クラウドで音声翻訳「VoiceTra」
独立行政法人 情報通信研究機構(NICT)がApp Storeで公開した「VoiceTra(音声翻訳 by NICT)」は、iPhone 3G/3GS/4、iOS 3.1.2以降(2010年8月14日現在、iOS 4.0.2以降では動作しない/対応版をリリース予定)で動作する音声翻訳アプリだ。NICTと内閣府・総務省が共同で推進するMASTARプロジェクトが、言語の壁を越える音声コミュニケーションを目指して行なう実験の一環であり、無償で利用できる。性能評価およびユーザビリティの調査は2010年末が期限と設定されているため、それ以降はサービスが終了する可能性もある。
この「VoiceTra」は、iPhoneを音声翻訳のクライアントとして利用する。iPhoneで入力された音声は、NICTのサーバーへと転送され、処理されたのちにiPhoneへ結果が転送される。一種のクラウドサービスとして提供されるため、3GまたはWi-Fiに接続できる環境が必須だ。
「VoiceTra」の特徴は、なんといっても対応する言語の豊富さにある。音声入力に対応する言語は日本語と英語、中国語(普通語/Mandarin)とインドネシア語、ベトナム語の計5言語で、日本語で音声入力して英語、中国語に翻訳(音声と文字で出力)するだけでなく、中国語から日本語や英語に翻訳することも可能だ。文章への翻訳であれば、フランス語やドイツ語など計21種の言語をサポートする。対応言語は順次追加する予定とのことだ。ただし、対応する会話の内容は旅行関連のみ、1日に翻訳可能な回数は最大100回という制限がある。
日本語から英語、中国語、イタリア語……など各国語への翻訳を試したが、「こんにちは」や「ビールをください」、「これはいくらですか」や「会計をお願いします」といった旅先での常套句は、結構な精度で認識されるようだ。声質にもよるのだろうが、ゆっくり・はっきり話しかけることを心がけたところ、失敗することのほうが少なかった。
ちなみに、ぞんざいな口調で「ビールちょうだい」と話しかけてみたところ、「ビールを下さい」(Beer Please)と翻訳。今度は命令口調で「ビールをよこせ」とすると、「ビールを」(Give me a beer)となり、類似の言い回しをサーバー側が検索し、そのうえでニュアンスを調整していることがうかがえた。
この「VoiceTra」、今回のリリースは実験が主な目的であり、データは翻訳品質向上に利用されるが、民間と協力して事業化することも目標に掲げられている。我々のデータも貴重なサンプルになりうるわけで、その意味では遠慮なく利用したい。