日本のブログ・SNSの「引きこもり」
リーマンのニュースで、新聞サイトと並んでアクセスを集めたのは、経済学者ポール・クルーグマン(Paul Krugman)やアナリストのバリー・リソルツ(Barry Ritholtz)などのブログだった。Huffington PostやBoing Boingなどの人気ブログは、マスメディアと変わらないアクセスを集めている。ブログが新しいジャーナリズムとして既存メディアを脅かしているのだ。
これに対して、日本のブログでそれほどの影響力を持つものは皆無だ。Diggで最近の人気記事を見ると、上位のほとんどは米大統領選挙関連だが、「はてなブックマーク」の人気記事にはリーマンも自民党総裁選もなく、身辺雑記とオタクネタが並んでいる。日本のブログの作者も読者も社会的な関心が薄く、狭い世界に引きこもっているのだ。
SNSも、Facebookでは大統領選を巡って多くのサイトが作られ、各候補者もアカウントを持ってインターネットによる選挙戦を展開している。しかし、日本の公職選挙法ではインターネットは禁止だ。SNSのほとんどは、ひとりごとのような日記と、身内のコミュニティーでの世間話である。
携帯サイトに未来はあるか
さらに日本の特異性は、携帯サイトがPCサイトを上回るアクセスを集めていることだ。携帯で最大のアクセスを集めるモバゲータウンは、月間150億ページビュー(PV)と、Yahoo! JAPANの200億PVに次いで日本で第2位のアクセスを集め、mixiでもモバイルのアクセスがPCを上回る。これは日本の携帯がガラパゴス化し、世界に類をみないデラックスな仕様になっているためだ。
しかし携帯端末で入力できるのは短文だけなので、身内のコミュニケーションとサイトを見るだけの情報消費が中心にならざるをえない。このように内向きになるのは、日本語という特殊で難解な言語の宿命だが、今後、世界の携帯電話が第3世代に移行してリッチ・コンテンツが利用されるようになれば、日本の進んだサービスが生きる可能性もある。モバゲータウンを運営するDeNAは、今月から海外向けのモバイルSNS「MobaMingle」を開始した。
一部の携帯端末の販売奨励金が廃止されて、端末の販売台数はダウンしたが、これは端末メーカーがグローバルな製品開発をするチャンスである。成熟した国内市場でコップの中の競争を続けるより、SIMロック(携帯端末を特定のキャリアに固定するしくみ)もやめて、世界市場に打って出るべきだ。
リーマンが破産して「アメリカの投資銀行はバカだ」と笑っている日本人がいるが、邦銀の傷が浅いのは、金融技術がなくてビジネスに参加できなかったからにすぎない。戦後、日本が奇跡的な成長を遂げたのは、製造業が海外に市場を求めて進出した結果だが、国内市場が大きくなるとガラパゴス化し、特に金融とITは海外では壊滅状態だ。ソフトウェア・ハードウェアともにグローバル化しないと、日本のIT産業に未来はない。
筆者紹介──池田信夫
1953年京都府生まれ。東京大学経済学部を卒業後、NHK入社。1993年退職後。国際大学GLOCOM教授、経済産業研究所上席研究員などを経て、現在は上武大学大学院経営管理研究科教授。学術博士(慶應義塾大学)。著書に「過剰と破壊の経済学」(アスキー)、「情報技術と組織のアーキテクチャ」(NTT出版)、「電波利権」(新潮新書)、「ウェブは資本主義を超える」(日経BP社)など。自身のブログは「池田信夫blog」。
この連載の記事
-
最終回
トピックス
日本のITはなぜ終わったのか -
第144回
トピックス
電波を政治的な取引に使う総務省と民放とNTTドコモ -
第143回
トピックス
グーグルを動かしたスマートフォンの「特許バブル」 -
第142回
トピックス
アナログ放送終了はテレビの終わりの始まり -
第141回
トピックス
ソフトバンクは補助金ビジネスではなく電力自由化をめざせ -
第140回
トピックス
ビル・ゲイツのねらう原子力のイノベーション -
第139回
トピックス
電力産業は「第二のブロードバンド」になるか -
第138回
トピックス
原発事故で迷走する政府の情報管理 -
第137回
トピックス
大震災でわかった旧メディアと新メディアの使い道 -
第136回
トピックス
拝啓 NHK会長様 -
第135回
トピックス
新卒一括採用が「ITゼネコン構造」を生む - この連載の一覧へ