紺色のひと

思考整理とか表現とか環境について、自分のために考える。サイドバー「このブログについて」をご参照ください

われは森の子、森ボーイ

最近、以前に比べて身なりに気を遣うようになった。もうちょっと正確に言えば、自分の好きな服と着ていて安心できる服の整合が取れつつある。「着る服は旅支度か戦闘服だと思え」という意識は変わっていなくて、そのうえで自分が好きな服を考えたら、なんのことはないそれがアウトドア系のファッションに近いものだった、ということだ。で、ここ半年くらいの僕のそういう変化を見て、恋人が「女子がアウトドア系の恰好するにはどうしたらいいの?」と聞いてきた。合わせてみようかなとか思っているらしい。愛い奴。そこでわからないなりにちょっと調べてみたりして、本屋さんでminiとかPSのアウトドアファッション特集とかを漁った挙句、僕が買ってきたのはこれだった。(前置きここまで)

うん、アウトドアぜんぜん関係ない。それはわかっている。
僕がこれを買ったのにはいくつか理由があった。ひとつは、林学分野の出の森ボーイを自負する僕としては、対抗馬である森ガールの生態を把握しておく必要がある、と思ったこと。そしてもうひとつは、表紙の蒼井優がかわいかったことである。
さしあたり定義から入ることにして、僕は本を開いた。

森ガールとは一言で言うと(中略)文化系女子のライフスタイル。その属性はたとえば以下のような感じです。

  • Aラインが出る服装をする
  • パフスリーブにきゅんとする
  • ラウンドトゥが好き
  • 友達に「森にいそうだね」と言われたことがある

(後略)

うん、まず語句の意味がわからないよ。
森ボーイは直径巻尺*1や新型ガンタッカー*2にきゅんとしたり、かさばるタオルより手ぬぐいが好きだったりするけれど、虫さされが嫌だからラインは出さないし、そもそも文化系じゃない。
そもそもこんな恰好で森に入ろうなんて、お前ら森ナメてんだろ? そうなんだろ? 森と言えば妖精さんとかクマさんキツネさんがキャッキャウフフしてると思ってんだろ? 刺された痛さでハチとカとアブの区別つかないんだろ? 蒸れる雨具の下の肌着の重さとか、顔面に突如貼り付く水滴つきのクモの巣とか想像だにしたことないんだろ? わーきれいなお花!とか言ってツタウルシでも掴んでしまえよ! だいいちこの雑誌の撮影は林だろ! この程度の立木密度で森を名乗るとか木が一本どころか二本も三本も足りねぇんだよ! 手斧で間伐やって出直してこい! ついでに裾のレースもナワシロイチゴに引っ掛けて来い!
僕の考える森ボーイってのはこんなんだし、

ついでにその仲間には川ボーイとか沼ボーイもいるのだが、


いずれにせよ、僕の想像していた森ガールの生態とはかけ離れていた。
僕はこの憤りを森ガールに面と向かってぶつけたくなったが、手頃な森ガールがいなかったので(すぐそばに「わたしは?わたしは?」と聞く女性はひとりいたが)ぶつぶつと中空に忌み言をばらまいた。
さて話を戻して、僕はAラインとはなんぞやとか、パフスリーブとはなんぞやとか、ラウンドトゥ、ファイ! とかいちいち恋人に聞きながら、少しずつ定義を深めていったのだった。
さて、本誌では森ガールの読むべき本として、ソローの「ウォールデン 森の生活」を挙げていたり、映画の中の森ガールとして「[rakuten:book:11602641:title]」を挙げていたりする。と、僕の視線がノンワイヤーのアンダーウェアに留った。森ガールは下着もそれっぽい柄なのだ。そのとき、なんの恨みか恋人が決定的なひと言を放った。
「そうそう、森ガールはみんな貧乳だから」
僕は思わず彼女のほうを振り向いた。
「蒼井優が巨乳だったら嫌でしょ?」
これには頷かざるを得なかった。確かに蒼井優が巨乳だったら嫌だ。台無しだ。魅力は半減どころか10分の1以下になるだろう。
ともかく恋人のその言葉によって、僕は森ガールに対して抱いていた「森をナメてる」というマイナスイメージを払拭するに至ったのであった。宮澤賢治かく語りき「かなしみはちからに、欲りはいつくしみに、いかりは智慧にみちびかるべし」。森ガールへの怒りは「(貧乳の)蒼井優はえらい」という知恵へと形を変え、僕の心に灯り続けるだろう。


あれっ、オチてない。



後日、オチをご用意しました。
→もし森ガールがゆるゆるファッションで実際に『森』へ入ったら - 紺色のひと

*1:木に巻き付けるとその木の直径がわかる特殊な巻尺

*2:木にタグ打ちをする際に用いるホチキス打ち込みマシーンのようなもの