パイレーツ・オブ・ソマリアン(3)
- 2009/05/15
- 15:45
海賊が出没するようになったのは、以前も触れましたが、ソマリアが無政府状態になり、管理のされていないソマリア近海に外国船が侵入して魚の乱獲や武器密輸、有毒な産業廃棄物の放棄を行い、もともと漁業に従事していた漁民に脅威となり、身代金目当てに海賊行を働くようになったからです。
従ってソマリアの政情を安定させ、各国がソマリアの海を好き放題荒らすのをやめなければ根本的な海賊問題の解決にはなりません。
かつて国連がソマリアの内戦に介入して結局うまくいかずじまいでしたが、だからと言って、このまま政情安定の努力を放棄していいわけがありません。こちらにこそ力を注がなくてはならないのです。
護衛はあくまで、どうしてもアデン湾を避けられないときの当面の対処療法でしかありませんし、もし航路を迂回してアデン湾を通らずにすますことが出来るなら、それに越したことはないのです。
各国が軍を派遣したことによりソマリア沖の治安はどうなったでしょうか
◆マスコミに載らない海外記事
なぜフランスは、 ソマリア沖で実力行使に及んだのか?より引用
これまでのところ、ここ数年間活発化しているソマリ人海賊は、まだ誰も殺害していないが、フランス、アメリカ、およびオランダの部隊によって最近実行された“強引な”作戦の後では、それも変わる可能性が非常に高い。フランスの急襲は、今後、アフリカの角沖でつかまる人質たちの命を危険にさらすだけだろう。
A海運保険業者の業界誌、ロイズ・リストに掲載されたあるインタビューが、このような血なまぐさい作戦に対する、海運業界の悲観論と反対を要約している。ロイド・レジスター・フェァプレー情報サービスの、アデン湾地域専門家ジム・マーフィーは、提案されている、立ち入り禁止区域、軍の護衛艦隊、警備員または武装船員といった対策は、ソマリアにおける紛争に対する政治的解決がない中で、失敗する運命にあると主張している。
これまでに前例のない戦艦配備にもかかわらず、海賊事件や同様な行為は、国際海事局によると、2007年から2008年の間で、ほぼ200パーセント増えた。
大半のマスコミは、そこから海賊が作戦を展開しているとされるソマリアの港、ハラデレやエイルを“海賊のねぐら”として描き外国の軍事介入可能性の道を開いた。実際、こうした港の、全て合わせた人口は32,000人で、海賊行為に関わっている連中はそのうちごく一部にすぎない。軍事力で問題を解決しようという試みは、さらなる大虐殺を招きかねない。(引用終わり)
前出の東京新聞より引用
ソマリア海賊は人質を殺傷しなかったが、米軍に殺された仲間の報復を宣言する海賊も現れ、「流血の海」と化し始めた。海賊とソマリアの反政府イスラム勢力が結び付き、一部過激派が各国軍を敵視すると、「韓国はアフガンやイラクで十字軍(欧米)と、イスラムとの戦争に加わっている」(犯行声明)とイエメンで先月、韓国人旅行者四人が殺された事件同様、邦人旅行者らへのテロの危険性も高まる。軍対応が最善ではないことは、海保主導で沿岸国と協力したマラッカ海賊の一掃で経験済みだ。巡視船派遣断念の理由に各国の軍対応を挙げるのは、説得力に乏しい。
海上保安官は法廷で犯罪を立証するため、犯人に致命傷を与えない武器使用を徹底して訓練される。海保の別の元幹部は「軍と警察の武器使用は全く違う。蓄積がない自衛隊は現場で苦しい判断を迫られる」と語った。(引用終わり)
海賊退治に不慣れな自衛隊員が恐怖に駆られ安易に発砲してしまう可能性があり、そうすれば些細なことで武力行使が行われてますますソマリア沖は危険地帯になるでしょう。(大脇道場の友さんが書かれていましたが、自衛艦の中に死体安置所が初めて設置されたというのは衝撃的でした。)
海賊問題解決から言っても、他国軍と一緒になって武力行使をちらつかせる自衛隊派遣は役にたつとは思えません。自衛隊だけでなく、各国が競って軍を派遣すること自体が事態の悪化を招きます。
何度でも声を大にして言いたいのですが、憲法違反であるばかりでなく、長期的に見たアデン湾の安全確保という点からも、逆効果になる可能性が大きいと思います。
◆マスコミに載らない海外記事より
オバマと海賊: 国家暴力の賛美
マスコミに、ほとんど欠落しているのは、ソマリアの危機に対する理性的な論評と、再三のアメリカ軍の介入が、ソマリアの崩壊と海賊の増加に、決定的な影響を与えたという事実だ。「テロの正当化」だとして非難される恐怖から、9/11攻撃に関する、いかなる思慮ある説明をも、マスコミが避けたのとほぼ同様、ソマリアにおけるアメリカの役割に対する、批判的な評価を沈黙させるために、同じ言葉上のテロが使われている。つまり「海賊の擁護」だという烙印を押されるのだ。
インド洋における狙撃兵の殺人を称賛するのには、明白な政治的動機がある。一つは、これが、アメリカと世界経済の不況突入が続いていることや、何百万人もの仕事と、生活水準の破壊から目をそらす格好の話題として役立つこと。
もう一つは、ブッシュが開始し、オバマが継続中の、敗北と失敗で特徴づけられているイラクとアフガニスタンにおける戦争の後で、これは、ワシントンが、アメリカ人に向かって、軍事力は実際に有効なのだと主張できる機会だったことだ。世界における自分たちの権益を推進するために、アメリカの相対的な軍事的優位性に大きく依存しているアメリカの支配階級にとって、これは極めて重要なイデオロギー的概念だ。(引用終わり)
アメリカはソマリア問題を解決する気など無く、「テロとの戦い」で軍事力を行使することの正当化に海賊を利用してるのではないでしょうか。
もしそうだとすれば、アメリカは泥沼になったアフガン、イラクから何を学んだのでしょうか。
このままでは海賊問題に解決どころか、火に油、ソマリア沖は海のイラクになってしまうかもしれません。そして自衛隊がその片棒担ぐことになるのです。
だから日本は「軍事行動」に荷担するような自衛隊派遣をおこなうより、憲法の精神にのっとった非軍事的な貢献をすべきだし、そのほうが問題解決にずっと有効です。
具体的には
海賊対策のもう一つの道 ―― 海賊と日本(2・完)より引用
第1に、ソマリアの政治的安定化である。これは、「海」の安定には、「陸」のそれが不可欠という真理を改めて確認することを意味する。
第2に、ソマリアとイエメンの沿岸警備隊再建への国際的支援である。2009年になって海賊行為の70%は、イエメン沖で起きている。ソマリアと同時にイエメン沿岸警備隊の再建・強化こそ、「海賊」問題解決への近道といえるだろう。
第3に、海賊には国際的ネットワークが出来ているので、組織犯罪対策への多角的協力(国際刑事警察機構[INTERPOL]など)を行うことで、このネットワークを断ち切ることが大切である。
第4に、ソマリア沖で各国が違法操業をしたり、産業廃棄物の海洋投棄を行っていることに対処することである。(引用終わり)
私も海賊をただ武力鎮圧するより、こちらの方がずっと効果的だと思います。これは紛争解決には武力は使わないという9条の精神にも則っています。
9条を使うのです。
9条はただ守らねばならない平和の理念に留まらず、9条があることが国際平和にもっとも貢献できる、という積極的な存在なのだと思います(だから私は9条は一言一句変えるべきではないと思っていますがこれについてはまた違うエントリーで。)
ソマリア救済民主戦線(SSDF Somali Salvation Democratic Front)の1984-1986年の暫定議長、バーレ体制崩壊後1991-1994年の総書記であるモハメド・アブシル・ワルドさんの話に耳を傾けたいと思います。
「海賊対策」を名目とした自衛艦ソマリア派遣に反対する(補)
先進諸国の不法漁業と有害廃棄物海洋投棄──これこそがソマリアの海賊だ!
[抄訳]ソマリアの二種類の海賊行為:なぜ世界は他方を無視するのかから一部を抜粋しますので、是非リンク先をお読み下さい。
海賊を非難し制圧しようと乗り出す一方で、自分たちがソマリアの政情不安につけこんで違法漁業し放題、産廃物捨て放題というのでは、あまりにアンフェアではないでしょうか。
海賊退治を大義名分に、先進諸国がソマリアの海の恵みを横取りしているとそしられても、文句は言えないと思います。
(引用開始)
著者は、現在大騒ぎしているソマリアの海賊に対して、もう一つの海賊こそがより根源ではないのかと問う。それは、先進諸国がソマリア沖で行っている不法漁業と不法海洋投棄という2つの海賊行為である。
この暴露を読むと私たちは、先進諸国が途上国に対して行ってきた、そして今も行っている途方もない搾取と収奪、略奪、環境破壊と生存権の剥奪についての認識がまだまだ甘いと改めて痛感させられる
(略)
最近、世界の注目がソマリアのシーレーンに集まっている。大小の国の海軍が、アデン湾とインド洋のソマリア海域に集結している。ソマリアの海賊による船舶のハイジャック事件が、世界のメディアの注意をひきつけている。この悪名高い新しい海賊行為(shipping piracy)に対して当然のように戦争が宣言されている。しかし、ソマリアでの全ての海賊行為のより古い根源――外国の不法漁業海賊行為(fishing piracy)――は無視されている。
(略)
経済面、環境面、安全面でずっと有害なものは、大規模な外国の不法漁業海賊行為であり、1991年のソマリア体制の崩壊からの18年間、ソマリアの海洋資源を密漁し破壊している。「国際社会」は、ソマリア漁民の海賊に対しては戦争を宣言しながら、他方ではヨーロッパ、アラビア、極東からの無数の不法・無届け・無規制(Illegal, Unreported and Unregulated IUU)の船隊を慎重に保護している。
国連、NATO、EUは、同じ海域でのIUUによる略奪からソマリア海洋資源をなぜ保護しないのか。不法漁業海賊行為は無視されているだけでなく、取り締まるどんな決議や法令も作られず、略奪の継続が奨励されている。ソマリアの漁民は、海賊のレッテルを張られ、ソマリア海域を支配する外国海軍に攻撃されることを恐れ、IUUをもはや追い払うことができない。伝統的なソマリアの貿易帆船でさえも海賊と間違われてパニックに陥っている
(略)
公海タスクフォース(HSTF High Sea Task Force)によれば、IUUは、国境線も主権も尊重せず、資源、海洋生物、生息地に害を及ぼしている。稚魚の漁獲制限、産卵地の保全などのルールを破り、海洋生態系に害を及ぼしている。世界で最も貧しい人々から貴重な蛋白源を奪い、法的に正当な漁民の生計を破壊している。海岸近くにまでトロール船が侵入し、地元の漁船への衝突、漁用具の破壊、漁民の死を引き起こしている
(略)
IUUと不法漁業に密接に結びついているもう一つの大きな問題は、産業の、有毒な、核の廃棄物のソマリア沿岸及び沖合いへの投棄である。ソマリア当局、地元漁民、市民社会諸組織、国際諸組織は、この犯罪的行動の危険な結果を報告し警告した。
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- パイレーツ・オブ・ソマリアン(2)追記、加筆あり (2009/05/12)
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