エジソン缶
- 2021/12/30
- 12:00
発明王トーマス・アルバ・エジソンにオカルト趣味があった事は一部で有名だろう。
しかし趣味が成果として結実していた事は知られていない。
かぐや姫が入っていたとされる竹をフィラメントにし、ゾロアスター教に語られるアフラ・マズダーの名を冠した光源装置をアトランティスの遺産オリハルコン製の器の中に封入する事で完成するオカルティックアーティファクト──通称エジソン缶である。
クリエイティブ・デフォルト
これがあれば暗闇でも問題なく文字を書く事ができ照明が無くても本を読み勉強する事もできるという優れもの。
そしてこれを作るために彼はとある魔術結社から多額の資金を援助を受けていた。その結社の名は『薔薇十字団』だ。
トーマス・エジソンはその資金を使ってエジソン缶とは別に一つの研究を行っていた事が分かった。
彼が行った研究こそ人類が直面した最大の謎にして難問と言われるモノだったのだ。神の領域に足を踏み入れようとした禁断の研究。
それは……人間の肉体を別の生き物へと転生させる技術の開発だったと言うのだ!この事実を知った者は彼の精神状態を心配したが本人は至って真面目だったらしい。……
「ふむふむ……」と読みながらメモ帳を取り出しサラサラと書く少女の名前は『竜殺公セラフ』
エジソンが生み出した超生物殺しを生業とする狩人だ。
彼女は今現在世界中を旅して回って各地で発生した神話的怪異や魔獣などの駆除を行っている。
彼女の手に掛かればどんな凶悪な悪魔も怪物も一捻りだ。
だから今回も楽勝かなと思っていたのだがそうはいかなかった様である。
「う~ん」
セラフは自分の手を見つめる。
「何なんだろ、コレ?」
先程から右手の人差し指と親指の間に謎の亀裂が入り皮膚を破っているのだ。
こんな傷などすぐに治癒する筈なのにいくら経ってもその様子が無い事にセラフは違和感を覚えた。まるでこの亀裂が広がり続ける事で己の命を奪うかのように。
今まで数多くの死線を超えてきた彼女にとってそんな経験は無かった。
(これは一度拠点に戻って調べないとダメね)
そう判断し手帳を閉じるセラフであった……。
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* * *
所変わってここは東京都の秋葉原にあるビルの一角である秘密結社ネオナチス日本支部本部基地だ。
表向きは普通の会社なのだがその地下にはこの世界の常識を覆す施設が存在する事を誰が知っているだろうか?
ここに集められている人間達の正体を知らない人間は幸せであろう……。
秘密結社ネオナチスには世界各地より選りすぐりの能力者達が集められていた。超能力者の類いはもちろんの事、霊能力者も多数所属しているこの組織だがその中でも別格とされている者達が存在した。
彼等は超人機関『パンテオン計画』で人工的に創られた存在、超人種『ヘーミテオス』。
この『パンテオン計画』とは超能力者や魔法使いなどの所謂異能を持つ者達を量産する計画であり、エジソンの技術が一部に使われている。
セラフと交戦したのもヘーミテオスの一人である女幹部リリア・カーティスだ。リリアの能力はあらゆる物体を切断し対象を破壊する『断斬』
リリアはその力でエジソン缶を叩き斬ろうとしたが失敗した。
何故ならばエジソン缶を覆っていたオーラのようなものに触れただけで刀身が崩壊したのである。
(まさかあんなものがあるなんて予想できませんでしたわね)
セラフの介入もありリリアは自分の甘さに吐き気を覚えつつ撤退を余儀なくされた。
(ですがわたくしに敗北の二文字はないのです!今度は邪魔される事の無い状況下において必ずあの忌々しい鉄塊を葬ってくれます!首を洗って待っている事ですね!セラフ・クリスタロス!フハハハッ!)
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【解説】
・エジソン缶について補足説明:実在する都市伝説のひとつ「文豪とアルケミスト~幻夢変奇伝アカネの謎~」(著者・赤野工作様)で登場する架空のアイテムです。実在しないものになりますのであしからず。
クリエイティブ・セリフ
この缶の内部に封入した光エネルギーによって駆動する装置こそが『トーリ・ストラウスの叡智』であり、その原理上使用者はトーリ・ストラウスのみであるという限定された用途を持つ代物だ。
だが同時にこの缶は、この缶に内包されている限り、トーリの知識と技術を外部出力する事を可能とする一種の双方向通信機であるとも言えた。
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『トーリ・ストラウスの叡智』
使用者: トーリ・ストラウス
種別:オモチャ型インテリジェンスアイテム
効果:内部に光源装置が封入されており、この缶から放射される光が対象に触れた場合、脳内に知識や技能を直接書き込まれる事となる。
この光線はトーリにしか知覚できないため、他人に気取られる恐れはない。
また、知識をインストールするだけでなく、インストール先の人間が元々有している知識を一時的に引き上げる事も可能である。
(ただし、この機能を使用する事で対象の知性及び精神が劣化するという危険性も孕んでいる。使用の際には十分に注意するように)
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トーリにとって最も大事な道具であるトートバッグの中に収めておいたそれを起動させる。
そうすれば彼の脳は一瞬にして必要な知識と技術を得る事が出来る。そして──トーリはそれを実践して見せた。
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"我は天界より至る者なり"
まず彼は、自分の能力を確認するための言葉を唱えながら、その能力を開放するための文言を唱える事から始めることにした。
"我が言葉により天界への道は開かれる"
"神なる扉が開かれし時"
"人の身でありながら至上の領域へと達せんとした者は、己の限界を打ち破り"
"更なる高みへ到達するために道を開くべし"
そして言葉を発しながら手印を結ぶ事で術式は完成した。あとは彼の身体を触媒とし、呪文を詠唱するだけ。
"開け門よ!我が魂の力を持って、この世に現出せよ!!"
次の瞬間には彼を中心として、目に見える形で世界が変化していた。
***真名:トーリ・ストラウス
種族:人族→?種
属性:混沌
/ 正十字聖/善正八極星+七大罪/悪業罰示/ 所属:フリーランス(元アーネンエルベ第4席)
詳細情報:本作のメインヒロイン……と言う名の準主人公枠兼ヒロインの一人。男の娘です。一応。
本人は女の子になりたいと思っているのだが、周囲の認識とはだいぶ異なるらしい。
基本的に女性っぽい服装をしている事が多いが、本人にそういう意識はなくあくまで着心地が良いという理由から。
趣味は人形作りでかなり精巧な人形を作っているとかいないとか。また、意外にも料理が得意でたまーにお菓子を作っては周囲に配っている姿を目撃されたりなかったり……
まあそんな感じの人外さんである。好きな男性のタイプは自分の外見ではなく中身を重視してくれる男性。ただそれは恋愛的なものではなく人としてどうなのかという観点での好きである。
実は結構寂しがり屋な性格をしており一人だとちょっと落ち込むタイプの性格をしていたりするのだが、最近はその事を指摘されるまでも無く改善されつつある模様。
しかし根本的に面倒くさがりな一面があるせいか誰かが面倒を見ていないとダメになってしまう所もあるようだ。
普段は冷静沈着な態度を取っており大人びた言動が多いものの時折天然な部分が出てくる事があるので周囲としては放っておけない存在であると言えるだろう。
クリエイティブ・ナラティブ
このアーティファクトは内部に霊的磁場を形成しており、その範囲内では生物の能力が飛躍的に高まる事が確認されている。
具体的には肉体強化、霊力上昇などの効果が期待出来るようだ。また精神高揚、霊視といった現象が報告されている。
ただ使用者に副作用がない訳ではないらしく使用中の記憶が失われる事例が多発している。
一説にはエジソン缶を使用した人間は正気を失うのではないかとも言われているらしいのだが、真相は不明である。
さて、何故俺がこのような物騒なアーティファクトの解説をしているのかといえばそれは勿論今現在俺達がまさにそれを体験しているからである。
という訳で今俺は意識を失って倒れ伏す美女の姿を見ながら、目の前の缶から立ち上ってくる紫煙を見つめていた。
倒れている女性は白い肌と艶やかな黒髪を持ち、どう考えても人間の範疇を超えた美しさを持っている。
そんな風に冷静さを装って思考してみたもののそろそろ脳みそがオーバーヒート寸前であった。何故なら彼女の正体は──……。
いやまあ彼女なんて言い方をしなくても分かる。かぐや姫である。つまり月に帰った筈のかぐや姫である。
何だこの状況は。そう思いながら俺は周囲を見回す。場所はいつも通り自室であり、机の上には例のアーティファクトが置かれている。
そして肝心の彼女はというとベッドの上で仰向けになって倒れていた。着衣は乱れておらずただ寝息を立てているだけのようである。
ちなみに彼女が身に付けているのは十二単風のドレスのような格好をしており、頭には金色の冠を被っている。
要するにコスプレみたいな格好なのだが……本来ならばこんな場所にこんな恰好のかぐや姫がいるはずもない。
それにしても何とも美しい光景だった。無防備に眠る彼女はまるで芸術品のようで現実感がなく、非現実的だ。思わず見惚れてしまうような姿だったがいつまでも眺めていても仕方ないと思い直した俺はとりあえず彼女を起こそうと試みる事にした。
まずは声をかけてみる事にしよう。大丈夫ですかー?起きてください。
そんな感じの声をかけてみると反応があった。彼女はゆっくりと目を開けてこちらを見た後、身体を起こして辺りを見回し始めた。
どうやら状況を把握していない様子なので説明をしてあげる事にする。すると彼女は自分の姿を改めて確認した後、顔を真っ赤にして俯いた。それから消え入りそうな声で呟くように言った。
「えっと……これはどういう事でしょう。
私は確かに月に帰って地上の事を忘れるように言い含められてきましたのにどうしてこんな所にいるんでしょうかね。しかも服装まで変わっていますよ。
確か私がいた頃はこの世界で言う所の平安時代くらいの時代でしたが今はそれよりも遥かに未来ですよねこれ。まあ私が地球に降りてきた時も似たようなものだった気がしますけどね。あの時は文明レベルが低すぎて困りものでした。まさか再び降りてくる事になるとは思ってもいませんでした」
と彼女は早口で捲し立てるように言うと両手で顔を覆ったまま黙ってしまった。
どうしたものかと悩んだが少し待っても返事がなかった為とりあえず俺は話しかけた。
「ところでどうしてここに来ちゃったんだろうね?心当たりはないのかな?」
そう聞いてみたが彼女は沈黙を貫いていた。
どうも何か隠しているように見えるのだがそれが分からない以上迂闊な事も言えずしばらくそのまま待つ事になったのである。やがてしばらくしてようやく落ち着いたらしい彼女は小さく溜息をつくと言った。
「おそらくですが……あのアーティファクトが原因だとは思うのですよね。どういった理屈で作用するのかは分かりませんが私の能力を一時的に上昇させた事だけは分かってます。でもそれ以上は分かりませんよ?あんなものの存在は初めて知りましたから」
彼女は淡々と言うと視線を落とした。俺にどうしろってんだよ。正直途方に暮れかけたその時だった。不意に玄関の方から音が響いて誰かが訪ねてきたようだった。
誰だよまったくもうこんな時にと悪態の一つでもついてやりたかったが訪問者の正体は意外な人物だったのである。ドアの隙間から見えたのは紛れもなく母さんの後ろ姿で間違いなかったのだから──。
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