾンとの提携を発表した。

 アマゾンのアカウントを使って、「ヴォーグ」や「ワイヤード」といった雑誌の購入や定期購読ができる。もちろん電子版のダウンロードも可能で、米国の雑誌大手が定期購読でアマゾンと提携するのは初めてだ。

アマゾンと提携したコンデナストが発行する「ヴォーグ」のホームページ。


 米国のメディアによると、アマゾンが顧客情報をコンデナストと共有することで合意したため、提携が実現したという。その背景には、米国の複雑な書店事情がある。

 米国の国土面積は日本の25倍だが、書店数は3分の2程度。雑誌はウェブサイトやはがきで購読を申し込むのが一般的だ。そのためコンデナストには、購読者の年齢や居住地といった情報が集まっている。マーケティングや広告戦略などに使える、重要なデータだ。

 ところが本がアマゾンを経由して購入されるようになると、顧客情報をアマゾンに握られることになる。広告やレコメンドを出版社の頭越しにやられてしまうため、出版社にはアマゾンの販売力で雑誌の電子版が売れる以上のデメリットを抱え込むことになるのだ。

 そこでコンデナストは提携の条件として、アマゾンが持つ顧客情報の共有を提示したものと思われる。アマゾン側もコンデナストが持つ豊富なコンテンツを利用できるうえ、その顧客情報も手に入れられるわけで、まさにウィン・ウィンの提携というところだろう。

 しかし、このような「駆け引き」が可能なのは米国ならでは。日本の出版社は、そもそも顧客情報を持っていない。雑誌や本は書店で販売されるため、誰がどんな雑誌を読んでいるか分からないのだ。

 代わりに「読者アンケート」で読者像を掴もうとしているが、米国の雑誌ほど緻密な顧客情報を持っているとは言いがたい。つまり日本の出版社は、コンテンツ以外の「交渉材料」がない。

 一方で、アマゾンの存在感は増すばかりだ。日本通信販売協会によると、2012年度の国内通販売上高は前年度比6.3%の5兆4100億円。アマゾンジャパンの増収が全体成長の3割を占め、売上高は約7300億円に上るという。

 アマゾン優位の交渉条件をいかに切り崩せるか。日本の出版社がアマゾンと共存共栄するための試練は続く。

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