虚馬ダイアリー

「窓の外」のブログ

2025年に見て「良かったな」と思った映画から10本を選んでみる。


 皆様ご無沙汰しております。
 今年なんと50歳になってしまいました。それでも人生はさして変わらず、ブログ更新もせず、細々と旧Twitterでバズらぬ映画感想を書き続ける日々でございます。

 日本も相変わらず順調に衰退の道を辿り、そして人の心の荒むこと麻の如し、などと心のジコ坊がひとりごちます。
 少子化高齢化が進み、改善の見込みがない中、これからは外国人労働者を入れないと立ち行かない世の中になることはコロナ禍以前からすでにわかっていたはずなのですが、今や分断を煽ることによって人心を買う卑しい政治家ばかりの嫌な世の中になって参りました。
 世界中で起こっていた戦争もまるで収まる気配もない中、今年も暮れようとしております。

 映画界は、Netflixによるワーナー買収に象徴されるように配信プラットフォーマーの隆盛が極まり、映画館もアニメや邦画はそれなりに活況を呈する一方、円安の影響で洋画配給はいよいよ厳しさを増しています。これまでなら劇場公開されていた作品が配信に回ったり、リバイバル上映が増えたりと、課題も山積です。
 そんな中でも、せめて自分だけは変わらず元気に映画館に通い続けていけたらと思っています。


 というわけで、2025年に自分が出会った映画の中から、「良かったな」という映画を10本選ばせてもらいました。「あれがない」「これもない」という方もいらっしゃるでしょうが、ご容赦いただいて、しばしおつきあいくださいませ。

10位「みんな、おしゃべり!」


<選考理由>
 今年の東京国際映画祭で見て、その後劇場公開もされた作品。国籍・言葉・文化・社会。一般社会につながることにハードルがある人間たち同士の小さな諍いをきっかけにした、「他者と話す」「つながる」ことの壁をどう越えるかを模索する人々を描く喜劇。健常者/ろう者、日本人/クルド人、そのクルド人にも言語や事情にグラデーションがある。コーダや通訳担う若者の悩みも深い。そんな彼らはどこまで互いを理解できるだろうか。
 演技未経験の当事者もキャストに起用しつつ、彼らの「繋がるのが困難な状況」を可視化しながら、そこから生まれる微かな足がかりを戯画も交え、あくまで娯楽作として完成させた、河合健監督の丁寧かつ地道な演出に脱帽する快作であります。

9位「能登デモクラシー」


<選考理由>
 今年も様々なドキュメンタリー映画が公開され、様々な示唆を与えてくれた。その中で本作は長年手書き新聞を作ってきた男性に密着し、地道な取材を続けていたテレビドキュメンタリー監督が番組を完成させてのちに震災が起き、その後に生じた「ある変化」をフィルムに収めていく。
 五百旗頭幸夫監督の「はりぼて」は以前2020年の年間ベストにも選んだことがあり、本作でもその鋭さは健在だが、作品を重ねていくごとに感じるのは「善悪」を二元的に切り分けるのではなく、鋭く不正やその構造を明らかにする一方で、「社会」を良くするための人の『善性』を信じる事を決して手放さない。
 テレビも新聞も「オールド」などと揶揄されたり、自嘲したりして久しい。それでも矜持を忘れなければ、やれる事はまだある。まだあるさ。そんな希望を取り戻す展開に深く感銘を受けたのでした。



8位「劇場版TOKYO MER 南海ミッション」


<選考理由>
 今年までテレビシリーズも劇場版第1作も全くのスルーだったのだけど、公開された時に評判が良くて過去作全て予習して臨んだ劇場版第2作だが、想像を軽く超えた怒涛の畳みかけに心持ってかれてしまった。
 テレビシリーズは東京都知事肝入りの政治マターだった東京MER。「死者ゼロ」の理想を掲げた彼らの成果は、計画を全国規模に広げていく。その流れで喜多見が派遣され結成の運びとなった、南西諸島をカバーする南海MERが劇場版第2作の主役となる。
 ここで地方の医療の貧弱さ、そして起こりうる災害はむしろ大都市圏よりも大きいという問題点に着目しきちっとコミットしていく点が本作の凄さ。そして「死者ゼロ」の理想は手放さない。
 喜多見がシリーズを通して積み上げてきた信頼という名の貯金を全ベットし、場面場面の的確な判断力は言わずもがな、どんなに危機に陥ってもあらゆるツテやコネを総動員して最善の結果を求めていく。その救命総力戦ぶりに熱い涙を流す自分がいたのです。



7位「脱走」

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<選考理由>
 物語の骨子としては、「あらゆる手を使い脱北を目指す北朝鮮兵士」と「彼を執拗に追い続ける北朝鮮少佐」の追跡劇を描く活劇映画という、題材としても主題としてもやや手垢のついた話ではあるのだが、本作の特筆すべきはその「追跡側」であるヒョンサンのキャラクターの厚みにある。
 脱北を図る主人公とは幼馴染であり、主人公が脱走の罪に問われそうになった時、彼への情を施し、英雄として首都に呼び寄せ自分の近くに置こうとする。ロシア留学するほどのピアノの名手でありながら、その道を諦めて今の地位にいる。
 そんな彼が差し伸べた手を振り払うように脱北へと動き出す主人公を、彼は執拗に追跡し始めるのである。好人物であり異国で活躍する道を諦め現実に生きる男が、脱北を目指す幼馴染を追う任務の中で、自らの存在が引き裂かれていく。彼の中に生まれる身を切られるような葛藤こそが、この映画をより深く切ないものにしていると思うのである。

 

6位「教皇選挙」


<選考理由>
 もはや言うを待たない傑作というのは世評の通り。自分もそう思うが、選んだのはそれだけが理由ではない。実に学びが多い映画だという事である。
 長年旧TwitterというSNSで感想を書き続けている自分にとって一番の学びは、この映画の主題の一つである「確信」と「疑念」。である。
 この映画に集う「枢機卿」たちも我々と同じ神ならざる人の集積である。その中から1人、「教皇」というトップオブトップを決めねばならぬ。時に信念を持ち、それに従って突き進む。だがその決断はあっさりと誤りと判明したりする。常に「確信」と「疑念」はセットであらねば。
 「固着した確信」は「宥和」を拒絶する。SNSで起こる炎上から、失言から起こる外交的諍いから今も絶え間なく続く戦争まで。『引くに引けない疑念なき確信』は世界を蝕んでいるように思えてならない。
 「確信」と「疑念」の狭間で人類は悩みながらでも前進し、進化する生き物だとこの映画は示してる。我々に世界を「善く」あろうとする意思さえあれば。そんな学びと勇気をもこの映画はくれるのである。


5位「ドールハウス」


<選考理由>
 別に贔屓の監督という意識はないのだが、長年映画ベストを選び続けていると「なぜか選んでいる監督」というのはいて。その1人が矢口史靖監督である。
 丁寧に練り上げた喜劇を提供してくれる監督の新作がまさかの「ホラー」(惹句ではドールミステリーだったが)。どうなる事かと思ったら、頭の先からしっぽの先まで見事に展開が練り上げられてて全編しっかり怖い、上質な「和製ホラー」を見せつけてくれた。
 この映画に関して名画座で監督が登壇するイベントに伺った際に聞いた話では、喜劇でもホラーでも綿密な物語の設計図のプロットを書いてから脚本に臨み、その脚本を「若手脚本家が書いた作品」としてプロデューサーに売り込んでたりする。
 丁寧な設計図たる脚本をもとに、映画を撮るのは喜劇もホラーも変わりがない。その姿勢が生み出した喜劇監督の新たな一歩に、脱帽であります。

4位「スーパーマン」


<選考理由>
 「スーパーマン。マン?奴のどこが『人間』なんだ。」と悪役・レックスは吐き捨てる。
 本作では実の父と母の遺した「壊れたメッセージ」を頼りに地球人では成し得ない『弱きを助け強きを挫く』ヒーロー「スーパーマン」として活動を続けるクリプトン人の青年が、初めて活動の危機に直面しているところから物語は始まる。
 故あって故郷の星を喪い、地球で育てられた彼が地球人のために行なってきた「善行」は、分断を煽る情報が出てきた事で心も体も追い詰められていく。
 脚本も書いたジェームズ・ガン監督は彼を徹底的に悩みながら道を模索し続ける「移民の子」として描く。
彼の信念としての「正しさ」と奇しくも悪役に掘り起こされた正しさに対する「ある疑念」の狭間で揺れながら、それでも「正しき道」を見つけ、歩み始める。その悩みはこの、混沌な世界を生きる我々とも重なる。彼も我々も共に悩み考え続ける「人間」なのだと。

 

3位「君と私」

<選考理由>
 所謂韓国の「セウォル号事故」を題材にした映画なのであるが。この映画はそれを糾弾する映画という形を取らない。

 エントリの冒頭でも書いたけど、僕は今年50歳になった。この歳になってくると自分と同世代、もしくは自分よりも若い人の訃報に接する機会も出てくる。
 死は誰のもとにも不意に訪れる。だけどその前日まで当たり前に過ごしていた人生がありもする。この映画は「死の予感」を遠くに置きつつ、物語はそれとは無縁の青春時代の「とある1日」の映画として描いている。
 僕が映画をみて不意に思い出していたのは、僕よりも若く才能も将来もあった人の訃報であった。その彼は突然死ぬその日まで映画をみて、亡くなった。それが映画の物語とシンクロしてしまい、涙が止まらなくなってしまった。
 死は、覆らない。生は戻らない。だけど喪われた生にも重ねてきた人生も日常も「確かにあった」んだと。その普遍的な主題を具象化した物語に心持ってかれてしまった。

 

2位「トワイライト・ウォーリアーズ」


<選考理由>
 言わずと知れた、2025年における映画界、とりわけ香港映画というジャンルにおいて最もエポックな映画である。
 もちろん映画も最高なのだが、香港映画というジャンルそのものを一気に活況化させる起爆剤としてその波及効果は絶大で、その「現象」ぶりは長年陰日向にアジア映画も香港映画も地道に観てきた1人として痛快ですらあった。
 名画座でも過去の香港映画特集が組まれ、活況を呈する様を見ていると、人生何が起こるかわからないなと思う。この映画に続く傑作も登場し始め、本作を契機に動き出した流れが来年以降どうなっていくか。楽しみで仕方がない。この映画が切り開いた新たな未来に、乾杯。

 

1位「羅小黒戦記2」


<選考理由>

 圧巻、である。見終えた瞬間に1位にすると決めた。


 元はWEBアニメシリーズであり、映画シリーズはその前日譚である。そういう意味では成り立ちは「鬼滅の刃」に近い。だがその作りは大きく異なる。「羅小黒戦記」の映画版は、あくまで「映画」として作っている。「原作」なりの雛形に予算の時間を費やす形を取っていない。
 「羅小黒戦記」の映画版はあくまでも「映画」のために作られた物語を一から構築していて、しかもそこに現代性を加味していく。

 本作の脚本の洗練ぶりと硬軟自在、緩急も完璧。主題も「冒頭起きた事件により対象の恐怖を煽り分断を進める」思惑との対峙という、まさに「今の世界に響く物語」でありながら娯楽映画としての強度も凄まじい。物語だけでもない、演出だけでもない、ましてや予算や技術だけでもない。その編集や呼吸まで全て渾然一体となった「こういうのが見たかったんだよ!!」というものを見せてくれる。そこに一切の無駄がない。
 今や中国アニメはここまで洗練したものが作れてしまうのかと唸ってしまった。
 主人公たちメインの登場人物たちはもちろん、通りがかりの人々の動きから、見せ場の「見たこともない画」まで「細やかに行き届いた演出」が施されていて、幾度見ても発見がある。


 今年テレビ初放送されたwebアニメシリーズも好評、スピンオフ漫画「蘭渓鎮」も刊行し、映画版第1作公開の頃に比べて世界観も一気に広がった。

 間に合うならば、是非映画館で見てほしい大傑作である。