It all depends on the liver.

飲みすぎないように文章を書く

「好きを貫く」ことの加害性ーー2024年に観た映画



2019年から、観た映画の振り返りをしています。

 

zerokkuma.hatenablog.com

 

2022年の記録だけ漏れておりどこかでリカバーしたいと思っているうちに、2025年になってしまった…恐ろしい。

 

気を取り直して、2024年の振り返りに入ります。

 

2024年に劇場で観た映画/新作映画(劇場鑑賞+試写のみ、配信は除く)は…31本でした!

 

1月

ショーイング・アップ(ケリー・ライカート/ヒューマントラストシネマ有楽町)
ファースト・カウ(ケリー・ライカート/ヒューマントラストシネマ渋谷

きっと、それは愛じゃない(シェカール・カプール/ヒューマントラストシネマ有楽町)

 

2月

ピアノ・レッスンジェーン・カンピオン/試写) ※コメント寄せました

哀れなるものたち(ヨルゴス・ランティモス/TOHOシネマズ日本橋

ジェントルマン(キム・ギョンウォン/試写)※コラム寄稿

貴公子(パク・フンジョン/試写)※コメント寄せました

3月

夜明けのすべて(三宅唱/TOHOシネマズ日比谷)

ソウルメイト(ミン・ヨングン/新宿ピカデリー

 

4月

成功したオタク(オ・セヨン/シアターイメージフォーラム

プリシラフランシス・コッポラ/試写)

 

6月

悪は存在しない(濱口竜介Bunkamura ル・シネマ 渋谷宮下)

関心領域(ジョナサン・グレイザー/TOHOシネマズシャンテ)

チャレンジャーズ(ルカ・グァダニーノヒューマントラストシネマ渋谷丸の内ピカデリー) ※2回鑑賞

 

7月

フェラーリマイケル・マン/TOHOシネマズ新宿)

ヒューマニスト・ヴァンパイア・シーキング・コンセンティング・スーサイダル・パーソン(アリアーヌ・ルイ=セーズ/ヒューマントラストシネマ渋谷

墓泥棒と失われた女神(アリーチェ・ロルヴァルケル/シネスイッチ銀座

密輸1970(リュ・スンワン/角川シネマ有楽町

8月

愛に乱暴(森ガキ侑大/試写)※コメント寄せました

ナミビアの砂漠 ※インタビュー書きました

9月

ソウルの春(キム・ソンス/グランドシネマサンシャイン 池袋)

ストレンジ・ウェイ・オブ・ライフ(ペドロ・アルモドバル/ヒューマントラストシネマ有楽町)

ポライト・ソサエティ(ニダ・マンズール/グランドシネマサンシャイン

ラストマイル(塚原あゆ子/TOHOシネマズ日比谷)

ランサム 非公式作戦(キム・ソンフンシネマ・ロサ


10月

破墓 パミョ(チャン・ジェヒョン/新宿ピカデリー

国境ナイトクルージング(アンソニー・チェン/ヒューマントラストシネマ有楽町)

オン・ザ・ロード 不屈の男 金大中(ミン・ファンギ/ポレポレ東中野

 

12月

アノーラ(ショーン・ベイカー/試写)※2025年公開

ゆきてかへらぬ(根岸吉太郎/試写)※2025年公開

ザ・ルーム・ネクスト・ドア(ペドロ・アルモドバル/試写)※2025年公開

 

 

試写やコメント寄稿&その他仕事を依頼いただいたものも含まれますので、自分で劇場に行けたのは24回ですね。ただ、ありがたいことに、元々見に行こう!と思っていた作品についてお仕事依頼いただけることが多く、とても嬉しい一年でした。

 

しかし、昨年実績は35本だったので前年比マイナスとなってしまいました。自分でもよく覚えているのですが、上半期に起きた以下の出来事が私の映画鑑賞モチベーションを落ち込ませたという流れがありました。

 

  1.  めちゃくちゃ楽しみにしていた「哀れなるものたち」のチケットをとっている日に、惰性で会社の飲み会(別に歓送迎会とかではない。サイゼリヤ飲み)に出てしまう。特に誰にも引き止められていないが、楽しく飲んでいたら、中座が全然できずに盛り上がってしまい、タクシーに乗って日本橋まで駆けつけるも、15分ほど遅刻しての鑑賞となる
  2. 会社を早めに切り上げて「成功したオタク」を見に行くが、上映直前に、予約していたニュース内容に関する不具合(他部署ミス)が発覚。後輩に修正などを依頼するも、他部署との連携やりとりが飛び交うため、Slackから目が離せない。とりあえずとっていた座席に座るも、序盤30分は細かく中座してSlack対応する事態となる

 

どっちも……自分が悪い! 1は完全に自分の気持ちの問題なので、自分しか悪くない。2はミス自体は他部署が発生させたんだけど、万一のトラブル対応をきちんと後輩に頼んでから会社を出ればよかった。ただ「夜、映画を見に行く」というだけのことにいちいち引き継ぎを行いたくない……という気持ちから起きた出来事だったので、やっぱり自分が悪い(退勤打刻自体はしている。トラブルあったら担当がオンコール対応、が常時求められている職場のため、こういうことが起こる)。なぜ働き続けていると映画が見れないのか?→職場という刺激のつよいアテンションコンテンツに気を取られまくって映画に集中できないから!という負のサイクルが回っており、平日に映画の予約をしておくことへの恐れが生まれてしまいました。

 

その恐れからどうにか脱却させてくれたのが「チャレンジャーズ」の圧倒的爽快感だったわけです。

note.com


5月〜6月、ちょうど仕事場でのゴタゴタもあり、自分の思うように映画や趣味を楽しめていない/かといって可処分時間のわりには別に仕事で成果をあげているわけではないし評価もされていない/ついでに彼氏との関係も最悪……人類が皆我よりえらく見ゆる……という状況で本当にやばかったのですが、「チャレンジャーズ」を見たら「ごちゃごちゃ考えずに俺は俺に正直に生きよう! 遠慮で残業するのをやめよう! オンコール対応を自分ばかり背負うのもやめよう!」と決意できたのでした。

それで7月、9月は鑑賞量が戻った感じですね。8月はなんで少なかったのかな。ストリップやバレエなど、映画以外の鑑賞系アクティビティにも乗り出していたので、全体としてそちらに振っていたのかも。

 

31本しか見ていない中でベストテンを決めるのはおこがましいのでやらないのですが……自分にとって重要な3本でいうと、

 

  1. チャレンジャーズ
  2. 破墓 パミョ
  3. フェラーリ

 

でしょうか。(※12月に見た3本は2025年公開なので除く)

 

 

 

ボロボロに泣いた映画でいうと「ソウルメイト」なんだけど、台湾映画のリメイクということで選から外しました。

klockworx-asia.com

でも素晴らしいエネルギーを持つ女女映画なので、女女フリークの人にはぜひ見ていただきたいです。

 

あと、「考えさせられた」映画の観点でいうと、「成功したオタク」と「オン・ザ・ロード〜不屈の男、金大中」の2本のドキュメンタリーの存在感がとても大きかったです。

 

この2本を見ると、韓国におけるオタク文化と、激烈な民主主義のアナロジーが見えてきて、かなり面白いです。たまに「韓国の大統領選挙特番、プロデュース101(アイドル番組)のステージを模した演出があって面白い〜」とか話題になっていますが、見てみると、苛烈なプロデュース101としての大統領選挙が、独立以来連綿として行われてきていたことがわかります。「推し活」が生み出したファンダムカルチャーとポピュリズムが政治に入りこんでいるのではなく、政治が生み出したファンダムカルチャーとポピュリズムが「推し活」を生み出したという因果関係であることが痛いほどにわかります。韓国エンターテイメントを愛してる方にはどこかで触れていただきたい2本です。

「成功したオタク」は確か配信で見れるようになっています。劇団雌猫のポッドキャストでも語っていますので、聞いてみてね!

#20 推しが性犯罪者になった。葛藤するオタクたちの傲慢と誠 - 劇団雌猫の悪友ミッドナイト - Apple Podcast

 

オン・ザ・ロード〜不屈の男、金大中」は横浜・前橋と、関西では上映しているようです。関東の方は、横浜や前橋に行ってでも見る価値のある映画だと思います。

www.sumomo-inc.com

 

観た映画全体を振り返ると共に、特に面白いと思った作品を思い返すと「好きを貫く」ことの難しさを描く映画に心惹かれていた気がします。ここまでに挙げたなかだと、「チャレンジャーズ」「フェラーリ」「成功したオタク」「ソウルメイト」「オン・ザ・ロード〜不屈の男、金大中」あたりは全部そうだと思っています。

ヒューマニスト・ヴァンパイア・シーキング・コンセンティング・スーサイダル・パーソン」は、吸血鬼なのに吸血ができない女の子サシャ(68歳)が、自分の信念を貫ける生き方に辿り着くまでを描いた映画でした。「自分で人を殺すのは無理だが生きるために血を吸う必要はあるため親に人殺しを任せざるをえない」という状況に甘んじていたサシャが、パートナーを得て、「病に臥せった老人たちのための安楽死業者」として、世間への貢献/本能との折り合い/自分の信念との納得をすべてを成立させるという展開は、なんかすごく、「現在」のモードだなあと感動しました。

 

 

一方で、「チャレンジャーズ」というのは、社会的名声/男性としての幸せ/テニスへの愛みたいなもののバランスとりの頂点にいた男・アートが、「お前(パトリック)とやるテニスより気持ちいいことなんて、何ひとつないぜ!」と、それまでの全てを吹っ飛ばす話なんですよね。成功・幸せというのはバランスが取れて周囲の人間のことを傷つけずに配慮できている前提のもとに成り立つのがこの世界最新の倫理で、主人公がそこに到達できたことへエールを送りたくなる作品もあるんですが(ヒューマニスト〜)で、「うるせ〜〜全部吹っ飛ばす!」してくる作品には、こちらがエールを送られる気持ちになるなあというのが(チャレンジャーズ)、平成元年生まれ限界兼業会社員の正直なモードなのでした。

 

映画ライターさんや映画インフルエンサーに比べると、はるかに鑑賞量が少ないなかで、一つ一つ大切な作品の宣伝に私を呼んでいただいた配給・宣伝のみなさん、大変ありがとうございました。ただ我ながら、一つひとつめっちゃいいコメント書いているな…という自信も持てた一年でした。

2025年もすでに映画のお仕事3件ほど依頼をいただいて、執筆したところですので、お楽しみに!

 

鑑賞の方向性としては、韓国映画をもっとちゃんと観たいなという感じでしょうか。2024年もそれなりに見ましたが、見逃した映画もいろいろあった……。「シングル・イン・ソウル」とか「対外秘」とか「市民捜査官ドッキ」とか。

 

まずは1月にやる「勇敢な市民」を見に行きたいところです。

yukan-na-shimin.jp

 

2025年も引き続き、映画関係のお仕事大歓迎です。何かありましたら下記よりご連絡ください。

zerokkuma.hatenablog.com

(そろそろ仕事履歴は更新しよう…)