維新案が通る可能性はゼロに近いでしょうし政府案を通すための方便に過ぎないので、わざわざ維新案の是非を検討するのはあまり意味がないかもしれません。
が、もし、小林教授がこの法案は違憲であると判断されてたら、維新は「対案」を提出できなかったと思います。学者に違憲とされた法案がどれほど叩かれるかを維新も既に見ていますから。
なので、余談的に維新案に関して私見を記しておきたいと思います。
私は北海道新聞と同様、維新案は違憲の疑いが強いと考えます。
維新案では集団的自衛権は認めておらず、個別的自衛権のみ認めています。
そして「日本防衛のために活動する外国軍が攻撃され、日本も攻撃される明白な危険がある“武力攻撃危機事態”」ならば自衛権を発動できる、としています
個別的自衛権のみ認めるという点では旧政府見解と同じですが、旧政府見解と全く同じなら新たな案として提出する意味は全然無いので、維新案は旧政府見解とは何らかの違いがあるはずです
自衛権について旧政府見解では、集団的自衛権は認められず個別的自衛権のみが認められる、そして自衛権を発動できる要件は
1.わが国に対する急迫不正の侵害があること
2.これを排除するために他の適当な手段がないこと
3.必要最小限度の実力行使にとどまるべきこと
としてきました。
維新案と旧政府見解との違いは要件1だと思います。
旧政府見解は急迫不正の侵害を要件としていますが、いかなる状況になればわが国に対する急迫不正の侵害が生じたと言えるのかにつき、政府は、「わが国に対する武力攻撃の発生した時点」としてきました。もう少し言うと、
「侵害のおそれがあるときではなく、また、わが国が現実に被害を受けたときでもなく、侵略国がわが国に対して武力攻撃に着手したとき」に急迫不正の侵害が生じたとされます。
そして
「未だ武力攻撃が発生していないのに武力攻撃のおそれがあると推量されるだけで他国を攻撃するいわゆる先制攻撃は、わが国憲法の下では許されない」としてきました
維新のいう「武力攻撃危機事態」では、いくら日本も攻撃される明白な危険が推測されたとしてもあくまでも推測の域であり、相手が武力攻撃に着手したとは言えません。
ですから、「武力攻撃危機事態」で自衛権が発動できるとするのは、「先制攻撃」にあたり、違憲だと言えるのではないでしょうか
水島朝穂教授が「直言」で述べていらっしゃることを引用しましょう
http://www.asaho.com/jpn/bkno/2015/0602.html
(引用開始)
7. 「先制攻撃」について
私は拙著『ライブ講義』93頁・94頁で、「北朝鮮から攻撃を受けた米国を「助けるため」、自衛隊が集団的自衛権を行使して北朝鮮を攻撃すれば、北朝鮮から見れば攻撃していない日本から「先に攻撃を受けた」ことになりますから、日本は国土を含め、北朝鮮の報復攻撃を受けることを覚悟しなければなりません」と指摘した。
驚いたことに、安倍首相は、事実上、この私の指摘と同じことを答弁で述べた。「外形的に他国が攻撃を受け、それを防御する場合には、これは間違いなく、集団的自衛権になるわけでありまして、それを個別的自衛権と言い張ることは、結局かえって、ではそれは先制攻撃をしているのかという批判すら浴びかねないわけでありまして、つまりこれは国際的に認められている集団的自衛権であるという整理をするのが、これが当然のことであろうとこのように思います。」(2015年5月27日 衆院平和安全特別委員会)と。
(引用ココまで)
安倍首相の答弁はそのまま維新案が違憲であることの理由になると思うのですが、なんだか皮肉も良いところですね(苦笑)
維新案は小林教授のように合憲と解釈する余地もあるのかもしれませんが、「武力攻撃危機事態」に自衛権発動できるとするのは先制攻撃にあたるので違憲、とする解釈も成り立ちうるのではないですか?
小林教授は学者ですから、維新案の文言が純粋に合憲、違憲か、自分なりの学問的な見解を述べただけだと言われたらそれはそうでしょう、学者としての仕事を果たしたまでです。
しかし、この時期に違憲と解釈される余地のある法案に合憲のお墨付きを与えたことで、敵(自民党)に塩を送る結果となったのも、まぎれもない事実だと思います。
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