蒼い髪の乙女
主に「マリア様がみてる」と「リリカルなのは」の二次創作を書いています。「マリア様がみてる」はオリキャラが出たり、マイナーカプだったりします。「リリカルなのは」はなのは×はやてで書いています。なのはさんがはやてちゃんLOVEです!
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第14話 蒼い思い
蒼い髪のマリア更新です。
最終回一歩手前です。
今回の話であの事件のことがわかります。
話しの都合上、視点が頻繁に変わります。
少し読みにくいかもしれません。
今回はシリアス中のシリアスです。
あの事件の話ということで内容が痛いです。
この文章を読んでいるうちに心の準備をお願いします。
心の準備ができたら続きからどうぞ
(祥子視点)
「マリア!」
突如駆け出したマリアに驚きながらも、次の瞬間私は反射的にマリアを追っていた。
だんだんと小さくなっていく後姿を見失わないように必死に後を追う。
どうしてマリアがあの場から逃げるように去っていったのかはわからない。
私が行っても何も出来ないかもしれない。
だけど後悔だけはしたくない。いや、後悔なんて絶対にしない。
私がしたいことはとっくに決まっている。
マリアのそばにいたい、ただそれだけ。
(蓉子視点)
「本当にあの子は・・・」
紅薔薇の蕾が大勢の生徒の前で走ったりなんかしたら示しがつかないでしょう。
苦笑しながら妹の走り去っていく後ろ姿を見つめる。
(頑張りなさい)
妹の後ろ姿が見えなくなると、シンデレラに選ばれなかった王子様に頭を下げて謝った。
「失礼しました。妹達がとんだご無礼を」
「気にしないでください」
爽やかな笑顔で言う柏木さん。
そして今度は目を白黒させたもう一人の花寺の生徒に。
「あなた、祐麒君て言ったかしら?」
「は、はい!」
緊張しているか顔が少し強張っている。
顔に考えていることが出やすいタイプみたいだ。
「あなた、マリアちゃんのことを知っているみたいだけど」
「は、はい。同じ中学で同級生でしたから」
「なるほど・・・・それじゃあとりあえず薔薇の館まで来てもらいましょう。話の続きはその後で」
この子ならきっと知っているはず。
マリアちゃんに何があったのか。マリアちゃんの心に傷をつけたのは何なのか。
(マリア視点)
「はぁ、はぁ」
長い距離を走り続けていたせいで乱れた呼吸もやっと整ってきた。
きっと今頃、山百合会の人達は福沢君に私の過去の話を聞いているだろう。
あの事件のことが知られてしまったら、私はもうこの学園にはいられない。
だけどそれで良いのかもしれない。私がこの学園を選んだのも、お母さんがここの卒業生で、お母さんと同じ学校に通いたいと思っただけだから。
この学園に未練は残していない。それはいつでもここを去れるように私がしていたこと。
だけど
「どうして、あの人の顔が・・・」
頭のに浮かぶのはあの人の笑顔。
この場所であの人は私に手を差し伸べてくれた。
そして私はそれを自分から・・・・
「・・・・!」
考えることをやめろ!
あの人もあの事件のことを知ったら皆と同じように・・・・
ギギギ
古い扉が開く音。
私はゆっくりと扉の方に目を向ける。
どうしてあなたがここにいるの?
扉が開いた先にいたのは、今頭に思い描いてたその人だった。
(祥子視点)
はぁ、はぁ
胸が苦しい。呼吸が荒い。誰かのためにこんなに走ったのは初めてかもしれない。
膝に手をつけながら呼吸が整うのを待った。
走ることには多少の自身があったのに、私とマリアでは運動能力に差があって途中で見失ってしまった。
「一体どこへ行ったのかしら」
とりあえずマリアの進行方向に向かって走り続けていたけど、さすがに正確な場所まではわからない。
「早くあの子のところへ行かないといけないのに」
考える時間も惜しいけど、マリアが行きそうな場所を考えてみた。
「講堂の裏は進行方向とは全く違うし、他にあの子が行きそうな場所なんて・・・・あ」
頭に浮かんだのは、いつかの古い温室での光景。
マリアから初めて私の手をとってくれたあの日の出来事。
「行ってみるしかないわね」
他に考えたってそれ以上の場所は思いつかない。私は自分の直感を信じて、古い温室へと再び走った。
古い温室が見えてきた。ここに本当にマリアがいるのだろうか。
私ははやる心を落ち着かせてゆっくりと軋む温室の扉を開けた。
そして開けた扉の先にはマリアの姿が。
「マリア」
良かった。ここであっていた。
私は嬉しさですぐにでもマリアのそばに行こうと一歩温室に足を踏み入れた。だけど。
「来ないで!」
拒絶の言葉に一瞬足が止まる。
でもそれは本当に一瞬で、すぐに足を動かして一歩一歩マリアに近づいていく。
「それ以上私に近づかないで!」
必死なマリアの叫びに、あと少しでマリアに触れられるというところで足を止めた。
「どうして・・・来たんですか」
「あなたのそばにいたいからよ」
私の本心をそのまま伝え、マリアを抱きしめようと手を伸ばす。
「イヤ!」
パシッ!
私の手はマリアの手によってはじかれてしまった。手はヒリヒリと痛むけど、それでも私は諦めない。
「どうして?何で?どうして何度も拒絶されても祥子様は向かってくるんですか?何のために!」
「どうして?って・・・おかしなことを言うのねあなたは。私はここでもあなたに言ったはずよ?」
「ここでも?」
「そうよ。あなたを私のスールにしてみせるって。あなたを妹にできるなら私は何度拒絶されたって、された分だけまたあなたに近づくわ」
マリアの体を両腕で優しく包む。
その時マリアの体が一瞬震えたけど、拒絶はされなかった。
「それでも・・・」
「え?」
「それでも私は一人でいたいんです」
この子は今自分がどんな顔をしているのか分かっているのかしら。
一人でいたいと言ったマリアの表情は気丈な願いとは反対に今にも泣き出してしまいそうな表情で、どうしてこれ以上自分の傷つくことをするのか私には分からない。
「どうしてって聞いても良いかしら?」
私が聞くと、マリアは少し戸惑いを見せたがすぐに。
「・・・わかりました話します。どうせもう山百合会の人達には伝わっているでしょうから」
ついにマリアの過去と正面から立ち向かえる機会がきた。
大丈夫。何を話されたって全てを抱える覚悟はとうの昔に出来ている。
何かを決意した表情のマリアを私は真っ直ぐに見つめかえした。
(蓉子視点)
「俺が知ってるのはここまでです」
「話してくれてありがとう」
祐麒くんから聞いた話は悲しくて、想像を超えたものだった。
まさかマリアちゃんにそんな過去があったなんて思わなかった。
「だからあの記事を見たとき、あそこまで様子がおかしかったのね」
この話が本当なら、あの時からのマリアちゃんの変わりようは大体説明がいつく。
「本当にやってくれたわね新聞部。想像だけでよくあそこまで書けたものね」
きっとあの記事の一部がマリアちゃんの心の傷を開いたのだろう。
だけど。
「それ以外に私たちの知らない何かがマリアちゃんにはあるはずね」
「私もそう思うな」
私の言葉に聖が同意した。
「祐麒君の話を聞く限りじゃ、マリアちゃんは明るい良い子だったんでしょう?その事件が起こったからってあそこまで人を近づけないのは他に何か理由があるに決まってるよ」
私も聖に同意だ。
きっと私たちには想像できない何かがあったのだろう。
でもそれを知ることが出来るのは、あの子を救い出す全ての鍵を握っているのは祥子だけ。
「祥子・・・頼むわよ」
開いた窓の外を眺めながら、今マリアちゃんと対峙してるであろう妹に全ての希望を託した。
(祥子視点)
古い温室に二人っきり。私たちはあの日みたいに二人で並んで座っている。
「聞きたくないなら、今ならまだ間に合いますよ?」
「そんなこと思うわけないでしょう」
「わかりました・・・」
マリアは目を一度深く瞑るとゆっくりと語り始めた。
「私には2歳下の大切な妹がいました。お姉ちゃんって私を呼んで慕ってくれて、私もそんな妹が大好きでもしこの子に何かあったなら何を懸けてでも守ろうとさえ思っていました。だけどそれはかないませんでした」
「それはどういうこと?」
「あれは私が中学3年の6月。雨が降っていた日のことです・・・・・
一緒に帰っていた友達にいつも通りバイバイと言って別れて、私は自分の家に向かって歩き始めた。
「今日もまた雨・・・。梅雨の季節だから仕方無いけれど、さすがに三日連続はきついわね。」
そんな独り言を呟きながら、お気に入りの青い傘をさして自分の家まで歩いていく。
「ただいまー。雨のせいでまた制服が濡れちゃった。すぐに乾かさないと・・・?」
家の中に入ったところで、私は何かおかしいことに気付いた。
「いつもならお母さんが「お帰りー。」て玄関まで来てくれるのに。それに今日はお父さんも仕事が休みで家に居るはずなのに、妙に静かね。」
いつもと違う家の雰囲気に疑問を抱きながらも、靴を脱いで両親がいるはずのリビングに向かった。
「お父さん、お母さん今かえっ・・・た・・・・よ?」
リビングのドアを開くとそこは一面の赤だった。むせかえるような臭いが部屋中に充満している。
「な・・なに・・・コレ?・・・・血?」
反射的に口を手で覆う。部屋を見渡してみるソファーの後ろに二人分の足がみえた。
「お父さん!お母さん!大丈夫?何があったの?」
大声で二人を呼びながらソファーの後ろまで行くとそこには信じられない光景が広がっていた。
そここには血まみれの父と母の姿があった。
おそらく何度も刃物で刺されたのだろう。体中に刺し跡がある。
私はおぼつかない足取りで父と母のそばに寄った。
「お父さん!お母さん!何で!どうして!・・・・ウッ!」
無残に殺された両親の姿を見て中学生の私に耐えれるはずもなく、湧き上がる嘔吐と一緒に涙をこぼした。
お父さん・・お母さん・・と何度も呟きながら。
どのくらい経ったのだろう、少し落ち着きを取り戻した私はこれからすべきことを考えていた。
(救急車を呼んでももう・・・。この惨状を見れ手遅れだって私でも分かる。・・・いったい誰がこんなことを・・・何のために・・・)
「キャーーー!!!」
「!?」
突如二階から女の子の悲鳴が聞こえてきた。
(私の馬鹿!どうしてまだこの家に犯人がいるって可能性を考えなかったの。どうしてあの子が帰ってきてることを忘れてたの。)
その悲鳴で一気に覚醒した私は自分を責めながら二階へと続く階段を駆け上がった。
そして悲鳴が聞こえてきた部屋の前までたどり着くと、一気にドアを開けた。
「マユ!」
そこにはマスクをかぶった男が妹に刃物を突きつけて今にも襲おうとしている恐ろしい光景が広がっていた。
私は余りの恐怖に手させ動かすことが出来なかった。だけど
「お姉ちゃん!助けて!」
涙を流し震えた声で私を呼ぶ妹の声に私はハッとして刃物を持った男に対して身構えた。
「マユ!待っていてね。お姉ちゃんが絶対に助けてあげるから」
妹だけは守ってみせるという強い思いが私の恐怖を振り払ってくれる。
「あなたがお父さんとお母さんを殺したのね・・・・」
「・・・・・」
相手は何も答えない。答えないならそれでいい。
この状況で私がすることは唯一つ。
「マユだけは絶対に殺させない!」
私は殺意にこもった目で相手を睨みつけ抑え込んだ。
「マユ!今のうちに逃げて!」
「お姉ちゃんを置いていけないよ!」
「いいから早く行きなさい!」
私は必死で妹の逃げる時間を少しでも稼ごうとした。
だけど女のしかも中学生の私が年上の男の人の筋力に適うわけもなく。
グサッ!
「う!」
お腹が熱い。今まで感じたことの無い激痛が私を襲う。
次の瞬間、私は刺されたことを理解した。
足に力が入らない。体が床に倒れる。
「お姉ちゃん!」
「グフ!」
口の中が鉄の味で一杯になり、口から赤い液体が吐き出された。
「お姉ちゃん!お姉ちゃん!お姉ちゃん!」
妹の私を呼ぶ声。それがどんどんと遠くに聞こえ始める。
「マ・・ユ・・・逃・・げ・・て・・・」
「お姉ちゃん!・・・キャ!」
男が妹を突き飛ばした
「イヤ!助けて!お姉ちゃん!」
「マ・・・ユ・・・」
動いて・・・お願いだか動いて!
どんなに願っても動いてくれない私の体。マユだけは絶対に守るって決めたのに・・・。
薄れ行く意識の中で私は妹が殺さるのをただじっと黙って見ていることしかできなかった。
・・・・・そして目が覚めると私は白い部屋の中にいました」
マリアはそこまで喋るとどこか遠くの方を見ながら目を細めた。
「そんなことがあなたにあっただなんて・・・」
ただの中学生の女の子が両親を殺され、その上妹を目の前で殺される。
一体どれほどの衝撃があったかなんて私には想像できない。
そしてマリアは再び語り続ける。
「話を続けます。後でそこは病室だということがわかりました。そこで私は・・・・・
「生き残ったのは私だけ?」
医者から聞かされた話は私を絶望させるには十分な内容だった
「嘘でしょ!お父さんは!お母さんは!マユは!」
医者の白衣を掴むと力任せに引っ張る。
「残念ですが・・・」
「そん・・な・・・・」
白衣を掴んでいた手は力なくベッドの上に落ち、私はただただ泣き続けた。
・・・・・・守りたいものは守れないで、守ろうとした自分は生き残って・・・・・私は自分に力が無かったことを悔やみ続けました。毎日絶望と後悔の繰り返しで、いつのまにか私の髪は蒼色に染まっていました」
自分の髪を手に取り、それを見つめるマリアの姿はとても儚くて、今にも消えてなくなってしまいそうなほど弱々しく見えた。
今ならわかる気がする。
どうして私が初めて会ったときマリアの髪に惹かれたのか。
それはきっと私が蒼い髪に映る危うさに惹かれてしまったせい。
私は今確信した。
マリアの髪には積もりに積もった絶望と後悔の蒼い思いがこもっているのだと。
最終回一歩手前です。
今回の話であの事件のことがわかります。
話しの都合上、視点が頻繁に変わります。
少し読みにくいかもしれません。
今回はシリアス中のシリアスです。
あの事件の話ということで内容が痛いです。
この文章を読んでいるうちに心の準備をお願いします。
心の準備ができたら続きからどうぞ
(祥子視点)
「マリア!」
突如駆け出したマリアに驚きながらも、次の瞬間私は反射的にマリアを追っていた。
だんだんと小さくなっていく後姿を見失わないように必死に後を追う。
どうしてマリアがあの場から逃げるように去っていったのかはわからない。
私が行っても何も出来ないかもしれない。
だけど後悔だけはしたくない。いや、後悔なんて絶対にしない。
私がしたいことはとっくに決まっている。
マリアのそばにいたい、ただそれだけ。
(蓉子視点)
「本当にあの子は・・・」
紅薔薇の蕾が大勢の生徒の前で走ったりなんかしたら示しがつかないでしょう。
苦笑しながら妹の走り去っていく後ろ姿を見つめる。
(頑張りなさい)
妹の後ろ姿が見えなくなると、シンデレラに選ばれなかった王子様に頭を下げて謝った。
「失礼しました。妹達がとんだご無礼を」
「気にしないでください」
爽やかな笑顔で言う柏木さん。
そして今度は目を白黒させたもう一人の花寺の生徒に。
「あなた、祐麒君て言ったかしら?」
「は、はい!」
緊張しているか顔が少し強張っている。
顔に考えていることが出やすいタイプみたいだ。
「あなた、マリアちゃんのことを知っているみたいだけど」
「は、はい。同じ中学で同級生でしたから」
「なるほど・・・・それじゃあとりあえず薔薇の館まで来てもらいましょう。話の続きはその後で」
この子ならきっと知っているはず。
マリアちゃんに何があったのか。マリアちゃんの心に傷をつけたのは何なのか。
(マリア視点)
「はぁ、はぁ」
長い距離を走り続けていたせいで乱れた呼吸もやっと整ってきた。
きっと今頃、山百合会の人達は福沢君に私の過去の話を聞いているだろう。
あの事件のことが知られてしまったら、私はもうこの学園にはいられない。
だけどそれで良いのかもしれない。私がこの学園を選んだのも、お母さんがここの卒業生で、お母さんと同じ学校に通いたいと思っただけだから。
この学園に未練は残していない。それはいつでもここを去れるように私がしていたこと。
だけど
「どうして、あの人の顔が・・・」
頭のに浮かぶのはあの人の笑顔。
この場所であの人は私に手を差し伸べてくれた。
そして私はそれを自分から・・・・
「・・・・!」
考えることをやめろ!
あの人もあの事件のことを知ったら皆と同じように・・・・
ギギギ
古い扉が開く音。
私はゆっくりと扉の方に目を向ける。
どうしてあなたがここにいるの?
扉が開いた先にいたのは、今頭に思い描いてたその人だった。
(祥子視点)
はぁ、はぁ
胸が苦しい。呼吸が荒い。誰かのためにこんなに走ったのは初めてかもしれない。
膝に手をつけながら呼吸が整うのを待った。
走ることには多少の自身があったのに、私とマリアでは運動能力に差があって途中で見失ってしまった。
「一体どこへ行ったのかしら」
とりあえずマリアの進行方向に向かって走り続けていたけど、さすがに正確な場所まではわからない。
「早くあの子のところへ行かないといけないのに」
考える時間も惜しいけど、マリアが行きそうな場所を考えてみた。
「講堂の裏は進行方向とは全く違うし、他にあの子が行きそうな場所なんて・・・・あ」
頭に浮かんだのは、いつかの古い温室での光景。
マリアから初めて私の手をとってくれたあの日の出来事。
「行ってみるしかないわね」
他に考えたってそれ以上の場所は思いつかない。私は自分の直感を信じて、古い温室へと再び走った。
古い温室が見えてきた。ここに本当にマリアがいるのだろうか。
私ははやる心を落ち着かせてゆっくりと軋む温室の扉を開けた。
そして開けた扉の先にはマリアの姿が。
「マリア」
良かった。ここであっていた。
私は嬉しさですぐにでもマリアのそばに行こうと一歩温室に足を踏み入れた。だけど。
「来ないで!」
拒絶の言葉に一瞬足が止まる。
でもそれは本当に一瞬で、すぐに足を動かして一歩一歩マリアに近づいていく。
「それ以上私に近づかないで!」
必死なマリアの叫びに、あと少しでマリアに触れられるというところで足を止めた。
「どうして・・・来たんですか」
「あなたのそばにいたいからよ」
私の本心をそのまま伝え、マリアを抱きしめようと手を伸ばす。
「イヤ!」
パシッ!
私の手はマリアの手によってはじかれてしまった。手はヒリヒリと痛むけど、それでも私は諦めない。
「どうして?何で?どうして何度も拒絶されても祥子様は向かってくるんですか?何のために!」
「どうして?って・・・おかしなことを言うのねあなたは。私はここでもあなたに言ったはずよ?」
「ここでも?」
「そうよ。あなたを私のスールにしてみせるって。あなたを妹にできるなら私は何度拒絶されたって、された分だけまたあなたに近づくわ」
マリアの体を両腕で優しく包む。
その時マリアの体が一瞬震えたけど、拒絶はされなかった。
「それでも・・・」
「え?」
「それでも私は一人でいたいんです」
この子は今自分がどんな顔をしているのか分かっているのかしら。
一人でいたいと言ったマリアの表情は気丈な願いとは反対に今にも泣き出してしまいそうな表情で、どうしてこれ以上自分の傷つくことをするのか私には分からない。
「どうしてって聞いても良いかしら?」
私が聞くと、マリアは少し戸惑いを見せたがすぐに。
「・・・わかりました話します。どうせもう山百合会の人達には伝わっているでしょうから」
ついにマリアの過去と正面から立ち向かえる機会がきた。
大丈夫。何を話されたって全てを抱える覚悟はとうの昔に出来ている。
何かを決意した表情のマリアを私は真っ直ぐに見つめかえした。
(蓉子視点)
「俺が知ってるのはここまでです」
「話してくれてありがとう」
祐麒くんから聞いた話は悲しくて、想像を超えたものだった。
まさかマリアちゃんにそんな過去があったなんて思わなかった。
「だからあの記事を見たとき、あそこまで様子がおかしかったのね」
この話が本当なら、あの時からのマリアちゃんの変わりようは大体説明がいつく。
「本当にやってくれたわね新聞部。想像だけでよくあそこまで書けたものね」
きっとあの記事の一部がマリアちゃんの心の傷を開いたのだろう。
だけど。
「それ以外に私たちの知らない何かがマリアちゃんにはあるはずね」
「私もそう思うな」
私の言葉に聖が同意した。
「祐麒君の話を聞く限りじゃ、マリアちゃんは明るい良い子だったんでしょう?その事件が起こったからってあそこまで人を近づけないのは他に何か理由があるに決まってるよ」
私も聖に同意だ。
きっと私たちには想像できない何かがあったのだろう。
でもそれを知ることが出来るのは、あの子を救い出す全ての鍵を握っているのは祥子だけ。
「祥子・・・頼むわよ」
開いた窓の外を眺めながら、今マリアちゃんと対峙してるであろう妹に全ての希望を託した。
(祥子視点)
古い温室に二人っきり。私たちはあの日みたいに二人で並んで座っている。
「聞きたくないなら、今ならまだ間に合いますよ?」
「そんなこと思うわけないでしょう」
「わかりました・・・」
マリアは目を一度深く瞑るとゆっくりと語り始めた。
「私には2歳下の大切な妹がいました。お姉ちゃんって私を呼んで慕ってくれて、私もそんな妹が大好きでもしこの子に何かあったなら何を懸けてでも守ろうとさえ思っていました。だけどそれはかないませんでした」
「それはどういうこと?」
「あれは私が中学3年の6月。雨が降っていた日のことです・・・・・
一緒に帰っていた友達にいつも通りバイバイと言って別れて、私は自分の家に向かって歩き始めた。
「今日もまた雨・・・。梅雨の季節だから仕方無いけれど、さすがに三日連続はきついわね。」
そんな独り言を呟きながら、お気に入りの青い傘をさして自分の家まで歩いていく。
「ただいまー。雨のせいでまた制服が濡れちゃった。すぐに乾かさないと・・・?」
家の中に入ったところで、私は何かおかしいことに気付いた。
「いつもならお母さんが「お帰りー。」て玄関まで来てくれるのに。それに今日はお父さんも仕事が休みで家に居るはずなのに、妙に静かね。」
いつもと違う家の雰囲気に疑問を抱きながらも、靴を脱いで両親がいるはずのリビングに向かった。
「お父さん、お母さん今かえっ・・・た・・・・よ?」
リビングのドアを開くとそこは一面の赤だった。むせかえるような臭いが部屋中に充満している。
「な・・なに・・・コレ?・・・・血?」
反射的に口を手で覆う。部屋を見渡してみるソファーの後ろに二人分の足がみえた。
「お父さん!お母さん!大丈夫?何があったの?」
大声で二人を呼びながらソファーの後ろまで行くとそこには信じられない光景が広がっていた。
そここには血まみれの父と母の姿があった。
おそらく何度も刃物で刺されたのだろう。体中に刺し跡がある。
私はおぼつかない足取りで父と母のそばに寄った。
「お父さん!お母さん!何で!どうして!・・・・ウッ!」
無残に殺された両親の姿を見て中学生の私に耐えれるはずもなく、湧き上がる嘔吐と一緒に涙をこぼした。
お父さん・・お母さん・・と何度も呟きながら。
どのくらい経ったのだろう、少し落ち着きを取り戻した私はこれからすべきことを考えていた。
(救急車を呼んでももう・・・。この惨状を見れ手遅れだって私でも分かる。・・・いったい誰がこんなことを・・・何のために・・・)
「キャーーー!!!」
「!?」
突如二階から女の子の悲鳴が聞こえてきた。
(私の馬鹿!どうしてまだこの家に犯人がいるって可能性を考えなかったの。どうしてあの子が帰ってきてることを忘れてたの。)
その悲鳴で一気に覚醒した私は自分を責めながら二階へと続く階段を駆け上がった。
そして悲鳴が聞こえてきた部屋の前までたどり着くと、一気にドアを開けた。
「マユ!」
そこにはマスクをかぶった男が妹に刃物を突きつけて今にも襲おうとしている恐ろしい光景が広がっていた。
私は余りの恐怖に手させ動かすことが出来なかった。だけど
「お姉ちゃん!助けて!」
涙を流し震えた声で私を呼ぶ妹の声に私はハッとして刃物を持った男に対して身構えた。
「マユ!待っていてね。お姉ちゃんが絶対に助けてあげるから」
妹だけは守ってみせるという強い思いが私の恐怖を振り払ってくれる。
「あなたがお父さんとお母さんを殺したのね・・・・」
「・・・・・」
相手は何も答えない。答えないならそれでいい。
この状況で私がすることは唯一つ。
「マユだけは絶対に殺させない!」
私は殺意にこもった目で相手を睨みつけ抑え込んだ。
「マユ!今のうちに逃げて!」
「お姉ちゃんを置いていけないよ!」
「いいから早く行きなさい!」
私は必死で妹の逃げる時間を少しでも稼ごうとした。
だけど女のしかも中学生の私が年上の男の人の筋力に適うわけもなく。
グサッ!
「う!」
お腹が熱い。今まで感じたことの無い激痛が私を襲う。
次の瞬間、私は刺されたことを理解した。
足に力が入らない。体が床に倒れる。
「お姉ちゃん!」
「グフ!」
口の中が鉄の味で一杯になり、口から赤い液体が吐き出された。
「お姉ちゃん!お姉ちゃん!お姉ちゃん!」
妹の私を呼ぶ声。それがどんどんと遠くに聞こえ始める。
「マ・・ユ・・・逃・・げ・・て・・・」
「お姉ちゃん!・・・キャ!」
男が妹を突き飛ばした
「イヤ!助けて!お姉ちゃん!」
「マ・・・ユ・・・」
動いて・・・お願いだか動いて!
どんなに願っても動いてくれない私の体。マユだけは絶対に守るって決めたのに・・・。
薄れ行く意識の中で私は妹が殺さるのをただじっと黙って見ていることしかできなかった。
・・・・・そして目が覚めると私は白い部屋の中にいました」
マリアはそこまで喋るとどこか遠くの方を見ながら目を細めた。
「そんなことがあなたにあっただなんて・・・」
ただの中学生の女の子が両親を殺され、その上妹を目の前で殺される。
一体どれほどの衝撃があったかなんて私には想像できない。
そしてマリアは再び語り続ける。
「話を続けます。後でそこは病室だということがわかりました。そこで私は・・・・・
「生き残ったのは私だけ?」
医者から聞かされた話は私を絶望させるには十分な内容だった
「嘘でしょ!お父さんは!お母さんは!マユは!」
医者の白衣を掴むと力任せに引っ張る。
「残念ですが・・・」
「そん・・な・・・・」
白衣を掴んでいた手は力なくベッドの上に落ち、私はただただ泣き続けた。
・・・・・・守りたいものは守れないで、守ろうとした自分は生き残って・・・・・私は自分に力が無かったことを悔やみ続けました。毎日絶望と後悔の繰り返しで、いつのまにか私の髪は蒼色に染まっていました」
自分の髪を手に取り、それを見つめるマリアの姿はとても儚くて、今にも消えてなくなってしまいそうなほど弱々しく見えた。
今ならわかる気がする。
どうして私が初めて会ったときマリアの髪に惹かれたのか。
それはきっと私が蒼い髪に映る危うさに惹かれてしまったせい。
私は今確信した。
マリアの髪には積もりに積もった絶望と後悔の蒼い思いがこもっているのだと。
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