Ａｆｔｅｒｎｏｏｎ　Ｃａｆｅ

【問】　日本だけが侵略戦争を行ったわけではない。アメリカもフランスもイギリスも過去侵略戦争を行っており負の歴史を持っている。だとすれば君が代だけが負の歴史を持つとは言えないのではないか。

この質問はホントはプチ問答集で取り上げる項目の候補に入っていなかったのですが、複数の方から同趣旨の質問を戴いたので取り上げることにしました。

まずどの国も長い歴史の中で多かれ少なかれ負の歴史を持っていることが多いものですが、それで直ちにその国の国歌そのものを否定的な歴史をせおったものとして評価すべきと言うのは、短絡的にすぎると思います。ようは負の歴史と国歌がどのくらい密接に結びついているかの問題かと思います。

その結びつきの度合いは星条旗やラ・マルセイエーズと、君が代とではまるで違います。

１．まず星条旗とラ・マルセイエーズと君が代の生まれを比較しながら見てみましょう。

アメリカの国歌「星条旗」
1812年に始まった米英戦争で、詩人・弁護士のフランシス・スコット・キーは1814年（当時35歳）、英国艦隊による激しい夜間砲撃を耐え抜いた星条旗を目にする。彼はこの体験を元に「マクヘンリー砦の防衛」という詩を書き上げた。この彼の詩が、当時人気のあった酒飲み歌「天国のアナクレオンへ（To Anacreon in Heaven）」のメロディーにあてられ、1931年3月3日にアメリカ合衆国の国歌に正式に採用された

フランスの国歌「ラ・マルセイエーズ」
フランス革命政府によるオーストリアへの宣戦布告の知らせがストラスブールに届いた1792年4月25日から翌26日の夜にかけて、当地に駐屯していた工兵大尉ルージェ・ド・リールが一夜にして作詞作曲したものと言われている
（以上、世界の国歌より引用）

アメリカ国歌もフランス国歌も、圧政に抵抗し、民主主義や自由を勝ち取る歌として、いわば「下から」「国民の側から」うまれたものです。

これに対し君が代は、ここでも書きましたが「下から」「国民の側から」うまれたものではなく、最初から天皇、および天皇制を言祝ぎ讃えるものとして「上から」与えられたものでした。そして天皇制はイギリス王室などと異なり、軍国主義、ファシズムと直結する制度、ファシズムの制度そのものでした。

２．また、君が代は侵略戦争のとき天皇のために喜んで死にましょうという皇民化教育を行うために大いに利用された歌であることも、フランスやアメリカの国歌とは違う特徴です。

フランスがアジアやアフリカに植民地を広げていった時に、「ラ・マルセイエーズ」が、侵略、覇権の精神的支柱として国民を教育するのに用いられた形跡はありません。
アメリカもベトナム、イラクアフガンに侵略し虐殺しています。しかし、「星条旗」が君が代のように侵略、覇権の精神的支柱としてとして国民を教育するのに用いられた形跡はありません。イラク国民に学校で星条旗を歌うよう強制した、なんて話も聞きません。
しかし君が代はまさに天皇制ファシズムの皇民化教育の一環として欠かせない存在だったのです（併合した朝鮮では皇民化教育の一環として君が代を歌わせました）

従って、ラ・マルセイエーズや星条旗が、自国が侵略を行った象徴としての歌、侵略の精神的支柱としての歌とするのには少々無理があるんじゃないかと思います。（もしこれが「ブッシュを讃える歌」なんかだったりしたら、侵略を象徴する忌むべき歌として国内からも批判の対象になるでしょうね）

君が代とのこのような違いを無視して、侵略をしたという負の歴史を持つ国の国歌は全て否定されるべしとするのは、論理の飛躍がありすぎ、坊主にくけりゃけさまで憎い、の感が否めません。



ここで日本と同じくファシズム国家だったドイツの国歌を見てみましょう
（ウィキペディアより）
（ドイツの国歌は）フランツ・ヨーゼフ・ハイドンが1797年に神聖ローマ皇帝フランツ2世に捧げた「神よ、皇帝フランツを守り給え」（後に弦楽四重奏曲『皇帝』第2楽章の主題に用いられる）のメロディーに、1841年にアウグスト・ハインリヒ・ホフマン・フォン・ファラースレーベン（August Heinrich Hoffmann von Fallersleben）がヘルゴラント島で詠んだ詩を付けたものである。
（略）
1番における『この世界の全ての存在を上まわりし国よ!（Deutschland über alles in der Welt)』という言葉には、元々ファラースレーベンのドイツ民族の統一を悲願する意味が込められていたと言われている。
（略）
その後ナチス・ドイツ時代では1番のみを国歌としていたため、この歌詞は覇権を正当化するもので、ナチス・ドイツの覇権主義の野望が盛り込まれており、また戦後ドイツの領土ではなくなった地名が含まれているということで、第二次世界大戦後は批判を受けていた。

戦後は全く新しい国歌を制定しようとする試みもあったが、どれもこれといったものが出来ず、西ドイツがオリンピックに復帰するに当たり、偶然にも3番の歌詞が東西に分断された祖国の統一を願う詩として最適と言うことになり、1952年に3番を歌詞として再び正式に国歌と決められた。
（略）
現在のドイツでは、この1番を高らかに人前で歌ったり、ラジカセ等で流していたりするだけでネオナチ疑惑がかけられる。（引用ここまで）

ドイツではユダヤ人を虐殺し、侵略を行ったファシズム、ナチズムとの結びつきが濃効だった一番は国歌としての座を追われました。鍵十字が封印されたのも同じ理由です。
日本では君が代と天皇制ファシズムは、ドイツ国歌の一番がナチスと濃い関係にあったのと同じくらい、またはそれ以上に濃い関係にありました。しかしこの事実は問われることもなく、それどころか、問答無用で歌を強制されています。これはどうみても民主主義に逆行する事だと言えるでしょう。

また、負の歴史を強く感じるかどうかは、国歌が国民に強制されているかされていないかもかなり大きなファクターになると思います。
フランスやアメリカでは国歌が強制されることはありませんが、日本では強制されます。この違いは大きいです。

君が代はそのような負の歴史を持つものであるという事実は、遙か彼方の過去の歴史となったわけではありません。つい60年程前のまだ生々しい出来事であり、その時代を生きた人々も存命中です。
そういう君が代が現在教育の場で強制されること自体が戦前のファシズムのフラッシュバックです。

そして、君が代は強制されることによって、戦前だけでなく、「現在における」思想良心の自由の侵害を象徴するような歌になってしまっているのです。君が代を聴けば、戦前だけでなく現在の日本に於いてもまだ思想信条の自由は不完全なのだな、と思い知ります。

もし現在君が代が決して強制されるようなことがなければ、君が代の負の歴史を今ほど強く感じることもなかったかもしれませんね。
これは君が代に大概セットでついてまわる日の丸についても同じようなことが言えます

関連記事

• 菅首相、君が代歌ったか歌わなかったかなんてどうでもいいことでムキにならないでくださいな (2010/08/05)
• 中高生にもわかる日の丸君が代プチ問答集（６） (2010/06/22)
• ワールドカップに似合わない君が代 (2010/06/19)