何故にそのゲームは、上手い人と下手な人に分かれるのか
念のため、桜井政博さんの説明もしておきます。
『星のカービィ』や『大乱闘スマッシュブラザーズ』の作者で、日本を代表するゲームクリエイターの一人です。手がけたゲームソフトが高く評価されているだけでなく、幅広いゲーム知識を活かしたコラムを週刊ファミ通にて連載していて、それをまとめた本の最新刊が『ゲームを作って思うこと2』と『ゲームを遊んで思うこと2』なんですね。
<紙の本>
<キンドル本>
『ゲームを作って思うこと2』と『ゲームを遊んで思うこと2』は、2010年11月末~2014年12月末までのコラムを「ゲーム制作に関するもの」と「主に他の人が作ったゲームに関するもの」に分けた2冊と言えます。
私が桜井さんのコラムを好きな理由の一つに、「常日頃なんとなく自分が思っていたけど上手く言語化できなかったことを、見事に言語化して説明してくれることで、自分の中の疑問が氷解していく」ところがあります。今日の話も「そんなの当たり前じゃん」と言われそうな話なのですが、ちょうど「自分はどうしてゲームが下手なんだろう」と考え込んでいたタイミングだったので、ものすごく腑に落ちたのです。
その話は、『ゲームを作って思うこと2』に収録されている「VOL.429 お昼休みとカジュアルプレイ」から――――(ファミ通掲載は2013年6月13日と記載されています)
「ゲームはやれることが少ないほど、腕前の差はつきにくい」
桜井さんの書いた文は、ものすごくシンプルな文です。
正直、今までも誰かが何気なく書いたことがありそうですし、私も何気なく読んでいたかも知れません。桜井さん自身もこの文を「どうだ!画期的なことを書いているぞ!」と書いているのではなく、コラムの中の一つの流れで書いた文だったかと思います。
しかし、「自分はどうしてゲームが下手なんだろう」と考え込んでいた今の自分には、「ゲームの巧拙」というものをこんなにもシンプルに説明しきれるのかと衝撃的でした。
桜井さんの例えはこんなカンジに続きます。
「プレイヤーの出来ることが“ボタンを押すとキックが1発出る”だけのゲームだったら、ただ純然とボタンを押すだけのゲームにしかならず、腕前の差なんてほとんど出ない」。
「しかし、これに“移動”の要素を加えた途端に、相手との間合いという要素が生まれて、腕前の差が出るようになる」。
「そこからジャンプ、ガード、投げ、コンボなどやれることを増やしていくと、腕前の差がハッキリ出て勝敗もキッチリ実力差通りになる」。
この例えは格闘ゲームの例えですが、色んなゲームに当てはめられることだと思います。
例えば「麻雀」は、シンプルに考えると「14枚の牌の中から捨てる牌を1枚選ぶ」ゲームだと言えます。「プレイヤーに与えられる選択肢が常に14コあるゲーム」なんです。そして、上がるために使える役はWikipediaの一覧によると40近くあるそうです。それに加えて、ポンとかチーとかリーチといった要素もあります。
「麻雀」には「ルールを覚えるのが大変」という最初の壁がありますが、その壁を乗り越えたとしても「やれることが多い」という新しい壁が立ちはだかります。プレイヤーの獲れる選択肢がたくさんあるゲームなので、実力差がハッキリ出てしまうのです。
(関連記事:ルールを覚えたからといって、どうすれば上手くなるのかが分からない)
それと比較して、例えばトランプの「ババ抜き」は実力差が出にくいです。
プレイヤーがやれることと言えば、中身の分からない複数のトランプから1枚引き抜くことだけです。ここは「中身の分からない」ということで「ランダム要素」でもありますね。そして、「ババ抜き」には「同じ数字の札が2枚になったら捨てられる」という役しかありません。「どの役で上がるか」みたいな要素はないんですね。
「麻雀」に比べて「ババ抜き」は、プレイヤーの「やれること」が少ないんです。だから、「ババ抜きの上手い人」や「ババ抜きの下手な人」といったカンジの実力差は出ず、子どもも大人も一緒になって同じように遊べるんです。
当然、「麻雀」と「ババ抜き」のどちらが優れているのかなんて話ではありません。
「ババ抜き」の方が、年代やゲーム経験の有無を問わずにみんなで楽しめますが。「麻雀」の方が、上手くなっていく楽しみとか、実力の近い者同士の白熱した戦いの楽しみがあります。相応しい場や対戦相手が違うだけなんです。
桜井さんが例に出した「移動の要素がなくて、キックしか出来ないゲーム」で思い出すのは、『Wii Sports』の「テニス」でした。「移動」は完全にオート、プレイヤーの出来ることは「ラケットを振る」だけです。「前衛でとるか後衛でとるか」という要素はありますが、「やれることを少なくしたことで腕前の差が出ないようにした」ゲームなんですね。
なので、「誰にでも楽しめる接待ゲーム」として重宝して全世界で大ヒットしたのだけど、一方で「底が浅い」「上手くなる余地がない」みたいな批判もありました。
(関連記事:Wiiが成し得なかった“革命”~その2.予備知識の要らないゲーム)
「やれることが少ないと実力差が出ないので誰にでも楽しめてエライ!」とか、「やれることが多い方が実力差が出るので上手くなる楽しみが味わえてエライ!」とか、そういう話をしたいワケではありません。「ババ抜き」だって「麻雀」だってどっちも楽しいし、「やれることが少ないゲーム」も「やれることが多いゲーム」もどっちも楽しいと思います。
私がどうして今のタイミングでこの話が衝撃的だったのかと言うと……
私は最近「自分はゲームが下手だ」という話をしていて、コメント欄で「でも、やまなしさんは『クニットアンダーグラウンド』の実績コンプしているじゃないですか。ゲーム下手じゃないですよ」と言われて、「ふむ……」としばらく考えこんでいたタイミングだったんですね。
確かに『クニットアンダーグラウンド』の隠しステージは鬼のように難しかった、しかし私でもクリアできた、ということは私はゲームが上手いのか、いやそれはどうも違う気がする……と考えていたところ、この話を読んで「それらの疑問」が氷解したのです。
「難しいゲームかどうか」と、「上手い人・下手な人という実力差がハッキリ出るゲームかどうか」は、全然別のことなんだ――――
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ここまでの例は、「格闘ゲーム」「麻雀」「ババ抜き」「Wii Sports」といったカンジに敢えて対人戦がメインのゲームを使ってきました。対人戦のゲームは、一人一人の「腕前の差」があるかどうかが分かりやすいですからね。ですが、この話は「一人用ゲーム」についても当てはまる話だと思うのです。
要素が増えれば増えるほど、「それを使いこなせる上手い人」と「それを使いこなせない下手な人」に分かれてしまう―――
例えば、『スーパーマリオメーカー』にはファミコンの初代『スーパーマリオブラザーズ』のスキン、『スーパーマリオブラザーズ3』のスキン、スーパーファミコンの『スーパーマリオワールド』のスキン、Wii Uの『NewスーパーマリオブラザーズU』のスキンがあります。操作感覚は敢えてWii U版のそれに統一されていますが、スキンごとに出来るアクションは(基本的に)原作に準じています。シリーズを重ねるたびにマリオのアクションが多彩になっていって、「要素が増えていった」ことが『マリオメーカー』を遊ぶだけで分かるんですね。
ファミコンの初代『スーパーマリオブラザーズ』の頃は、「ダッシュ」と「ジャンプ」の組み合わせで遊ぶゲームでした。変身はファイアーマリオのみ。
『スーパーマリオブラザーズ3』になると、「モノを持って運ぶ」という要素が加わりました。変身にしっぽマリオが加わり、横への攻撃と、空を飛べるというアクションが出来るようになりました。
『スーパーマリオワールド』では、更にヨッシーという新要素が加わり、スピンジャンプや「持ったモノを上に投げる」というアクションが出来るようになりました。
DSで発売された『Newスーパーマリオブラザーズ』はその複雑化の流れに歯止めをかけるために、しっぽマリオ・マントマリオに該当する「空を飛べるアクション」は廃止され、スピンジャンプは基本アクションから外れ、ヨッシーも出てきませんでした。しかし、3Dマリオからの再輸入で「壁キック」や「ヒップドロップ」といった新アクションが加わり、『Newスーパーマリオブラザーズ』もシリーズを重ねていくとスピンジャンプやヨッシーが取り入れられ、『スーパーマリオメーカー』の『NewスーパーマリオブラザーズU』のスキンにはこれらの要素も入っています。
『スーパーマリオブラザーズ』シリーズですら、作品を重ねるごとに「出来ること」が増えていって、その要素の数だけ「使いこなせる人」「使いこなせない人」に分かれていってしまっていると思うんですね。
例えば私、『NewマリオU』スキンの「壁キック」が上手くできません。
私はそこそこ出来ますが、人によっては『マリオワールド』スキンで「マントマリオ」で飛ぶことが出来ないという話も聞きます。
アクションパズル面を作った時に言われて驚いたことなんですけど、『マリオ3』スキンの「モノを持って運ぶ」「それを投げる」操作は知っているけど「しゃがみながらボタンを離すとそこに置ける」というアクションを知らなかった人もいました。
歴代『スーパーマリオブラザーズ』作品の中で最も難しいゲームは『スーパーマリオブラザーズ2』だろうと思います。誰がやっても難しい凶悪難易度のマリオ。私は『マリオコレクション』版ではクリアしましたけど、セーブのない実機でクリアできる気はしません。
しかし、「難しいゲームかどうか」とはまた別の尺度で、「上手い人・下手な人という実力差がハッキリ出るゲームかどうか」があると思うんです。
私が「壁キックが出来ない」と言おうものなら、恐らく大多数の人から「あんなの誰だって出来るじゃん。あんなのが出来ないだなんてホントおめえゲーム下手なんだな!」と言われるでしょう。「マントマリオで空が飛べない」と言った人も、「そんなのは慣れだ。少し努力すれば出来るようになるのに、すぐ諦めるから出来ないんだ!」と批判されるでしょう。でも、出来ないものは出来ないんです。
初代の頃から比べて要素が増えた『スーパーマリオワールド』や『NewスーパーマリオブラザーズU』は、「難しいゲーム」かどうかは分かりませんが、「上手い人・下手な人という実力差がハッキリ出るゲーム」という側面が強くなっていると思います。
まぁ、それを言うと初代の『スーパーマリオブラザーズ』も「ダッシュとジャンプを組み合わせるゲーム」だから、ジャンプだけのゲームに比べれば「上手い人・下手な人という実力差がハッキリ出るゲーム」だと思うんですけどね。だから、「アクションゲームが苦手なのでマリオはダッシュボタンを押さずにプレイしていますがクリア出来ません」って人がいるワケですから。
(関連記事:Bダッシュなしで、本当に『スーパーマリオブラザーズ』はクリア出来るか)
「最近のゲームは昔のゲームに比べて難しくなった!」とか、「昔のゲームの方が遥かに難しかったぞ!」とか、「それに比べて最近のゲームはヌルくてしょうがない!」みたいな話、インターネットでは2~3年周期で話題になりますよね。つい一週間くらい前にも見かけました。
「最近のゲーム」「昔のゲーム」という括りだと、「昔のゲーム」にも簡単なものも難しいものもあったし、「最近のゲーム」にも簡単なものも難しいものもあったし、その中の一部の作品だけを切り取って「難しかった」「簡単だった」と言えば「そんなのは個人の印象でしょ」以上に言えることはないのですが。
一つのシリーズとか、一つのジャンルに限定して考えれば、「昔のゲーム」に比べて「最近のゲーム」の方が「やれることが」多い傾向があるので、実力差が出やすくなってしまう=「最近のゲームは昔のゲームに比べて上手い人・下手な人という実力差がハッキリ出てしまう」のかなと私も思います。
先ほどの『スーパーマリオブラザーズ』シリーズの例もそうですし。
例えば『ドラゴンクエスト』シリーズだって、最初は「レベル」と「武器・防具」しか成長要素がなかったのが、「職業」が追加されて、「自由なパーティ編成」や「スキルポイントの割り振り」なんかの要素も加わっていきました。
パズルゲームにも「育成要素」が加わって、スキルとかレベルとか組み合わせとかを考えなければならなくなりましたし。
『Wii Sports』の「テニス」のような例外もないワケではないですし、ジャンルやシリーズによっては「複雑だったものを簡略化させる」方向に進んでいるものもなくはないのですが。基本的には「昔のゲーム」に比べて「最近のゲーム」の方がプレイヤーがやれることは増えていると思いますし、その分だけ複雑化していって、その新しい要素に「ついていける人」と「ついていけない人」に分かれていってしまうのかなと思います。
「壁キック」を使いこなせない私には『Newマリオ』シリーズは難しいです。予期せぬところで暴発して落っこちて死んだりします。だから、「最近のマリオは難しくなった」と思うのだけど。
「壁キック」を当たり前のように使える人にとっては『Newマリオ』シリーズは難しく感じないでしょうし、それ以前のシリーズに比べて出来ることが増えた分だけ「最近のマリオは簡単になった」と言われるのかなぁと思います。
『ドラクエ8』が発売された頃にも話題になりましたよね。
「スキル」というものをちゃんと理解して、計画的な育成が出来る人には簡単なゲームに思えてしまったのだけど。『ドラクエ』くらい国民的な人気シリーズになると、「スキル」がよく分からないままプレイしていて、ちゃんとした育成も出来ない人も遊んでいるので、その両方に合わせた難易度調整をするのは難しい―――みたいな話。
さて、「私はゲームが下手かどうか」の話。
こういう視点で考えてみると、私の不得意なジャンルのゲームって「やれることの多いゲーム」なんです。
例えば「3Dアクションゲーム」。
「2Dアクションゲーム」は横視点のゲームだったら動けるのは「右」か「左」だけ。それに「ジャンプ」を組み合わせるくらいの動きしか出来せん。上からの視点のゲームだったら「8方向」に動けるけど、ジャンプがなかったり。
しかし、「3Dアクションゲーム」になったらフィールドの360度を自由に動けるようになるだけでなく、ジャンプだったり伏せだったりのアクションもある上に、カメラも上下左右自在に動かせるようになって「カメラの映っていないところにいる敵の動き」まで考えなくてはいけません。ゲームにもよりますが、使うボタン数も、出来るアクションも「2Dアクションゲーム」より多彩なことが多いです。
だから、私はそこについていけないのです。
「やらなければいけないこと」の多さについていけないのです。
例えば「シミュレーションゲーム」。
「自分の好きなように出来るゲーム」ですから、当然「プレイヤーのやれること」は多いです。そのたくさんの「やれること」の中からやることを自分で選ぶのが楽しいジャンルですし、私も好きなジャンルなのですが、どうしたって「上手い人」と「下手な人」に分かれてしまって、私は「下手な人」に分類されるのです。やることなすこと全て裏目に出て、マトモにクリア出来たことがありません!
(関連記事:母がシミュレーションゲームにハマった理由)
例えば「育成ゲーム」。
これも「シミュレーションゲーム」と同じような理由です。「アナタの好きなキャラをアナタの好きなように育ててね!」と言われても、実際にはどう育てるかでステータスが変わったりしてしまうし、属性とかスキルとか合成とか進化とかゲームごとに覚えなくちゃいけない決め事が多いと何をしてイイのかサッパリ分かりません!「レベルを上げて物理で殴る」以上のことを私に求めないでください!
しかし、逆に「やれることが少ないゲーム」にはそれほど苦手意識はありません。
『クニットアンダーグラウンド』は使うボタン数も出来るアクションも多くないゲームだったので、隠しステージは「タイミングを見て障害物を抜ける」という一点に集中できました。とは言っても、「もう1回クリアしろ」って言われたら「ふざけんな」と言いますけどね(笑)。
『ラビ×ラビ』みたいなアクションパズルもそうですね。こちら側が出来るアクションは限られていて、それらをどう組み合わせるのかを考えて解いていくゲームは苦手ではありません。逆に「現地にあるものを使って正解を探す」脱出ゲームは、似たようなジャンルに思っている人もいるかもですが、私としては“正反対なジャンルのゲーム”という認識で苦手です。
『Splatoon』の時に批判されましたけど、「一つのブキだけを使い続ける方が上手くなれる気がする」と私が言っていたのも「やれること」「覚えなくてはいけないこと」を制限することで苦手意識を消す効果があったのかもですね。
でも、「やれることが多い」ことに苦手意識のない上手い人達には「たくさんのブキを使った方がそれぞれの特徴を覚えられるし、ステージによって得意なブキを選んで勝てるようになるじゃん」「コイツは人の言うことをホント聞かねえな」と思われたのかもなぁと思います。んで、言われた通りに複数のブキを使うようになったら、さっぱり勝てなくなってフェス20連敗ですよ。
重ね重ね言いますけど、「やれることが少ないゲーム」と「やれることが多いゲーム」のどちらが優れているかなんて話をしているワケではありません。
ただ、私は私のことを「ゲームが下手だ」と思っていて、だからこそ「ゲームが下手な人達」に向けて記事を書いていこうと考えている今の自分にとって、この話は無視できない話だと思うんです。何故、私達はゲームが下手なのか―――の答えがここにあると思うんですね。
「やれることが増えれば増えるほど、それについていけない人が出てくる」。
「それが当たり前に出来る人にとっては簡単なゲームが、それが出来ない人にとっては難しいゲームに思える」。
「ゲームが上手い人」の定義は難しいですけど、私は「たくさんのやれることをしっかりやれる人」のことだと思うんですね。「ゲームを構成する全ての要素をしっかりと把握して、的確なアクションを選べる人」。「麻雀」で言えば、最適な役を考えて上がれる人が「強い人」であって、「タンヤオでしか上がれません」って人は「強い人」ではないと思いますから(笑)。
そう考えると、私は「ゲームが上手い人」ではないです。
「やれること」が増えれば増えるほどそこについていけないし、敢えて「自分に出来ること」を限定してプレイすることで何とか形にするのが精一杯です。「『Splatoon』でスプラスコープしか使えない」のは「タンヤオだけで『麻雀』を勝つ」みたいな話ですからね。
でも、世の中には「タンヤオを練習してタンヤオを極めていくタンヤオだけのゲーム」もあるんですね。そういうゲームならば、ゲームが下手な私でもそこそこついていけるという。私にとっての「得意なゲーム」「苦手なゲーム」の差はそこにあったのです。「ゲームが下手な人達」に向けて記事を書いていくのならば、この話はきっと今後大切になるだろうと思います。
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