フジ・メディア・ホールディングス(FMH)が公表した「改革アクションプラン」では、IP(知的財産)ビジネスの増強が事業改革の柱の一つだ。とくに世界的な成長を続ける「アニメ事業」に期待がかかる。日本アニメの世界市場規模は2024年に過去最高の3.8兆円に達した。グループ傘下の総合エンターテインメント企業「ポニーキャニオン」、制作スタジオ「デイヴィッドプロダクション」との相乗効果も期待でき、フジテレビでアニメ事業を担う執行役員の松崎容子氏は「かつてフジテレビは日本アニメを牽引してきた。再びその姿を取り戻したい」と語る。
グローバル戦略でIPビジネスの利益最大化 フジテレビ 松崎容子 執行役員
フジテレビは、日本初のテレビアニメ『鉄腕アトム』(1963年放送開始)や、日本初のカラーアニメ『ジャングル大帝』(65年)を制作した、日本アニメの先駆者だ。
現在も「最も長く放映されているテレビアニメ番組」としてギネス世界記録に認定された『サザエさん』(69年)のほか、現社長の清水賢治氏が初代プロデューサーを務めた『ちびまる子ちゃん』(90年)、『ワンピース』(99年)といった、他局にはない強力な長寿IPを保有している。松崎氏は、視聴者に飽きられないよう定期的な実写化などで価値を維持してきたこれらIPについて「グループ全体のためにも長寿IPの活性化は私たちに与えられた使命」と話す。
2005年には「オリジナル作品を重点的に制作したい」との思いから、松崎氏を生みの親の一人として、深夜アニメ枠「ノイタミナ」を立ち上げた。『東のエデン』や『東京マグニチュード8.0』、『PSYCHO-PASS(サイコパス)』などの質の高いオリジナル作品を世に出し、新たなファン層を獲得したことで、「アニメはフジテレビ」の時代を築き上げてきた。
しかし、現在では他局や海外配信大手がアニメ事業に多額の投資を行った結果、もはやフジテレビ一強の時代ではない。
日本アニメの市場は年々拡大し、2024年の海外市場は約2.2兆円と、国内の約1.7兆円を大きく上回る。FMHにとって、グローバル戦略の推進はIPビジネスの利益を最大化する上で必須の課題だ。
グローバル市場で戦うためには、「アニメ事業を、強力なIPを確保する〝入り口〟(制作)と、海外流通を行う〝出口〟(展開)でとらえ、両方の機能を強化する必要がある」と松崎氏は分析する。
入り口となる制作機能については、良質な作品の安定供給と、制作会社がIPの権利を保有するトレンドに追随するため、制作スタジオである子会社「デイヴィッドプロダクション」の強化が最重要だとする。グループ唯一のアニメ制作会社である同社は、FMHを単なる放送枠の提供者からIPの権利者として高収益を上げる構造へ転換するための、制作面における成長エンジンとして嘱望されている。松崎氏は、この「制作会社主導の高収益モデル」を実行すべく、同社を「業界トップクラスの制作力に押し上げたい」と力を込める。
出口となる展開機能については、海外窓口業務を独自に運用できる完結したシステムを持つグループ会社「ポニーキャニオン」に期待する。同社はフジテレビ以外で放送されているアニメも多数手がけている実績があり、「連携を密にすることで、グループ全体のビジネス規模を大きくすることができる」と話す。
松崎氏によると、2019年に東京MXやBSなどで放送が始まった『鬼滅の刃』が大ヒットを記録して以降、アニメ業界にはパラダイムシフトが起きたという。アマゾンプライムやネットフリックスといった海外配信大手の躍進もあり、ヒットが地上波でなくても生まれる構図が確立したため、「アニメビジネスにおける地上波の力は弱くなった」。
一方で松崎氏は「地上波にはリアルタイムでの一体感やお祭り感といった、配信では再現できない現象がまだまだある」として、地上波ならではの利点を見据え、グループ全体のアニメ戦略に組み込んでいく考えだ。
業界のビジネス構造は変化を続けている。従来の「アニメ作品自体が収益の柱」というモデルを転換し、アニメを「収益の起点」ではなく「集客の起点」として位置づけるビジネスモデルも生まれた。商品化などで収益を最大化する、IP全体を多角的に活用したスキームだ。
時代に求められ、成功するアニメ作品を世に出すためには何が必要なのか。松崎氏は「精神論にはなりますが」と前置きしたうえで、「アニメだけでなく、全ての番組、コンテンツで不可欠なのは〝愛〟。0から1を生む強い情熱です。そして、私たちにはそれがある」と力強く語った。
高品質映像 持続可能な制作環境目指す デイヴィッドプロダクション 田中修一郎 社長
2007年に設立された同社は14年にフジテレビの子会社となり、支援を受けて制作ラインを拡大。
それまでの1作品から、同時に3作品を並行制作できる体制となり、制作力は大幅に強化された。
現在、日本アニメ市場は急拡大し、大きなチャンスを迎えている。一方で、業界全体ではクリエイター不足が叫ばれ、目の肥えた視聴者に求められる映像の品質も劇的に高まっている。アニメ作品は需要過多に対し、供給困難な状況にある。
ヒット作を生み出す条件として、田中社長は「納期のスケジュールを守りながら、視聴者の想像力の上をいくよう、映像の質の高さを維持することが必要」と力を込める。
同社は映像品質の安定化と納期管理を図るため、従来のようなフリーランス中心の制作体制から脱却し、スタッフの社員化や専属化を進めている。
また、制作工程のデジタル化の推進に並行して、AIの活用についても研究を進める。著作権等の課題があるため、当面は生成画像などの商業利用は控えるが、作品ごとの膨大な設定資料を管理するなどの業務効率化のための導入を検討している。
さらにフジテレビとの関係では、単なる制作受託にとどまらず、企画から制作、ライセンスや流通までを双方の信頼関係のもと、一気通貫で行う協業体制の構築を目指す。「FMHグループとしてバリューチェーンを組んで、大型タイトルを制作していければ、新しい未来が開ける」と力を込める。
「高品質なアニメが求められているということは、作品にかかる時間と労力、コストが上がっているということ。
すごいものを1作つくれたとしてもスタジオが崩壊してしまうと意味がない」と話し、ヒット作を生み出し続けられる持続可能な制作環境づくりに力を注いでいる。
海外人気の条件は「日本で売れること」 ポニーキャニオン 松岡貴徳 マネージャー
『進撃の巨人』『東京リベンジャーズ』『桃源暗鬼』など、今やアニメ作品のプロデュースでも存在感を増す総合エンターテインメント企業「ポニーキャニオン」。同社は、日本の作品を海外市場で展開する高い流通能力があり、ヒット作の創出は現在の重要課題になっている。日本アニメの海外市場が成長著しい中、今後のFMH全体のビジネス拡大にも大きな役割を果たす。マネージャーの松岡貴徳氏は「基本的に、日本で売れたものは海外でも売れる」と力を込める。
松岡氏はこれまで、桃太郎を題材とした『桃源暗鬼(2025年)』や、サンリオ初の深夜アニメ『SHOW BY ROCK!!シリーズ(2015年~2021年)』など、幅広い作品群をプロデュースしてきた。
とくに『桃源暗鬼』は、米配信大手「ネットフリックス」の「グローバルTOP10(非英語TVシリーズ部門)」で登場間もなく5位にランクインするなど、国外でも高い人気を博した。松岡氏は「海外、主に北米市場で好まれるジャンルは、少年漫画・バトル・異能力・異世界。これに『桃源暗鬼』は当てはまった」と分析する。
アニメの海外販売は金額が大きく、放送前の早い段階で契約金額が決まりやすい特徴があるため、宣伝費などの予算組み立てがしやすい。日本と異なり、現地での声優イベントや店舗連動施策が難しいため、プロモーションは映像(PV)や英語版の早期リリースが中心となる。「現地で好まれるアクションシーンや派手な演出が多い映像を用意する」のが有効だという。
また、海外での視聴動向は、「日本での盛り上がりに依存する」。日本で話題になると、コア層には口コミで知られ、ライト層には海外配信プラットフォームでピックアップ作品として表示されることで認知が広がるという。
だからこそ、「地上波の枠は重要」と松岡氏は強調する。地上波で「今期のアニメ」として日本のファンに認知されることが、そのまま海外展開への強力な布石となる。FMHは、この地上波の強みを最大限に活かし、世界へ日本のコンテンツを届けるためにグループの総合力を結集していく。
フジ・メディア・ホールディングス(FMH)は「改革アクションプラン」で、グループ企業の目指す方向性を「エンゲージメントが高くオリジナリティに満ちたコンテンツや体験の場を創出することで、人々が喜びやつながりを実感できる社会づくりに貢献します」と定義。「創り出す」「形づくる」「届ける」「つなげる」の4つの実行プロセスをキーワードに、グローバルIP(知的財産)の創出や、新規事業開発などに取り組んでいます。









