金賢姫来日と国情院
※7月25日付の「調査会NEWS」947号に書いたものです。
自分が気がついた範囲ではほとんど報じられていないのですが、今回の金賢姫来日にあたっては、韓国の国家情報院(国情院。かつてのKCIA。その後国家安全企画部を経て現在に至る)の担当者による統制が非常に厳しく行われていたようです。
具体的にどうだったのかは詳しく聞いていませんが、日本政府が自由に情報が集められる状況でなかったという話もあり、それならなおのこと「何で日本に呼んだのか」ということになります。
しかも国情院からの規制についてあまり表に出てこないということは、規制をしていること自体が分からないように求められていたことの証拠でしょう。何だか、検閲をしていること自体を伝えさせなかった占領期のGHQみたいな話です。
ここからは私の推測です。韓国政府は天安の事件で国内向けにはある程度強硬姿勢を取らざるを得ず、国際的にも北朝鮮が「逆ギレ」状態で引き下がることもできないために一定の原則的姿勢を維持しています。しかしこれ以上の緊張激化は韓国国内の国論の分裂のみならず、韓国から外資が流出し経済が悪化することにつながるため何とかして避けたいという意向があるのではないでしょうか。事件以後10年ぶりに再開すると言っていた対北拡声器放送や政府の風船によるビラ撒布の実施などを先送りしているのはその証拠でもあります。
一方日本は「天安」撃沈事件で韓国をかなりしっかりと国際的にサポートしており、韓国政府としてはある程度借りを返さざるを得ず、差し障りのない範囲で日本政府の求めに応じたと考えれば大体理屈は通ります。家族会の皆さんが金賢姫と会ったときに彼女から語られた言葉は大体そういう線に沿ったものだったのではないか。
しかし、それは韓国側の理屈であり、情報収集をするために金賢姫を法的な特例措置まで講じて日本の領土内に入れたのならそれにふさわしいことをするのが当然でしょう。「始めに金賢姫ありき」で、呼ぶために何でも呑んでしまった結果が今回の来日だったとしたら本末転倒も甚だしいと言わざるを得ません。
金賢姫自身、日本に来るからにはもっと話したい、あるいは聞かれれば話しても良いことはあったはずです。家族会の皆さんも聞きたい話を聞けず、政府も情報収集をまともにできず、特定失踪者の家族に至っては全く蚊帳の外では、報道の量が増えた以外の効果はほとんどなかったと言っても過言ではないでしょう。テレビで報じたニュースの時間をCM代金で換算すれば安上がりということになるのかも知れませんが。
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