作者:Lisa Jewell
Publisher : Atria Books
刊行日:October 13, 2020
Hardcover : 368 pages
ISBN-10 : 1982137339
ISBN-13 : 978-1982137335
適正年齢:一般(PG12+ 性暴力の話題はあるが、露骨な描写はない)
読みやすさ:7
ジャンル:ドメスティック・スリラー
テーマ、キーワード:性暴力、裏切り、家族のドラマ、冤罪
10歳の時に11歳の少年から性暴力を受けた高校生の少女Saffyreは、心理的トラウマから自傷行為をするようになり、心理セラピーを受けていた。根本的な問題に触れないままで心理セラピストのRoanから治療の終わりを告げられたSaffyereは見捨てられた気分になり、心理的な接触を求めてRoanを尾行して観察するようになった。その観察からRoanには家族に隠している秘密があることを知る。
Roanの妻Cateは夫が学生の時には生計を支えた理学療法士だが、娘と息子、そして忙しい夫の面倒をみるためにフルタイムの仕事をやめて自宅のキッチンで仕事をしている兼業主婦だ。少し前に夫の浮気を疑って証拠を探そうとした自分を恥じており、夫に対して罪悪感も抱いている。近所で女性がレイプや性暴力の被害を受ける事件が増えていることもあり、道を隔てた向かいのビルのアパートメントに住む若い男に不信感を抱いている。
Owenは幼い時に父親から見捨てられ、心理的に壊れた母も他界したのでRoanたち一家の向かいにある叔母のアパートメントに転がり込んだが、そこでも冷遇されている。32歳になるまで女性とつきあったことがないOwenは、講師として働いている大学で学生たちからセクシャルハラスメントで訴えられた。自分では何も悪いことをしていないと思っているのに、仕事を続ける条件として適切な行動を取るためのトレーニングを受けることを求められたOwenは憤りにまかせて仕事をやめた。ネットでアドバイスを探していたOwenは、自分が女性と性的な関係を持てないのは女性のせいだと主張する男性のincel(不本意な禁欲主義者、非自発的な独身者)グループのダークなフォーラムに引き込まれ、そこでカリスマ的な男と仲良くなる…。
バレンタインデーの夜にSaffyereが突然姿を消し、Owenのアパートメントがあるビルの壁でSaffyereの血が見つかった。そして、警察は殺人の疑いでOwenを逮捕した……。
Saffyere, Cate, Owen という3人の視点で進行するこのドメスティック・スリラー(家族ドラマが中心になっているスリラー)は、展開がスローなので飽きるところがあるかもしれない。また、疑わしい人物も最初からかなりはっきりしている。そういう意味では優れたスリラーとは言えないのだが、主要登場人物たちの心の動きを描くドメスティック・スリラーとしては面白かった。
特に良かったのは、いわゆる「非モテ」男性であるOwenの心理の移り変わりだ。大学で講師をしていたOwenは、学生たちに対するミソジニーな発言やパーティでの不適切な行為で学生から訴えられ、自分は女子学生からイジメられ、攻撃されている被害者だと信じていじける。見た目が「キモイ」ことで何もしていないのに若い女性たちから不信感を持って見られる不条理に憤ってダークなフォーラムに関わってしまい、殺人の疑いで逮捕までされてしまうという、とても可愛そうな男性である。でも、彼は根っこは悪い人ではない。誰かから信頼され、感謝され、親切にされるだけで変わっていく素地がある。この体験でOwenはちゃんと自分を見つめるようになり、人と普通に関わることを学び、ハッピーになっていく。その移り変わりに救われた。
不穏な話題は扱っているものの、実質的にはハッピーエンドのスリラーである。