2024年下半期TVアニメ作画10選

2024年夏秋クールに放送されたTVアニメから良かった作画を10個選出。それ以外の縛りはなし。

 

1.『逃げ上手の若君』1話 原画:河本有聖
自分の年間ベスト作画。子供の体重の軽さを反映した、軽やかで跳ねるような芝居が終始際立つ。決してヌルヌル動きすぎることはなく、限られた枚数で生き生きとキャラクターの動きを描き出しているところにリミテッドアニメーションの良さを再認識させられる理想のアニメーション。
河本さんは『明日ちゃんのセーラー服』5話でも同様に軽やかな走り作画を描いていて、こちらも印象深い。

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2.『逃げ上手の若君』2話 原画:高橋沙妃

2話は素晴らしいアクション作画や特殊な表現の宝庫で、特にグレンズそうさんの担当パートや中村颯さんの担当パートは10選に入れるかどうか悩ましいところではあったが、日常芝居に優先的に光を当てたい気持ちもあり、こちらを選出。

尺も短く何気ない回想の1コマだが、リアリティの高さで際立った存在感を放つ。特に駒を持った左手の動きは秀逸で、手の甲と平の返り具合や巻き付ける際の速度感の変化など、手の立体的な構造や動きの機序がよく観察されて、表現されている。

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3.『負けヒロインが多すぎる!』3話 原画:飯田悠一郎
0:07- end: 飯田悠一郎

飯田さんは枚数の多いぬるっとした芝居の中でキャラクターの魅力を引き出すのが上手い。顔を上げると同時に服についた砂がずり落ちる作画には変態的なリアリティがあるし、思わず吹き出す檸檬のカラッとした笑い方も良い。サンダルを履く時や服についた砂を叩く時の何気ないナチュラルな芝居にも目を見張るものがある。

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4.『【推しの子】第2期』16話 原画:奥谷花奈

リアタイ時に一際目を引いた芝居作画。

1つ1つの動作が丁寧で、わずかに簡素化されたデザインも可愛らしい。ほっぺたの丸み、指先の柔らかさの表現が良いし、女の子らしいしなやかで幅の細やかな芝居付けも良い。

可愛いキャラクターの可愛い言い争い(煽り合い)のシーンだが、表情作画や芝居作画を通じて、その"可愛さ"に拍車をかけられているところに、作画としての価値を感じる。

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5.『逃げ上手の若君』8話 原画:大倉啓右
コンテを手掛けた今井有文さんの卓越した空間把握能力と、大倉さんの持ち味のダイナミックな立体アクションのマリアージュによって生まれた珠玉の戦闘シーン。
カメラも時行も忙しなく動き回っているにも関わらず、一切アクションとして分かりにくくなることがなく、早すぎる動きに翻弄される様が見事に表現されている。攻めたカメラワークと攻めた表現を重ねてなお、視聴者にとって理解のしやすいアニメーションとして纏まっているところにアクション作画の極地を感じずにはいられない。
また制作班が同じということもあって、『ぼっち・ざ・ろっく』7話のゾートロープを彷彿とさせる表現も目を引くが、実際に実写で作ったあちらとは異なり、あくまでも二次元のアニメーションとして実写の錯覚を再現しているところが恐ろしい。

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6.『【推しの子】第2期』24話 原画:あもーじー、卓子意 他
絵コンテ・演出:入江泰浩

スタジオKAI元請作品を筆頭に、高品質なダンス作画を拝める機会の増える近年にあって、動画工房の送り出す圧巻の作中MV。

ダンスをアニメーションにするにあたって当然どの制作現場でも実写の参考があるわけだが、とりわけ今作のダンス作画は実写のダンス映像と見比べたときの再現度の高さが突出している。振りも動きの止まるポイントが少なく、特にイントロの振りつけは誤魔化しのきかない全身運動なのに、再現度高くアニメーションに起こせているのが凄い。0:38-のかなのソロシーンも凄まじいクオリティ。

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7.『ONE PIECE FAN LETTER』原画:Vincent Chansard、小島崇史、Chris 他

全編作画MADみたいな作品で、どのシーンを選ぶか非常に悩ましかったけれど、初見で一番インパクトのあった冒頭を選出。森さんのシンプルなルックが海外勢特有の枚数をふんだんに使ったアクション作画と組み合わさることで、よく動きながらも情報量の多すぎない、見やすいアクションが成立しているところに特色がある。

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8.『ダンダダン』4話 原画:宮川駿 他

宮川駿:20s - 32s 他:artist anknown

圧巻の背景動画。アクションとしてのスケールも疾走感も申し分ない。特に壁を走るオカルンを後ろから追いかけたカットは、カメラを回転させながら、かつ走るキャラを近距離で捉えながらの背景動画でかなり難易度が高いはずなのに、きちんと画面として分かりやすく成立しているから凄い。

そもそも背景動画なんてTVアニメ1話で1回でも出てくればテンション爆上がりなのに、わずか1分強のこのシークエンスだけで一体何回の背景動画が出てくるんだという話。それだけリアタイ時のインパクトも強烈だったため選出。

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9.『ダンダダン』7話 原画:力徳欽也(修正:榎本柊斗)

過去回想の悲痛さに、生まれた憎悪の深さに、アニメーションの面から説得力を持たせる珠玉の作画。天国大魔境3話然り、榎本さんの繊細な作画はキャラクターの感情を生々しく映し出し、視聴者の感情をこれでもかと揺さぶってくる。

話の重さを知っているからというのもあるかもしれないが、作画単体で見た時にもどこか胸の痛むような感覚にさせられるところに、アニメーションのパワーを感じずにはいられない。

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10.『BLEACH 千年血戦篇-相剋譚-』33話 原画:??

今年の走り作画ではトップクラスなのではないか。重心移動の作画が尋常ではない上手さ。描かれたアニメーターさんの名前が気になる。

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2024年上半期TVアニメ作画10選

2024年冬春クールに放送されたTVアニメから良かった作画を10個選出。それ以外の縛りはなし。

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2024年TVアニメ OP・ED10選

2023年に放送されたTVアニメのOP・EDから10個選出。曲+映像の総合評価。特に縛りはなし。

 

①『マッシュル-MASHLE- 神覚者候補選抜試験編』OP 「Bling-Bang-Bang-Born」

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絵コンテ・演出:榎戸駿

作画監督:東島久志

楽曲からアニメーションまで、あらゆる点で尖ったOPなのに不思議とよく纏まっている。奇を衒っているようでその実、本編のシュールな笑いをこれ以上ないほど的確に表現しているのが素晴らしい。

モンスターを相手に大立ち回りするマッシュを呆然と眺める2人を映した、ラスト付近のカット群が好き。

 

 

②『勇気爆発バーンブレイバーン』OP 「ババーンと推参!バーンブレイバーン」

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絵コンテ・演出:大張正己

作画監督:本村晃一

懐かしい曲調のアニソンを作らせれば加藤裕介さんの右に出るものなし。意味はよく分からないけどとりあえず熱い歌詞に、清々しいくらいのタイトル連呼。古き良きアニソンの熱量を現代版にアップデートして真正面からぶつけてくれるんだから、こんなに熱くて楽しいものもないでしょう。

 

 

③『ONE PIECE』OP26 「あーーっす!」

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絵コンテ・演出:石谷恵

作画監督:森佳祐

東映が誇る二大巨頭の送る、最強最高のOP。圧倒的な作画密度と、1つ1つのレイアウトの面白さ。上手い人しか参加しないからこそ実現できる影無しキャラデザが、アニメーションの魅力をこれでもかと体現している。眼福。

 

 

④『ガールズバンドクライ』OP 「雑踏、僕らの街」

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絵コンテ・演出:酒井和男

サビの演奏シーンがとにかく楽しそうで、生き生きとしていて、今作のCGの出来を再確認させられるOPアニメーション。笑顔のすばるも、ぴょんぴょんしている智も、ただただ可愛い。楽曲もガルクラ本編の曲の中で指折りに好み。

 

 

⑤『ガールズバンドクライ』ED 「誰にもなれない私だから」

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絵コンテ・演出・映像制作:whitepuzzle

イラスト:手島 nari

TVアニメ本編のその後を描いたED。手島nari先生の絵が良いし、ストーリー仕立てのアニメーションを読み解くのも楽しい。

ED映像としてここまで手間のかかった、情報量の多いものはそうないだろうし、それが本編の補完として機能しているのが秀逸。EDアニメーションにはこうあって欲しいと願いたくなる。

 

 

⑥『ブルーアーカイブ The Animation』OP 「青春のアーカイブ」

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絵コンテ/演出:げそいくお  10+10

総作画監督:げそいくお

作画監督:森七奈、萩原弘光、りお

圧巻のカット数と作画の暴力。これだけ密度の高いアニメーションで、各カットの完成度も熱量も、終始高い水準で維持されているのが素晴らしい。サビのアクションはいずれも珠玉。

 

 

⑦『ダンジョン飯』ED2 「キラキラの灰」

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絵コンテ:宮島善博

演出:下平佑一

イラスト:九井諒子

純粋に曲が好き。どこか物寂しさがあるような、切ないような、それでいて明るさも感じられる曲調が、本編を見終わった後の余韻として絶妙だった。

 

 

⑧『負けヒロインが多すぎる!』OP 「つよがるガール」

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絵コンテ・演出:菊池貴行

作画監督:川上哲也

クレジットも含めて完成されたOP。色彩、レイアウト、ロケーション、全てが遊び心と工夫に満ちていて、アニメーション自体の密度の高さも相まって何度見ても飽きがこない。菊池さん演出のOPはかぐや様ファーストキッス以来だけど、どちらも背景の使い方や、画面の中への情報量の詰め込み方が上手くて好き。

 

 

⑨『負けヒロインが多すぎる!』ED2 「CRAZY FOR YOU」

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絵コンテ・演出:須藤瑛仁 

キャラクターデザイン・作画監督:山﨑爽太

ラスト2カットがここまで動くEDがかつてあっただろうか。本編とは一味違う、やまそうさんの癖が前面に出たデザインが特別感を演出。夢見る乙女の恋心をロマンチックに描いたアニメーションが素晴らしいし、歌詞に合わせてハートを出す遊び心も良い。

 

 

⑩『しかのこのこのここしたんたん』OP 「シカ色デイズ」

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絵コンテ・演出:大隈孝晴

作画監督:今門卓也、胡峰誠、池田結姫

中毒性抜群のイントロと近年流行りのダンス要素で大ヒットしたが、本質的には「古き良き」のど真ん中を行くOP。ギャグ日常アニメならではのカオスなアニメーションも、もはや希少になりつつあるキャラソン楽曲も、懐かしさすら感じるアニソンらしさ満点のメロディもたまらなく好き。

 

2024年夏アニメ 最終評価

2024年夏アニメの最終的な評価と感想。

 

評価

SSS:(該当なし)

SS :負けヒロインが多すぎる!

S+:【推しの子】(第2期) 烏は主を選ばない 

S:逃げ上手の若君 ダンジョンの中のひと 真夜中ぱんチ VTuberなんだが配信切り忘れたら伝説になってた

A:天穂のサクナヒメ 小市民シリーズ SHY 東京奪還編 しかのこのこのここしたんたん かつて魔法少女と悪は敵対していた。

B:(該当なし)

C:菜なれ花なれ

 

 

SS

負けヒロインが多すぎる!

 まさか地元が、そして母校が舞台のアニメがここまで面白くなるとは……予想を遥かに上回る出来栄えで堂々の今期トップ。こんなに嬉しいことはない。

 本編に関しては色々褒めようがあるので順番に。まず構成。原作を的確に取捨選択することで面白い場面だけを濃縮したようなテンポの良い展開が実現できていたし、ラノベアニメにありがちな同じ場所で延々会話シーンが続くような状況が殆どなく、色々なロケーションで話を展開できていたのも絵的にマンネリしない意味で大きかった。メインヒロイン3人を順番に丁寧に掘り下げた上で、最終回におまけ的エピソードを挟む余裕すらあったのも、1クールアニメの構成としては完璧の一言。

 次に演出面。日常シーンはボケとツッコミの温度感やテンポ感が最高で、何気ない会話1つ1つがとかく面白かった。逆にシリアス寄りのシーンはしっかりと間や雰囲気を整えられていて、画面にしっかりと見入らせるような、程よい緊迫感と真面目さを醸し出す演出ができていた。ギャグとシリアスのメリハリが効いている作品は総じて名作だけど、今作もその例に漏れず、普段のギャグの面白さと、各巻クライマックスの見せ場のシリアスを高いレベルで両立できていたことが大きかったなと。

 そして声優陣の演技とディレクション。声優さんの自由な演技を積極的に推奨するようなスタンスが感じられて、特に八奈見役の遠野さんはそのポテンシャルを存分に発揮した面白……巧みな演技の数々がキャラに抜群にフィットしていた。温水役梅田さんもツッコミの温度感が的確で、掛け合いの面白さを上手く形作っていたと思う。

 もちろん聖地アニメとして、制作陣の綿密な取材に裏打ちされた背景のクオリティの高さと、聖地側の積極的なコラボ展開も嬉しかった。季節感を意識したような色彩や撮影へのこだわりも感じられて、本当に総合力の高さを感じさせる、非の打ち所のない作品だった。

 地元民としてここまで面白いアニメが地元から出てきてくれたこと、そして豊橋が聖地として確立されたことが本当に嬉しくて、見慣れた景色をアニメの中で見る喜びも感じられた、最高の1クールだった。まさか人生でこんな経験ができるとは思わなかった。制作陣には感謝しかない。

 最後に今作とは全く関係なく、豊橋に来たらお昼は「チャオスパ」か「にかけうどん」をオススメしておきます。豊橋市民のソウルフードなのでぜひ。

 

 

S+

【推しの子】(第2期)

 舞台編で脚本家と原作者の対立を描いたかと思いきや、舞台本番では演技理論の話をやり、舞台が終われば今度は本筋のサスペンス、さらに恋愛模様へと話は移り、締めに過去の話を掘り下げてからのルビー闇落ち……と節操なく話題を変えながら、そのどれもが一定の面白さを保ち続ける地力の高さは流石の一言。これまでに形作った設定群とキャラクターの魅力の強さがあるから、ある程度やりたい放題展開しても面白くなってしまうという、ある種エンタメコンテンツの理想形みたいなことをしている作品だった。

 舞台本番が世間的には一番評判が悪くて、実際絵の凄さが面白さに直結していないもどかしさはずっとあったけど、個人的にはキャラクターを掘り下げる展開として纏まってはいたので、そこまで酷くつまらない内容でもなかったとは思う。ある種やっていることはスタァライト的な、劇を通じたキャラクターの感情の発露とぶつかり合いであって、それ自体はキャラの掘り下げとしてもエンタメとしての面白さとしても及第点ではあったのかなと。

 ラストは3期前提の引きをやる余裕すらあって、コンテンツとしては盤石も盤石、ここから先は途端に中身が酷くなるらしいですが、そこはまあアニオリで頑張ってもらうか大人しく酷評するとして……。今の動画工房の才能がこうして色々な人に見てもらえる作品に注ぎ込まれている自体は嬉しいことではあるのかなと。

 

 

烏は主を選ばない

 宮廷ものらしい策謀入り乱れる展開に、巧みなミステリー要素が組み合わさった1クール目、敵性生物の出現によるサスペンスを通じて世界観を掘り下げた2クール目、いずれも違った魅力を持った素晴らしい作品だった。

 地味なビジュアルに原作も一般小説と、何の情報もなしでは他のアニメと比べると見る動機がどうしても薄い(実際自分も最初からリアタイしていたわけではなかった)作品だけど、いざ見始めたら一気に見れてしまうくらいに面白くて。

 一番大きかったのは引きの強さかなと。毎回必ず続きが気になるような引きを作れていたから、自然と次の話数を見たい気持ちにさせられた。宮廷ミステリーだとどうしてもキャラの把握や情報の整理が難しくなりがちだけど、今作は情報の提示や対立構図の作り方が上手くて、すんなり話についていけたのも大きかった。

 頭の切れるキャラクターたちの緊迫感あふれるやり取りも素晴らしく、重たい雰囲気の中にも確かな面白さとスリルがあって、自然と画面に見入らされた。派手さはなくとも手堅い作画と演出も、シナリオの面白さを下支えしていた。展開としても先が読めすぎるということはなく、1クール目2クール目それぞれにこちらの予想の上を行く展開がいくつもあって、常に飽きることなく楽しみ続けられた。

 視聴者数は少なかった印象だけど、今期屈指の実力派だったのは間違いなく、もっと多くの人に見てほしい作品だなと。

 

 

S

逃げ上手の若君

 純粋な原作力の問題、1クールという尺の短さ、ジャンプ原作らしいギャグの扱いの難しさ……諸々が合わさった結果、最高クラスの制作班を持ってしても跳ねきらない作品になってしまったなと。

 とかく作画演出が素晴らしかったのは間違いない。その上であえて言うなら、1クール範囲の今作にはその作画演出の凄さを活かせるだけの原作力がなかった。真剣な展開あってこそ、あるいは柔軟なギャグシーンあってこその梅原班の作画演出力であって、修行中心の日常シーン多めな軽いノリ、あるいは大きなシリアスのない展開は、梅原班の実力を引き出すには不十分に感じられた。

 またシンプルにギャグそのものもいまいちだった。顔面の煩さや特定の部位を強調したキャラ付けで笑わせようとするギャグはワンパターンで、良くも悪くも子供向けのギャグ止まりに感じられた。キャラ同士の自然な掛け合いの中で笑いが取れる作品こそが理想的なギャグ作品だと思うのだけど、今作はそのようなシーンがあまりなかった……というか勢い任せの煩いギャグばかりが悪目立ちしていた印象が強い。集中線を大量につけるギャグ表現も、漫画ならともかく、アニメでそのままやるのは工夫に欠ける印象で、それこそぼざろのように映像のバリエーションで笑わせる工夫が欲しかった。

 とはいえこういった不満は返す返すもギャグメインの日常回が多かったからこそ出てくるもの。本格的に鎌倉奪還が始まればストーリーの魅力が増して、シリアスさが増えて、その分だけ映像の良さが活きやすくなると思うので、2期には期待したい。

 

 

ダンジョンの中のひと

 メインキャラが女子2人で、ゆるふわな日常がメイン、ライトな百合要素ありと、THE日常系といった風合いのアニメだった。

 お仕事している日常を描いているだけの作品ではあるけど、運営の立場からダンジョンを描く視点は新鮮で、宝箱の中身の作成やモンスターの雇用など、RPGのテンプレをメタ的に描いた中身が面白かった。

 戦闘せざるを得ない展開もあったけど、主人公格のベルとクレイがどちらも作中最上位、特にベルは五条悟レベルの最強キャラということもあって、戦闘だろうが何だろうが全くストレスを感じることのない、気楽に楽しめるエンタメに昇華できていたのも大きかった。刺激を求めている人には物足りない作品だったかもしれないけど、自分みたいにアニメに癒しを求めている層にとっては、どんな敵が来てもピンチにならないだろう、ずっと楽しく笑って見ていられるだろうという安心感があって、とても心強かった。

 総じて気楽にストレスなく眺められる良作だったなと。昨今こういう日常系作品は、元々受ける層がニッチな上に海外受けしないということもあって数をどんどん減らしているけど、自分のような日常系好きとしては決して途切れて欲しくないジャンルでもあるので、今作の存在は本当にありがたい限りでございました。

 

 

真夜中ぱんチ

 動画配信者の物語……でもあったけど、それ以上に真咲の物語だったし、真咲とりぶの物語だったと思う。この部分の認識で今作の評価はある程度分かれるのかなと。

 配信者としての物語を期待していた人にとっては、インパクト不足で目標も達成しないまま中途半端に終わったから、物足りなく感じるかもしれない。でも真咲とりぶの物語として見ていた人にとっては、1話2話で描いた主題をラスト2話でもう一度掘り下げ直して、きっちり2人の物語として完結させているのでそれなりの評価にはなる。

 自分は後者なので、今作はよく纏まった良い1クールオリアニだと結論付けたい次第。

 とはいえいまいちだった部分もあって、例えば動画内でヴァンパイアの能力を封印したことで、メインキャラがヴァンパイアである意味が薄れていたのは惜しかった。今作中で実践された登録者数を増やす方法って、人間がズルなく登録者数を増やすための方法なわけだけど、それはヴァンパイアでやる意味が全くないし、リアリティラインが緩いアニメならではのハチャメチャさや爽快感も薄くなりがちだった。ヴァンパイアという架空の存在を出している割にあまりにも手堅すぎる進行だったので、それこそアキバ冥途戦争みたいなぶっ飛び感を求めたくなる気持ちは否めなかったかなと。

 総合的に、物足りなさもあるけど、1クールオリアニとして及第点以上なのは間違いない。同期にあまりにも悲惨すぎるオリアニがあったのもあって、余計に今作を評価してやりたくもなった。

 

 

VTuberなんだが配信切り忘れたら伝説になってた

 メインキャラが全員女子、描くのが配信者の日常ということもあって、日常系と同じような楽しみ方をしていた。特に配信以外の部分は、百合的な掛け合いが多かったりキャラ同士の関係性の進展が話の中心だったりで、ほぼ日常系と言って差し支えないくらい。

 配信企画は当たり外れが激しかったけど、なんだかんだ個性の塊みたいなキャラたちの掛け合いと、色々な意味で抑えの効いていないギャグが肌に合っていて、終始楽しく見れた。

 会話のテンポ感や絵の力の入れ具合、デフォルメの使いどころなんかも程よくて、アニメとしての出来の良さは流石の朝岡監督といったところ。不徳のギルド、今作と2作連続で自分に刺さるアニメを作ってくれているので、是非とも次作にも期待したい。

 

 

A

天穂のサクナヒメ

 ゲーム原作作品のアニメ化としては近年でもトップクラスに上手くやれていたはず。1話ごとの話のまとまりも、全体の構成も申し分なく、ゲームでプレイヤーが操作していたであろう戦闘シーンをあっさり処理して、尺の多くをキャラクターのドラマに注ぎ込む構成も、アニメ化に伴う再構成として秀逸だったと思う。

 ただまあ言ってしまえば話の中身が児童向け作品的というか、アクがなさすぎるというか……多分これは原作ゲームそのものの問題だから仕方のない部分もあると思うけど、全体によくあるいい話止まりでしかなくて、あと一歩、此方の心を動かしてくるようなインパクトなり意外性なりドラマの説得力なりが欲しかった。アニメーションも序盤こそ好調だったけど、その後は苦しい画面が目立つ回もちらほらと。どちらかと言えば満足感よりは物足りなさ、退屈さの方が勝った感が自分の中ではあったのでこの位置に。

 

 

小市民シリーズ

大体自分の抱いた感想の核はツイートに纏まっているので、補足をいくつか。

①劇伴について

 ”アニメは基本的に劇伴が流れているもので、劇伴が全く流れていない時間の方が圧倒的に少ない。視聴者にとって劇伴が流れていない時間は緊張感を覚える場面であり、画面に対する集中力が高まる傾向にある。”

 これは自分の実感としても、一般論としてもそうだと思っていること。

 その上で今作が取った戦略について考えると、日常会話のシーンでは基本的に劇伴を流さず、推理シーンで劇伴を使う方針になっている。これはすなわち、日常シーンで視聴者を緊張させ、推理シーンで落ち着かせるような演出をしているということになる。

 ……普通逆じゃない??日常会話はリラックスした状態で聴かせたいから劇伴を流すべきだし、推理シーンの方が会話をしっかり聴かせたいから劇伴なしにするならむしろこっちの方。どうして今作はわざわざ逆にしたのか、これが分からない。

 今作が”日常の謎”という気楽に楽しめるミステリーを提供している以上、気楽に楽しめる部分は視聴者にも気楽に楽しんでもらえるような演出をすべきであって、全編緊迫感を出したら”日常の謎”の良さそのものが瓦解しかねない。そもそも何気ないシーンでまで緊迫感を出していたら肝心の推理シーンまで視聴者の集中力が持たないし、作品全体で気を抜ける場面がないからメリハリもつかない。後半にグッとシリアス度合いが増す展開も、前半からここまでヒリついた雰囲気を出されると緩急の効いたものに感じられない。

 この演出方針に関しては本当に意味が分からないというか、これが本当に視聴者目線で面白いと思って出しているのか今一度問いただしたい気分。

――音楽の使い方も特徴的です。1曲をしっかりと長く流す一方で、無音のシーンも多いですよね。
神戸 それにはふたつ理由があるんです。ひとつは音楽を小まめにつけていくと、すべてを音楽で説明してしまう感じがして、それが嫌だったんですね。なので、2分の曲を流したら次は2分間音楽なし、というくらいでいい気がしたんです。音楽の効果も明確になりますし、メリハリが生まれるのではないかと。ふたつめは推理要素が強い作品なので、会話を聞き逃してほしくないという意味合いもあるんです。実際、当初考えていたところで音楽をかけてみたら、どうにも会話に意識が向かないケースがあって、それであえて外したりもしています。

febri.jp

 監督インタビューではこんなことも言うとりますが、

  • そもそも音楽を使う効果よりは音楽を使わない効果の方が重大
  • メリハリは気を抜ける場面がなさすぎて却ってついてない
  • 会話を聞き逃して欲しくないを全編にわたってやるのはエンタメとして無謀すぎる(普通の視聴者は集中力が持たない)

で、何一つとして共感できないです……その理想についていける視聴者がどんだけいるんだって話。

 

②キャラについて

 小鳩常悟朗がまあアニメ向きでないというか、折木奉太郎と比べてだいぶ鼻につくキャラ造形をしていらっしゃるので、キャラで氷菓に勝てないのはどうしようもないかなと。千反田えると小佐内ゆきに関しては方向性が違うだけで大差ないというか、どちらも大変魅力的なヒロインとして君臨していると思うので、やっぱり一番大きいのは主人公の差。

 あと地味に3人目の枠がコメディリリーフとして万能な里志(もしくは摩耶花)か、コメディには全く寄与しない堂島かの違いも大きそう。原作はともかく、アニメにすると堂島が余計に重苦しいというか堅苦しいというか、本当に笑いに繋がる要素ゼロのキャラになってしまっていたので。その点サブキャラからいくらでも笑いを生み出せる氷菓は強かった。

 

 

SHY 東京奪還編

 日常シーンはコメディと良い話の配分が程よく、キャラも立っていて非常に良かった。結局のところ今作一番の魅力はキャラだと思うので、キャラの魅力をひたすらに打ち出せる日常回の強さは折り紙付き。

 一方で戦闘に入ってからはいまいちに。今作の戦闘は相手をただ打ち負かせばいいというものではなくて、むしろ精神的に説得して改心させなくてはいけないことが多いから、どうやったらこの戦いが終わるのかという具体的な条件設定が大事になってくるのだけど、今作はそこが曖昧だったのが良くなかった。どうやったら相手に勝利できるのか、どうやったらこの戦いは終幕を迎えるのか、よく分からないまま戦闘が延々続くから、間延びしたような、締まりのない印象になってしまったのかなと。

 まあだから結論としては……輝と小石川さんがひたすら日常を楽しんでいるだけの続編が欲しいです()

 

 

しかのこのこのここしたんたん

 初期の処女ネタやこしたんいじりは賛否両論あって然るべきにせよ、それ以外のボケはそこまで酷くもなかった……というかむしろPVの面白さからしてもボケのインパクトは抜群だったはずで、じゃあ何でこんなに本編が微妙なのかと言えば、それはもうツッコミに原因を求めるほかないでしょうと。

 具体的にはツッコミが長すぎることと、ナレーションが説明しすぎることの2つ。ボケの力を信じて視聴者にぶん投げてもいいところを、ツッコミやナレーションで積極的に作品側から説明しに行ってしまった結果、却って面白さが損なわれている場面が多かったように思う。もっとテンポよくひたすらにボケツッコミを投げ続けて、底なしのカオスを醸成した方が今作の面白さが出たんじゃないでしょうか。実際それやってるPVはめちゃくちゃ面白いわけだから。

 というか今作に関してはもう宣伝班がいい仕事しすぎてるんだよな……今作のMVPは間違いなく宣伝班。いっぱい給料もらって欲しい。

 

 

かつて魔法少女と悪は敵対していた。

 可愛さに対するオーバーリアクションも、魔法少女と御使いの関係性も、口癖がF○CKなのも合わなかったけど、ただ画面の美しさと白夜の可愛さだけで見ていた。ギャグ作品にありがちな、合わなかったけど出来自体は良かったやつ。

 

 

C

菜なれ花なれ

 全26話の予定が12話に短縮されたという真偽の怪しい話に説得力が出てしまうくらいにはどうしようもない構成をしていたわけだけど、今作の問題点は話数短縮以前の部分にもあると思う。

 まず1話時点で物語の軸が全く分からない脚本。1話切りすら頻発する現代アニメにおいて、何を描きたいのかすらまともに提示できていないのは相当厳しい。1話の構成なんて2クールだろうが1クールだろうが大差ないはずなので、2クール予定が短縮されたから〜とかいう言い訳も利かないのが余計に救いがない。

 そもそも1話を見た時に一番印象に残る要素って多分パルクールなんですよ。でも終わった今振り返ってみると、パルクールって脇も脇の要素で、全然本編には関係ないんですよね。アニメを見てもらう上でいちばん大事な掴みの1話で、最も印象に残る要素が枝葉の部分でしかなくて、肝心の主題は印象に残らないどころかよく分からないという。

 設定や話の内容もとにかくてんこ盛りで、当然1クールでは収まり切っていないわけだけど、じゃあ2クールあったら描ききれているかというと、それも違うかなと。そもそも本筋が曖昧すぎて話の軸が定まっていない上に、話題があっちこっちに飛んでいるから、感情移入が追いつかない場面の方が多い気がする。まして最後の最後にやる話がPOMPOMSの話ではなく、サブキャラでしかないチア部の先輩の話というのは、いくら何でも構成としてグチャグチャすぎるというか、2クール作品だったとしてもだいぶ無茶な展開の仕方ではあると思うので。

 ビジュアルは良かったし放送前の期待値も高めな作品だっただけに、色々と残念な作品になってしまった。主要制作陣は是非Ave Mujicaで挽回していただいて……。

 

 

総評

 マケインのクールであり、豊橋愛を深めるクールでもあった。なんだかんだと豊橋は住み心地のいい誇れる地元なので、こうして聖地として知名度を上げてくれて、観光客が来てお金を落としてくれるのは大変嬉しい限り。名産も多いし、「だもんで豊橋が好きって言っとるじゃん!」なるローカルネタオンリー4コマ漫画が絶賛7巻まで発売中なくらいには、話題が豊富な街に違いないので。

 『烏は主を選ばない』は最初全く見ていなかったけど、評判を聞いて後追いで見られて本当に良かった。今期自信を持ってお勧めできるのは上から3作品だと思っているので、是非未見の人には見ていただきたいところ。

 全体としてはマケイン推しの子以外はヒットしたとは言い難いくらいに収まってしまったクールではあったけど、その中でも『真夜中ぱんチ』が光るものを見せてくれたり、『ダンジョンの中のひと』や『ぶいでん』が自分の好みに刺さってくれたり、そもそも自分好みな美少女アニメが多かったりで、総合的には満足度の高いクールだった。続編や一般向け作品が多数を占めるクールも増えてきたけど、こういう深夜アニメオタクの方向しか向いていないような作品ばかりのクールも、たまには出てきて欲しいと願うばかりでございます。

2024年秋アニメ 事前の印象

見ない予定の続編ものは省略。

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『ガールズバンドクライ』のCG表現はなぜ親しみやすいか

『ガールズバンドクライ』のCGのどこに新規性があり、それでいて何故親しみやすいのか、日常芝居を中心に今までのセルルックCGや手描き作画と比較しながら、いち視聴者の目線で分析しました。

アニメ『ガールズバンドクライ』公式サイトより
  • 1. セルルックCGとは
    • â…°. 特徴
    • â…±. 発展の歴史 -セルルックCGの現在地-
  • 2. ガルクラのCGは従来のセルルックCGと何が違うのか
  • 3.ガルクラのCGはどうして視聴者に受け入れられたか
    • â…°. ”手描きアニメらしい”モーションの追求
    • â…±. CGの常識を覆す表情のバリエーション
    • â…². 硬さを感じないキャラクターモデリング
    • â…³. その他セルルックCGの課題を克服する様々な工夫
  • 4. まとめ
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