クラウド化は100年前「銀行の登場」と同じくらいの転換期だ
グーグルにとって、Webにないデータは紙のようなものだ。つまり、古い。
Gmail、Googleカレンダー、GoogleDrive、グーグルが開発しているアプリはすべてオンラインサービス。Webにアクセスして使うクラウドコンピューティングだ。ジャガーやランドローバーといったメーカーをはじめ、世界で500万社がGoogle Appsを導入している。会社のメールをGmailで受け取り、iPhoneに転送する、という光景も珍しくなくなった。
家、カフェ、会社。携帯からでも、パソコンからでも、最新のデータが編集できるのは便利だ。実際にデータを「同期」させて仕事をしている人も多いだろう。会社からすれば、ソフトに定期的にアップデートのパッチを当てなくて済むのはコストの削減にもなる。
だが、あらゆるデータをよその会社のサーバーに置いてしまってもいいのかという不安感もある。セキュリティの問題だ。グーグルのエンタープライズ部門セキュリティ担当統括責任者、エラン・ファイゲンバウム氏は、Webのセキュリティを銀行にたとえた。
「セキュリティはいま、転換期を迎えている。100年前、まだベッドの下にお金を隠していたような時代には、銀行がその役割を担っていた」
「二重化」がGmailを支えるセキュリティの鍵
銀行で言う金庫の役割にあたるのが、データを失わないこと、データを盗まれないこと。
Gmailは1つのデータをコピーして、2つのデータセンターに置いてある(冗長化)。Gmailのサービスが落ちずに動いている稼働率は99.99%という。また、Web知識を悪用するクラッカーにパスワードを盗まれたときのため「二段階認証」を実装した。
しかし、見えない保証への安心感というものは、銀行や保険とおなじように、身近さや親しみやすさとともにある。競合となるヤフーは10月1日、子会社であるIDCフロンティアとともに、日本国内のデータセンターを稼働させ、ローカルの顧客獲得に動いた。
グーグルによるローカリズムへの考え方は、「国内にあるセンターを使いたいと思うかもしれないが、どのセンターも『そのユーザー専用』にはなることはない」。国内外のどこであろうと、『自分たちの欲しいものに近い』サービスとは限らないということだ。
グーグルでは、ユーザーの振る舞いにもとづき、データをどこから提供するのが効率的かを考え、そのつどパターンを変更するアルゴリズムを採用している。そのアルゴリズムはこれまでのWeb事業でつちかってきた技術でもある。
昨年の大地震を受け、自然災害への危機意識も高まっている。アメリカ東海岸を大型ハリケーン「Sandy」が襲ったのはつい先日の話。グーグルでは東海岸以外のデータセンターを使うことで、サービスを止めずに運用を続けた。
グーグルの思想は「ITシステムは不具合を起こすものである」(エラン氏)。
グーグルでは現在、約300人のエンジニアがセキュリティ面の運用にあたっているという。彼らはその機械的な原則にもとづき、幾重ものセーフティ機構を備え、これまでの事業を展開してきた。価格か、スピードか、安定性か、競合たちはどうにかしてその壁を超えなければならない。グーグルの堅固な「安全機械」に立ち向かうことはできるだろうか。