法人税についても主に赤旗とブログ「すくらむ」さんからいいとこ取りでまとめておきましょう。これも消費税Q&Aに引き続き、自分の記憶用のための必殺他力本願記事です(^^;)
Q1 経団連は日本の法人税は国際的に比較しても高いと言っていますが・・Q2 法人税(を含む企業の公的負担)をさげないと、企業の国際競争力がさがってしまうのでは?Q3 もし企業の国際競争力が下がれば困るのは国民では?Q4 法人税をあげると、企業は日本の高い法人税を嫌って外国に逃げていってしまうのでは?Q1 経団連は日本の法人税は国際的に見て高いと言っていますが・・A (1)まず、企業の負担は法人税だけではなく社会保険料もあるわけですから、両者を加味した『公的負担』で国際比較すべきであって、法人税だけを比較してもあまり意味はありません。
では、法人税と社会保険料を足した企業の公的負担の国際比較を見てみましょう。
すくらむ
日本の大企業負担(法人税・社会保険料)は他国より軽い - 法人税減税でなく欧州並みの負担増をより
企業というのは、どこの国に行ってもこの「法人税」と「社会保険料」を負担しなければなりません。ですから、「企業負担」を国際比較するなら「法人税」だけではおかしいのです。そうすると上のグラフにあるように、自動車製造業の「企業負担」は、フランス41.6、ドイツ36.9、日本30.4、アメリカ26.9、イギリス20.7で、日本は先進5カ国中3位です。情報サービス業の「企業負担」にいたっては、フランス70.1、ドイツ55.7、アメリカ46.7、日本44.2、イギリス39.3と、日本は5カ国中4位です。「法人税」の負担だけで比較しても、情報サービス業と金融業では、日本企業はアメリカ企業よりも負担が軽くなっています。ですから、よく言われる「法人税が高いと国際競争力が低下する」とか、「企業が海外に出て行ってしまう」などという主張はまったくのデタラメなのです。
(略)
日本の法人税は他国と比べても高くありませんし、実際の企業の公的負担(法人税と社会保険料)は、フランスやドイツの7~8割で、むしろ日本の企業負担は相当低いことが分かりました。日本の法人税を低くするのではなく、大企業優遇税制をやめて、ヨーロッパ並みの負担を日本の大企業にもきちんと果たさせる必要があるのです。
(2)次は法人税について見てみましょう。
確かに法人税の実効税率だけを見ると40%近い数字は高いように見えます。
財務省HP 法人所得課税の実効税率の国際比較しかし企業の実際の負担はさほどでもありません。実際には大企業は約40%より更に少なくしか払っていないのです。
前出
すくらむより
一例をあげると、大企業に対する「研究開発減税」では、研究費の10%前後の減税が受けられ、その上限は法人税額の2割にもなります。研究開発費の大きい自動車や電機、製薬などの大企業では、実際の税負担率が大きく低くなるのです。(略)
企業の税負担は、単純な表面税率の比較ではわからないのです。企業の実質の税負担を解明しなければならないのです。そこで日本の大企業の実際の税負担を、企業が公表している有価証券報告書から計算してみると、日本の大企業の場合、経常利益上位100社平均で30.7%であることがわかりました。表面税率で計算すると40.69%の実効税率が、大企業は様々な優遇税制で、10%も下がっているのです。これが大企業の実質税負担なのです。
赤旗研究開発費の一定額を税額から差し引ける研究開発減税や、グループ内の黒字企業の利益を赤字企業の損失と相殺できる連結納税制度などの影響があります。
そのほか、海外進出企業が外国で支払った法人税額を日本で支払う法人税額から差し引く外国税額控除や、海外子会社からの配当を非課税とする制度などが、大企業の税負担を軽減しています。
http://www.jcp.or.jp/akahata/aik10/2010-06-29/2010062903_01_0.htmlより
大企業優遇税制というヤツですね。他にも次の記事は必読です。
・
法人税 「40%は高い」といいながら実は…ソニー12% 住友化学16%・
「日本の法人税は高すぎる」というが 三大銀行 10年以上 法人税ゼロ・
法人実効税率と実際の税率は?法律では40.69%だが優遇制度で10%台も(3)ちなみに消費税還付金を貰っていることも忘れずにメモ
これでも法人税(即ち企業負担)が高いから下げろというのは面の皮が厚すぎるいうものでしょう。
Q2 法人税(を含む企業の公的負担)をさげないと、企業の国際競争力がさがってしまうのでは?A 法人税(公的負担)が高ければ当然国際競争力がさがるのは当然であるかのようにいわれていますが、そもそも国際競争力ってなんでしょう?
赤旗
経済時評「国際競争力」論の落とし穴より
(引用開始)
もともと「国際競争力」という用語自体、ファジー(あいまい)な概念です。「国際競争に打ち勝つ力」などと言い換えても、その“力”の内実が何なのか、簡単には定義されにくいからです。
財界が「国際競争力」という場合は、もっぱら個別の産業や企業、製品のレベルの競争力を指しています。しかも、賃金なら賃金だけ、法人税率なら法人税率だけをとりだして、単純に国際比較するという方法です。
こうした財界流の「国際競争力」の議論は、単純な数値の国際比較になるため、いかにも客観的な根拠にもとづくように見えます。たとえば「中国やアジア諸国に比べると、日本の賃金水準は高すぎる。国際競争力のために、賃下げが必要だ」などという論法です。
しかし、ある製品の競争力を計る場合、賃金はその重要な要素ですが、ほかにも製品の品質、労働生産性、為替レートなど、競争力を規定するさまざまな要素があります。
たとえば、労働生産性が四倍だったら、賃金が二倍でも、単位あたりの労働コストは二分の一になります。さらに、労働生産性は、機械設備の技術的条件、労働者の熟練度、労働の強度など、さまざまな要素に規定されており、これらの要素すべてが「国際競争力」の内実を複合的に構成しています。
(略)
現実の経済では、さまざまな要因が連関し、相互作用のなかで変動しています。「国際競争力」をかかげて賃金だけをとりだして切り下げ続けるならば、短期的には企業利潤を増大させる効果があったとしても、長期的にみれば、「労働力の再生産」の条件そのものを掘り崩して、将来の労働生産性の低下をもたらすことになるでしょう。
(引用ここまで)
また村野瀬玲奈さんの指摘も参考になります。
「競争力」って何だろう。以上を見てみると、どのくらい「国際競争に打ち勝つ力」があるかなんてことは大雑把に比べることはできても数字で明快に表すことがしづらいファジーなものであるし、ある製品の競争力を計る場合、賃金や製品の品質、労働生産性、為替レートなど、競争力を規定するさまざまな要素があるわけですから、「法人税が下がれば国際競争力が上がる」と単純に直結させていいのか眉唾です。
そういえば公的負担の高低と国際競争力の高低に因果関係があるかどうかの検証って、聞いたことありませんね。これについて次のエントリーを。
すくらむ
法人税減税は究極のバラマキ -大企業の国際競争力強化が経済・財政悪化と貧困化の悪循環生むより
「公的負担は自動車、電機、情報サービスいずれの産業でも日本より独仏の方が重い。英米の自動車、電機産業の公的負担は日本より軽いが、国際競争力は弱い。米国の情報サービス業は競争力は強いが、その公的負担は日本より重い。(中略)つまり、日本企業の公的負担は欧米より重いとは言えず、公的負担の軽さと競争力とが一致しているとも言えない。」
(略)
現実には、日本より公的負担が軽い英米の企業が国際競争力が弱かったり、日本より公的負担が重い米国の企業が国際競争力が強かったりしているのです。公的負担を軽くしたからといって企業の国際競争力が強化されるわけではないのです。つまり、“国際競争力強化のために法人税減税をすべきだ”という主張は、現実の企業の存在によって、根本から間違っていることがすでに証明されているということなのです。(引用ここまで)
つまり「法人税の高低」と「国際競争力の高低」の間に明確な関連性はなく、「法人税を下げないと国際競争に勝てない」というのは「誤前提暗示」だったわけですね。
Q3 もし企業の国際競争力が下がれば困るのは国民では?A 何故政府や財界は企業の国際競争力が低下するといけないと主張するのかといえば、「大企業の国際競争力が上がれば給料も上がって国民も豊かになる、しかし企業の国際競争力が下がれば給料も下がって国民も貧しくなる、そうなっては困るでしょう?」というトリクルダウンの理論を前提にしているからです。
しかし現実は違いました。国際競争力が上がっても国民は豊かにならないのです。
前出のすくらむより
「02~06年の日本経済は輸出主導で景気が回復したが、雇用者報酬は上がらず、デフレを脱却できなかった。国際競争力を強化しても国民は豊かにならないのだ。(中略)そもそも日本の輸出は国内総生産(GDP)の2割にも満たない。輸出の拡大で経済全体を引っ張ろうとするより、8割以上を占める内需の拡大を重視した方が合理的だ。法人税減税はその内需を逆に縮小させる公算が大きい。なぜなら今の日本経済は、需要不足でマネーが投資に向かわない貯蓄超過(カネ余り)だからだ。しかもその過剰な貯蓄は、もっぱら法人部門にある。法人部門にカネはあっても投資先がないというのが、デフレ不況の問題の本質だ。需要のない中での法人税減税は、この法人部門の貯蓄をさらに増やすだけで国内投資を促進しない。むしろ、減税分だけ政府支出(公需)は減らざるを得ないから、経済全体の需要はより縮小する。(中略)政策効果のある使途に限定せず、予算を一律に配分する政策を『バラマキ』という。(中略)法人税減税こそ究極のバラマキだ。」
→ ※この部分の指摘の大筋は、すくらむブログで繰り返し紹介してきた以下のエントリーの指摘と同様です。“大企業の国際競争力を強化すれば国民は豊かになる”――これが、小泉構造改革、自公政権の新自由主義政策で、大企業の国際競争力強化→内需縮小・外需依存→国内生産縮小→経済(GDP)の縮小→税収の減少…という悪循環に陥って、国民は豊かになるどころか“大企業の国際競争力の強化で国民は貧困になった”のです。この悪循環の中に、さらに消費税増税・法人税減税を加えるとなると、国民の暮らしは壊滅的な打撃を受け、貧困化が幾何級数的に加速してしまいます。
最後のセンテンスで、中野剛志京都大学助教は、この論考をこう結んでいます。
「結局、『競争力強化による経済成長のための法人税減税』という政策論は、様々な角度から検証すると、ほとんど系統的に間違っていると言わざるを得ない。」
つまり、仮に国際競争力が高くなったとしてもそれによって得た利益は国民に還元されず大企業のヘソクリになるだけで、大多数の国民、そして国家の財政にとっては御利益がない、ということです。
国民に富が還元されないので内需はますます落ち込み、デフレはますます進行するでしょう。
法人税減税は完全に大企業の自己中心的な利益のためだけのもので、国民生活や経済には悪影響しか及ぼさないのです。
Q4 法人税をあげると、企業は日本の高い法人税を嫌って外国に逃げていってしまうのでは?A これ、よく耳にすることですが、事実ではありません。
今まで何故企業が外に行ったかというと、法人税から逃れるためではありません。
赤旗海外“移転” 経産省例示の4社(日産、富士通など)本紙に回答 「法人税は主な理由でない」より
(引用開始)
日産自動車は新型車のタイへの生産移管について「グローバルな商品競争力維持の観点から決定されたもので、これ以上の理由はない」(国内企業広報部)と回答。
スイスに本社(グローバル経営統括機能)を移転したサンスターは同国の法人実効税率が低いことは、「理由の一つではあるが、メーンの(主な)理由ではない。スイスのブランドイメージやグローバル(国際的な)な人材確保が目的」(広報部)としました。
シンガポール科学技術庁とスーパーコンピューターの共同開発を実施する富士通は、「同国の法人税率が低いこととは関係はない」(広報IR室)と説明。
液晶パネルテレビの設計開発センターを中国・南京市に設立したシャープも、「中国市場に合わせた商品開発のためで、法人税率が軽減されることが、メーンの理由ではない」(広報室)と答えました。
(中略)
経産省の「海外事業活動基本調査結果概要確報」(2008年度実績)によると、「08年度に海外現地法人に新規投資または追加投資を行った本社企業」が投資決定のポイントとしてあげたのは、「現地の製品需要が旺盛または今後の需要が見込まれる」がもっとも多く、全企業で65・1%、大企業で70・5%を占めました。法人税にかかわる「税制、融資等の優遇措置がある」は全企業で11項目中7位(8・3%)、大企業で7位(8・0%)にすぎませんでした。
「法人税を引き下げないと企業が海外に逃げる」などと主張することはごまかしです。
(引用ここまで)
企業が海外に出て行くのは現地の需要が高かったり安価な人件費が魅力的だったりすることが主な理由なのですから、法人税を下げても結局企業は海外に出て行ってるわけです。
従って「法人税を上げると企業がでてってしまう」はタダの脅し。こうやって脅して法人税を下げさせようというのですね。
以上から見て、欲の皮の突っ張った財界の望むがままこれ以上法人税を引き下げれば国民の暮らしや経済はますます破綻をきたし、百害あって一利なしです。
民主党、自民党、みんなの党、などの政治家の皆さん。これでもまだ法人税下げますか?
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シートン俗物記
■[雑記]法人税減税とか云っているヤツはブタのエサ
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