「最近スマートフォンとかタブレットで、ARMのプロセッサーを搭載した製品がたくさん出てきている。これについて解説してくれませんか?」という依頼が編集部からあった。そこで数回に分けて、ARMプロセッサーの基本とロードマップについて解説したいと思う。
マイコンベンダーが自社開発したCPUから始まる
ARMの歴史
上に掲載したのが、ARMの大雑把な製品とアーキテクチャーのロードマップである。厳密に言えばいろいろと漏れはあるのだが(例えば拡張命令セットにVFPやTrustZoneがない)、おおむねの流れはこれでご理解いただけると思う。まずは簡単にARMの生い立ちから説明したい。
ARMは元々、イギリスのAcorn社というマイコン(今で言うパソコン)ベンダーの一部門であった。当時Acornは、米MOS Technology社の「6502」というプロセッサーをベースにマイコンを作っていた。しかし、この後継機種となるCPUを探したものの、手頃なものがないということで、自社でCPUを開発することを決定する。こうして1985年に製造されたのが、最初の「ARM1」である。
同社は引き続き、「ARM2」「ARM3」とCPUを強化してゆくが、皮肉なことにマイコンそのものよりも、ARM CPUの方に人気が出てしまう。最終的に、Acorn社からCPUコアの設計部隊がスピンオフする形で、ARM Ltd.を立ち上げる。これが1990年のことであり、当初はAcornと(当時の主要な製造事業者のひとつだった)VLSI Technology、それとApple Computerの3社によるジョイントベンチャーの形をとっていた。
この3社が関わったのは偶然ではなく、CPUコアのライセンスという形で最初に登場した「ARM6」は、AppleのPDA「Newton」に採用された。と言うよりも、「ARM6は当初、AppleのNewton用に開発された」と言うのが正確だろう。
このARM6を改良したのが、現在もまだ若干使われている「ARM7」である。ARM7は大変に広い用途で採用されており、さまざまなネットワーク機器や携帯機器(ゲーム機)、ちょっとした制御機器など、その用途は大変に広い。また一部の携帯電話のベースバンドプロセッサーに採用されたこともある。このARM7は、ARM Ltd.が飛躍するための最初の礎となった。
DEC開発のStrongARMで飛躍したARM9
これに続き、ARMは「ARM8」「ARM9」と開発を進めていくが、ここで重要な役割を果たしたのが、DEC(当時)の「StrongARM」であった。DECはARM6のプロセッサーライセンスのほかに、「ARM v4」のアーキテクチャーライセンスをARM Ltd.から受け、これを独自に改良して大幅に性能を引き上げたStrongARMを開発する。このStrongARMの構造は、ARMとDECのライセンス協定に基づきARM Ltd.にフィードバックされており、これを存分に生かしたのがARM9であった。
また同時にARMは、このARM v4のアーキテクチャーをベースにARM7を再設計しており、この結果登場したのが「ARM7TDMI」である。こちらはARM7の名前を引き継ぎつつも、実際はARM v4の世代に属したコアで、既存のARM7の顧客はそのままARM7TDMIにシフトすることになった。
あえて両者を区別すれば、ARM9はアプリケーションプロセッサーなどのハイパフォーマンス向けに、ARM7TDMIは制御機器などの低コスト・低消費電力向けに、それぞれ使われるようになっている。このARM7TDMIはARM7にもまして広く利用されるようになり、一方ARM9は携帯電話のベースバンドプロセッサーのみならず、一部アプリケーションプロセッサー的な利用もされるようになってきた。
この連載の記事
-
第801回
PC
光インターコネクトで信号伝送の高速化を狙うインテル Hot Chips 2024で注目を浴びたオモシロCPU -
第800回
PC
プロセッサーから直接イーサネット信号を出せるBroadcomのCPO Hot Chips 2024で注目を浴びたオモシロCPU -
第799回
PC
世界最速に躍り出たスパコンEl Capitanはどうやって性能を改善したのか? 周波数は変えずにあるものを落とす -
第798回
PC
日本が開発したAIプロセッサーMN-Core 2 Hot Chips 2024で注目を浴びたオモシロCPU -
第797回
PC
わずか2年で完成させた韓国FuriosaAIのAIアクセラレーターRNGD Hot Chips 2024で注目を浴びたオモシロCPU -
第796回
PC
Metaが自社開発したAI推論用アクセラレーターMTIA v2 Hot Chips 2024で注目を浴びたオモシロCPU -
第795回
デジタル
AI性能を引き上げるInstinct MI325XとPensando Salina 400/Pollara 400がサーバーにインパクトをもたらす AMD CPUロードマップ -
第794回
デジタル
第5世代EPYCはMRDIMMをサポートしている? AMD CPUロードマップ -
第793回
PC
5nmの限界に早くもたどり着いてしまったWSE-3 Hot Chips 2024で注目を浴びたオモシロCPU -
第792回
PC
大型言語モデルに全振りしたSambaNovaのAIプロセッサーSC40L Hot Chips 2024で注目を浴びたオモシロCPU -
第791回
PC
妙に性能のバランスが悪いマイクロソフトのAI特化型チップMaia 100 Hot Chips 2024で注目を浴びたオモシロCPU - この連載の一覧へ