日本郵便をめぐって2つのニュースがマスコミをにぎわしています。1つは、日本郵便の新大阪支店長の逮捕。これは、障害者団体のための制度が悪用され、大量のダイレクトメールが違法に格安の料金で郵送されていた事件で、大阪地検特捜部が、郵便事業会社(日本郵便)の新大阪支店長が違法と知りながら発送を承認していた疑いが強まったとして、郵便法違反の疑いで逮捕したというもの。日本郵便の幹部が逮捕されたのは初めてとのこと。
2つめは、郵便局での深夜勤務でうつ病になったとして、郵便事業会社(日本郵便)の男性社員2人が同社に慰謝料の支払いなどを求めた訴訟の判決で、東京地裁が18日、最長で11時間拘束される「連続の深夜勤務とうつ病の発症には因果関係がある」と述べ、計130万円の賠償を命じたというもの。原告側弁護団は、「連続深夜勤と精神疾患の因果関係を認めて賠償を命じた点は画期的だ」(共同通信)と語っていることが報道されています。
そして、今週の『週刊ダイヤモンド』(5/23)では、「『かんぽの宿』だけじゃない!日本郵政の暗部」と題した特集を組んでいます。
特集冒頭の見出しは「迷走する大本営」で、日本郵政グループを牛耳る民間役員の暗躍の実態を取り上げています。「かんぽの宿」売却を仕切った三井住友銀行出身の役員グループの暗躍はもちろんのこと、公社時代の共用カードの実績は18位で0.2%のシェアしかなかった三井住友カードを2007年、ゆうちょ銀行独自のカード事業の委託先として三井住友カードに決めた日本郵政・常務取締役も元三井住友カードの副社長だったこと、郵便局の現場に混乱だけを持ち込んだトヨタ自動車チームの実態、そして現在、日本郵政の社外取締役をつとめる奥谷禮子ザ・アール社長の問題などが取り上げられています。奥谷禮子氏率いる人材派遣会社ザ・アールが、7億円で受注して実施した郵政公社時代の接遇マナー研修について、「7億円をどぶに捨てたマナー向上運動の顛末」と見出しを付けているところを一部紹介すると--
「これがスカイブルーの挨拶です」--元キャビンアテンダント(CA)だという講師はそう言うと、深々とお辞儀をしてみせた。お辞儀をされたお客さんが青空のような爽快さを感じるから「スカイブルー」なのだそうな。続いて、書留配達のロールプレイング。配達先でまず自身の所属局と部署、名前を言ってスカイブルーのお辞儀をし、満面の笑みで「○○様、本日は書留をお届けに上がりました」と告げなければならない。参加した職員はたまらず、研修を見守る幹部に尋ねた。「あんなことをしたら配達先が気味悪がってドアを開けてくれなくなるけど、本当にやるんですか」--。職員全員の接客態度をランク付けするとし、ランクは上から三つ星、二つ星、一つ星、星なし。星の獲得には研修参加が不可欠で、二つ星、三つ星には筆記試験が課される。獲得すれば星の絵柄入りのバッジが支給される。当初、「星のない職員は接客業務からはずす」とまで宣言していたが、現実には慢性的人手不足のために職員が星を獲得するまで待っている余裕などなかった。加えて、7億円もの取引がある奥谷氏が日本郵政の社外取締役に就任したことが国会で問題となり、民営化後は星の認定制度そのものが雲散霧消してしまった。「7億円はどぶに捨てたようなもの」(郵政関係者)だ。「人にマナーを説く前に、経営者としての“マナー違反”をなんとかしてほしい」
「疲弊する現場」と見出しが打たれたところでは、郵便局の現場の深刻な実態を、ジャーナリストの藤田和恵さんが取材しています。
私の地域では、10人ほどの局長が民営化直前に退職した。急死した人もいるし、辞めずに続けて病気になった人もたくさんいる。自殺者も出ている。なぜか、まったくニュースにはならないんですが。民営化後の郵便局長は「名ばかり局長」。裁量も権限もなく、すべてが上意下達になってしまった。今、局内には監視カメラが設置されている。24時間稼働しており、局長や職員の手元を常に録画している。いい加減、頭もおかしくなりますよ。(元郵便局長の証言)
日本郵政で働く「ゆうメイト」は現在20万4,000人。「ゆうメイト」は、契約期間1年の月給制契約社員、同6カ月の時給制契約社員とパートタイマー、同1カ月のアルバイトなどの非正規社員のこと。日本郵政グループにおける非正規社員比率は約50%。ゆうメイトの仕事内容は正社員と変わらないが、平均時給は990円で、夏季・冬季休暇も、扶養手当や住居手当といった諸手当もありません。フルに働いても年収は賞与込みで約210万円。生活保護給付にも満たない収入で働く膨大なワーキングプアが郵政事業を支えているのです。また、本社・支社に圧力をかけられ、自律性を失った郵便局長たちのストレスは時に部下にぶつけられ、最後にしわ寄せを受けるのが、非正規社員のゆうメイトで、正社員からのセクハラ、パワハラが急増しているとのことです。
特集記事の最後は「民営化の正否」で、下表にあるように、国際的にみると、「郵政民営化」が少数派であることを指摘しています。
▼郵政民営化は国際的には少数派
なぜか世間一般にあまり知られていないこととして、アメリカは、国内では「郵政事業の国営堅持」を続け、一方で2004年の対日改革要望書で、日本には「郵政民営化」を強く促したということです。このアメリカの強い要望にもとづいて、日本では「郵政民営化」が行われたのに、発信源のアメリカ国内の結論は、「ユニバーサルサービスの維持と、完全民営化は両立しない」というもので、「郵政民営化を担当した竹中平蔵氏もなぜかこの点には触れようとしない」と指摘しています。(※ユニバーサルサービスとは、全国どこでも一律にほぼ同じ価格や条件で利用できるサービスのことです)
「ユニバーサルサービスの維持と、完全民営化は両立しない」というアメリカ国内の結論どおりのことが、日本で起こっているとして、全国の市区町村長が郵政民営化の在り方に懐疑的であることを示すアンケート調査結果(下のグラフ)を紹介しています。
そして、民営化しているドイツポスト首脳ですらも「民営化はゆっくりと時間をかけて進めるべきだ」と語り、ブレア元英首相も「日本だけが逆行しているようですね」と皮肉られていることなども紹介し、特集の最後に、「拙速な民営化は危険である。ニュージーランドのように、ポストバンクをいったん売却し、その後で再びポストバンクを設立するなどという愚を犯すべきではない。米国で国営郵便が堅持されている意味をあらためて問い直し、あるべき改革の方向性を再構築する作業が今こそ必要だ」としています。
(byノックオン)